「ザフトの猟犬どもめ! ついに嗅ぎ付けやがったか! この決戦兵器の存在を! 糞がァ! 」

 このヘリオポリスに俺が居たのは偶然では無い。連合軍が極秘裏に、自陣営に寝返ったコーディネーターの協力によって創り上げたMS、モビル・スーツの『シューフィッター』としてこの秘密工場に潜伏していたのだ。
 シューフィッター。それは直訳すれば『靴を合わせる者』だが、俺の場合は、『赤ん坊以下の新開発のMSに、各種マニューバを学習させること』、つまりは『調教師』的な役割だ。この任務に就くまで…俺は…当然。MA乗りだった。

 「ゲーブル中尉! 急いで退避を! 奴等がすぐそこまで来ています! 残念ながらGAT-Xシリーズは・・・」

 馬鹿か貴様は! これを奪われたら、連合軍はまたザフトの人形どものMSに蹂躙されなければならんのだ!起死回生の手段を、奪われてたまるものかよ! このヤザン・ゲーブルを舐めるな! 白兵戦なら慣れている!

 目の前で、4機の連合のMSが奪われていく。俺が最初にヨチヨチ歩きから始めたデュエル。変形に手間取りながらも何とか戦闘機動まで持ってきたイージス。最初、武器を持つ事まで出来なかったバスター。ミラージュコロイドコートが俺の密かなお気に入りだったブリッツ…! 俺の子供同然だったそいつらが、ザフトのコソ泥どもの手により次々と、『ツインアイ』が点灯し、『PS装甲』が展開されて行く。無念だった。ナチュラルの不慣れなパイロットのため、ザフトのMSの主兵装である実体弾を無効にする夢の装甲、それが『フェイズ・シフト装甲』だった。

 「…間に合わなかったか! だが、だが、まだ…まだ…アレが残っている! ストライクが、まだッ! 」 

 蒼、赤紫、グリーン、ブラックに染まっていく4機のそばを、俺は小銃を敵兵に向かってぶっ放しながら走り抜けていた。
俺の最後の『息子』、一番手に掛けて育て、また、時間の懸かった『ストライク』はまだ、コソ泥の手には堕ちて居ない。


 GAT-X105、通称ストライク。それは先の4体の連合MSのデータ蓄積があってこそ生まれた機体だった。逆に言えば、先の4体が無かったら、ストライクは生まれなかった。ストライクの機体本体自体の攻撃能力は、ハッキリ言って先の4体以下だ。しかし、ストライクは各種オプションの装着によって、その4体が持ち得ない汎用性を手に入れていた。そのパックも…

 「ハン! 無事だ! エールパックも、ランチャーも、ソードも! 見てやがれ人形どもが! 人間の力を! 」

 俺がザフトのコーディネーターを人形と呼ぶには理由が有る。奴等は『人に作られた』人間であるからだ。別に俺は差別主義者では無いが、そう呼ぶ事によって軍の中では浮かずに済む。…赤い血が流れ、自分の意志を持っていればそいつは立派に人間だ。だが…奴等の大方が整った容貌を持っているのは厳然たる事実だ。

 「ん…!? 技術士官と餓鬼が…待て! そいつには俺が乗る! 退けぇ! 」

 やっとの事で辿り着いたストライクの上には、女と餓鬼が居た。…女の方は胸がブルンブルン揺れていた。餓鬼の方はこまっしゃくれた、妙に整った容貌をした少年だ。俺のカンは餓鬼がコーディネーターで有る事を告げていた。俺はその2人とともに、ストライクのコックピットに収まった。…女の胸で窒息しそうになりながら。


 俺と女と餓鬼は、ストライクのコックピットになんとか納まっていた。 ハッチの閉め方を2人が
知らなかったのが功を奏した。俺がまずシートに 座り、乳女がその上に、そしてそのまた上に
餓鬼が座る、と言う…窮屈 極まりない状態だ。身体を何とか入れ替え終わると、俺はハッチを閉めた。

 「女! 餓鬼! 俺は連合軍所属、ヤザン・ゲーブル中尉だ! コイツは 言ってしまえば軍の機密で、貴様らは特例として乗せてやっているに 過ぎん! 言う事聞かなけりゃァ、放り出すからその心算で居ろ! 」

 女が振り向き、俺を睨む。…そういやぁ、俺は女と名の付く者にこの数週間 口を訊いて無かった。
女の髪から匂う、フェロモン臭が俺の本能をくすぐる。

 「私はマリュー・ラミアス! 連合軍の大尉です! 貴方が中尉なら私の命令 に従って貰います!
  …命令します。この機体をZAFTの手から守って! 」
 「大尉、だと? 実戦部隊では無いだろう? 技術職なら一階級下扱い受ける 事は知ってるな? 
  それに俺は『元大尉』なんだ。糞生意気なワカゾーの上官ぶん殴って一時降格されてるんだよ!恥ずかしい事言わせるなよ、女! 」
 「ヤザン・ゲーブル大尉…? !! ストライクのシューフィッター! 」
 「解ったら黙ってろ! 舌噛むぞ! ストライクの戦闘処女、俺がもらったぁ! 」

 俺はアーマーシュナイダー、戦闘ナイフをストライクの両手に持たせた。ノーマル状態だとこれとイーゲルシュテルン、つまりは機関砲2門しか武装は無い。体術を使用 出来ればなお良いが、OSが全く洗練されて居ないので、俺の繊細かつ美麗な操縦技術 には対応しかねるだろう。
…ちゃんとモーションデータは有るんだがな…糞!

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最終更新:2006年10月20日 12:26