額に滴る汗を拭いながら、キラ・ヤマトは自分の置かれた状況を説明していた。目の前の相手がどんな存在で
あれ、現在は自分の生命を一手に握られている身としては滑稽だろうが何だろうが会話せざるを得なかった。
何せ口を閉じるたびにカウントダウンを開始し、見ろ、と言わんばかりに内気圧を低下させ、霧を生み出してくれる。

 「ほう…目を合わせたら襲って来た、と? 知能レヴェルが類人猿から牛にでも退化したとでも言うのか? 」
 「う、嘘は言ってませんよ嘘はっ! …ですから酸素濃度表示して数値を弄るのはやめてください…」
 「ン…? フン、どうやら狙いは君では無いようだな…しかし面白く為って来たぞ、少年…」

 外部聴音センサーが勝手にONにされ、コックピット内に男性2人の会話が流れ出した。キラは耳を傾ける。

 「…こう言う仕返しは大の大人としてどうかと思うがな、親爺さん? 」
 「痛い思いをしたのが俺だけと言うのもどうも不完全燃焼でなぁ? いやぁ、坊主がどんな反応示すか楽しみだ」
 「どうもこうもな、アレの方で反応せんだろうよ。大体な、冷やかす程のモンなのかよ? ただの…」
 「ただの何だ? あん? ほら? 言って見ろ? え? どうした? 」
 「…開けろヤマト2等兵! 設定なら俺がやる! 早く開けろ! ッ!!」
 「逃げるのも苦しいなぁオイ…って」

 コックピットハッチが予告も無しに開く。ハハ、と力無げに微笑むキラ・ヤマト2等兵を見たヤザンは、瞬時に何を
彼が見てしまったのかその野生のカンで直感してしまった。長身を屈めコックピットに潜り込み、キラの襟を乱暴に
持ち上げる。シートベルト未装着のキラは簡単に持ち上がってしまう。耳元に口を付けたヤザンは呟いた。

 「見たな? 誰にも喋るな。…そして忘れろ」
 
 コクコクと無言で頷いたキラを、浮かせてヤザンは後方に『投げた』。そして入れ替わりにシートに納まる。シートが
自動調整されて、セーフティシャッターが閉まりコックピット内は暗黒の世界となる。ハッチの閉鎖音と与圧音がする
と同時にまたセーフティシャッターが開く。光を取り戻したコックピットの正面モニターには意地の悪そうなニヤニヤ
笑いの『天敵』未満が鎮座ましましていた。
 
 「で、ただの、何なのだゲーブル? ん? 」
 「…ユーラシアの勢力化に入る。…何か知ってる事は無いか? 」
 「フン、物を聞くにも…まあ良い。貸しだぞ? ユーラシアにもG兵器の情報は流れている。但しアウトラインだけだ」
 「で、今そのブツが目の前にある、か…」
 
 悪企みをする笑顔が好きだ、とミオは内部モニターで観賞しながら『思う』。G兵器開発の時もそうだった。バスターの
テストパイロットのデータを参照し、『乱れ桜とやら言われてはいるがなぁ』といかに相手の得意技を出させずに攻撃する
かを練っていた様はまるで…悪戯好きの少年の様だった。あの時は徹底的にアウトレンジギリギリに陣取りわざと砲撃を
させてFS装甲を解かせてから、信頼性を疑っていたランチャーストライクパックを捨ててストライク素体で挑んだのだ。
 最初のDACTのブリーフィングの際、相手のパイロットにたかが女が、女風情が、と連発していたのもミオには笑えた。
そんな事を意識して戦うのか、と聞けば『負けた時に言い訳されたり、泣かれたら困る』と真顔で答えたのも彼らしかった。

 「ところで、話は変わるが一つ聞いても良いか、ゲーブル? …G兵器のOSの運動野設定の話なのだが…」
 「…さあて、面白く為って来たぞ…。少将閣下はグリマルディで詰め腹切らされて、名誉挽回したいだろうしな…」

 ヤザンの不敵な笑いは止まない。ミオはもう少し、この男の表情を見ていたいと『思い』、しばらく黙る事にした。

 

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最終更新:2007年05月15日 16:20