集団自決検定 密室の協議はおかしい
12月28日(金)
沖縄戦の集団自決をめぐる教科書検定で、日本軍の関与を示す記述が復活することになった。高校日本史の教科書で「軍によって自決に追い込まれた」などの表現を文部科学省が認めた。直接的な「軍の強制」の表記を避ける形での決着だ。
一連の混乱により、密室で進められる検定の問題が明らかになった。政権の意向に配慮し、当初の検定で軍の強制の表記を消すよう求めた文科省と教科書検定審議会の責任は重い。歴史教育や教科書検定のあり方を、見直す契機にしたい。
検定をやり直したと言ってもいいくらい、異例ずくめだった。
今春の教科書検定の結果に、沖縄の人たちが猛反発。驚いた政府が、教科書会社に「訂正申請」を促すような形になった。
検定審日本史小委員会は、この段階でようやく専門家の意見を聞いた。その結果、軍の関与は主要な要因だが、複合的な背景や要因で住民が集団自決に追い込まれた、との見解をまとめている。これを受けて、各社が「軍の強制」を避けながら背景事情を書き込むなど、再訂正した末の決着だ。
事実上の修正なのに、「検定意見は撤回しない」と、文科省と検定審がメンツにこだわるのには納得がいかない。問題の根っこにあるのは、不透明な検定制度である。
“政治の介入”を避けるために、独立した審議会が検定を行う理屈だが、実質的には文科省の教科書調査官が作成する意見書の影響力が強いことも明らかになった。論争のある問題ならば、最初から専門家の意見を聞いていれば、今回のような事態を招かなかったはずだ。
検定意見は、「戦後レジームからの脱却」を掲げていた安倍前政権に配慮した結果との見方もある。非公開の検定が続けば、再び政治に影響される心配がある。最低限、審議会の議事要旨は公開するなど、透明化を図るのが、見直しの一歩だ。
「複合的な要因」を書き加えたために、集団自決の説明が手厚くなったことは歓迎したい。
ある教科書は「日本軍によってひきおこされた強制集団死とする見方が出されている」と注に加えた。軍と戦って死ぬ「共生共死」を求められた、と加えた教科書もある。
歴史教育は過去の事実を暗記するだけでなく、見解が分かれるテーマならば原因や背景を論議することも重要である。戦争の恐怖と絶望の中で、住民と軍はどんな関係にあったのか、そこを考えさせるのは学びの大事なポイントになる。
画一的な内容を押しつけるのなら、高校レベルでの教科書検定はなくす方がいい。