「MSの起動プログラムをロックして置け、ってフラガ大尉は言うけれど…」

 デュエル、ストライクの処置を完了したキラ・ヤマト2等兵は呟いた。友軍の戦力圏内に入ったと
言うのに、何故そんな措置が必要なのだろうか? 以前に言われた事を拳骨の痛みとともに思い出す。
思わず笑みが漏れた。本気で自分が怒られたのはあれが初めてだった。父にもあんな風にされた事は無い。

 『お前は素直に命令に従っただけで、責任は問われない! それが軍の不文律で常識って奴だ!』
 「フラガ大尉の責任でやるんだから、僕は悪くない…よね」

 ナハトの開きっ放しのコックピットに潜り込もうとした時に、腫れた頬を濡れタオルで冷やしながら部下に
整備指示を出すマードックとキラの視線が合った。マードックが壁を蹴り、キラの前に流れて来る。良く見れば、
目の周りにも青痣が出来ていた。ゲーブル大尉と殴り合いをやらかしてたっけ…と思い出す。

 「よお坊主、そいつにどんな用が有るんだ? 」
 「フラガ大尉に、MSの起動プログラムをロックして置け、と命令されました」
 「…そうか。…コイツには必要無いと思うがな…。まあイイか。フラガ大尉の命令じゃあ、仕方無い、な」

 マードックの視線が下の方に向いた。キラも釣られて視線の先を見ると、見慣れた金髪リーゼントの髪型が
ハンガー内に入る所だった。ちょうどキラは彼と視線を交差させてしまう。猛禽の目。獲物を捕らえたならば
無慈悲に生贄の命を奪うだろう、狩人の目。キラの背筋(せすじ)が戦慄に震え、筋肉が凍る。怒っているのが
物理的に、判る。(僕が何をしたって言うんだ、ゲーブル大尉は?!)

 「ッ…! そこを動くなよっ…」
 
 間髪入れずに全力で床を蹴り、猛スピードでヤザン・ゲーブルTITAns大尉が接近して来る。逃げなければ。
キラは迷わずナハトのコックピットに飛び退き、ハッチを閉めた。これで安全だ。キラ・ヤマトはそう…信じた。
だが、それがただの錯覚だった事に気付くのには遅過ぎた。暗闇に支配されたコックピットの正面モニターに
灯(ひ)が入る。一度だけ見た事がある、女性の映像だ。鼻を頭突きで潰された痛みが甦る。

 『誰の許可と何の権限があってこの中に入った、少年? 10秒後に答えが無ければエアを抜く』
 「な…」
 『絶句している暇は無いぞ。あと6秒だ。答えろ、少年。 5』

 怜悧な美貌に冷静な声に物騒な内容。この人は本気だ、とキラ・ヤマトは直感した。窒息する恐怖は前に
嫌と言う程シミュレーターで味わったのだ。もう二度とあんな目には逢いたくは無い。…素直に答える事にした。

 「フラガ大尉に起動プログラムをロックしろと言われました! 権限は僕がストライクを扱える2等兵だから! 」
 『フン、不合格かつ不適格だ。大方あの類人猿に追われて怖くて逃げ場を求めたのだろう? 違うか少年?
 表で早く開けろ、と怒鳴っている。…ククク…痛快だな。少年、貴様、何をした? 聞いてやらんでも無いぞ』

 どうやら赦してくれたらしい。キラ・ヤマトは安堵にズルズルとシートから体を滑らせた。

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最終更新:2007年05月15日 16:17