『船籍登録、識別コードを確認。強襲機動特装艦・アークエンジェル級一番艦、アークエンジェルの
アルテミス入港を許可する。…可及的速やかに臨検官の船へのロックオンを解除して頂きたい』
「…断れ。人質だ。敵襲にかこつけて捕獲される恐れがある。いいか、絶対に奴らを中に入れるな」
「そこまでやること無いんじゃない、アニキ? 解放した方が補給がスムーズになるんじゃないの? 」
ドッグへと入港し、アルテミスの奴等は艦を固定した。流石に重火器を持った奴等は居ないが、小銃を
持ったノーマルスーツ姿の兵士が五月蠅く漂っている。イーゲルシュテルンの砲台がそいつらを自動で
ロックするのでブンブン首を振っている。俺はブリッジに戻り、ムウとマリューとナタルで今後の方針に
ついて打ち合わせを行っていた。艦から指揮系統を奪われる恐れがある事から、士官は残らなければ
ならない。しかし、基地司令と談判しなければならんのもこれまた、士官の仕事だ。忙しいんだよ、中々。
「私が行きます」
「艦長自身がノコノコ行って拘禁されたらこの艦はどうなる? 兵はどうする? 誰が指揮を執る? 」
「その事ならばゲーブル大尉がいらっしゃいます。ラミアス艦長は後顧の憂い無く、どうぞ退艦下さい」
「…バジルール少尉ッ! 貴女はッ! 」
「今、御自分で行くと仰られたのでは無かったのですか? ラミアス『艦長』? 」
「うわイヤミだねぇ、バジルール少尉…。どうする? 最終的な決定権はアニキにあるんだけど」
ムウの唇にへばり付いた笑みが消えた。俺の決定は無視で、コイツは惚れた女の側に行くに違いない。
となると…。俺はバジルール少尉を見る。少尉は艦の戦闘指揮やCICのまとめ役に必要だ。決まった、な。
「俺が行こう。ジェラード・ガルシア少将にはちょっとした因縁があってな。…苦手なんだが仕方が無い。
その代わりと言っちゃあ難だが、ムウ、バジルール少尉、艦長。絶対に奴等を艦の中に入れないでくれ」
「りょーかいアニキ、責任持って面倒見るよ。後は…万が一アニキが拘禁されても置いていけ、だろ? 」
「そうだ。あと、艦のメインCOMPにアクセス許可とデータコピー許可が欲しい。…対価が必要なんだ」
「対、価…? 」
眉根を寄せるムウとナタルの背後で、技術職のラミアス艦長がハッとした顔付きをする。そうだ。資材や
研究結果はタダで得られる機会は皆無に等しい。スムーズに進めるためには有る程度の『旨味』が相手に
必要なのだ。『無理を聞いてやるからその代わり後で…』と言う奴だ。人間は理想のためだけに生きる生物
では無い。…哀しいが、それが真実だ。
「許可します。…GAT-X102、デュエル設計資料と改変OSデータがあれば相手は満足してくれるでしょう」
「…助かる。もう向こうも持ってるかも知れんが、こちらには実機がある。悪くすれば譲渡せねばならんかもな」
実機を渡すのは最悪の事態に為った時だけだ。つまりは間抜けにも艦に侵入され、クルーを人質に取られた
場合の交換条件として使う。そのためにムウの奴はOSロックなんぞ言い出したのだ。さあて、期待してるぜ、
アークエンジェル士官三人衆! 立派に艦を守っていてくれよ? 俺はあの忌々しいハゲと戦ってくるぜ!
最終更新:2007年08月15日 12:13