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安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策

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5.安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策



原子力災害時に放射性ヨウ素が放出され、その放射性ヨウ素の吸入により甲状腺への影響が著しいと予測される場合、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を効果的に抑制するため、安定ヨウ素剤を予防的に服用することとする。

その際、安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策は、その効果を最大とするために迅速に対応する必要がある。このため、安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策を開始するための線量のめやすを指標として定め、屋内退避や避難等の他の防護対策とともに、より実効性のあるものとしておく必要がある。

5-1 国際機関における安定ヨウ素剤の服用に係る介入レベル等


(1) IAEA

IAEA は、実効性の理由から、安定ヨウ素剤予防服用に関して、介入レベルとして回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量100 mGy を、対象者の性別・年齢に関係なく推奨している(※14)。

この「回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量」は、防護措置を行わなかった場合に予測される被ばく線量から、防護措置を行った場合に予測される被ばく線量を差し引くことにより表される。例えば、防護措置を行わなかった場合に予測される被ばく線量が100 mGy とした場合、防護措置として安定ヨウ素剤を放射性ヨウ素の体内摂取前又は直後に服用すると、甲状腺への集積を90%以上抑制できるので、甲状腺の被ばく線量を90mGy 以上回避することが可能となる。

各国の安定ヨウ素剤服用に係る介入レベル等は、IAEA が推奨している安定ヨウ素剤予防服用の介入レベルである回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量100 mGy を考慮して、性別・年齢に関係なく全ての対象者に対して一律に、各国の実状に合わせて決められている(参考資料Ⅰ)。

(2) WHO

WHO によるガイドライン(15)は、チェルノブイリ原子力発電所事故による若年者の健康影響調査の結果を踏まえて、若年者に対する服用決定に関してIAEA の介入レベル100 mGy の10分の1である10 mGy を、19歳以上40歳未満の者については、100 mGy を推奨している(参考資料Ⅱ)。

なお、最近のIAEA/WHO の合同会議では、甲状腺発がんリスクの年齢依存性を考慮して、若年者に対しては、より低い介入レベルで安定ヨウ素剤を服用させることが議論されている(※16)。

5-2 我が国における安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策


(1) (「指標」の必要)

原子力災害時において、放出される放射性ヨウ素に対して、迅速に対応す
るため、安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策を開始するための線量のめや
すを「指標」として提案する必要がある。

(2) (小児甲状腺等価線量の予測線量を用いる)

安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策を開始するための「指標」としては、屋内退避及び避難等に関する指標として、我が国の防護対策として既に提案されている小児甲状腺等価線量の予測線量を用いることが妥当である。

この甲状腺等価線量とは、環境中に放出された放射性ヨウ素を、人が吸入することにより、甲状腺に集積する放射性ヨウ素からの被ばく線量のことであり、その呼吸率と放射性ヨウ素の吸入による線量係数(Sv/Bq)の年齢による違いから、この値は小児(1歳児)において、最も大きくなる。このため、防護対策の指標として、小児に対する値を用いることとする。

また、予測線量とは、放射性ヨウ素の放出期間中、屋外に居続け、なんらの措置も講じなければ受けると予測される線量のことである。したがって、この予測線量は、防護対策を講じられた個々の周辺住民等が実際に受けるであろう甲状腺等価線量を、相当程度上回るものであり、また、回避可能な線量より高い線量の被ばくを回避できるものと考えられる。

組織や臓器の等価線量については、β線やγ線の放射線荷重係数を1として1 Gy=1 Sv とする。

(3) (WHO が推奨するガイドラインについて)

チェルノブイリ周辺の被ばく者のデータは、線量評価等の妥当性の問題や我が国がヨウ素過剰摂取地域である特徴などから、WHO が推奨する若年者に対するガイドラインを、そのまま現時点で我が国において採用することは、慎重であるべきと考えられる。

(4) (我が国の指標として)

退避や避難の介入レベルに関して、不利益と利益の釣合い(以下「リスク・ベネフィットバランス」という。)を考慮して、IAEA SS-109(14)で用いられた計算の方法で、安定ヨウ素剤の服用における防護上の介入レベルを試算すると、放射性ヨウ素の吸入による甲状腺被ばくが、50 mGy 以上の時に、安定ヨウ素剤を服用すると、副作用のリスクを上回り有益となる。この50mGy は、外部被ばくに対する試算結果であり、内部被ばくに比べ厳しいもの(介入レベルとしてより低い線量となる。)である(参考資料Ⅲ)。

等を踏まえ、

我が国における安定ヨウ素剤予防服用に係る防護対策の「指標」として、性別・年齢に関係なく全ての対象者に対し一律に、放射性ヨウ素による小児甲状腺等価線量の予測線量100 mSv を提案する。

なお、原子力災害時における放射性ヨウ素の放出に対する甲状腺への放射線影響を低減させるための防護対策としては、屋内退避、避難、安定ヨウ素剤予防服用等があり、実効性を高めるためには、これらの防護対策を別々に考えるのではなく、総合的に考える必要がある。

5-3 安定ヨウ素剤の服用方法


災害対策本部が、安定ヨウ素剤予防服用の措置を講じた場合、誤った服用による副作用を避けること、安定ヨウ素剤を的確に管理すること及び周辺住民等が確実かつ可及的速やかに服用できるようにすることが必要である。このため、実際的には、周辺住民の家庭等に、あらかじめ安定ヨウ素剤を事前に各戸配布するのではなく、周辺住民等が退避し集合した場所等において、安定ヨウ素剤を予防的に服用することとする。この場合、服用、副作用等に備え、医師、保健師、薬剤師等の医療関係者を周辺住民等が退避し集合した場所等に派遣しておくことが望ましい。

服用に当たっては、後述する「5-4 服用対象」において示す内容に沿って実施されることとなるが、若年者、特に新生児、乳幼児や妊婦への対応及び副作用について留意する必要がある。すなわち、放射性ヨウ素の内部被ばくによる若年者の甲状腺がんの発生確率が成人に比べて有意な増加が認められていること及び胎児の被ばくを考慮して、新生児、乳幼児や妊婦の服用を優先させる。

また、「5-4 服用対象」において示すヨウ素過敏症の既往歴のある者、造影剤過敏症の既往歴のある者、低補体性血管炎の既往歴のある者又は治療中の者、ジューリング疱疹状皮膚炎の既往歴のある者又は治療中の者は、安定ヨウ素剤の服用により副作用が発生する恐れがある。これらの疾患の説明を記載したパンフレット等を安定ヨウ素剤の配布時に示し、疾患を有する者が安定ヨウ素剤を服用しないように配慮する必要がある。

なお、普段から緊急時において周辺住民等の行動に関する指示が迅速かつ正確に伝達されるような体制が整備されているが、屋内退避や避難ができない災害弱者等に対する安定ヨウ素剤予防服用についても、十分に配慮しておく必要がある。

5-4 服用対象


(1) 年齢を考慮した服用対象者の制限

18歳未満では、放射線被ばくにより誘発される甲状腺がんの発生確率は成人に比べて有意な増加が認められていること、40歳以上では、放射線被ばくにより誘発される甲状腺発がんのリスクがないことから、安定ヨウ素剤の服用は、40歳未満の者を対象とする。

特に乳幼児は、甲状腺濾胞細胞の分裂が成人に比べて活発であり、放射線によるDNA 損傷の影響が危惧され、安定ヨウ素剤予防服用の効果もより大きいことを十分に認識する必要がある。

(2) 副作用を考慮した服用対象者の制限

  • ヨウ素過敏症の既往歴のある者は、安定ヨウ素剤を服用しない。
  • 造影剤過敏症には、種々の要因による過敏症が含まれていて、その一部がヨウ素過敏症であると考えられている。しかしながら、造影剤過敏症に含まれるヨウ素過敏症の割合について推測することは可能ではない。したがって、全ての造影剤過敏症の者が、安定ヨウ素剤の服用により、ヨウ素過敏症症状を発症するとは限らないが、造影剤過敏症の既往歴のある者は、安定ヨウ素剤を服用しない。
  • 低補体性血管炎を有する者はヨウ素に過敏である場合があるため、その既往歴のある者又は治療中の者は安定ヨウ素剤を服用しない。また、ジューリング疱疹状皮膚炎を有する者はヨウ素に過敏であると考えられるので、その既往歴のある者又は治療中の者は安定ヨウ素剤を服用しない。ただし、これらの疾患は、我が国では、稀であるとされている(※35,36)。

ヨウ素過敏症の既往歴のある者、造影剤過敏症の既往歴のある者、低補体性血管炎の既往歴のある者又は治療中の者、ジュ-リング疱疹状皮膚炎の既往歴のある者又は治療中の者の安定ヨウ素剤の服用を防ぐため、安定ヨウ素剤の配布時にも、上述の疾患に関する情報を明確に伝えることが必要である。また、これらの者に対しては、避難を優先させることが必要である。

(3) 服用に当たって注意すべき事項


  • 甲状腺機能異常症について

甲状腺機能異常症には、甲状腺機能亢進症及び低下症がある。

甲状腺機能亢進症の大部分はバセドウ氏病によるものであり、ヨウ素を含む製剤はこの治療薬の一つである。また、甲状腺機能亢進症を有する者は、ヨウ素の甲状腺摂取率が上昇していることから、原子力災害時には、甲状腺機能亢進症を有する者は、安定ヨウ素剤を服用する。

甲状腺機能低下症のほとんどは慢性甲状腺炎によるものである。甲状腺機能低下症を有する者は、ヨウ素を含む製剤の服用により、機能低下が悪化するおそれがあるが、この場合は、ヨウ素を長期にわたり摂取した場合である。

慢性甲状腺炎を有する者が、ヨウ素を含む製剤の服用により、一過性の甲状腺機能亢進症を呈する無痛性甲状腺炎を発症することがあるが、これは、ヨウ素を長期にわたり摂取した場合である。また、甲状腺機能に異常を認めない慢性甲状腺炎を有する者が、ヨウ素を含む製剤の服用により甲状腺機能低下症を発症することがあるが、この場合も、ヨウ素を長期にわたり摂取した場合である。

したがって、原子力災害時には、甲状腺機能異常症を有する者も、安定ヨウ素剤を服用する。

  • 結核について

結核を有する者が安定ヨウ素剤を服用すると「ヨウ素は結核組織に集まりやすく、再燃させるおそれがある。」とされているが、再燃を懸念するよりも、安定ヨウ素剤服用により放射性ヨウ素の吸入による甲状腺発がんリスクを軽減させる方が有益と考えられる。

したがって、原子力災害時には、肺結核を有する者も、安定ヨウ素剤を服用する。

  • 新生児について

安定ヨウ素剤を服用した新生児については、甲状腺機能低下症を発症することがあるので、その早期発見・治療のために、甲状腺機能をモニターする必要がある。

  • 妊婦について

妊婦については、妊娠第1期では、妊婦自身の甲状腺が胎盤由来の絨毛由来性腺刺激ホルモンにより交叉刺激されている。このため、放射性ヨウ素の集積が高くなることが予測され、安定ヨウ素剤の服用による放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑制することが必要である。妊娠第2期、3期では、放射性ヨウ素が胎盤を通過し、胎児が被ばくするのでやはり安定ヨウ素剤の服用が必要となる(※16)。安定ヨウ素剤を服用した妊娠後期の妊婦より生まれた新生児については、その甲状腺機能をモニターする必要がある。

  • 授乳婦等について

授乳婦についても、安定ヨウ素剤を服用する。授乳婦が摂取したヨウ素の約四分の一は、母乳へ移行するといわれているが、授乳児については、母乳からの放射性ヨウ素の移行や安定ヨウ素の摂取を正確に見積もれないため、授乳を中止して人工栄養に替え、安定ヨウ素剤を服用させる。

なお、ヨウ素を含む製剤の副作用情報等の動向にも配慮する。

5-5 服用回数、服用量及び服用方法


(1) 服用回数

安定ヨウ素剤予防服用については、その効果を最大とするため、安定ヨウ素剤の配布後、対象者は直ちに服用するものとする。服用回数は、過剰な安定ヨウ素剤の服用による副作用を考慮し、原則1回とする。2回目の服用は、安定ヨウ素剤の効果が1日は持続することが認められていることより、2日目となるが、2日目に安定ヨウ素剤服用を考慮しなければならない状況では、避難を優先させることが必要である。

(2) 服用量

WHO や多くの諸外国における推奨服用量(参考資料Ⅰ)は、ヨウ素量として新生児12.5 mg、生後1ヶ月以上3歳未満25 mg、3歳以上13歳未満50 mg、13歳以上40歳未満100 mg と定められている。

我が国の対象者に対する服用量については、下記のように定める。
  • 新生児についてはヨウ素量12.5 mg、生後1ヶ月以上3歳未満についてはヨウ素量25 mg を服用量とする。

チェルノブイリ原子力発電所事故直後にポーランドで実施された安定ヨウ素剤服用の際のヨウ化カリウムの量及び諸外国の服用量を参考とし、WHO の推奨服用量(※15)、すなわち新生児についてはヨウ素量12.5 mg、生後1ヶ月以上3歳未満については25 mg を服用量とする。
  • 13歳以上40歳未満についてはヨウ素量76 mg を服用量とする。

WHO は、13歳以上40歳未満の対象者に、ヨウ素量100 mg を推奨しているが、
[1] 成人で、少なくとも30 mg の量のヨウ化カリウムを単回服用すれば、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を十分に抑制する効果が得られること(※34)、
[2] 現在、自治体において準備されている医薬品ヨウ化カリウムの丸薬は、1丸にヨウ素量38 mg を含み、簡便かつ迅速に服用が可能なこと、を考慮して、13歳以上40歳未満の対象者の服用量についてはヨウ素量76 mg とする。

  • 3歳以上13歳未満についてはヨウ素量38 mg を服用量とする。
WHO は、3歳以上13歳未満の対象者に、ヨウ素量50 mg を推奨しているが、
[1] 放射性ヨウ素の甲状腺への集積を十分に抑制する効果が得られるヨウ化カリウムの成人服用量(※34)より考察すると、3歳以上13歳未満の対象者では、ヨウ素量38 mg の服用で、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を十分に抑制する効果が得られると考えられること、
[2] 現在、自治体において準備されている医薬品ヨウ化カリウムの丸薬は、1丸にヨウ素量38 mg を含み、簡便かつ迅速に服用が可能なこと、を考慮して、3歳以上13歳未満の対象者の服用量についてはヨウ素量38 mg とする。
  • 40歳以上については服用する必要はない。

(3) 服用方法


服用に当たっては、原子力災害時に備え、準備されている医薬品ヨウ化カリウムの丸薬は非常に硬く、定められた量に分割することが不可能であり、特に、新生児・乳幼児では丸薬の服用が困難である。

小児の服用方法については、就学年齢を考慮し、6歳以下の対象者については、安定ヨウ素剤として医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水、又は注射用水)に溶解し、さらに、ヨウ化カリウムの水溶液は苦味があるために単シロップを適当量添加し、それぞれの対象に応じた正確な服用量としたものを用いることが現時点では適当である。

また、7歳以上13歳未満は医薬品ヨウ化カリウムの丸薬1丸、13歳以上40歳未満については2丸を服用することとする。

なお、医薬品ヨウ化カリウムの製剤の服用に当たっては、就学年齢を考慮すると、7歳以上13歳未満の対象者は、概ね小学生に、13歳以上の対象者は、中学生以上に該当することから、緊急時における迅速な対応のために、小学1年~6年生までの児童に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬1丸、中学1年以上に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸を採用することが実際的である。また、7歳以上であっても丸薬を服用できない者がいることに配慮する必要がある。

安定ヨウ素剤予防服用の方法について、そのまとめを以下の表に示す。

表 安定ヨウ素剤予防服用量のまとめ
対象者 ヨウ素量 ヨウ化カリウム量
新生児(注1) 12.5 mg 16.3 mg
生後1ヶ月以上3歳未満(注1) 25 mg 32.5 mg
3歳以上13歳未満(注2) 38 mg 50 mg
13歳以上40歳未満(注3) 76 mg 100 mg
(注1)新生児、生後1ヶ月以上3歳未満の対象者の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いることが現時点では、適当である。
(注2)3歳以上13歳未満の対象者の服用に当たっては、3歳以上7歳未満の対象者の服用は、医薬品ヨウ化カリウムの原薬(粉末)を水(滅菌蒸留水、精製水又は注射用水)に溶解し、単シロップを適当量添加したものを用いることが現時点では、適当である。また、7歳以上13歳未満の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬1丸(ヨウ素量38mg、ヨウ化カリウム量50mg)を用いることが適当である。
(注3)13歳以上40歳未満の対象者の服用に当たっては、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸(ヨウ素量76mg、ヨウ化カリウム量100mg)を用いることが適当である
(注4)なお、医薬品ヨウ化カリウムの製剤の実際の服用に当たっては、就学年齢を考慮すると、7歳以上13歳未満の対象者は、概ね小学生に、13歳以上の対象者は、中学生以上に該当することから、緊急時における迅速な対応のために、小学1年~6年生までの児童に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬1丸、中学1年以上に対して一律、医薬品ヨウ化カリウムの丸薬2丸を採用することが実際的である。また、7歳以上であっても丸薬を服用できない者がいることに配慮する必要がある。
(注5)40歳以上については、放射性ヨウ素による被ばくによる甲状腺がん等の発生確率が増加しないため、安定ヨウ素剤を服用する必要はない。
(注6)医薬品ヨウ化カリウム、滅菌蒸留水、精製水、注射用水、単シロップ等は、原子力災害時に備え、あらかじめ準備し、的確に管理するとともに、それらを使用できる期限について注意する。

5-6 ヨウ素含有食品等による効果について


ヨウ素は種々の食品に微量ではあるが含まれており、特に海産物に多く含まれている。この中でコンブは特異的に多く(※43,44)、コンブ乾燥重量100 g 当たり、100~300 mg のヨウ素を含んでいる。その他、ワカメ7~24 mg/100 g 乾燥重量、ヒジキ20~60 mg/100 g 乾燥重量、海産魚類0.1~0.3 mg/100 g 生重量である。

日本人が通常の食生活で摂取するヨウ素量は、海産物の有無やその過少で大きく変動するが(※22)、海産物の摂取による日本人の1日ヨウ素摂取量の平均は、1~2 mgとされている(※45)。コンブはそのまま食する以外に、だしコンブとして使われることが多く、15分間の煮沸により出汁中には、コンブに含有されるヨウ素の99%以上が溶出される。一杯の吸物に普通加えるだしコンブを2gとしても、5mg程度のヨウ素摂取となる(※45)。このようなヨウ素摂取量でも、日本人の甲状腺のホルモン分泌機能は正常である(※22)。また、コンブ等を摂取しない場合、一日当たりヨウ素摂取量は、0.1 mg程度となる(※22)。

コンブにより10~30 mg のヨウ素を一度に摂取することは可能ではあるが、ヨウ素含有量が多いコンブ等の食品を摂取することにより、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑えることについては、
  • コンブでは、大量に経口摂取した上で、咀嚼・消化過程が必要でヨウ素の吸収までに時間がかかり、かつ、その吸収も不均一である
  • コンブの種類、産地など、それぞれのコンブに含まれるヨウ素量は一定ではなく、その必要量を推測することは極めて困難である
  • 対象者が、集団的に、迅速にコンブからヨウ素を摂取することは現実的に困難である
等の理由により、原子力災害時における放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑制する措置として講じることは適切ではないと考えられる。

なお、各家庭にあるヨウ素を含むうがい薬や外用薬は、経口服用目的には安全性が確認されておらず、また、ヨウ素含有量が少なく、原子力災害時における放射性ヨウ素の甲状腺への集積を速やかに抑制する効果は乏しいため、これらのうがい薬や外用薬を、安定ヨウ素剤として、使用してはならない。

5-7 防災業務関係者への安定ヨウ素剤予防服用について


放射線誘発甲状腺がんの発生リスクは40歳未満に限られ、安定ヨウ素剤の予防服用により、そのリスクを低減できるため、40歳未満の防災業務関係者についても、その防災業務の内容に応じて、安定ヨウ素剤予防服用を考慮する必要がある。ただし、ヨウ素過敏症の既往歴のある者、造影剤過敏症の既往歴のある者、低補体性血管炎の既往歴のある者又は治療中の者、ジューリング疱疹状皮膚炎の既往歴のある者又は治療中の者は、安定ヨウ素剤を服用できないため、これらの者を防災業務関係者とする場合、その防災業務の内容に十分配慮する必要がある。

なお、甲状腺機能低下症を来たすと予想される甲状腺等価線量として、IAEA及びWHO により5 Gy が提案されている(14,15)。しかし、この甲状腺等価線量5Gy は、計算上、実効線量として250 mSv であり、防災業務関係者が災害の拡大の防止及び人命救助等、緊急かつやむを得ない作業を実施する場合において許容される実効線量100 mSv をはるかに超えており、防災業務関係者といえども、この線量を被ばくすることは許されない。

ただし、防災業務関係者のうち、原子力施設内において災害に発展する事態を防止する措置等の災害応急対策活動を実施する者で、かなりの被ばくが予測されるおそれがある場合は、甲状腺等価線量を瞬時に測定できる計測器がないこと、防護マスク等の装備の機能等を考慮しつつ、甲状腺機能低下症を予防するため、40歳以上の防災業務関係者に対して、念のため、安定ヨウ素剤服用について、災害対策本部等において、考慮することとする。この場合も、ヨウ素過敏症の既往歴のある者、造影剤過敏症の既往歴のある者、低補体性血管炎の既往歴のある者又は治療中の者、ジューリング疱疹状皮膚炎の既往歴のある者又は治療中の者には、安定ヨウ素剤を服用させないよう配慮する。

5-8 安定ヨウ素剤予防服用の理解を得るために


安定ヨウ素剤予防服用については、周辺住民等にとって精神的な負担となることも考えられるため、他の防護対策と同様に、原子力災害時に混乱と動揺を起こすことなく、災害対策本部の指示に従って迅速に対応できるよう、普段から安定ヨウ素剤の服用について理解を得ておく必要がある。このため、周辺住民等、特に防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲の周辺住民等への情報提供を行うことが重要である。

情報提供に当たっては、原子力施設の安全性の仕組みの概要、放射線被ばくによる甲状腺への影響、安定ヨウ素剤の服用方法、安定ヨウ素剤の効用及び副作用について周辺住民等が理解しやすい内容として行わなければならないが、その際、パンフレット、ビデオ、インターネット等の多様な手段により周知を図ることが有効である。さらに、学校、職場等の場を活用し、実態に則した情報提供を図ることが有効であると考えられる。また、40歳以上では、放射線被ばくにより誘発される甲状腺発がんのリスクがないことから、安定ヨウ素剤を服用する必要がないことを周知しておくことも重要である。

さらに、医療関係者については、安定ヨウ素剤の予防服用に当たって、予防服用のための計画の策定段階から、安定ヨウ素剤の準備、実際の服用、副作用があった時の対応に至るまで、重要な役割を果たすことから、医療関係者に対しても十分な情報提供を行うとともに、安定ヨウ素剤予防服用について理解を得ることが重要である。


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