胸を肌蹴させたまま、俺はナハトのハッチを蹴り、ストライクのコックピットに流れる。胸部装甲のヘリの辺りで蹴りを入れ、慣性を殺して下方へ方向転換し、手近な所を掴んで姿勢を維持する。この位の空間把握能力はパイロットの必須能力だろう。そして強制解放コードを入力し、ストライクのコックピットハッチを開く。

 「さあオープンセサミ! …うオッ! 」

 プシュウ! と一気に空気が流れ込むと同時に、派生した風から俺の敏感な嗅覚は各種の臭いを嗅ぎ取ってしまう。反吐、汗、唾液、糞尿臭…各種の排泄物の臭いだ。鼻を片手で押さえ覗き込むと、ヤマト2等兵が白目を剥き、口を半開きにして舌をだらりと垂らして仰け反ったまま気絶していた。…頑張ったんだなキラ・ヤマト…!
俺は軍服が汚れるのも構わず、こんな状態のヤマトを非情にも固定し続けているシートベルトを外しにかかった。

 「ガァリャアアアアあああああああああああああ! やられるかアアああ! 」
 「大人しく…寝てろ! この! 」
 「うボ…! 」

 驚かせてくれる! まだ狂戦士化していたのか! 俺は噛み付こうとするヤマトの腹に60%の力でボディブローを叩き込んだ。俺が本気でやればヤマトの胃壁を裂いてしまう恐れがあったからだ。シートベルトを外し、大人しくなったヤマトを左脇に抱え、今度はデュエルを目指しストライクのハッチを蹴る。…あの銀髪オカッパ、鍛え直す必要がある。
流れる最中、ANBACの要領で微妙にスピードを殺し、方向修正する。…左腕が使えんからな? デュエルのハッチをこれまた強制解放コードで解放すると、今度もコックピットから臭いが漂ってくる。俺は鼻をまたつまむ。

 「…溜まってるサカリのついた餓鬼だからってなぁ…起きろこの! 」

 奴に連合のトレーニングウェアを便宜上着せてあったのだが、股間の辺りが妙に濡れていた。恍惚とした表情で、幸せそうに涎を垂らして居る所から見ると…ナハトからの電撃で小刻みにシートが揺れた震動で『イッた』のだろう。
 起こそうと思い、軽く頬を平手打ちするも『母上ぇ…』なんて幸せそうな寝言を吐いてくれて、気勢を削がれてしまう。

 「…ったく、世話を焼かせる餓鬼どもだな? 」

 シートベルトを外し、今度は右脇に抱える。そのケの有る奴ならば両手に華とでも思うのだろうが、生憎俺には無い。だが、この己の分際知らずの阿呆ども二人を鍛え直すにはどれくらいの時間と手間が掛かるかと思うと『嬉しく』なる。
 しかし、まずはシャワー室に叩き込んで綺麗にせんとな! こう『臭(くさ)い』ままでは説教も出来かねるぞ!



 シャワー室へ向かう俺の鼻に、両脇から漂う悪臭とは違う匂いが飛び込んで来る。…女…だな? これは?シャワーを浴びた帰りだろうか? 俺の唇の端の笑いを見咎めたバジルール少尉がおずおずと声を掛けて来る。
 そりゃあ餓鬼二人も小脇に抱えて居れば声も掛け辛いだろうな? それも漏らしまくった粗相過ぎる奴らをだ。

 「ゲーブル大尉…大尉は何を考えているんですか? まさか…」
 「ああ、一緒に入るんだ。呼吸が有るが何せ意識が無い。脱がせていろいろ洗ってやらんとな? 」
 「!!!!!!! 」

 ボン、と顔が真っ赤に為る少尉は、何を想像したのか慌てて逃げ出そうとする。漸(ようや)く鈍い俺でも解る。俺は右脇の銀髪オカッパ、イザークの方を離して少尉の肩を掴み、力を入れる。…誤解は解かねば、な?

 「…色々士官学校では有るよな? そう言う『話』は? だが俺は違うぞ? 誤解するな」
 「ち、ちがいますっ! 違うんです、違うんですッ! 離して! 離して下さい大尉ッ!」

 嫌々、をするように抗う少尉は、目元を染めながらも目尻に涙を溜めて俺から逃れようとする。その時、俺の背後から俺の右腕を掴む奴が居た。俺に気配を悟られないだと!? 振り向くと…アーノルド・ノイマン曹長だ。おいおい、少尉もそうだが曹長、誤解しているぞ俺の事を? 俺はこう見えても『女』には紳士なんだがな?

 「バジルール少尉がどうかしましたか、『ゲーブル大尉』」

 俺を睨み据えるアーノルド坊やに、俺は殺気を向けてやるが…こいつ…やるな? 俺の殺意を真向から
受けてもたじろがない奴は、久し振りだ。 こう言う奴を見ると、徒手格闘も悪くない、と言う気分にさせられる。が…ここは戦闘中の艦内だ。無用な摩擦を避けたい。背中から刺されたり撃たれたりはしたくは無いからな?

 「いや、こいつらを洗ってやる、と言ったら少尉が俺を『誤解』した様でな? 解るだろう? ン? 」
 「ああ! 軍隊特有のアレ! …男所帯に良く有る話とか言われて…迷惑するアレ! 失礼しました大尉」

 ビシッ! と音が出るような敬礼、有難うよ曹長。だがこれでハッキリ解った事が有るぞ曹長? 貴様、ただの軍人じゃあ無いな?俺に悟られぬ程に気配を殺せる様な技術は、普通の軍人の訓練では学べんぞ、曹長?

 「ちがうんです…大尉…」

 すすり泣き混じりのか細い声が、俺と曹長の緊迫感を打ち砕いた。なんと『あの』バジルール少尉が、少女の如く泣いていた。俺はノイマン曹長に目配せして、少尉の肩を離し、イザークをまた抱える。女はどうも苦手だ。それも理由も解らず泣いている女は特に、だ。少尉に近づく曹長を尻目に、俺はシャワー室に入りドアを閉めた。

 「さあ、脱がせてやるとするか…! 糞! なんだってんだ! 」

 何故か消えない後味の悪さが、間抜け少年二人組の服を脱がせる俺の手付きを、何故か酷く乱暴にさせていた。


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最終更新:2007年01月22日 11:35