『おいおい、レッドテールが引っ込んで、イエローテールが出てきたぞ? 』
 『イエローか? …臆病者の色だ。また逃げ回るだけさ、遊んでやれよ、ミゲル』

 オートチューナーが、暗号化された敵の通信を拾った。先行量産型エールパックは、
テールバインダー部分が正式Ver.のクリムゾンレッドでは無く、カドミウムイエローに
塗装されていた。そいつを認識しての『イエローテイル』らしい。
 
 「好き放題言ってくれるモンだな、ZAFTのお人形風情が…遊んでやるのは俺の方だぞ? 
  …ムウ坊、補給に戻れ。後は俺一人に任せろ。コイツの、ストライク・ガンダムの本当の
  実力をしっかり見せてやらんとな? 」
 《ティターンズの兄貴、いいのかい? そいつ、最重要軍事機密のMSなんだろ? 》
 「どの道4機が強奪されたんだ。技術的なアドヴァンテージがこちらにあるのを見せ付けて
 やらんと、な? それに獲物が減るのは興醒めだ。出来れば全部平らげたい。判るな? 」
 《流石根っからのドッグファイター! 僕ちゃんはせいぜい楽をさせてもらいますかねっと! 
  アデュー、ムッシューゲーブル! 子猫ちゃぁん、ラミアス艦長、待っててよぉ~?》

 メビウス・ゼロが視界の後方に流れていった。あのひ弱なムウ坊がふざけた野郎になるとは… 
…軍は人間を下品にする温床だ。…色々な人間の集団だからだ。配属された部隊にも因るが…
ムウ坊、そのノリは無理してて痛いぞ…? 一体何が、どんな辛い事が有ったんだ?

 「来いよ、サイクロプス(一ツ目:モノアイ)ども? この俺が歴史に残る死に様を演出
  (コーディネート)するんだ、 派出に行こうぜ、派出に! 」

 背中を向け巡航(クルーズ)するストライク・ガンダムに、ジンはスラスター光を精一杯伸ばして
間抜けにも付いて来る。完全にこちらを、素人のヤマトが乗っていると思って発砲すらしない。
 俺は笑いの発作を止められなかった。こいつらの慌てふためく様を想像すると、我慢なぞ出来る
ものかよ! 俺は哂いながらストライクの腕と足を振る。AMBAC機動。TITANSで敵MSの機動を
研究し、理論上は可能、と言う結論に達した操縦法だ。
        
        ―パイロットの三半規管と胃がGに耐えられればの話だが―
 
 ストライク・ガンダムが俺の意に寸分違わず従い、急速反転し、のこのこ追ってきたジンに正対した。
俺はトリガーを引き絞り、ターゲッティングする事も無く、一機のジンのコックピットにビームライフルを
命中させた。もう一機のソードを引っさげたジンが、怯み立ちすくむ様が俺の冷笑を誘う。莫迦どもが!
 
 「残念だったな! 逃げ回るのはお前達の方だよ、こそ泥を働くネズミどもが! 」

 奴らは後悔するだろう。有効な攻撃手段を持たぬまま、無残に野獣に狩られるであろうその無力さを。



 「遅いなァ、ZAFTのパイロット! 」

 腹の底から来る可笑しさが停まらない。空中を自由に飛び廻る快感。MAとは比べ物にならない
程の機体の操縦追従性。そしてさんざん、MAパイロット時代に追い回され、悔しい思いをしていた
ジンに勝る機動性。その全てが、俺の唇に嘲笑を浮かばせる要因となるのだ。必死になってソードを
振り回すジンの斬撃を、紙一重で回避する。勿論、ワザとだ。…当たってやっても実害は無いのだが。

 「ミゲルとか言ったか…? 所詮は…」

 遊んでいる俺に、的確な打撃を与えられないようでは、雑魚だ。俺はビームライフルを宙に投げ、敵が
最上段から振り下ろしたソードを、即座に抜いたアーマーシュナイダーで払い、コックピットに鍔元まで
突き刺し、抜く。赤く染まった刀身を確認後、ジンを蹴り飛ばして収納し、落ちて来たビームライフルを
空いた右手でキャッチする。

 「ビームを使うまでも無い、な」
 《ミゲルゥゥゥゥゥゥッ! 》

 悲痛な少年の声が俺の感情を苛立たせた。甲高く、耳障りだ。餓鬼がノコノコと戦場に出てくるとはな!
ZAFTと言う組織は余程人材が不足しているのか? 俺がストライク・ガンダムの首を振り向かせると…

 「ハン! ガンダムかい? 」

 いや、ガンダムはこのストライク一機だ。ヤマト2等兵が組んだOSの頭文字を取っての『ガンダム』なのだ。
…このストライクと同じ顔をした、奪われた4機のうちの一機、変形機構を持った『イージス』が突っ立っていた。

 「見つけたぞ、イージス! 」

 逃げなかった事は褒めてやる! この俺の元に還れ、イージス!


 
 《キラ、キラなんだろう?! それに乗っているのは! 》
 
 イージスのパイロットが俺に呼びかけて来る。…甲高い餓鬼の声だ。こんな
餓鬼に最新鋭MSを奪われた俺達、連合軍の情け無さ振りに思わず自嘲の笑いが
漏れて来る。笑いを噛み殺し、喉の奥で笑う。

 《キラじゃ…無い?! 誰だ! 》
 「誰だ、とは随分だな盗人が! ガンダム…いや、イージスを返して貰うぞ」

 俺はストライク・ガンダムのシールドを構えさせ、そのままイージスに吶喊する。
イージスは変形した後、『スキュラ』を撃てる。変形させる前に勝負を決めたかった。

 「女と餓鬼が戦場に居るってのは、気に入らないんだよ! 消えな! …! 」
 
 チャージしてイージスを捕らえた瞬間、太いビームの射線が俺の目の前を横切った。
この色…バスターからか?! バスターが来ていると言うのか?! 何処だ! 射線の先を
探す俺の目は、豆粒程のそれを目聡く見つけ出す。牽制のために、俺はビームライフル
を放つ。もう少しマゴマゴしていたら、俺はイージス越しに撃たれていただろう。

 《ディアッカ…! まさか貴様、俺ごと…》
 《チッ、避けられたか…アスラン、もう少し囮になってくれないと困るなァ》
 「イージスがアスラン、バスターがディアッカ…覚えたぞ泥棒が! 」
 《おお怖。名前覚えられちゃったよ。で、オッサンは誰ちゃん? 》

 ガンダム同士、いやGATシリーズは連携運用のため、共通通信回線を持っていた。
バスターからの通信の声は、完璧に世を舐め切った餓鬼だった。イージスに乗った奴、
『アスラン』とはまた別の不快感を醸し出す声だ。…ZAFTめ! 

 「確かディアッカと言ったな? そこで待ってろ。俺はヤザン・ゲーブル大尉だ。
  イージスやそいつを丹精込めて育てた男だ。…そいつは餓鬼の玩具じゃあ無い」
 《オッサンのものでも無いだろ? ナチュラルにはMSなんて似合わないね》

 苛立たせる! …挑発しているのだ。…ブリッツとデュエルの支援を待っているのか?
…いや、違う。これは…時間稼ぎか! アークエンジェルがヤバイ! 素人集団なのを
すっかり忘れていた! ムウ坊、持ってろよ! 今…

 《チッ…気づきやがった。アスラン、駄目駄目だな? どうしたんだ? 》
 《あいつに…キラの事を聞かないと…ディアッカ、話は帰ってからだ! 》

 糞! イージス! 相手してる暇は今更、俺にはもう無いんだよ! …母艦を守らねば!

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最終更新:2006年09月11日 13:25