「…誰だか知らんが出て来い。コソコソ暗躍されるのは俺の性に合わん。最悪コイツを捨てることも…」

 俺はコックピットの内部カメラの小さなレンズを睨み付けながら話す。元々通信用の物だろうが、もし俺の予想の通りなら、コレと通信用マイクを利用して、現在の俺の表情や会話をモニターしている筈だった。画像のピントを合わせるレンズの虹彩、アイリスが静電モーターでキュイキュイ音を立てればビンゴ、だ。しばらく耳を澄ませるが、生憎とそんな安いモーターは使って居ないようだ。…が、小さな変化は有った。

 「…考えねばならん。だが、俺が有用だと認識すれば話は別だ。どうだ? 出てくる気に為ったか?」

 レンズのアイリスが小刻みに絞られ、開かれている。GATシリーズでは俺の顔の血流まではモニターが出来ない筈だが…しかしコイツはオーブ製で規格外品(イレギュラー)だ。数秒の後、機体状況を示すサブモニターに変化が有った。オーブの公用語、『ニホン語』だ。…こいつの習得には苦労させられた。

 『…質問の意味不明瞭』
 「ほっ、そうかよ! 質問されている事のを知ってるって事は、確かに居るって事だな。誰だお前は?」
 『…質問の主旨、不明瞭』
 「主旨と来たか! 時間が無い、答えてやる。こんなオーブ製の胡散臭いモンキーモデルMSなどに乗れるか糞野郎、早々に捨ててやるって最後通告だ。以上を理解出来たか腐れAI(人工知能)? 」

 ニヤニヤしながら言ってやった。スッキリするぜ! 心に隠し事はしないに限る! 爽快な気分だぜ!メインモニターが突然作動する。ブラック地に白文字でREADY表示なんぞ出しやがる。…待たせるな?
 パッ、と画像が出てくる。…やっぱりな? こいつはこう言うサプライズが大好きなんだよ! ミオ!



 『…余り私を怒らせるなよゲーブル大尉。空調システムを利用して酸素欠乏症で殺す事も可能なのだ』
 「…親爺さんの『無駄に高級なCOMP積んでる』で引っ掛かってた。だから笑顔で死んでたのか?」
 『私のメディカルデータをこっそり閲覧していて良くそんな事が言えたものだな野蛮人。…知っていた…』
 「コーディネーターは遺伝子を弄繰り回したパッチワーカーだからな? 寿命が尽きる寸前だったんだろ?…原因は各種のガン細胞がリンパ系を通じてあちこちに転移だ。痛みの無いまま死を目前に控え…だ」
 『…だから抱かなかった、のか? …目的が達せられれば満足して死んでしまう、と思って…か? 』

 羞恥に頬を染めるな! 上目遣いに見るな! 今は死人だろうがよ! 全く…人間から生まれ変わって素直になったとしてももう遅いんだぞ? 今は…堅いわデカいわ冷たいわで、どうしようも無いんだからな?

 「想像に任せる。…このMSは何だ?加速で死ねるなんて日記で書いて置いた癖に、丸っきりクソの塊だ」
 『十六夜(イザヨイ)だ。月が出ない事にはどうしようも無い。…冗談だ。そんなゴリラがお預け食った顔をするな。…吹き出したくなるじゃ無いか、ゲーブル。…わかったよ、種明かしをする。まず、コレを見ろ』

 画像のミオが、映像の中の自分の端末の画面を俺に向ける。…無駄にCPUのパワーを使うなよ…おい…。

 『背部大気圏突入用パック&シールド:ヤタガラスだ。これを装備する事によって、イザヨイの関節の稼動制限をするスペーサーと 増加装甲ユニットが排除されて、真の姿、望月(モチヅキ)に生まれ変わる。ヤタガラスの名は、バインダーとテールバインダーで三本足、色は基本色が黒、フラップ部が黄から来る。…実は装甲も…どうしたゲーブル? その間抜け面(ヅラ)は?』

 俺のあんぐりと口を開けた間抜けな表情を見咎めたのだろう。小首を傾げて聞いてくる。…癇に障る奴だ。
 
 「…全身銀色なんてどこの馬鹿が乗るMSだ?! これじゃあ狙い撃ちしてくれと言っているモンじゃねえか!」
 『対ビーム装甲:ヤタノカガミを装備する予定だったが、生憎間に合わなかった。今の機体色はこのイザヨイああ …ナハトだったな? の濃紺色だ。良かったなゲーブル? コソコソ隠れる臆病者にはピッタリの色だ』


 
 誰が臆病者だこの幽霊が、と言う言葉を喉元で押し殺し、俺は聞きたい事を聞く事にした。大体、オツムのいい奴は上機嫌にさせれば情報をペラペラと勝手に喋ってくれるものだ。…AIに感情がもし存在すれば、の話だがな!

 「なんだそのヤタノカガミってのは? 」
 『MSのビーム兵装が主流になるだろうから、放たれたビームを反射して敵に返して攻撃すると言う無茶苦茶なコンセプトの装甲だ。アルペド(反射率)の計算と、ビームの蓄積が巧くいかないので残念だがオミットしたぞ』

 要らん。避ければいいだけの話だ。昔読んだニホンのコミックブックの『メジャーリーグボールNo.1』のコンセプトに良く似ていた。確かあれは…『打たれまい打たれまいとするから打たれる。それならばこちらから一歩すすんで打たれてやろう』だったか? 本末転倒だ。それでは装甲と言うより武器だろう。…オーブの理念には合致してはいるが。俺はふと引っ掛かるものを覚えた。大気圏突入用パック、だと?

 「何でそんな大気圏突入なんぞ必要なんだ? MS風情には必要無いだろうに? アアン? コラァ? 」
 『…オーブの建設中の軌道エレベーター:アメノミハシラの話は知っているか? このモチヅキはそこに常駐する予定だったのさ。開発中のもう一機のオーブの守り、『………キ』と対に為っている。『………キ』がオーブ本国を守護している間、軌道エレベーターからモチヅキが敵本国を大気圏突入のウェィブライダー効果を使い強襲する。本来オーブは他国の侵略を認めない方針だが、自国を叩かれれば復讐せねば舐められるだけだ』
 「復讐兵器って奴か。で、そいつに持たせる強大な大火力を当然、開発中なんだろうな? ええ? ミオよォ? 」

 踏ん反り反(かえ)ってエッヘン、とする画像の白衣姿のミオを乗せようと俺は水を向ける。『………キ』の部分をもう一度聞きたかったのも有るが、コイツの、ナハトの武装状況がどこまで実体化しているか聞き出さなければ話に為らなかった。画に描いた餅は食いようが無い、とするのがオーブの諺(コトワザ)に存在していたはずだ。

 『今のところヘリオポリスに輸送中だったのは『ヤタガラス』のみだ。ヒノカグツチはモルゲンレーテに有る』

 おいおい素直過ぎるぞ? 何か悪い物(ウィルス)でもヤマトの奴に喰わされたんじゃないだろうなぁ? ミオ?

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最終更新:2007年03月10日 17:14