「接近戦特化のブリッツとデュエルなのが幸いだったな…それにしても…やるな! 」
背後から狙撃を繰り返す、ディアッカとか言う餓鬼の腕の事だ。かなり射撃には自信があるのだろう。…コイツがAAを狙っていたら、AAはものの3分で撃沈されていただろう。
「ヘルダートにイーゲルシュテルンで弾幕張りか! 基本は出来ているようだな、ナタル! 」
《大尉! 接近は危険です! オペレーターの練度が低く、ほぼ自動モードで対応を…》
…オイオイ…動く物全てにロックオンか! …ムウ坊はどうしたんだ? 味方に堕とされては洒落には為らんのだぞ? 公試クルーがCIC要員に残って居なかったのか? あれは…ゼロ!ムウ坊、生きていたか!
《ウッヒョォォォォ! 刺激的ィ! 》
「ムウ坊! お前…無茶し過ぎだろうが! 」
《トノムラ君、しっかり誘導してくれよ! 》
俺が見た光景は、数発のヘルダートに追われるメビウス・ゼロだった。敵MSにロックオンを出来ないのなら、自分に誘導をかけて、接近後に対象を切り替えれば良い。ムウ坊は自ら、『マーカー』役を買って出たのだった。…一歩間違えれば自分が撃墜される、綱渡り的行為だ。
《トノムラ君、俺の6時方向! 真上! 》
《わ、わかってます! ジン03…ロックオン! フラガ大尉、撃墜出来ました! 》
《よおぉぉし! その意気その意気! ストライクのアニィが来るまで頑張れ! 》
「…待たせたな、『フラガ大尉』」
もう、あの情けない弱虫のムウ坊では無く、一人前のパイロットとして俺は扱わねばならんだろう。
《来たな! ストライクゥゥゥゥ! 》
《馬鹿! イザーク! そのオッサンはさっきのストライクの中身と別格なんだぞ! 》
《五月蠅いディアッカ! ナチュラル如きにこの俺が負けると思うのか! 喰らえ!》
…デュエルのこれまた餓鬼パイロットが馬鹿の見本の如く、俺にビームサーベルを抜いて突撃を開始する。欠伸が出るほど遅く、そして読める動きだ。…折角のデュエルの格闘性能が勿体無い!
「まずはデュエルを返して貰うぞ、思い上がったZAFTの悪餓鬼! 」
《な…何ィ! は、放せ! ナ、ナチュラルがこんな動きが出来るだと?! 嘘だ! 》
突き入れて来たビームサーベルを持った腕を取り、腕間節を固め、そのままAAの上部甲板までデュエルの機体を盾にして俺は突っ込む。イーゲルシュテルンやヘルダートが当たる当たる!
《う、うわぁぁぁぁぁぁ! は、母上ぇぇぇぇ! 》
「まだママのオッパイが恋しいお年頃かぁ! 情けない! 戦場を、俺を舐めるからだ! 」
デュエルがフェイズシフトダウンしたちょうどその時に、ストライクとデュエルはAAへと降り立った。衝突する寸前に俺が推力とAMBACで慣性を殺さなければ、デュエルは間違い無くお釈迦になっていた。
「ZAFTに告ぐ! パイロットを殺されたく無かったら、即時撤退しろ! 繰り返す! 即時撤退しろ!」
《何を言っている! そんな要求が聞けるか! 》
《イザークを見捨てるんですかアスラン!? そんなのアスランらしくありませんよ…》
《オッサン…ちゃんと約束守らないと撃っちまうからな? イザーク…これで貸し一つだからな?》
…まあマトモな軍事組織ならこんな脅しは無視するが…オイオイ…ホントZAFTってのは仲良し倶楽部なんだな? 残りのジンも撤退して行くぞ…? 呆れて言葉が出ん…戦争やってるんじゃ無かったのか?
《は、母上ェ…ううッ…うう…》
「泣くなマザコン! 階級と姓名は! っと…階級…は無いか。姓名は! …応答しろこの餓鬼! 」
俺が怒鳴っても、ママを恋しがる泣き声はまだ、ストライク・ガンダムのコックピットの中に響いていた。
アークエンジェルの格納庫に帰還した俺は、迷わずデュエルのコックピットハッチの強制解放コードを入力し、泣きじゃくる餓鬼を引き摺り出した。武器も持っていると言うのに抵抗すらしないのだ。拍子抜けもいい所だった。赤いノーマルスーツはエースの徴(しるし)だ、と脱走者から聞いていたのだが…。
「キリキリ歩けよ、餓鬼! 」
「う、うるさいナチュ…ぎゃあああああ! 」
「餓鬼を作れなくするぞ小僧? 口の訊き方をママに習わなかったのか? あ、母上、か? 」
で、俺はコイツをブリッジまで連行する所だ。正気に戻すために頬を平手で一発殴ったら、派出に3mも吹き飛んでくれた。新兵どもはそれを見て、一気に震え上がってしまった。コレくらいで怖気づくのでは、話にならん。軍隊と言う集団は、理由も無く殴られても文句は言えない所なのだ。右頬が腫れている以外はすっきりとした顔をしているコイツに、俺は睾丸を握ったままで、意地悪く話しかける。
「イザーク・ジュール君? 案外素直に名乗ってくれたモンだ。手加減した心算だが、痛かったか? 」
「誰がナチュ…ぐわああああああ! 」
「で、コレは痛い、と。ナチュラルの打撃など痛いものか! と見栄ぐらい張れよ。軍人だろう? 」
キンタ○を握り締められたコイツは涙の滲んだ目で睨もうとするが、俺の睨みで黙る。格が違うんだよ!
イザーク・ジュール。デュエルをかっぱらった餓鬼の名前だ。ジュール。何処かで聞いている名だった。ZAFTの評議会に確かそんなファミリーネーム持った奴が…そうか! エザリア、エザリア・ジュール!
「ママはエザリアって名前か? 坊や? 」
表情に出るのがまだ、餓鬼の証拠だった。エザリア・ジュール。確か情報では強硬派の議員の筈だ。息子を軍人でエリートにしようとしたのだろうが、息子はこの通り、ママのおっぱいが恋しい性質だ。
「コイツはいい。ジョーカーを一枚手に入れたって奴だな。この勝負、面白く為って来たぞ」
「大尉! 捕虜虐待は許可した覚えは私には有りません!」
「大尉! 捕虜虐待はお止めください! 軍の恥です! 」
ブリッジに出ると、異口同音の女の声が俺を向かえてくれた。違うのは個人的感情か組織的思考かの違いだ。当然、前者は無視して後者に応える。ナタル・バジルール、理想と現実は懸け離れてるのさ…。
「…ZAFTはナチュラルの捕虜なんぞ普通は取らん。何せ死んだナチュラルだけが良いナチュラル、だ。こっちが人道を守っても向こうが無視する。生かされてるだけでもコイツは感謝すべきなんだよ、少尉」
「捕虜は独房に入れろと『お願い』したはずですが、ヤザン・ゲーブル大尉」
「『艦長』直々に尋問して頂きたいと思いましてねぇ? 子供にはその大きな胸が効果的でしょうな」
チャンドラジュニアやアーノルド、トノムラの顔が噴き出しそうに引きつる。俺の『艦長』に込めた皮肉や嫌味を感じ取っての事だろう。無能な奴の命令を聞いていたら自分が死ぬ。無能な奴を育てる時間が有れば良いが、その時間は余りにも少ない。俺は本題に入る事にした。
「コイツはZAFTのお偉いサンの息子だ。巧くやれば交換条件を引き出せる。アンタに出来るか? 『艦長』? 」
最終更新:2006年12月08日 18:53