最初に発言したのは気弱そうに見えるが根はしっかりした奴、トール・ケーニヒだった。キラ少年? 俺は貴様に失望したぞ…?

 「…志願します! ミリィは僕が守る! だから…」
 「いいぞいいぞ! それでこそ男だ! 貴様は今日を以って、トール・ケーニヒ2等兵に生まれ変わったぞ! 他は? 」

 俺は残りを見渡してやる。ミリアリアがおずおずと手を上げる。

 「志願、するんだな? 」
 「トールがするなら…」
 「口に出せ。そうしないと認められんのでな? そうだな大尉? 」

 俺が振ってやると、この糞アマ、そっぽ向きやがった。大人の女がやることか? 俺は女で有る前に軍人で有る事を思い出させてやる必要があると感じ、頬を拳でぶん殴る。…力加減はして有る。

 「形の上では貴官が上官なんだぞ! 本当は同格なんだが、敢えて立ててやってるのに何だその態度は! これだから士官学校出の嬢ちゃんは使えん! 軍に入って何年目だ! 」
 「こんなやり方…! 」

 マリューが俺を睨む。いいぞいいぞその眼だ! ゾクゾクするぜ!

 「汚い、か? 貴官のキャリアに傷が付かんようにわざわざ配慮してやってんだぞ! その後絶対問責されるのは解ってるんだろうが! せめて黙って見てろ! 俺に感謝しつつ、な! 」 
 
 餓鬼どもが全員俺を見ている。俺は咳払いして、落ち着いた声色を使う。特にトールとサイの眼が賞賛に輝いている。

 「志願したら、俺が全責任を以って守る。こんな糞アマは気にするな。 軍人以前の娑婆くさい奴に、俺は頼らんし頼る気も無い。無能者はZAFT以前に俺の敵だ。俺はそうして生きてきて、大尉に為ってすぐ、中尉に降格処分中だ。ケーニヒ、ハウ2等兵、俺は貴様等に期待しているぞ? 」

 トールがトレーラーに向かって駆け出して行く。見所の有る奴だ! 俺の隣のホルスタインのケツを抱えてファッ○していいぞ! 彼女が許せば、な?



 「ようし! そのまま腰を下ろせヤマト2等兵! 」

 戦時任官の餓鬼どもを使い、俺はストライクの各種パックの回収に成功していた。そしてエールパックを装備させている所だ。俺は教育がてらに戦時任官組に命令を下し、調整に勤しむ。「使える」人材は今の所は…

 ○キラ・ヤマト2等兵 :ストライク操縦・システム解析
 ○トール・ケーニヒ2等兵 :トレーラー操縦・各種機材の把握
 ○サイ・アーガイル2等兵 :上に同じ
 ○ミリアリア・ハウ2等兵 :状況把握・判断能力・通信機材操作

の4名だ。能力が有って努力する人間が、俺は大好きだ。逆に「使えない」連中は…

 ○マリュー・ラミアス大尉 :一体コイツはどんな軍人としての教育を受けてきたんだ? 恥を知れ恥を!
 ○カズィ・バスカーク2等兵:…イチイチ愚痴言わないと動けんのか! 修正早くも5回目に至る。…消すか。
 ○フレイ・アルスター2等兵:全く動きゃァしない! 能力と理解力はあるくせに! 何のために生まれてきた?

 全く! 親の顔が見たいぜ! …ソードとランチャーは言ってみれば『オマケ』の装備だ。…名前は付けてあるが、実はソードは『ビームサーベル試験型』、ランチャーは『ビームライフル試験型』と言ったほうが正しい。ストライクは飽くまで汎用性が命の機体なのだ、と俺は主張していたが、それをフクダ中佐とか言う馬鹿若僧が認めなかったので修正してやったら、その嫁、リョーツ女史…ブルーコスモスとか言ういけ好かん差別団体のお偉いさんが見咎めて、俺は問答無用で降格されたのだ。本当は軍から放り出される寸前だったが、第8軍の司令官、ハルバートン中将に庇って貰ったのと、今までの同僚や部下からの嘆願書が功を奏したらしい。ダンケル、ラムサス、アドル、ガディ、シドレ、モンシア、バニング、キース、コウ、ユウ、レイヤー、シロー…今頃おっ死んでないだろうな? 

 「あれは…アークエンジェル! 」
 「何だと! まだ艤装は80%しか済んで居ないって話じゃなかったのかよ! 」
 「副長のわたしが此処にいる! …アークエンジェルは完成していたの…貴方達MS開発陣が遅れていたの」 

 マリューがコロニーのホリゾントの空を見上げて、嬉しそうに叫ぶ。アークエンジェル級。連邦初の、MS運用を主体に設計されて建造された1番艦、ネームドシップだ。…俺達MS関係者は、そいつの完成が遅れていると何時も子守唄のように聞かされてきたが…フクダめ! 完成を焦っていたのはその為か! …まあいい。俺の仕掛けた『爆弾』は、奴を破滅させるには充分な威力を未だ、持っては居ない。MSが連邦に普及した時にそれが最大限の威力を発揮するのだ。

 「ミリアリア2等兵! 通信機材始動! その…マリュー大尉、アークエンジェルへのダイレクトアクセスコードを頼む」
 「ええ、わかったわヤザン『中尉』」

 立場が上だと解ったらこうも偉そうに言うかよこのホルスタイン、と言う台詞を俺は飲み込んだ。艦とストライクが揃って始めて、ストライクはその真価を発揮するのだ。何せストライクは有限エナジーの『バッテリー』で動かざるを得ないのだ。このままではいずれ、動けなくなるのは必至だ。MS運用母艦がどうしても要る。俺はこのMSで戦闘を続けたかった。


 通信回線が開く。送受話器に向かって第一声を喋ろうとするマリュー大尉から、俺は即座にそいつを引っ手繰る。娑婆ッ気の抜けん奴はすっこんでろ、とばかりに軽く睨み、不平を言おうとした軍人未満の馬鹿女を黙らせる。

 「聞こえるか? アークエンジェル! 小官は、MS開発班所属ヤザン・ゲーブルた…中尉! 」
 《こちら、アークエンジェル級一番艦、アークエンジェル艦橋最先任士官、ナタル・バジルール少尉です》

 …融通が利かなさそうな堅い、アルトの女の声だ。少尉で最先任だと? 公試クルーはどうした? それより何故映像が出ない? …フン! 一斉攻撃って奴か! 誰が情報を漏らした? …愚問だ。 ここは何処の国家のコロニーだ? 俺は自分の馬鹿さ加減に苦笑した。

 「…MS5機の内の、最新型を1機、確保した。そっちも大変だったな? …降りて、来られるか? 」
 《命令を預かっています。貴官の降格人事を無効とする。以上です。ヤザン・ゲーブル大尉、当艦は大尉の乗艦を歓迎致します。直接、お会い出来る事を楽しみにして、通信を終わります》

 見上げれば、アークエンジェルが徐々に高度を下げて来ていた。…最低限、艦を動かせる人間は揃っていたと云う事だ。俺は小僧どもを見渡す。俺の命令待ちをしているのはキラ、トール、サイ、ミリアリア2等兵の4名だ。
 馬鹿女と言えば、顔面を蒼白にしている。そりゃそうだ。唯一つの鎖の、階級で俺を縛れなくなったのだから。同階級でも、技術職と戦闘職では明らかに戦闘職である俺の方が上だ。極論だが俺が『死んで来い』と言えばこの巨乳ネーちゃんはそれに従わざるを得ない。大尉に為ったのも俺の方が先だったら鉄板だ。…そいつは、先ず無いと思うが…? 俺はエンディミオン敗戦隠しで昇進したクチだからな? 勿論、撃墜数を評価されて、だが。

 「さあ、兵隊ども! 乗艦準備だ! 俺はちと、そこのトレーラーに私物が積んで有るのでそいつを確認する。その間、休憩を10分やる! お話するなり何なり好きにしろ! キラ2等兵、ストライクから降りるなよ! お前は周囲の警戒を行え、以上! 」

 俺はトレーラーの運転席後部の子供一人は入れそうなバッグの中身を確認する。…新開発の、従来型よりさらに洗練されたノーマルスーツとヘルメット2着分を確認する(Zでヤザンが着てた奴を想像して下さい)。その下には、現在着用している私物デザイン軍服では無く、連邦軍の一部部隊のみが着用を許された、赤の襟に黒地、金刺繍入りの軍服2着と正帽と略帽のベレー、(ティターンズの軍服を想像して下さい)、後は整備服と私物の工具だ。…軍人たるもの、常に用意は欠かさずして置かねばな!

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最終更新:2006年12月08日 18:48