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2007年勧告の「邦訳版への序」

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2007年勧告の「邦訳版への序」


  • (引用者注)「1990年勧告」と「2007年勧告」との違いが要約されている。


邦訳版への序

本書は,ICRPの主委員会によって2007年3月に刊行を承認された基本勧告
The 2007 Recommendations of the Internationa1 Commission onRadiologica1 Protection
(Pub1ication 103. Annals of the ICRP, Vol.37, Nos. 2-7 (2007))
を,ICRPの承諾のもとに翻訳したものである。

Roger C1arke前委員長が“Contro11ah1e Dose" という論文を発表したのを契機として始まったICRP1990年勧告(Pub1.60.1991)の改訂作業はほぼ8年間の検討を経て完成し, 2007年末に新勧告が公表された。

この2007年勧告では, 前勧告に基づく放射線防護体系の問題点の是正, 約30に達した線量制限勧告値によって複雑化した体系の単純化を目的として見直しが行われた。線量制限値を3段階の枠で示し, その適用を解説, 例示した。防護行動過程(procedures)に基づいて行為と介入に分類した従来の体系から, 計画/現存/緊急時という3つの被ばく状況(Situations)に基づく体系に変更した。物理・生物学上の知見の進歩を取り入れて放射線加重係数と組織加重係数の一部が改訂された。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告によると, 人工放射線による被ばく全体のうちで最も高いのは放射線診断による患者の被ばくである。医療技術の進歩と発展途上国への普及により今後さらに増加し, 自然放射線による被ばくに近づきつつあると予想される。人に故意に放射線を照射し, 被ばくした患者個人が健康上の恩恵を受けるという, 医療における放射線利用の特殊性に上記事実を加えて, 患者の医療被ばくの防護を別扱いとした独立の章が設けられた。

社会の動向に配慮した改訂もなされた。人の防護に止まらず環境の放射線防護の理念を示したこと, 利害関係者(stakeho1der)の関与を取り入れたことなどである。特記すべきは, 新勧告作成過程の透明化である。案の段階で3回ウェブ上で公開し意見募集を行った。また, 各地域で説明会を開催して意見交換が行われた。我が国からも多数の個人, 団体が貴重な意見を述べ, 新勧告作成に貢献した。

日本語訳が出版されることにより, 新勧告が一層広く周知され, その概念と原則の理解が進み, 放射線防護管理への取り入れが検討されることを期待する。翻訳の労を執られた方々に厚く御礼申し上げる。


翻訳は, まず次の諸機関に所属する専門家に体頼して第一次の訳を作成した:

  放射線医学総合研究所及び日本アイソトープ協会

この原稿をもとに, ICRP勧告翻訳検討委員会において推敲を重ねるとともに, 放射線審議会基本部会のメンバー, 日本原子力学会保健物理・環境科学部会, 日本保健物理学会などの諸団体, その他関係者各位のご意見をいただいて, 最終稿を決定した。

本書の翻訳にあたっては従前の ICRP Pub1ications の場合と同様, 原文の意図するところを忠実に伝えることを旨とした。ただ, 原文の明らかな誤りは特に断ることなく訂正し, また, 原文の意味を正しく表現するために必要と思われた場合には, 多少の加筆や修正をした箇所も若干ある。わずかではあるが, その部分には括弧内にアステリスクを付して説明を補った。なお, 用語解説, 図表目次, 索引については, 邦訳版読者の便宜を優先して編集を行った。用語解説は, 五十音順配列に変更し, 英語の見出し語は併記とした。図表目次は付属書Bの分を作成して補った。また, 1990年勧告にあったが今回は見られなかった索引は, 勧告本文についてのみ, 新たに作成して巻末に示した。見出し語に英語表現を付したので, 用語解説とともに, 本書の主要内容に関するごく手軽な和英クイックレファレンスとしての役割も果たせるであろう。ご利用いただきたい。

訳語に関しては次の方針に従った:
1990年勧告に使用されていた用語は変更しない。これは, 変更することにより混乱が生ずることを懸念したためである。ただし, weighting factorは, weight が“加重"であり, “荷重"は 1oad であることから, “荷重係数"から“加重係数"に変更した。

新しい用語の導入は, 今勧告ではさほど多くは見られなかった。本文の「総括」等にもあるように, この2007年勧告は前勧告の流れを大局で引き継いだ上での見直しであったためであろう。1990年勧告に現れていない用語の主なものは, 以下の通りである;
  exposure situation (被ばく状況) / existing exposure (現存被ばく) /
  p1anned exposure (計画被ばく)

いずれも, 新しい防護体系に係わる用語である。SituatiOn は前勧告のときには特別な言葉ではなかったが, 今回は勧告の意図に添って“状況"と一定の訳語を当てることとした(これと関連して使われることも多い Circumstance は“事情"とした)。

また, 勧告における新しい概念を示すもの, 学術上の新知見の導入に関するものについて, いくつかの用語が特に検討の対象となった。その一例を紹介する;

reference は本来“拠りどころとすること, 又はもの" の意味であり,基準,標準といった意味はないが, わが国では以前から特に自然科学の分野で“基準……" あるいは "標準……" という用語が専ら使われてきた。ICRP もかつて standard man を reference man と言い換えた経緯がある。このため, 今回も例えばreference anima1s and p1ants を "標準動物及び標準植物" などと訳した。唯一の例外は diagnostic reference 1eve1 で, これは従前どおり“診断参考レベル" と訳してある。


1990年勧告のときと同じように, 今回もこの主勧告の基礎となる内容を含む多くの関連文書が作成され, 現在もなお刊行されつつある (Publication 91, 99, 101, 104, 105等)。
等せて検討されることを希望する。

平成21年8月
ICRP勧告翻訳検討委員会



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