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ZのヤザンがSeedの世界に来たならば @ ウィキ
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ZのヤザンがSeedの世界に来たならば @ ウィキ
いい突きだが…まだ、子供の間合いだな!
PHASE-01
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PHASE-41
PHASE-42
PHASE-43
PHASE-44
キャプテンシートに座ったマリューが、ドアの開閉音に振り向く。左目にプラスチックのスプーンの
柄を近づけられたスープ塗れのカズィが、痛々しさとそこはかとない可笑しさを伴い、歯の根もろくに
合わない位に震えていた。宇宙空間で食す為に、粘性を高めてあるので、スープはべっとりと顔や
衣服にへばり付いていた。
「どうして捕虜が此処に居るの?! 」
「しゅ…ストライクのパイロットは、何処だ! 答えなければコイツを殺しゅぞ!」
「ヒィィィィィ! た、助けてぇ! 」
ブリッジに入ってきたイザークを一瞥したフラガは、CICのナタルに目配せをする。CICからナタルは
通信士席のダリダに足音で合図を送る。ここからが本番だった。全てがマリュー・ラミアスの次の台詞に
掛かっているのだ。
「カズィ君を離しなさい! 私が代わりに人質になります! 」
「う、うるしゃい! しゅ…ストライクのパイロットは何処かと俺は聞いている! 」
ダリダが大きく頷いた。イザークの声紋のサンプルデータが完全に採れた、と言う合図だった。これで
当初の目的を半分、果せた。ナタルを中継し、情報を受け取ったフラガは、予想通りのマリューの台詞が
出た事に満足して、棒読み同然に続けた。…全てを記録し、改竄(カイザン)して証拠に残すためだ。
「何ィ!? アークエンジェルの位置座標を追跡するZAFT軍に知らせろ、だと?! そんな事出来るか! 」
「フラガ大尉、艦長が人質に為っています。無念ですが、従うしか有りません」
「了解…。先程入手した敵指揮官の周波数に乗せて、発信しま…こら、何をする!? それは…! 」
イザークが展開について行けず、目をパチクリさせている間に、フラガ・ナタル・ダリダはテキパキと何かを
進めていた。トノムラ・ロメロ・ノイマンは、背中を小刻みに震わせながら、思わず笑いが吹き出しそうになる
のを必死にこらえていた。言うまでも無く新兵、ミリアリア・サイ・トールは、カズィの危機に気が気では無い。
「おい! それは地球連合軍の共用周波数で、出力最大だぞ! 敵だってモニターしているん…アウッ! 」
『うるしゃい!』
フラガが白々しく叫ぶ。ダリダがサンプリングした音声を早速使用し、イザークの声で答えを返す。そして…
『この大西洋連合が開発した、新型MSを積んだ新型艦! 俺が貰ったぁ! 』
と、イザークの声が合成され、響き渡ったと同時に艦が激しく揺れた。ノイマンの仕業だ。ドアの開閉音と共に、
何かが投げ入れられた。漂うオリーブ・ドラブ色の缶をやっと認識したイザークの眼が、驚愕に見開かれた。
…フラッシュ・グレネード! 眩い閃光と煙幕とが、ブリッジの全てを支配した。そして、鋭い銃声が4度、響き渡る。
「撃たれた…のか? 」
カズィの首を抱えたままで身体を探るイザークは、自分の身体に痛みが全く無い事に気が付いた。
視覚が回復しないまま、イザークは耳を頼りに状況を探ろうとする。スタン・グレネードにしなかった
のは何故だろうか? ふと人の立つ気配を感じ、カズィを突き放してイザークはスプーンを構えた。
「誰だ! 」
「俺だよ、マザコン坊や(含み笑い)。 遊びは終わりだ」
「ストライクゥゥゥゥゥ!! 」
前が見えないまま、イザークは突きを繰り出した。少年と言えど、ナチュラルの筋力を遙かに超えた
コーディネーターの突きだ。プラスチックのスプーンとは言え、当たれば殺傷能力は必要充分以上に
存在する必殺の突きだった。だが…相手が悪かった。対テロ訓練を積んだ、コーディネーターを遙かに
凌駕する反射神経の持主であるヤザン・ゲーブル相手には、余りにも分が悪すぎたのだ。
「いい突きだが…まだ、子供の間合いだな!」
「痛い…痛い…痛いィィィィィィッ!! 」
体内を通じて聞こえるコリコリと言う堅い音と共に、睾丸を握られる激痛が突然発生した。握り潰されて
いるのだ、と言う事実を自覚しながら、イザークは口の端から流れ出る唾液が創る泡を感じ…気絶した。
「よぉぉし! カァーットォッ! カメラ全滅OK! ダリダ! 音声モニタリングシステムはもう殺してあるな? 」
「OKです。あとは記録した映像と音声を編集するだけです。本当にブラックボックス弄る気ですか? 」
「ん? 機密漏洩罪で詰め腹切らされて全員銃殺、なんて誰も望まんだろう? だとしたら…」
「機密を機密で無くせばいい、と。それにしてもアニキ、悪辣だねぇ~? 捕虜の銀髪の小僧、カワイソ…」
「これで友軍のアルテミスに入港しても、秘密裏に拿捕される事も無く為る、という事です、ラミアス艦長」
何が何だか解らない、と言う顔をしてブリッジクルーの顔を見渡すマリュー・ラミアスの表情は、険が取れ、
まるで童女の様に幼く見えた。気絶したイザークを抱えながら、今回の寸劇の構成作家であるヤザンは、
マリューにウィンクし、次いで男臭い笑みを浮かべた。
「貴女が軍人思考の持主で無くて幸いだったよ、艦長。尤も、普通の軍人なら見殺しにしてるがね…?
アーノルド坊や! 月へ進路だ! ダミーをアルテミス方向へ! 途中でエンジン切ってアルテミスへ
向かえ! …バジルール少尉、今回の経緯を艦長に説明してやってくれ」
「ハッ! ゲーブル大尉! 」
ヤザンの後姿が指示を出すと同時に、ブリッジクルーが敬礼を持って見送る。ドアの向こうに姿が消えるまで、
それは続いた。新兵と、マリューは今だ気付いては居なかった。…自分達が軍事裁判で死刑宣告を受けるかも
知れない可能性に有った事を。ヤザン・ゲーブルがその責任を見事に取り払ったことも。
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最終更新:2006年10月10日 18:32