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パートIII 10 留学生を増やす

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田母神俊雄 平成16年7月 ,9月
航空自衛隊を元気にする10の提言 パートIII

10 留学生を増やす


 自衛隊の海外における活動がごく当たり前のようになって来た。今後も任務や活動範囲はどんどん広がっていくであろう。十数年前までは1千マイルのシーレーン防衛とか言っていたが、今では1千マイルどころか、遙かインド洋やイラクまで陸海空自衛隊の部隊が展開している。もはや自衛隊は、世界中のどこへでも展開の可能性があると考えておいた方がよい。海外における活動が増加すれば、当然外国の軍と共同で各種任務や行動を実施することが多くなり、その準備等に当たっても、各国の軍の便宜供与を受けたりすることが増えてくる。

 また今のところ我が国政府は、集団的自衛権は行使できないとしているが、有事法制をめぐるこの数年間の我が国政治の動き、また憲法改正の動きなどを考慮すれば、次の10年の間には、それも行使できるようになる可能性は極めて高いと考えられる。そうなると国際的なテロ対処などで、諸外国の軍との共同作戦を行い、自衛隊がリーダーシップをとるような場面も十分に考えられる。さらにはテロ対処に当たっては国際的な情報協力態勢が大切であり、C4Iネットワークなどハードウェアの整備とともに、直接人から人を通じて情報をとる、いわゆるヒューミントの態勢強化が不可欠である。このようなことから自衛隊は、多くの国に知り合いというか友人を持つことが必要になってくる。

 いま自衛隊のインド洋やイラク派遣を通じて日米同盟関係はかつてないほどに緊密な関係になっている。日米の制服間の信頼関係を強化することはもっとも大切なことであるが、今後の国際関係を考えれば、日米関係を基本として、その他の国との間でも制服相互の信頼関係を構築することが必要である。スタッフトークスなどでいろんな国との交流が始まっているが、2~3日のスタッフトークスではお互いにその人となりを理解しあえるところまでいくことは難しい。最も良い方法は、統幕学校や陸海空の幹部学校に多くの留学生を迎えることではないだろうか。いま各学校に1~2名が入校しているが、私は学生の3分の1ぐらいは留学生にするぐらいでよいのではないかと思っている。もちろんカリキュラムの変更、宿舎の準備等留学生の受け入れ態勢を強化することは必要であるが、莫大な経費を必要とするものではない。

 学生で1年間一緒に学ぶということは真の友人になるのには極めて良い方法である。私は防衛研究所の38期一般課程の卒業生であるが、米軍、オーストラリア軍、米国務省などの留学生とは今も気のおけない関係が続いている。言葉の問題があり、彼らが講義の内容などをどれほど理解しているかは問題であるが、それにも拘らず日本人と同じような感じで「そんなことはないだろう」などと言える関係なのだ。いわゆる無理を言い合える関係が出来あがった訳であり、そのためには共に学生生活を送ることがもっとも良いのではないかと思う。仕事上で米軍の人たちと友達になるが、学生で共に過ごした人たちと同じほどの関係にはなかなかなれない。防衛研究所に限らず、陸海空の幹部学校などで留学生と一緒に勉強した人たちは、やはり同じような感じを持っているのではないかと思う。ともに学生であれば個人的な関係が出来上がるが、仕事を通じた関係のみでは、公式な関係であり、ややバリアがあるような気がしている。

 自衛隊が留学生を受け入れれば、相互主義に基づいて、自衛隊からも受入国の国防大学等に対し留学生を送ればよい。これを毎年続けることによってそれぞれの国との間に複数の太いパイプが出来上がる。従来の積み上げ式の予算編成では、一気にそんなことは出来ないという意見が出て来そうであるが、国の政策としてこれを進めてはどうかと思っている。幹部学校等における教育が、純粋に教育効果のみを追求するのではなく、関係諸国間の軍人の相互理解のため、そして信頼醸成のためにも十分な役割を果たすことができると思う。文藝春秋5月号に、イラク派遣部隊指揮官である陸上自衛隊の番匠1佐が、現在イラクにおいて各国から派遣されている指揮官のうち数人が、米国留学時のクラスメートであり、大変心強く思っていると書いていた。米軍の学校が提供してきたと同じように、これからは自衛隊の幹部学校等も国際交流推進の場として使われていいと思う。

 昨年イギリスの国防大学の学生約10余名が我が国を訪問した。引率教官の話によると学生総数70名のうち43名が海外からの留学生であるといっていた。これらの学生が7個グループに分かれて世界各国を約1カ月かけて研修する。日本を訪問したグループは、日本、韓国、ベトナム及びタイをそれぞれ1週間ずつ訪問するということであった。わが国の統幕学校などとはスケールが違うということを認識させられたが、今後は自衛隊の幹部学校等における教育も、わが国の国力に相応しい国際スタンダードに添うような形に修正していったらよいと思う。効率化、合理化とか必要性の議論をすると現状維持が精一杯になってしまうが、今後は自衛隊も政策的な判断をもっと強く打ち出していくことが大切ではないだろうか。自衛官が今後国際舞台で行動することは増えてくると思う。いま3自衛隊の統合運用が進められているが、やがて統合運用に伴う学校教育のあり方も、更に具体論に踏み込むことになる。その時に学校教育の国際化についても議論したらいいと思う。経費もさほど必要とせず、決心さえあればすぐにできる留学生受け入れ、そしてわが国からの留学生の派遣を今後早急に拡大していけばよいのではないか。


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