敵MSが装備している武器はマシンガンやソリッドなソード、ミサイルが中心の
実体弾武装だ。ストライクが装備しているPS装甲は、そいつらをエナジーが続く
限り、シャットアウトしてくれる。つまり…無敵モードって事だ。囮に最適だ。
「ヤマト2等兵! しっかり避けろ! あと2ポイントでフェイズシフトダウン!
機体がグレイに染まってしまって、あと一発喰らえばおっ死ぬんだぞ! 解れ! 」
ムウ坊のガンバレルのサポートが無ければ、キラ少年はとっくに死後の世界とやらで
泣いていただろう。ストライクを狙うジンを的確に射撃し続ける冷静さは、遥か遠い昔に、
ゲーブル家の敷地の中の狩猟場で俺を探して泣いていた時の面影を全く感じさせなかった。
「ヤザン大尉、ジン2機、ストライク―メビウスゼロ攻撃圏より抜けました! 」
「よぉぉぉし! ナタルぅ! …待て」
「は? 」
俺はナタルの、口をポカン、と開けた愕然とした顔を楽しむ。…険が取れた顔は、
中々のモンじゃ無いか! そしてそのまま、俺は操舵を担当するノイマンに声を掛ける。
「あの2機のハエに対して、最初、艦の上部を向けて、それから正面だ。出来るな
アーノルド坊や! テメエで踊って見せるんだよ! アーノルド坊やは人気者だ! 」
ナタルの顔が引き締まる。艦の上部の対空砲火装備、ヴァリアント、イーゲルシュテルン。
その利用方法に気が付いたのだ。…俺はナタルを艦長に推薦したのだ。…足りないのは、経験
だけだ。そしてその経験は…幾らでもこれから積める。良い艦長になれる筈…だったのだ。
「ヴァリアント、撃ェ! 」
「馬鹿かこの! 今のタイミングで撃たせるか!? 逃げられたら元も子も無いんだぞ! 」
…マリュー・ラミアス! ホントにコイツ、この艦の副長だったのか?! 戦闘のカンと
言う奴がまるで無い。センスもだ! 今回は従う奴が居なかったのが幸いだったがな…?
「フェイズシフトダウンだと?! 糞、ヤマト2等兵、俺と代われ! 」
『先に坊やを帰らせるんだ、ヤザン。こっちは受入準備が出来ている。
…エールの先行量産Verが格納庫に残ってた。今なら使えるぞ! 』
「頼りにしてるよ親爺さん…今、そっちへ行く! 」
『これが何なのかさっぱり解らなかったが…どうやらお前さんの玩具の
パーツだったらしいな? MS運用は始めてだが、やってみるさ』
魔乳の頓珍漢な命令発露を睨みで黙らせていた俺は、ブリッジのモニターの
端でグレー単色に変化するストライクを視界の隅に捉えた。チャンドラ二世が
気を利かせてくれたのか、格納庫との直接オープン回線がONに為っていた。
「な…!」
「ヤ、ヤザン大尉っ…!! な、何を…」
ブリッジのクルー、特に妙齢の女性陣が黄色い悲鳴を上げた。突然俺が軍服を
脱ぎ、ノーマルスーツにその場で着替えたからだ。上半身は白Tシャツ、下半身
はパンツ一丁。…男の下着は白、シミ一つ無い白で無くてはイカンのだ!
「ナタル! 指の間から目が覗いてるぞ? 対空砲火はお前に任せる! 俺は…」
「ヤザン大尉! ストライク、着艦体勢に入りました! 」
「親爺さん、ネット出してくれ! ヤマト二等兵は素人なんだぞ!? 」
『もうやってる! あとはお前待ちだ! 』
ノーマルスーツに着替え、俺はヘルメットを首の後ろに引っかける。やはり
この格好が一番しっくり来るのは…俺が根っからのパイロットだからだろう。
「ヤマト! 壊すなよ! そいつは俺のストライクなんだからな! 」
大写しになったコックピット内部のヤマト二等兵の顔が、苦しげに笑っていた。
俺はそれを背に、格納庫へと続くブリッジ内のエレベーターに駆けて行った。
「よくやった! ブリッジでマリュー・ラミアスをファッ○していいぞ!」 」
格納庫に着いた俺は、憔悴し切ったヤマト二等兵を見つけ、駆け寄った。
素人のクセに善くやった、と頭をクシャクシャッ、とひとくさり撫でてやる。
…払いのけるでも無く、ヤマト二等兵は俺を見上げて疲れた微笑を返す。
「僕…壊しませんでしたよ…ガンダムを…」
「ガンダム? こいつの…ストライクの事か? 」
「僕の組んだOSのイニシャルを組み合わせて、ガンダム…」
「…貴様に免じて、コイツは今から『ストライク・ガンダム』だ。俺が
決めた。誰にも文句は言わせんからな? 何せコイツは俺の…」
俺はストライク…いや、ガンダムを見上げる。灰色一色。背中に装備した
エールパックだけが色付きだ。そいつが取り外され、同型のものが新たに装備
されると、ストライクは本来の鮮やかな、テスト用パターンのトリコロールを
取り戻す。…俺は濃紺と黒、もしくは蒼が良いと言ったんだがな…。
「ヤザン! 何を遊んでるんだ!? フラガの坊ちゃんを一人で戦わせんのか! 」
「今行くよ親爺さん! …俺はコイツのパイロットだ。見せてやるよ、本当の
MS戦闘をな? …本当に善くやったな、素人? 見どころがあるぞ?
ゆっくり休め」
俺はコックピットに駆け登ると、ハッチを閉める。…キラの体臭が篭っていた。
小便臭がしないだけでも俺は有り難いと思う。何せ、初めての実戦だ。漏らして
いても可笑しくは無い。…ヘルメットを被り、バイザーを降ろす。…視界がオレンジ
に一瞬だけ、染まる。偏光バイザーなので、それほどの変色は普通感じないのだが…
何せ、久しぶりなのだ。
『ヤザン、何時でも行けるぞ? 』
「相も変わらず、むさい顔だな親爺さん? 」
『抜かせ! ブリッジ、オペレーター誰だ? 発進出来るぞこっちは! 』
『…暫定的に私が担当します。ナタル・バジルール少尉です。ストライク、
進路クリア、発進どうぞ! 』
少尉がオペレーターか、と俺は唇を歪めて苦笑する。まあ良い。男のむさい顔
を見るよりはマシだと思うしか無い。それよりも俺は…目の前に広がる光景に興奮
する。ジンだ! ジンだ! どこもかしこもジンだらけだ! 敵が居る! 腐る程!
発進ランプがグリーンに切り替わる。カタパルトが動く! このGの心地良いこと!
「ヤザン・ゲーブル! ストライク・ガンダム! 出るぞ! 」
そして俺は戦場へと躍り出た。ストライク・ガンダム! お前が俺を、殺戮せよと
駆り立てる!
最終更新:2006年09月11日 13:24