アークエンジェルが着地し、「足」に当たる格納庫部分からエレカが一台出てきた。…運転しているのは一人の軍人。
ん? …若い女だ。正帽をキチンと被った、黒髪のショート。駐機姿勢を取らせたストライクの真前に正確に停車させ、降りてきた。…黒のパンプス。締まった足首。ストッキングに包まれた優美な脚線。大きく尻の張ったタイトスカート。それに比べて不釣合いな腰のクビレ。隣のゲテモノに比べたら小さく見えるだろうが、バランスの良い大きさで軍服を盛り上げている双乳。細いが相応に鍛えている事を連想させる、首。階級章は少尉だ。もしや…

 「私は先任士官、ナタル・バジルール少尉です! ヤザン・ゲーブル大尉にお会いしたい! 」

 品良く尖った顎に、キュッと結ばれた唇。薄く、気付くか気付かないか程度でルージュを引いてあるのがポイントが高い。高すぎず、低すぎずな鼻。意志の強そうな眼光を放つ、目尻がやや吊った大きな眼…是非、微笑ませてみたいものだな?
 コイツは掛け値無しの美人の範疇に入るだろう。そしてこの物腰の堅さと折り目正しさは…男を知らん処女だ。

 「済まないが、ヤザン・ゲーブル大尉はどちらに? もしや…貴方か? 」

 そんなマスカークな餓鬼がどうして俺に見えるんだよ? ああン? しっかりその大きな眼で俺を見てるんだろうが?身長190cmオーヴァーの俺を? 階級章だって見えているだろうに? …と、そこまで言い掛けて俺は言葉を飲み込む。
 この女士官、ナタルは俺を軍人として認識して居ないのだ、と。俺の今着用している軍服は…真ッ黄色だ。さらに、胸を肌蹴ていて、ご丁寧にブルータートルのタトゥシールまでアクセントに貼り付けてある。この風体を軍人と判断する奴は余程注意力が高い人間だろう。俺が苦笑を漏らすのをナタルは眉を顰めて怪訝そうに見ていたが、ハッと眼を見開く。

 「し、失礼しましたヤザ… 」
 「敬礼はまだするなよ少尉? まだ、貴官の見事であろう敬礼を受ける格好では無いのでな? 3分待て」

 俺は正規の軍服に着替えに走る。トレーラーの陰で一度素裸になり、アンダーシャツを着て、それから手早くスラックスを穿く。次に靴、そして上着だ。自分で言うのも難だが、俺の長身と鍛え上げられた身体、浅黒い肌にこの豪奢な黒い制服は良く似合うのだ。俺が着替え終わって、トレーラーの陰より出てきた時に漏れた女性陣からの熱い視線と溜息が心地良い。軍人は身形が綺麗で無くては軍人では無いのだよ! ドレスコードは新兵の頃に仕込まれる基本中の基本だ。

 「元、MA戦闘技術教導団所属、現、MS研究開発実験班所属のヤザン・ゲーブル大尉だ。…バジルール少尉だな?」
 「は、ハッ! アークエンジェルブリッジ最先任士官、ナタル・バジルール少尉で有ります! 」

 少尉の折り目正しい敬礼に俺はビシッと答礼を返す。チチ女は完璧に俺の「中身」をただのチンピラと思って居たらしく、口をパクパクさせ、失礼にも指まで差して餓鬼どもと顔を見合わせていた。軍人に対するには軍人に、馬鹿には馬鹿でが俺の信条だ。さあ、聞かせて貰おうか? 状況を把握せん事には動きようが無いのでな、バジルール少尉!



 「何? ムウ・ラ・フラガだと? あのムウ坊やか! ははっ、コイツは傑作だ! また泣いてるだろうな… 」
 「…大尉、お知り合いですか? 」
 「フラガ家とゲーブル家は敷地が隣同士でなぁ? 良く遊んだモンさ。MS護衛任務か…完璧に失敗だな? 」

 俺はバジルール少尉から、AAに『エンディミオンの鷹』こと、ムウ・ラ・フラガ大尉が乗艦している事を聞き出していた。
奴は特殊武装部隊、『メビウス・ゼロ』部隊の唯一の生き残りだった。有線誘導による、4機のレールガン砲塔を操る武装『ガンバレル』を装備したMA、それが『メビウス・ゼロ』の正体だ。俺にも話が来たが、最終試験の『ガンバレル』への適性が全く無いので見事にお払い箱と為っていた。…他にも理由は有る。実は、その頃にはZAFTのMSを鹵獲に成功し連邦の、戦闘用コーディネーター『ソキウス』量産計画が始まっていたのだ。…俺は何故かMSを運用できる能力が備わっていた。
 そんな中、ソキウスの自由意志を持った連中が実験用鹵獲MSで脱走を始めたのだ。そいつらを狩れるのは…

 「大尉? 」
 「ああ、済まんな少尉? つい昔の事を思い出していた…。AAの指揮権を少し借りるぞ? 」
 「ハ、ハッ! ご、ご随意に! 」

 いかん、堅いな? 緊張しているぞ少尉? それでは部下に舐められる元だ! 他者に命令を下す者はもっと堂々としていなければいかんのだな? これが! 俺は唇の右端を吊り上げて哂う。さあ、これでどうだ! 俺は少尉のタイトスカートに包まれた尻を左手で鷲掴みにする。

 「…ッ!! 」
 「ケツが堅いな? 少尉? そうピリピリするな! 心配無い。俺が…」
 
 殴ろうとする少尉の右腕を掴む。そのまま、脅える少尉に顔を近づけて、ニッコリ微笑んでやり、ケツを撫でてから手を離す。

 「コソ泥どもにオトシマエをつけてやる。その前にケッタクソ悪いこのコロニーから抜け出す! 総員乗艦! 急げ! 」

 さあ、祭りを始めるぞ!



 「アーノルド・ノイマン? チャンドラ2世? …長い! 」

 俺はAAのブリッジに居る。ストライクは不本意だがヤマト少年に任せた。少しでもセンスの有る奴が動かした方がいい。CICにナタル、キャプテンシートには『俺以外』の全員一致の推薦で艦長を押し付けられた『魔乳』ことマリュー・ラミアス大尉がちょこん、と収まっている。…馬鹿に指揮権与えると碌な事にならんという事が何故判らんのだ! 仕方無く俺は、ブリッジに上がり、『戦闘指揮』の見本を見せてやるために此処に居る、と言うわけだ。糞、糞、糞!

 「ヤマト2等兵! 俺のストライクを壊したらどうなるか判ってるだろうなぁ? 」
 《は、ハイ…死んでも弁償させる…でしたね…》
 「それだけだと思うなよ? ああン? 」
 
 小便漏らしそうな顔で応えて来る少年に、俺は意地の悪い笑みで応えてやる。背後に誰かの気配を感じ、振り向くと…

 「萎縮させるなよヤザン? ただでさえ顔が怖いんだからな、お前さんは」
 「マードック…いや、親爺さん…若いモンを甘やかせたらね…? 」
 「お前さんのようになる、と。んじゃあ、機材揃えて待ってるからな、坊や! 」

 マードックは背を向けて、手をヒラヒラさせて去って行く。…言いたい事だけ言いやがって! さあてと、お次は、と! 
 
 「2世でジュニア! ムウ坊に繋いでくれ! アーノルド坊や、AAは進路そのままだぞ! 誰が取り舵とれと言った?公試メンバーの意地をこの俺に見せてみろ! お前ならやれる! 自信を持て。そうだ…安定してきたぞ? 」

 やに下がったタレ目が覗く、ヘルメットを被った顔がモニターに表示される。…こなれてないデザインだな? 相変らず?

 《坊やとは酷いなぁ? ヤザン? 》
 「ムウ坊? 何時から俺にタメ口を訊ける身分に為った? …バラスぞ? キャプテンシートの子猫ちゃんに? 」
 《ぐ…》
 「女にいい顔をしたかったらちゃんと働くんだな! …分際をわきまえてなぁ? 」

 幼馴染。そりゃあもう、一方的に弱みを握っているのは俺の方だ。エロ本の隠し場所やら巨乳モノが大好きやら、嗜好は隅から隅まで知っている。顔見せと艦長選挙だけ済むと、とっととイの一番で俺の前から逃げたのがコイツだ。二番は…?

 「敵MS、接近! ヤザン大尉、迎撃指示を! 」
 「ナタル、ナタル、ナタルぅ? 待ぁて待ぁて待ぁて待ぁてよ? 戦艦はデカいんだ。攻撃開始すりゃあ、的にして下さいと言ってるようなモンだ。…ヤマト2等兵! ムウ坊! ハエ退治の時間だ! ストライクで撹乱、ゼロで撃墜! 」
 《は、はい! 》
 《りょーかい、ティターンズの兄貴》

 タクティクス・オヴ・インディビデュアル・アンド・チームス・アドヴァンス・スコードロン。個人・集団戦術実験戦闘団。
頭文字を適当に並べると、TITANS。ティターンズと読む。コイツを知ってる連中は、余程のマニアか戦技に興味のある人間しか居ない。ムウ坊、ガールハントの腕だけじゃ無かったんだな? 磨いていたのは!

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最終更新:2006年12月08日 18:40