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敗兵日記あとがき

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pipopipo555jp

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野村正起
「沖縄戦負兵日記」
玉砕戦一等兵の手記
1974年10月15日 第1刷発行
1978年 8月15日 第2刷発行
太平出版社

敗兵日記あとがき


沖縄戦についての書物は、戦後つぎつぎと刊行されてきたが、沖縄戦生き残りの元日本兵として、わたしにはものたりない思いにうたれるものがある。それは、あの悲惨な戦いにおける日本軍の小部隊の戦闘や、日本兵および地元住民たちの行動、ならびにその後の日本軍壊滅の状態と逃亡生活などについて十分に語られていないことからくる思いである。わたしは、そのことを歯がゆく感じながら、せめて自分の知る範囲内のことだけでものべておくべきだと思い、当時の自分の日記をここに発表することにした。

日記は、アメリカ軍機動部隊が沖縄を包囲した一九四五(昭和二〇)年三月二三日から手帳に書きはじめたものだが、わたしにとって日記は、最初はただたんに「書きとめる」という軽い気持ちで始めたものだったのが、あとになっては一つの執念となり、また、きびしい状況のなかで自分の心のさびしさをまぎらわす手段ともなって、アメリカ軍の投降勧告に応じた同年九月一四日まで鉛筆で書きつづけたものである。

そして、一度は首里の壕内に捨てたものを投降後に再び手に入れ(二二ニページ参照)、捕虜収容所内で、ありあわせの手帳
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に写しかえて、自分で製本しなおした(上掲写真)。

日記の原文をいまあらためて読んでみると、戦場という異常な状況下にあったため、ときには二~三日つづけて書いたところもあり、またそのときどきの感じや知識で書いたため日付や地名にも錯覚や誤りなどがあった。こんどこの日記を公刊するにあたっては、それらの誤りを訂正することをふくめて文章を少しなおしたり、一部の人の氏名を仮名にしたことを断わっておかなければならない。しかし、わたしたちが当時いだいていた沖縄の地元住民にたいする偏見をふくめて、わたしが体験した事実と感情を正直に記述したことにおいては、いささかの変わりもない。

このつたないわたしの日記が、悲惨な沖縄戦の犠牲となった多くの霊を弔い、沖縄戦の実状を知るうえに多少なりとも役立って戦争の忌むべきことを知らせるものとなるように、祈るばかりである。

一九七四年九月
野村正起
230


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