「ヤザン! あとはお前さん待ちだ! あの坊や、OS弄ってたが問題無いか? 」
 「無いよ、親爺さん! エナジーチャージ済みだよな? 」
 「無駄口叩く暇有ったら早く計器に灯入れろ! 指揮官機が逃げちまうだろうが! 」
 
 何も追加する必要の無い汎用機体。それがデュエルの真骨頂だ。ビームサーベルもバックパックも最初から装備済み。言って見れば「量産を前提として製作された」機体である。同じ汎用機体でも各種パックを交換する必要のあるストライク・ガンダムとは対極のコンセプトで製作された機体だ、と俺はテスト時から思っている。

 General
 Unilateral
 Neuro-link
 Dispersive
 Autonomic
 Maneuver

 機体モニター画面に表示された文字を見て、俺は唇を綻ばせた。コイツも、晴れて『ガンダム』の仲間入りだ。

 「ヤザン、デュエルガンダム、出るぞ! 」

 エールストライクガンダムには劣るが、申し分の無いGが俺の身体の中心を熱くさせる。半壊したクルーゼの機体が必死に真直ぐ飛ぼうとして足掻いているのを見て、舌なめずりが停まらなく為る。フン、無様なモノだな?デュエルは苦も無く俺の繊細な操縦桿捌きに従い、指揮官機を捉え、確保した。…聞かねば為らぬ事が有った。

 「おい変態仮面、聞きたい事が有る。ZAFTの貴様が何故、あの艦、アークエンジェルの名を知っている? 」
 <<喋る私だと思うのか? 野人風情に語る舌など持たんよ>>
 「…出所は何処だ、言え! 」

 俺はビームサーベルをデュエルに抜かせ、コックピットに切先を突き付ける。チリチリと微粒子が装甲を焼いて行くのが奴にも五感で解る筈だ。情報の出所が知りたかった。…俺、いや、俺の息子同然のMSの情報を売った奴の事を。俺の予想は4通り有った。最有力がオーブ。姑息な奴等は軍事バランスと自国の立場を強化するためなら平気でやる。次点で連合の他の構成国家、ユーラシアや大洋州だ。…大西洋連合とは表向き一枚岩だが…裏では…って奴だ。3番手にブルーコスモス。コーディネーターの危険性を訴えるには解り易い手口だ。そして最後にZAFTが来る。

 <<ククク…踊らされる操り人形がそれを知ったとして、何が出来ると言うのかね、ヤザン?>>
 「飽くまで糞野郎のまま死にたいようだな?」
 <<ディアッカ、『足つき』を狙え。今なら丸裸だ>>

 閃光が、俺の視界を焼いた。



 閃光は、ランチャーストライクに真っ直ぐに伸びてゆく。糞、間に合わんか!?
…ディアッカがブリッジをあえて狙わなかったのは、多分、イザークを殺すに忍びなかったのだろう。しかし操艦により、ケーブルの切断だけで済んだのは御の字だった。船体急速下降とは恐れ入谷の鬼子母神と来たもんだ! 

 「愛してるぜアーノルド坊や! 中の連中に怪我こさえても俺が許す! 」

 しかし妙だな…? AAのブリッジの側の空間が…歪んで見えるだと? そうだ、ブリッツの存在を忘れていた! ミラージュコロイド装備の機体を奪われていた!

 「そこまでだブリッツのパイロット! 指揮官を殺すぞ! 」
 <<ニコル…作戦失敗だ…。クルーゼ隊長を危機に曝す訳にはいかない>>
 <<アスラン…>>

 徹頭徹尾笑わせてくれるな? AMATEURチャンことアマちゃん連中どもが!そこで俺がコイツを生かして置くと信じている時点で良家の坊ちゃんの枠を抜け出せないんだよ! 

 <<おっさん、俺のバスターの射程圏内にストライクはまだ入ってるんだぜ>>

 …お前だけだよ、ディアッカ…軍人を名乗って良いのはな? 交換条件を用意せずに一方的に要求を呑もうするのは低能の証明だ。俺は喉の奥で笑う。

 <<おっさんは隊長を離す。俺はストライクを狙わない。それで丸く収まる>>

 ディアッカの言葉の端々に嘲笑染みた響きが混じっているのが俺には判る。提案した条件を守る気などさらさら無いに違いない。…コイツは、面白そうだ!



 「生きてるか、少年」

 ランチャーストライクに、俺は専用秘匿回線で呼びかける。…泣いている。無理も無い。死ぬかどうかの瀬戸際なんざ、ついウン時間前まで単科大学カレッジの生徒だった餓鬼には味わう事など想像の外だ。だが、今は違う。

 「…泣いてるって事は生きているな? 俺が合図したら、ブースト吹かせ」

 まだ泣いてやがる。…キンタ○、本当についてんのか? 普通は覚悟決めるモンだろうが? 男なんだろ? 愚図愚図するなよって! 泣いてたって誰も助けちゃ呉れないんだからな?
 
 「いいかヤマト2等兵。俺の云う通りに動かなければ、恐怖はそこで終わる。怖いのは解かる。だが、それは貴様が今、生きているからだ。生き続ける限り、恐怖は付いて回る。それを乗り越えてこそ、貴様は真の兵士と成る」
 「そんなものになんか…」
 「成りたく無い、か? じゃあオトモダチともお別れだ。赤毛の嬢ちゃんともな? 惚れてるんだろうが? 男ならな、惚れた女を守って見せろ! 」
 
 図星だったのか、餓鬼がしゃくり上げる泣き声が止み、数瞬の沈黙が流れる。 

 「でもフレイは、サイの…」
 「それがどうした! 惚れた張れたは理屈でどうこう出来るモンじゃあ無い! 」
 「ヤザンさん…わかりました…」

 やれやれ…餓鬼を焚き付けるのにも苦労するぜ…。ま、激突死するかどうかは、運次第なんだがな! こうしている間にもストライクは落下し続けているのだ。 

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最終更新:2006年12月08日 18:56