「ハンッ、泣いて許しを請うのはお前の方だな? ヤマト2等兵。今…教育してやるよッ! 」

 俺は腹の底から生まれてきた可笑しみを噛み殺し、ナハトの回避行動をイメージした。奴の偽善の最たる『武器破壊』をやれない、いや、やる意思の無い事を確認出来ただけでも収穫は有った。何せ奴、ヤマト2等兵は動きの少ない胴体を狙って来たのだから。

 「来た来た…外すなよ…? 俺ならこのタイミングで…! 遅い!」

 ビームライフルを放つには、相手の機体と一瞬、空間軸を直線に結ばねばならない。その軸を何らかの方法で外してやれば、必ず当たるだろう射線が無情にも外れてしまう。『此処だ』と思う一瞬が、俺にはメビウスやGAT-Xのテストの経験で『解かる』のだ。

 「見え見えなんだよ! 」

 ストライクがビームライフルを構え『キメ』ポーズを取った瞬間、俺は即座にナハトをAMBACで下に向かせ、それから左に回転させる。ストライクに頭頂を向け、右に転回した様にヤマトの奴には見えた事だろう。ビームライフルの2射線が、メインカメラの視界を流れて行く。次の斉射が来ない。多分、驚愕しているのだろう。視界にストライクが映る。ナハトの姿勢をストライクと正対させ、俺は操縦桿のトリガーを引く。所持しては居ないがビームライフル用のものだ。エラー表示が律儀に出るがそんな事は承知の上だ。

 「バァン! 今のでお前は死んでるな? あれで俺を墜とせたと思うか?馬鹿だな?」
 『ク…! 』

 ストライクはビームライフルを手放し、ビームサーベルを発動させる。…馬鹿な餓鬼だ。自らの優位性(アドバンテージ)を自分で捨ててしまうとは! 挑発に弱いのは最近の餓鬼の風潮だろう。誉めそやされるのが当たり前で、自分が罵倒されるのには慣れていないのだ。そして、腕を振り回し、斬りかかって来る。ビームサーベルは脅威だ。ビームライフルと同じく、一撃必殺が期待出来る武器だが、その遣い手の技量がモロに反映されるのだ。



 「悪いがな…見え見えなんだよ! 」

 餓鬼の喧嘩の如く、ただ振り回すだけだ。俺は軌道を読み、雑作も無く回避する。…間合いも何も有ったモンじゃ無い。ちっぽけなプライドを軽く傷つけられたからと言っても、ここまでストライクに見っとも無い攻撃をされると興醒めだ。

 「この、馬鹿が! 」
 『アッー! 』

 ビームサーベルの軌道を読み、空を切らせたストライクの側頭部に俺は『蹴り』を放った。モロにヒットして、ストライクは彼方に流れて行く。俺は余裕を持ってナハトに漂うビームライフルを掴ませ、ストライクを狙う。そしてロックオンマーカー固定。

 「バァン! コレで2回目。塵に為った気分はどうだ? ヤマト2等兵?」

 蹴りを食らった振動に、驚いているのだろう。衝撃やダメージはPS装甲で減殺されているとは言え、コックピットにもその振動は来る。…チェックボックスを確認して真っ蒼に為っているに違いない。

 「仕様の変更は悪いが今更効かんぞ? ヤマト2等兵? 俺を倒さんとな? …やるよ。遠慮は要らん。サービスだ。取って置け。そらよ! 近接戦闘じゃあ貴様には無理だ」

 俺はナハトのマニピュレーターからビームライフルを離させ、ストライクに流してやる。ストライクは掴み、即座に撃つ。いいぞいいぞ! PS装甲が展開出来なくなるなんて、一つも考えて無いだろう! そら来たぁ! ストライクがグレイに染まった時、それからが俺の戦闘教育の本番なのだ。『メメント・モリ』だ。意味は、死を忘れるな、だ。

 「いいぞいいぞ、その調子で撃って来い! ほらほらどうした、俺はここだぞ! 」
 『う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 』

 こんな出鱈目な乱射は、回避行動を最小限にしてもOKだ。推進剤が勿体無い。ANBACで充分に行ける。やれやれ、コレくらいで恐慌状態来たすなよ? 実戦を経験したくせに、情けない!
 シミュレーターで悪いが…死の恐怖と言う奴を教えてやるよ、キラ・ヤマト。じわじわと、嬲り殺しにされる恐怖をな? 武器を奪われ、何も出来ずに死んでいったジン10機分の恐怖を、知れよ!

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最終更新:2006年12月31日 09:21