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『週刊新潮』4月23日号 全文

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『週刊新潮』4月23日号 全文」



[特集]歴史歪曲と「台湾人」も激怒したNHK「超偏向」番組


性懲りもなく、というべきか。史実を枉げ、日本の台湾統治を徹底的に貶めたNHKドキュメンタリーの「超偏向」ぶりに抗議が殺到している。日本の視聴者ばかりか出演した台湾人も激怒するこの番組。中国、台湾との外交関係にも影を落としそうなのだ。

「“偏向報道”の一語に尽きます。“日本は加害者”という自虐史観ありきで、そこから一歩も出ていない」台湾出身の評論家、金美齢氏も、そう憤るのだ。 4月5日に放送されたNHKスペシャルの「超偏向」ぶりに、識者や関係者、そして一般視聴者から怒涛の批判が沸き起こっている。

横浜開港で日本が世界にデビューしてからの150年間を辿る「シリーズ・JAPANデビュー」。その第1回放送『アジアの“一等国”』のテーマは、50年に及んだ日本の「台湾統治」だった。明治28年、日清戦争に勝利した日本は、台湾を割譲された。この番組によれば、植民地を持つことで世界の“一等国”入りを目指した日本は、抵抗勢力を武力で押さえつけ、台湾の先住民族を博覧会に“展示”して統治の成功を世界に示し、さらに「格差と同化」という矛盾する統治で「差別」を生みながら、「改姓名」などの皇民化運動で台湾人から民族性を奪っていった・・・・・・この番組は、日本の台湾統治の“極悪非道”ぶりを徹底的に描き出すのだ。

「番組全体が“捏造”とまでは言わないにせよ、ひどい歪曲の連続でした」

台湾研究フォーラム会長の永山英樹氏が呆れて言う。

「たとえば、番組冒頭で“日本の台湾統治を象徴する”ものとして紹介された1枚の写真には“人間動物園”なる刺激的なタイトルが付けられている。そして、台湾の先住民族パイワン族を、日本政府は1910年にロンドンで開かれた日英博覧会に連れて行き“見世物として展示した”と解説されるのです。確かに当時の西欧には、植民地化した土地の未開人を見せて金を取る人間動物園と言う見世物があった。しかし、この時にパイワン族が披露したのは伝統的な踊りや模擬戦闘。歌舞伎や相撲の海外興行と同じで、誇りを持って自分たちの技を披露しているのです。同じ博覧会の写真でインドの人々は半裸ですが、パイワン族がちゃんと民族衣装を着けていることからも扱いの違いが窺える。NHKは“展示された青年”の遺族に“悲しいね、この出来事の重さ、語りきれない”と言わせていますが、 写真だけ見せられて、“あなたのお父さんはロンドンで動物のような扱いを受けた”と言われたら、誰だって悲しくなるでしょう」

櫻井よしこ氏も言う。

「この番組では、強烈なイメージを呼び起こす“人間動物園”という言葉を、当時の日本政府が使った言葉と錯覚するように使っている。全編がそうした“歪曲報道”の連続なのです」

さらに、番組では、<台湾人を強制的に日本人へと変える政策>の一環として、<同じ時期、朝鮮半島では新たに氏を創る「創氏改名」が行われ、台湾では「改姓名」が始まりました>と解説しているが・・・・・・。

「ここにも大きな誤りがあります。半ば強制だった朝鮮の創氏改名と、許可制だった台湾の改姓名は全く別物。日本語常用家庭に育ったことなどの条件を満たした上で、総督府の審査に通らなければ改姓名はできなかった。その証拠に、昭和18年の時点で朝鮮では人口の80%以上が創氏改名を済ませていましたが、台湾で改姓名をしたのは1・6%に過ぎません。この数字を見れば強制でなかったことは一目瞭然です(同前

日本統治の“過酷さ”を強調するナレーションは、さらにヒートアップする。

<皇民化政策は、台湾人の心の中にまで踏み込んでゆきます。台湾全島に日本の神社を次々に建て、人々に参拝を強制します。そして、台湾人が拠り所にしてきた宗教への弾圧が始まります。道教寺院や廟の参拝を制限。建物の取り壊しも始めます>。そして現在、廟を管理する80歳男性の少年時代の記憶として、<1938年、地域の寺院や廟に祀られていた神々の像が集められ、すべて焼かれました><「(神像の提出に)従わない者は29日間も刑務所に入れられるのですよ」>。そんな“弾圧”ぶりが紹介される。

「確かに、一部の地方官吏によって半ば強制的に行われた例もあったかもしれませんが、台湾総督府がこのような“寺廟整理”を行ったのには理由があり、しかもそれは強制ではありませんでした。そもそも、寺廟整理は、迷信の打破・物資の節約・火災の危険予防など台湾の近代化、文明化に必要だとして、台湾の有識者らの賛同も得て行われたこと。それを単純に“宗教弾圧”とするNHKの見方は乱暴だし、公正さを欠くものです」(永山氏)

番組は、教育勅語を得意げに暗誦してみせる台湾人男性の姿なども紹介しながら、やはり最後はこう締めくくるのだ。

<親日的とも言われる台湾に、今も残る日本統治の深い傷。これは今後アジアの中で生きていく日本が分かち合わなければいけない現実です>。ここまで“日本統治=悪”“日本人=加害者”の意識を貫けば、むしろ、ご立派と言うしかない。

■無視されたトオサンの声

そうした「歪曲」以上に問題になっているのが、台湾の人々の証言が、編集の名のもとに恣意的に“操作”され、日本を貶める論調に利用されたことだった。

「この番組は、NHKワールドプレミアムという有料チャンネルで日本と同時に見ることができたのですが、その内容には驚きました」

そう言うのは、日本統治時代に日本人として教育を受けた日本語族台湾人、いわゆる「トオサン(多桑)」の一人として今回の番組に度々登場する、柯徳三さん(87)である。番組では狭き門を潜り抜けてエリート校・台北第一中学校に入学した台湾人生徒について<しかし日本人が大多数を占める中で、より多くの偏見や差別に苦しめられることになります>とするナレーションに、柯さんのこんな発言が続く。<「台湾の、あの豚の角煮ね、ローバーだな、ああいうものを弁当に持っていくでしょ、そうすると笑われるんだ。特に豚のしっぽなんか持って行ったら笑われる。『あれなんだ、豚のしっぽだ。台湾人は豚のしっぽ食うのか』と、わいわい騒ぎたてる」>

柯さんの苦言は続く。

<「私のいとこのお姉さんが、日本人の嫁になって日本へ行ったけれどね、戸籍が入らん。あれが差別。こういうのが差別でしょう」><頭のコンピューターが、すでに日本語化されてしまってるから。あの二十何年間の教育というのはね、実に恐ろしいね。頭が全部ブレーンウォッシュ(洗脳)されてるからね」>

こうした証言だけ聞くと、柯さんは筋金入りの反日家のように聞こえるが、ご本人はこう憤るのである。

「私がNHKの取材で強調したのは、日本による台湾統治はプラスが50%、マイナスが50%、確かに差別も受けたが日本は台湾に多くのものを遺してくれた、ということ。日本の教育を受けなければ今の私もなかった。日本は私にとって“おっかさん”のようなものです。それが、私が一番伝えたい部分でした。

だが、そうした発言は悉くカットされた。取材の際にスタッフからは“都合の悪いことは言わなくていい”と言われていた。私は“都合の悪いこと”とは日本批判かと思い、“なんでも正直に話すつもりですが、聞こえが悪いところがあったらどんどん削ってよ”と言いました。それは、日本人を不快にする悪口があれば削ってくれ、という意味です。ところが放送を観たら、逆に悪口ばかりが使われているので、大変驚きました」
05年に東京で出版した著作『母国は日本、祖国は台湾』でも、柯さんは日本人への感謝の気持ちを含め、日本統治の功と罪をきちんと振り返っている。

トオサンたちの日本統治時代への思いを取材した平野久美子氏のノンフィクション『トオサンの桜』には、110人に尋ねたアンケートの結果が掲載されているが、たとえば<今までの人生で最も愛着を覚えるのはどの時代ですか?>という問いに対する回答のトップは「日本統治時代」だった。 番組では、柯さん以外にも何人かが日本に対する恨み節を口にしたが、

「彼らが恨んでいるのは、戦後の日本に対してです。日本が戦争に負け、サンフランシスコ講和条約で台湾の領有を放棄したこと、つまり日本に捨てられたことが彼らのトラウマになってるんです。NHKはこうしたファクトには全く触れずに番組を作っている。ドキュメンタリーとしては完全に失格です」(平野氏)

さんはこうも心配する。

「今、台湾は中共に飲み込まれるかどうか、という危うい状況です。 日本の統治時代を知る70台以上の年配者は、今こそ日本に手を差し伸べてもらい助けて欲しいと願っている。その状況で、台湾が反日であるかのような誤った情報が強調されれば、二国間の関係に水を差すことになる。NHKがこんな番組を作った背後には、日台の関係を引き裂こうとする中共の意向があるのではないのか、と邪推してしまいます。」

■「後藤新平」評価のウソ

かくも偏向した内容に、日台の視聴者はすぐに声を上げた。日台友好に尽力する「日本李登輝友の会」の柚原正敬・事務局長の話。「放送の翌日以降、番組に対する怒りの声が数十件、友の会に寄せられました。台湾の若い世代の間でも、“僕のおじいちゃんは日本大好きなのに、あの番組は変だよ”といった疑問の声があがっているそうです。そこで、4月9日には小田村四郎会長と5人の副会長の連名で、NHK会長宛の抗議声明を手渡しました」

柚原氏も、あの番組にはおかしなところがいくつもある、と指摘する。

「たとえば、総督府の民政局長を務めた後藤新平について、当時の主要産物だった樟脳で儲けようとキールンの港や縦断鉄道を整備したように描いている。しかし、李登輝総統時代に台湾の歴史の副読本に採用された『認識台湾』という本には、後藤が台湾の米作りやサトウキビ栽培を何十倍にも拡大した功績がきちんと記されています。

メルマガ『台湾の声』編集長の林健良氏も、「前日4日に放送された同シリーズのプロローグ編『戦争と平和の150年』も観ましたが、“左巻き”の歴史学者たちの宣伝みたいな番組でした。だから、翌日、台湾が取り上げられると聞いて嫌な予感はしていたのですが・・・・・・私の知り合いの台湾人はみな口を揃えて“今回の番組はウソだ”と怒っていますよ。NHKは、06年に中国が青海省からチベットまでの鉄道を開通させた時にも、わざわざ2回も特番を組んで礼賛していた。私に言わせれば鉄道はチベット統治を強化するためのものでしかありません。日本の植民地支配をここまで批判しながら、中国で現在進行中の少数民族弾圧などを全く批判しないのも、おかしいでしょう。NHKは中国に阿っているといわれても仕方ない」

■勉強不足か確信犯か

そんな数々の怒りの声に、NHKは何と答えるのか?

「この番組は公共放送としての使命にのっとり、国内外で取材を尽くして制作・放送したものであり、『反日・自虐史観を前提にした偏向報道である』とは全く考えていません。歴史的な事実を共有することで、日本と台湾、また日本とアジアとの真の絆、未来へのヒントを見出そうとしたものです」(NHK広報局

台湾の人々、そして日本の視聴者を愚弄したことへの反省は、微塵も感じられないのだ。先に紹介した柯さんや平野さんの著作を知っていたのかという質問にも回答はなし。知らなかったのなら信じがたい勉強不足だし、まして、知っていて無視したのなら、まさに「超偏向」番組の謗りは免れまい。さらに、こんな批判も。

「NHKのドキュメンタリーの作り方は、『プロジェクトX』が“成功”を収めた頃から変わってきた。わかりやすさを優先し、本来は複雑な世の中を白黒の2つに単純化することでドラマティックな物語を生んだが、同時に不都合な事実には敢えて触れないという不実さも生まれたのです」と指摘するのは東京工科大学教授(メディア論)の碓井広義氏である。「しかし、以前に比べれば、現在の視聴者のメディア・リテラシー(メディアの情報を鵜呑みにせず批評的に解読する力)は高まってきています。誤魔化そうとしても、必ずボロが出る。今回の騒動は、番組スタッフがそのあたりを甘く見過ぎた結果とも言えるでしょう」

4月5日の冒頭番組で、NHKは<未来を見通す鍵は歴史の中にある>と高らかに宣言している。とすれば、このシリーズの<未来>にも直近の<歴史>である第1回放送で露呈した「超偏向」の姿勢が見え隠れするのである。

眉に唾しつつ「シリーズ・JAPANデビュー」の今後を見守ろう。



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