「…10機倒したからボスが出た…わけがないよね」

 キラ・ヤマトはその整った顔には似合わない、歪んだ笑みを唇に浮かべていた。彼の大きな瞳は、前面のモニターに小さく写るナハトを捉えていた。ストライカー装備も無い、丸腰の素体に近い状態だった。その武装は…アーマーシュナイダーとイーゲルシュテルン、それに…『ユニヴァーサル・ワイア』の三種だった。

 「幾らヤザン大尉でも、そんなMSで、何が出来るって言うんだ! 」

 勝ったも同然、と言う高揚感とともに、キラ・ヤマトはエールストライクにビームライフルを構えさせながら、加速させて行く。獲物は思うように動けない筈だ。そう信じた。推力も上、機動力もこちらが上。弱い立場の者を思うがまま嬲る快感を思うと、キラ・ヤマトは期待に身震いする。

 「機体の設定すら無しに僕と戦おうなんて…馬鹿ですよ、ヤザン大尉はw」
 『馬鹿はテメエだよ、ションベン大将。全部聞こえてんだよこのカスぅ?ごちゃごちゃ能書き垂れずに掛かって来いよ? それともまたちびったか? 』

 ナハトからのいきなりの応答に、キラの涼しい眉間に皺が寄る。…ナハトのコックピットで失禁した自分の弱みを握っているヤザン・ゲーブル大尉に対する怒りが沸々と湧き上がる。

 「…後で許してくれ、なんて言わないで下さいね」
 『ハンッ、泣いて許しを請うのはお前の方だな? ヤマト2等兵。今…教育してやるよッ! 』

 キラ・ヤマトはナハトに向けて、ビームライフルを2連射した。これまでのジンは一撃目は回避可能でも、2撃目は必ず命中した速度の連射だった。勝った。キラはそう、信じた。何せ、狙ったのは一番動きの少ない、コックピットのある筈の胴体だったから。

 「僕を舐めるからですよ、ヤザン大尉…」

 キラ・ヤマトの菫色の瞳はナハトの無残な爆発を激しく期待し、妖しく濡れていた。

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最終更新:2006年12月31日 09:18