「まさか君があの艦に居るとは思わなかったよ。大西洋連邦、TITAnSのヤザン・ゲーブル大尉がね」
 「そう小官を睨まれても困りますな? 小官はただ、演習で要塞の脆弱性を指摘したのみですが」
 
 俺は司令室に案内され、ソファーに座らされている。…監視兵2名の小銃を突きつけられて、だが。
こんな待遇はまだ序の口と言うべきだろう。…ラミアス艦長とバジルール少尉を置いて来て正解だった。
素人ならこれだけでブルッてしまって交渉しようなんて度胸は雲散霧消してしまう。このハゲ狸め…。
無意味に偉そうにしやがって…この俺相手に大物振りを見せ付けてると痛い目に逢うぞ? 

 「御蔭で准将昇進は露と消えたがね。ただの演習であんな汚い手を使って勝利を奪い去るとは、な」
 「…勝利を収めた演習帰りの乗艦に、『誰かの指示で」エアリフレッシャーに細工されたのには参りました」
 「だが、君はこうして生きている。『ただの事故」で良かった。もう少しで死ぬ所だったそうでは無いか」

 余程『閣下』と呼ばれる身分に御執心だったのだろう。運が無い奴だ。グリマルディでサイクロプス稼動の
事実を目撃したのを利用して昇進を狙い、あと少しで失敗してこの要塞、アルテミスに事実上『飼い殺し』に
されているのだ。演習で俺の率いるTITAnS部隊相手に勝利したら、配置転換の内示でも出ていたのだろう。
 俺は演習開始の命令が下りた直ぐ後に、手塩に掛けた子飼いの部下を要塞のメイン・サブのコントロール
ルームに待機させ、俺自身は傘を張り終えた要塞の外に出て申し訳程度に攻撃してみせた。そして攻防が
佳境に入った所で『脅迫指示』を出したのだ。で、演習の統裁部の出した判定結果は『TITAnSの勝利』だ。

 『セキュリティチェックの甘さに問題が有る。脅迫指令などと言う生易しい手段では無く、自爆指令だったら
 我々の命はとうに無くなっている。現にスパイが入り込んでいる可能性は無視出来ない。管理責任者は…』

 と物凄い剣幕で譴責されていたのが司令官であったこの艦長上がりの『ジェラード・ガルシア大佐』である。
で、その後キッチリ俺達に復讐する所が凄い。俺達の乗艦の補給時に、空気循環系とチェックシステムに
小細工させ、あと少しの所で全滅する所だったのだ。それも巧妙に2重、3重、4重の罠を張り巡らせる陰湿さだ。
 先ず異常を来したのは二酸化炭素濃度。気分の悪くなる奴等が続出。おかしいと思って調べて見て、修理。
その後に酸素濃度。徐々に減らして行かれた。非常用システムに切り替えると、今度はガス兵器の散布だ。
対テロ訓練を受けた俺達TITAnSでも危なかったのだから、他の奴等なら死んでいた。

 「…社交辞令はもう止めにしようや『閣下』。『ただの事故』はアンタの仕業だと『推定される』だけだ。巧妙に
 痕跡が残してあったが、決定的な証拠は何一つ無い。破壊工作員の仕業だと言えばそれまでだからな? 」
 「まだ私は『閣下』では無いよ、大尉。ここに来たのは何故かね? …旧交を暖めに来た訳ではあるまい? 」
 「我が艦、アークエンジェルの臨検許可を大西洋連邦から取って有る筈なのに、何を待っている? 敵襲か? 」
 「そこまで解っていて何故君が艦を離れたかを、私は知りたいね、ゲーブル大尉? 何が目的だ? ん? 」

 ニヤリ、と笑う『閣下未満』に俺は苦虫を禁じ得なかった。AAの国籍識別コード・艦籍登録を得るために、俺は
捕虜のイザークを使い、一芝居打って艦の存在を『公表』した。だが、その後の連絡は『一切していない』のだ。
言わばこいつらにとっての『餌をぶら下げたまま』だ。正規の手段に乗っ取り、大西洋連邦を通じてなら俺達には
拒否権など全く無い。だが、それをしないのは? 腹に一物あるに違いないからだ。相手の目的を探らなければ
俺達の目的など達成出来ない。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だ。そして、相手を巧く騙さなければならない。
俺の真の目的は『アークエンジェルの補給物資を得る事』など『目的のついで』に過ぎないのだ。

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最終更新:2007年08月15日 12:16