「さてと…貴様等はコレを着ろ。連合軍の新兵用の軍服だ。上着は解り易くするために、男子は蒼系統、女子はピンク系統だ。言っとくが、どちらでも無い奴は軍には要らん」

 俺は先にシャワーを終え、二人のために軍服を需品部より調達…いや員数を付けて来た。簡単に言ってしまえば『泥棒』だ。軍の全ての物品は全て『建前上』品目・数量上、管理されている。しかしその埒外の物品と言う奴も少なからず存在する。それはどの部隊でも変わらない。『書類上、使用に耐えず廃棄処分』にして新品を処理して隠匿…など、複数の部署に顔が利けば、被服などのさほど費用のかからない物品は簡単に『ちょろまかせる』のだ。

 「下着のサイズもピッタリだろう? 俺の特技だ。女の奴も大方のは見繕えるがな? 」

 今回の俺の場合は…? 軍隊と言うものは、階級とハッタリと押しの強さで何とかなるものだ。 艦長の名を使って現物をせしめてから、需品係が払い出した事を報告し、事後承諾を得てから艦長に認可書類にサインして『頂く』事を依頼する。これでどこからも文句は出なく丸く収まる。

 「ほう…馬子にも衣装って奴だなヤマト? 凛々しいぞ。しかしイザークは…むう…前へ」
 「す、ストライクぅ! 右手に鋏と櫛、左手にバリカンを持って何をするつもりだ! 」
 「解かってるんだろうが? 答えは一つだ。連合の軍服にはそのオカッパは似合わん。斬る! 」 
 「貴様とて、リーゼントだろうに! …ほ、捕虜虐待反対! く、来るなぁぁぁぁ! 」

 耳のあたりの髪を押さえ逃亡を図るイザークの後襟を左手で捕まえ、そのまま吊り下げ思い切って鋏を入れた。大胆に切ったのでようやく耳が露出する。これで俺の爽やかな美声も耳に入るだろうさ!

 「は、母上にしか切って貰った事、無かったのにぃぃぃぃ…! 」
 「ほっ、そうかよ! ならば俺が始めてか! 済まんがまた、シャワーを浴びて貰わねばな? 」
 「よせ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ! 」
 「ヤマトォ! しっかり抑えてろ! バーバーヤザン、悪いモンじゃ無いぞぉ? 」

 このマザコン少年を乳離れさせるにはいい機会だろう。徹底的に俺は『やってやる』事にした。


 三十分後…耳の辺りをすッキリさせ、襟足を刈り上げて、前髪は軽く真ん中分けにしてウェーブを掛ける。銀髪の『大人っぽい』美少年の出来上がりだ。前のだとニッポンの民話の『キンタロウ』をどうしてもイメージしてしまうからなぁ? ヤマトは切った髪を処理する吸引機係だ。

 「男前になったじゃ無いか、イザーク。な? 」
 
 俺はイザークの首を抱き、笑ってやる。髪を切っている間、鏡の前で静かに涙をこぼしていたのは流石の俺でも罪悪感を『ほんの少し』覚えてしまった程だ。…だが、コイツには是が非でも、成長して欲しかった。俺が拾った餓鬼だからだ。先に拾った餓鬼ども共々面倒を見てやるのが、俺が大人として正しい道筋だろう。…だがここは『軍』なのだ。ZAFTのようなAMATEUR組織の意識では困る。

 「母上が見ても…俺だと判るのだろうか? ストライク…? ふごッ?! 」
 「ヤザン・ゲーブル大尉殿、だイザーク。ああヤマト、済まんな? 吸い取ってくれて」
 「ゲーブル大尉、大尉のこの腕だったら理髪店を開店できますよ」
 「昔は丸坊主…いやスキンヘッド専門だったんだがな? …時代の流れと言う奴だ。新兵はワガママばっかり垂れやがるがら、覚える羽目になっただけさ。感謝しろよ? イザーク? 」

 ハッハッハ! ブルってやがる! 丸坊主にされなかっただけマシだった、とようやく思い至ったのだ。馬鹿な奴だぜ! …だがそこら辺が、貴様の『カワイイ』所なんだがな? 思考の詰めがダダ甘い所がなぁ!

 「おう、そこに居たかヤザン? ちいと来てくれんか? 話が有るんだ」
 「親爺さん、どうしたんだ? 」
 「あの『ナハト』、どうも臭いんだ。…うちの坊主どもが気味悪がってる」
 「それはヤマトがコックピットで小便を漏らしたからだろう? 」
 「いいから来い! 話は見てからだ! 」

 ヤマトの顔が羞恥で真っ赤に染まる。…そのケのある奴なら即座に襲い掛かる事は間違い無しだ。何が一体臭いのか? 不思議に思う俺はこの時点ではまったく、『十六夜(イザヨイ)』ことナハトの抱える『秘密』には思い至る事など無かった。ましてやオーブの暗部を託された『望月(モチヅキ)』の持つ意味の事など。

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最終更新:2007年02月09日 00:04