半壊したショッピングモールにエレカで乱入し、手当たり次第に奪い取る。どうせ無人だし、な?監視カメラに映像が残っても、この分では記録装置とともにコロニーごとジャンクになるだけだ。無駄を省き有効利用しないと、後々物資が化けて出てくる。…軍隊でよく言われる格言だ。

 「とっとと運べよマスカーク! モタクサやってるとコロニーが崩壊しちまうぞ!」
 「バスカーク…なんですけれど…僕…」
 
 全く! 働きゃしねえなぁ! 隣の赤毛女王なんざ喜んでブツ漁りしてるって言うのにって…!?

 「馬鹿! 貴金属や宝飾品なんぞ2の次って言ったろうが! 何してやがる!」
 「在って困るものでは無いでしょう! 」
 「チッ…自分の分の食料品と水を持ってなかったら全部後から没収だぞ、いいな」

 …まあ、ZAFTがナチュラルを捕虜にする事が有れば、その時に貴金属もモノを言うのだが、な。だからルビーの指輪嵌めて眺めてウットリする暇が有れば保存食料品のひとつや二つを確保可能だろうが! おうおう、働きモンだなミリアリア・ハウ! 背中のザックが満杯だ! で、その手の物は?

 「ゲーブル大尉」
 「ミリアリア、どうしたそれ…ってコイツは…記録媒体の山とカメラか…どっから持ってきた!」
 「ここはショッピングモールでしょう? 前から欲しかったんだけど…」
 「わかった、だが、今は撮影するなよ」

 ケーニヒとアーガイルは…っと! あいつらは! 食料品優先だと行って置いたろう! 俺は引率の教師なんて柄じゃ無いんだぞ! 全く! 糞アマめ! 艦長風吹かしやがって! なあにが「大尉の任命した子たちですから面倒みてください」だ! 次に抜かしたらムウの目の前で軍服引ん剥いて…

 「あ…」「う…」
 「ほぉ~、彼女へのプレゼントを物色中、と? キミタチ、勇気があるなぁ? 俺の命令は無視、と?」
 「今すぐ作業に戻ります!」
 「そうしてくれ。…次は無いぞ?」
 「「ハイ!」」

 溜息を吐きながらヤマト2等兵の待つエレカへ戻ろうとする俺の目の前に、エレカがスピンターンをかまし停車する。ムウと…ラミアス艦長? アークエンジェルはどうしたんだ? もうデート気分かよ?! 

 「兄貴、ここは俺達に任せて、工廠の方へヤマトを連れてすぐに行ってくれ! 」
 「どうした? そこの能無しや俺の知らない六機目の連合のMSでも地下から出てきたってか?」  

 2人は大真面目に俺に頷いて見せた。…冗談では無いらしい。どう言う事だ? 俺の知らないMS…そんな筈は無い! 俺はエレカに飛び乗り、眼を白黒させるヤマト少年を無視して急発進させた。
 俺を最初からパーツ回収・梱包のために工廠に行かせてくれればこんなタイムロスをしなくて済んだんだよ、バケ乳女が!



 「…舐められた物だな…」

 駆け付けた俺とヤマト2等兵の前には、ストライクと同じ顔をしたMSの残骸が転がっていた。オーブの仕業だ。一番カネの掛かるだろうMSの基幹部分を連邦の、いや、大西洋連合のカネで賄い、出来上がった美味しい所を持って行く。狡賢いがいい遣り方だ。…中立政策故に、ZAFTと地球連邦の両方に顔が利くオーブだ。国家のパワーバランス、政治的均衡を重視するならばそのどちらからも攻撃されないと踏んでの、この舐めた行為…!

 「平和を標榜しておいて、コレだ。怒りを通り越して、呆れるな?」
 「確かコレを見た女の子も…怒ってました」
 「女の子?」
 「ええ、確か…お父様云々と…」
 「ヤザン! こっちだ!」

 マードックの胴間声に、俺達はそろって振り向く。鉄骨の下敷きに為って、下半身が挫滅した、元は白一色のものだったろう白衣を羽織った女の死体が転がっていた。マードックは電源が入ったままのノート型端末を持ち、突っ立っている。隣のヤマト2等兵が喉から妙な鬱屈音を漏らす。…ナマの死体を見るのはそりゃあ、始めてだ。

 「ウ…オェェェッ!! おぇぇぇぇぇぇ! ゲボァァァア! 」
 
 やっぱり吐きやがったか。俺は背中を大サービスで擦ってやる。擦りながらも、俺は死体の周囲の観察を怠らない。車輪が転がっている。…車椅子のだ。それに、見覚えの有るフレーム。俺は嫌がるキラを引き摺り、近づいて行く。…まさか、オマエがオーブの手先だったとはな…。ニホン系の名だとは思ってはいたが…!

 「ミオ・クサナギ…だそうだ。端末が稼動状態だったんで覗かせてもらったよ。ヤザン、お前さんの事を…」
 「…ただの同僚だ。GAT-Xシリーズの担当だった。主任では無いが、メカニックとOS関係で大分無理を聞いて貰っていた…。オーブと繋がっていたとは知らなかった。俺に何の用があって呼び付けたんだ?」
 「…日記を見つけた。その内容でお前さんを呼んだんだよ。…詳しい話はそれからだ」

 死者の日記を読むのは冒涜だ。親爺さんとてソイツは心得ているだろう。しかし、それを曲げるだけの価値がそれに有ると言うなら、読む他無い。例えどんな残酷な事実がそこにあろうとも、だ。俺は深呼吸して、親爺さんから端末を受け取った。そして、ミオの顔に目を落とす。苦痛も感じない即死だったのだろう。微笑んだまま、目を閉じ、死んでいた。自慢の長い黒髪を扇の如く、工廠の床に広げながら。

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最終更新:2006年12月08日 18:58