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はしがき と 目次

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中公新書1218
北博昭著
日中開戦
軍法務局文書からみた挙国一致体制への道
中央公論社刊
1994年12月20日発行
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(表紙裏折込)

昭和十二年七月七日、北京郊外で起こった盧溝橋事件が導火線となって、日本と中国は泥沼の戦闘状態に突入するが、日本政府は国際法上の国家の交戦開始の意志表示を行なわず、これを「支那事変」と呼称する、しかし「戦争」ではなく「事変」としたことは、大小多岐にわたるギャップを生じさせた。本書は、「軍法務」の観点から、これまでの政治史や戦史で描ききれなかった「挙国一致」体制への道程をかいまみ、戦争の実態を解析する。
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はしがき


『支那事変海軍司法法規』という、海軍省法務局のマル秘資料集が私の手元にある。昭和十四年六月にまとめられたもので、B五判の紐綴じ。一部謄写版刷りのタイプ印書、全二五九頁。作成者は同法務局員の馬場東作海軍法務官である。

この資料集は、当時、主に海軍法務関係部局にあてて部内資料として小部数配布された。しかし、現在ではおよそ残存していない。国立国会図書館、防衛庁防衛研究所図書館、財団法人水交会といったところにも見当たらない。

そこには、日中戦争つまりシナ事変の発生以後昭和十四年三月に至る問、海軍省法務局が、直接・間接に自局にかかわる事変関係の法規につき行なった解釈と、発した運用上の指針が収められている。戦いの進行にともなって生じた諸々に関する所見も認められる。作成者の馬場法務官は、「海軍司法法規より見た事変と云う意味」になるものだと「はしがき」で述べている。

資料集をめくれぼ、右の期間での海軍の動きが、大半は軍法務の視点において確かに随所に浮かび上がってくる。軍法務とは、およそ、裁判機関としての軍法会議の裁判・審察・予審といった事項を扱う司法事務と、職員の人事や給与、服制、軍法会議・監獄の事務指導、法律教育、法律諮問、法の改正その他に関する事項を扱う司法行政事務を指す。

多くはないが、同じ軍法務の視点においての、たとえぼ陸軍の様子も知ることができる。議会の動きもうかがえなくはない。これは政治史や戦史などの領域では描き切れない側面ともいえる。戦いに関して引き起こされるほとんどの事柄は、っまるところ法規により、そのつど、各ヶースごとにけじめをつけられていたことがわかる。戦争は法典によって手当てされるとでもいえようか。『支那事変海軍司法法規』の史料的価値は否めない。

そこで本書では、この資料集を有力なべースにしながら、ということは主に軍法務の観点により、日中の戦いを事変と称してしまったために起こるギャップのなかで採られた、あるいは採られざるを得なかった日本側の対応を広く追ってみたい。これが本書のねらいである。もっとも、そうした対応をとおして、開戦にともなう「挙国一致」体制への道程をかいまみることもできよう。

広くということから、ピック・アップした事例は多岐にわたる。概して資料集による。一の「『事変』であって戦争ではない」では対外的な、三の「『事変』は事実上の戦争である」では対内的な事象にかかわる事柄を主に採り上げた。二の「戦争と称しなかったために」は対外・対内の双方におよぶ事柄である。大は国家的な国際法上の、小は個人的な国内の民事・刑事法上の事例まで収めた。

本書は、一定のテーマを設定し、それに向かって各項目が有機的に整合され、帰納的にひとつの結論に到達するという類いのものではない。それぞれが単独のテーマともなり得る各項目を、さきに述べたようなねらいから追い、提示したものである。統一的なテーマをあえて想定するなら、軍法務に比重を置いた便覧、とでもなろうか。

とはいえ、戦いの生んだ事象は多種多様であり、前記したねらいに照らしてみても、たとえばつぎのような事柄が落ちている(*は『支那事変海軍司法法規』にも所収)。私の力不足と紙幅の制限による捨象である。

[対外的なもの]
  • 毒ガスの使用
  • 上海租界法院の接収問題(*)
  • 「ケロッグ・ブリアン条約(不戦条約)」
  • 「支那に関する九国条約(九カ国条約)」

[対内的なもの]
  • 議会制度審議会の設置
  • 「支那事変の為従軍したる軍人及軍属に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」
  • 「日満司法事務共助法」(*)
  • 「国境取締法」(*)

政治史や戦史といった側面から日中の戦いを扱った叙述は多い。しかし、この戦いを幅広く理解するには、より多面的なアプローチが必要である。軍の機構に限っていえぼ、経理(主計)や軍医、技術といった側面から迫るのも興味深い。ここでの試みはそうした側面よりするもののひとっにすぎない。

本書の対象とする時期であるが、それはシナ事変の起点となった昭和十二年七月の蘆溝橋事件から、ほぼ十四年一月の第一次近衛文麿内閣の総辞職直後までに限定される。『支那事変海軍司法法規』を第一の下敷きにしているからである。この資料集は、すでに明らかなように十四年三月をもって収録の終期としていた。列挙した捨象の例示もほぼこの時期までのものである。

近衛内閣の退陣は三国同盟問題での閣内対立を主因とする。平沼騏一郎(ひらぬまきいちろう)内閣がこれに替わった。シナ事変の見通しはまったくついていなかった。このあと、日中の戦いは果てしのない膠着状態にはいっていく。
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目次


はしがき


一、「事変」であって戦争ではない

     ――なぜ「事変」なのか

1、国際法上の戦争に当たらない
盧溝橋事件 「事変」と戦争 宣戦せず 自衛権を発動した陸軍 海軍も自衛権を発動した 「事変」の名称と始・終期

2、中華民国は事実上の敵国
敵国になった時期 利敵行為による罪 中国軍に参加したアメリカ人将校の扱い

二、戦争と称しなかったために

     ――「事変」とされたことの意味

1、新法令で大本営を設ける
設けるまで 大本営令の公布 めざされた統帥の一元化 政府との連絡協議体を設ける

2、占拠地か、占領地か
占領地の意味 事実は占領地

3、軍律で「第三国人」を処罰できるか
軍律とは何か 処罰できる

4、捕獲された中国軍将兵の身分はどうなるか
海軍は俘虜とみる 陸軍は俘虜とみない 海軍の処遇 陸軍の処遇

5、封鎖にできなかった封鎖

(イ)海上交通を遮断する
実態はほぼ平時封鎖 交通遮断の宣言 遮断の結果
(口)遮断を侵破した中華民国船舶
拿捕船舶調査委員会を設ける 抑留された船舶はどうなるか
(ハ)「第三国」へ転籍された中華民国船舶の処置
「第三国」の船舶に効力は及ぼない 偽装転籍の場合 正当な転籍の場合

6、諸事件への対処

(イ)南京空爆の予告
避難を勧告する 空爆は正当
(口)日清汽船会社船舶の撃沈
中華民国船舶を抑留 抑留は正当な報復
(ハ)イギリス大使への銃爆撃
強気の回答 形式的な譲歩
(二)パネー号の爆沈
ただちに陳謝 過失責任を認める

三、「事変」は事実上の戦争である

     ――戦時体制の整備

1、時局関係法を定める
(イ)「軍機保護法」の改正
秘匿と防諜の必要性が増す 「軍機保護法」違反の実列
(口)「兵役法」の改正
兵員の不足 人的兵備の拡充 兵役の忌避
(ハ)「国家総動員法」の制定
国力を総合的に発揮するために 紛糾した審議 可決
(二)「軍用資源秘密保護法」の制定
国家総動員上の秘密のひとつ 対象は外国諜報 民間側の対応例
(ホ)「人事調停法」の制定
銃後の家庭を守る 家庭紛争は道義と温情で

2、気運を統一する

(イ)軍機軍略記事の新聞紙掲載禁止
陸・海軍省令で対処 禁止の尺度 処分件数
(口)軍刑法による造言飛語の防止
造言飛語罪とは 他の法令との関係 造言飛語罪の実例
(ハ)銃後の刑事事件の状況
減少傾向 刑法犯の実例

3、戦死者に対して配慮する
(イ)戦死・戦傷死への優遇
戦死と戦傷死を戸籍簿に明記 死亡後の婚姻届も有効 入籍は死亡時に遡る
(口)死体がなくても戦死と認定
戦闘中に行方不明 認定例
(ハ)戦場がらみの死亡報告は簡易な手続きで
実情に合わない「戸籍法」の規定 海軍省が発意

4、軍法務の側面から手当てする
(イ)海軍軍法会議の裁判権の拡大
宣誓海軍軍属の範囲を広げる 民間人も艦隊軍法会議に
(口)中国における犯罪の実態
増える犯罪 犯罪への対応
(ハ)更生して再び軍の一員に
「事変」による自覚の促進 仮出獄の要件を緩める

5、軍律法廷を設ける
(イ)軍律の運用
事変下では初めての軍律法廷 軍律の実例 軍律法廷のあらまし 処罰は臨機応変に
(口)軍律法廷の処分実例
陸軍の場合 海軍の場合


あとがき


主な引用・参考文献


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