「私個人の考えはね、こんな要塞など陥落しようとどうなろうと構わん。…だが、それを私の責任にされては困る」
 「ZAFTの襲撃を待っているという事か? しかし”アルテミスの傘”がある。そいつを展開している限り無敵だろう?」
 「ZAFTに奪われた君達のG兵器ならば可能だ。ああ、スニーキングミッションに特化したブリッツと言う機体なら、ね」

 喰えないハゲ狸め…。これだからオーブと組むのは嫌なのだ。どうしてもオーブと言うは過去の日本国時代の頃から
防諜が下手な国家だ。貿易で喰っている国だから有る程度の融通は効かさなければならんのは解るが、機密情報が
ダダ漏れと言うのは頂けない。この分ではオーブ側が独自開発した機体の本体まで流れているのでは無かろうか、と
他国の事ながら要らぬ心配までしてしまう。勿論わざとリークした可能性だってある事ぐらいは弁(わきま)えている。

 「それで襲撃の餌にするために我々の入港を許可した」
 「艦の補給は実施させる。その後で我々、アルテミス駐留軍ことユーラシア連邦軍は『一時』退去する」
 「ブリッツが来襲する要塞に残れ、と? どうせ退去した後、頃合を見計らって要塞を自爆させる気だろうが」
 「仮にも要塞内には君達が残っている。そんな事は出来んよ」

 いや、絶対にやる。タイマーか任意かは問題では無い。この『小悪党』は恐らく己の立身出世と保身のためなら顔色の
一つも変えずにやってのけるだろう。本当に喰えない奴だ。上層部を脅迫した時点で命の危険すらあったのにこの余裕だ。
肝が太い。こいつとの腹の探り合いは楽しいが、俺が拘束されたままでアークエンジェルがZAFTの襲撃を受けては困る。
…そろそろ交換条件でこちらの持つ切り札を出すには良い頃合だろう。

 「このディスクには、全てのG兵器の元となったブリッツの諸元、設計図、OSが入っている。OSはヨチヨチ歩きしか出来ん
 オーブ製のものや、大西洋連邦のナチュラル用OSでは無い。G兵器のシューフィッターである俺と、熟練したスタッフが
 バトルプルーヴンした折紙付きの奴だ。これを渡すから、要塞の自爆だけは避けて欲しい」

 大嘘だ。キラ・ヤマト2等兵が単独で調整し直したOS、『G.U.N,D.A.M』だ。しかし俺の経歴を知っている奴なら、不本意だが
俺の名を付ければ信用度と説得力が上がる。あとはこれに欲も深けりゃ狡賢いガルシア閣下が喰いついてくるかどうか、だ。


なんとガルシア『閣下』は警備兵に歩み寄り、いきなり頬を張った。…そりゃそうだわな。演習で痛い目を見ているから尚更だ。

 「ボディチェックもせずにこの男を私の前に通しただと?! 恥を知れ! もしこの男に害意が有ったならば、貴様等も私も
 とうに死んでいる所だ! この男は対テロ部隊のTITAnsなのだぞ! それはテロの遣り方を熟知しているという事だ!」
 
 だから当然、ブーツナイフもアンクルホルスターにある拳銃もばれていない。服の上から探知機を適当に当ててハイ終了。
実は念には念を入れた自分が恥ずかしかったりする。茹でダコになった『閣下』は頬を張った帰りの足で俺の手からディスクを
受け取り、俺からパスワードを聞いて端末に挿入し中身を閲覧する。深く頷きながら一瞬だけ満足そうに頬を緩める。

 「…この内容ではコーディネーターか、身体能力や反射神経が余程優れたナチュラルしかG兵器を動かせないようだ。
 だが、これを元に我が国でブラッシュアップすれば、特技を持たぬただのナチュラルでもさほど時間を掛けずにMSが
 運用可能となるだろう。『ゲーブル君』、君の誠意はよく解った。約束しよう。自爆はさせん」

 親愛を込めた『ゲーブル君』と来たもんだ。これを本国に持って帰るだけで将官どころか花形のMS部門責任者の椅子すら
簡単に手に入るほど貴重な情報だ。当然出所がバレるような証拠は残したく無いだろう。で、この閣下は腹の底まで真っ黒け。
信用なんぞハナからしないが、これで俺の『本当の目的』は完全に果たせた。『閣下』はこと生き残る事にかけては天性の運を
持っている。このOSが東アジア共和国やスカンジナビア共和国に拡散するのも時間の問題だ。

 「『閣下』、これは俺の独言だ。要塞に保護を求めた中立国の艦船で、その後行方不明になったモノが多数あると聞く。大方は
 ZAFTのの仕業だろうとは思うが、それにしては積荷のコンテナの残骸が少ないし、乗員の生き残りもいない。不思議な事です」
 「コーディネーターはナチュラルの捕虜は取らない。それが戦場の常識だろう? 『ゲーブル君』? …まあ幸いにも我が要塞に
 『流れ着いた』物資も無くは無い。…君にその保管区間の立入許可を与えよう。使えるモノがもしあったなら、好きにするといい」

 …どう言う事か? 今の会話だけではサッパリだろう。ブラックマーケットの中でも上得意様だけが知る情報と云う物が中にはある。
どう考えても民間に出回る筈の無いシロモノ、軍用品、最新開発品の出所とか、な? 特に開発なんぞに携わると、部品調達の際に
利用する場合だってある。何が言いたいかって? 地球軍が海賊行為を働いているなんて、漏れなければ事実では無いって事さ!

 「有難うございます、『ガルシア司令』。では、これで小官はアークエンジェルに戻らせて頂いても宜しいですな? 」
 「ああ、構わんよ。警備兵、くれぐれも『丁重』に『ゲーブル君』をお送りしろ」

 要塞の他の区画に入れるなよ、とのニュアンスを強く込めた『ガルシア閣下』の物言いに苦笑いを殺すのには、正直骨が折れた。
さあて、帰ったら新兵ご一行サマをを引き連れてお宝探しだ! …出来ればオーブ製のコンテナが多数ある事を祈るぜ、 『閣下』!

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最終更新:2007年08月15日 12:20