「これが…【ヤタガラス】か…」
 
 コンテナをアークエンジェルに運び込み、パスワードを入力してハッチを開くと、中には4機の、地球空間戦闘用の
戦闘機のようなものが固定されていた。MS、それもG兵器・GATシリーズにどう接続するのか正直、始末に迷う形状だ。
これはもう聞くしかない。そう思った俺は、周囲に誰も居ないことを確かめてから、ナハトに向かって右拳を突き上げる
ハンドサインをしてから、整備用の携帯端末の電源の灯を入れた。……間髪入れずに、ニヤニヤ笑いの白衣を着た、
オーブで言う、【翠の黒髪の】ロングヘアの理知的なやや吊り気味に目をした女が現われる。その表情はなぜか狐…
FOXを連想させた。ミオ在りし日の、雑談で聞いたナインテールの伝説を思い出す。狐が化けた美姫の伝説だ。

 『素直なものだな、ゲーブル? こうも簡単に、人に教えを請うとは思わなかったぞ』
 「事は一刻を争うんだよ! 一体コイツはなんだ? 戦闘機か? 」
 『ヤタガラス。高高度襲撃用ストライカーパック。イザヨイ…いやナハトのためだけに創られたと言っても過言では無い』
 「もう少し、具体的に説明をしてくれないか?」

 端末の画面のミオの部分が小さくなり、【ヤタガラス】のワイアーフレームが表示された。どうやら戦闘機の機首に見えた
部分が外れる仕様で、分割してシールドになった。あとの残りの部分は、逆三角形のような形でバックパックに装着される。

 『一度見せてやったはずだが、忘れたのか…? 』
 「気が抜けない狸親爺と化かし合いをして来たんでな。今度は優しい雌狐に慰めて貰いたいのさ、覚えてるだろ?
  いつかのナインテールの話を? 」
 『そんな事も……あったな。それでは餓狼…いや野獣に餌をやるとしようか』

 途端に【ヤタガラス】のワイヤーフレームに色が付き、画面が縮小される。そして、現状のナハトのポリゴンモデルが新しく表示された。

 この携帯端末のスペックをフルに使う気らしい。多分、ミオの喋りのレイトレの口パクだけでも結構な容量を喰っているはずだ。
そんな俺の内心の意に介せず、画面が表示されていく。ナハトにヤタガラスが装着されるのだが、武骨な外見のナハトには
似合わず、珍妙でチグハグな印象を与えてしまう。……ウィンドウのミオがムッとした表情を見せる。端末にはカメラなぞ無い。
ナハトから俺の様子を各種手段で監視していることに気付いた俺は、背筋に戦慄を覚える。ヤバイ。コイツは怒らせない方が
いい。きっと見ている。恐らく、アークエンジェル艦内で、俺の全てを。途端に、画面の中のナハトの各部分装甲やら関節やら
から部品が離れていく。

 「な…! 胸部装甲までハリボテだと?! これだけパージしたら…! 」
 『そのための【ヤタノカガミ】装甲だったが、当たらなければ良いのだろう? ゲーブル?』
 「そんなにいやらしく笑うなよ、雌狐め…。一体、何のためのパー…」

 何のためのパージだ、と言おうとして、俺は眼を見張った。痩身になったナハトが、なんと【変形】して行き、MA然とした形状に
なって行く。バインダー、テールバインダー、シールドにすっぽりMS機体本体が覆われる形になり、最終的に変形が終了する。

 『このためのパージだ。単体だとほぼ垂直に大気圏に鋭体突入出来るはずだ。鈍体突入だとこの上にMSを載せて突入……』
 「…シミュレーターの理論上、だろ?」
 『まあそうなるな。やってみないと解らん。ヤタガラスを装着すれば、ナハトをGAT-X105ストライクに偽装したカバーパーツの
 ロックを任意で外せる。判断は任せるぞ、ゲーブル』

 やってみたらシミュレーター通りに行かず死にました、と言う結果だったらどうする心算だ、と腹の中で思いきり毒づいていたら、
端末画面一杯に戻ったミオが優しく微笑み、俺を見ていた。そうだった。ストン、と腑に落ちた。何もコイツに怒ることはないのだ。

 「失敗したら心中だぞ? ミオ…」
 『それこそ開発者冥利に尽きると言うモノだ。打ち上げから打ち止めまで見守れる。そのときは黙って一緒に星になるだけさ』

 ……冗談じゃない。折角弄(イジ)り甲斐のある玩具を手に入れたのだ。愉しまなければ嘘だろう。そして、その時はそう遠くない。
ZAFTの奴等がアルテミス要塞に襲撃を掛けるまでにナハトへの装着を終えなければならん。……そして背後の僅かな人間の気配に
ようやく俺は気が付いた。マードックの親爺さんがウンウン、と頷いていた。無償に暴れたい衝動に駆られる俺だったが、我慢する。

 「さあ、取り付けにかかるぞ! …勿論、手伝うよな? ヤ・ザ・ン」
 「…ああ。手伝うよ」

 時間は有効に使うべきだ。一刻たりとも、無駄には出来ない。今頃はカズィの奴も映像分析・編集に掛かりきりになっていることだろう。

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最終更新:2008年08月27日 09:10