その頃ZAFTのナスカ級高速戦艦ヴェサリウスでは、イザークから送られた通信の内容に
ついて議論されていた。イザークが敵艦の艦橋を占拠すると言う事態に、ブリッジは沸いた。
さらには『足つき』の目的地まで探ってくれたと言うのだから、無理は無い。

 「ダミーを放っても、目的地は解る…。月だな」
 「最終確認位置からすると…そうですね」

 したり顔で言い放つラウ・ル・クルーゼと部下達の横顔を、ただ一人離れて壁に寄り掛って
見ている『赤服』がせせら笑っている。その態度が嫌味な程に似合うのが、浅黒い肌に金髪の
ディアッカ・エルスマンだ。アスラン・ザラの咎める様な目つきを真正面に迎え、鼻で笑う。

 「何が可笑しい、ディアッカ」
 「与えられた餌を疑いもせずに鵜呑みとはね…これが笑わずに居られるか?」
 「どういう事だ! 説明しろ! 」
 「アスラン、お前…いい。好きに言ってろ(馬鹿ども)。流石ウラナリ坊やは出来が違うねェ」

 さらに言い募ろうとするアスランにディアッカが謎の言葉を投げ付けた瞬間、クルーゼの口元が
動揺に引き攣った。済まない、小用が出来たと言い、クルーゼは慌てて中座したディアッカを追う。
誰も居ない狭い通路で、クルーゼは背後から声を掛けられる。

 「フン、やっぱり来たか」
 「…君はどこまで知っている? 何を聞いた? 」
 「俺の乗ってるバスター、GAT-X103ってのは見ての通りの長距離支援型。そしてセンサーも
  狙撃に特化されてるんだなぁ、これが? 基本的に狙撃ってのは情報が命ってモンでねぇ…」

 目を閉じ唄う様にディアッカは得意げに喋る。クルーゼの焦燥を嘲笑うかのような頬笑みが似合う。


 「全てを、全てを聞いたのか!? 」
 「さあてね、ご想像に任せるさ、変態仮面サン」
 「何が望みだ?! 独立部隊の隊長の地位か? 私の権限ならば…」
 「面倒臭いのは嫌いでね。そんなモンはアスランの阿呆かイザークの単純馬鹿が向いてるだろ? 」

 クルーゼは思わずディアッカの胸倉を掴むが、ディアッカは動じない。むしろクルーゼはもう完全に
ディアッカに「呑まれて」いた。不敵な笑みがクルーゼの動揺をさらに誘う。得体の知れない恐怖が
クルーゼの背筋を慄かせる。この少年は只者では無い。クルーゼは力を弛める。

 「その単純馬鹿が、あのアンタを虚仮にしたヤザンのオッサンを出し抜けると思ってるナチュラルの
  アンタが痛々しくてね…。手を離せよナチュラル。俺はお偉いサンのタッド・エルスマンの息子だぞ?」
 「私に…どうしろと言うのだ…ディアッカ…」
 「奴ら、いや、ヤザンのオッサンはアルテミスに向かう。それを追って欲しい」

 手を話したクルーゼを尻目に、ディアッカは襟を正しながら目を閉じ、重々しく続ける。まるでどちらが
隊長か解らなくなる位の堂々っぷりだった。ディアッカ・エルスマンは狡猾で残忍だった。好き放題を
やるため、目立たないように、わざわざ士官学校でも成績を抑えて卒業した位に狡猾だ。クルーゼ隊に
配属された以外の同窓生は誰もが知っていた。士官学校の『本当の首席』は誰なのかを。

 「地球連合でもアルテミスはユーラシア連邦の管轄だ。地球連邦の公用周波数でもイザークが流した
 のと同じ情報を拾ったが、コイツは主に友軍の拿捕を避けるためと、俺達を信じさせるためのモンだろ。
 俺達ZAFTがハト派のクライン派と、アンタの擦り寄るタカ派のザラ派に分かれてる様に、向こうサンも
 一枚岩じゃ無いってことさ」
 「君は…何者だ?」
 「さあてね? あんな坊ちゃん坊ちゃんどもとは一線を画す存在だろうさ。あ、イザークのオフクロさんには
  俺から連絡して置いたからな? ユニウス7慰問団のラクス・クライン嬢のシルバーウィンドに同乗して
  大至急向かうとよ。歓迎準備、頼むぜ隊長さん? …もう俺は眠らせて貰う。じゃあな、ウラナリ坊や」

 ひらひらと片手を振って遠ざかるディアッカの背中を、クルーゼは怖ろしい物を見た様な、震えの止まらぬ
様子で見送った。ディアッカが『エザリア・ジュール』に自分の正体を伝えたのではとの疑念に慄きながら。

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最終更新:2006年10月18日 18:34