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日中歴史研究 溝埋める努力を続けよう

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日中歴史研究 溝埋める努力を続けよう

2010年2月3日 10:44 カテゴリー:コラム > 社説

 日中両国の有識者による歴史共同研究委員会が、双方の論文をまとめた初の報告書を公表した。共同研究は両国の歴史認識の溝を埋めるのが目的だったが、結果的に溝の深さと、それを埋める作業の難しさをあらためて知ることになった。

 共同研究は2006年、当時の安倍晋三首相と胡錦濤主席との首脳会談で合意して始まった。委員会は双方の学者ら10人ずつで構成し、日中関係にかかわる「古代・中近世史」「近現代史」の論文を互いに提出し、議論し合ってきた。

 両国の世論が過熱するのを防ぐため、歴史問題を政治や外交から切り離し、専門家による冷静な議論の場に移すことが共同研究の狙いだった。

 しかし、報告書の取りまとめ作業は難航した。中国側は一時、すべての論文を公表しないよう要求した。当初は08年夏の予定だった公表時期は再三延期され、戦後の現代史の論文公表は結局、見送られた。日本側の論文が文化大革命や天安門事件に触れるため、中国側が公表に同意しなかったとみられる。

 公表された報告書は、日本と中国の有識者の論文を並列的に掲載している。日本側の論文が近年の学問的成果を踏まえ、日本のマイナス部分も実証的に記述しているのに対し、中国側の論文はこれまでの「公式見解」を踏襲した感が強い。

 焦点の一つだった「南京大虐殺」の犠牲者数について、日本側が「20万人を上限として4万人、2万人などの推計がある」としたのに対し、中国側は南京軍事法廷の認定を根拠に「30万人以上」とする従来の見解を繰り返している。

 日中戦争全体について、日本側論文は「原因の大半は日本側がつくり出したと言わざるを得ない」と率直に認めた。一方、中国側は「軍国主義日本が起こした侵略戦争。中国共産党が率いる人民は団結して抗戦し、歴史的勝利を収めた」と、党の指導性を称賛している。

 報告書の公開をめぐる混乱も含め、党が歴史解釈を行い、学問の自由が制限されている中国との間で、共同研究をする困難を痛感させられる結果となった。

 ただ、歴史問題をめぐるこれまでの摩擦を考えれば、両国の代表的な学者が同じテーブルにつき、それぞれの見解を示し報告書公開にこぎ着けただけでも一定の成果といえる。報告書には、一部ではあるが中国側の歴史解釈が柔軟になったと思える個所もある。今回の共同研究は第1期との位置付けであり、これを出発点として2期以降の研究につなげたい。

 委員会の中国側座長である歩平・社会科学院近代史研究所所長は、報告書を受けてコメントした。「こうした認識を近づける努力を重ねた結果として、何十年後かに中日両国に韓国も含めた共通の歴史教科書ができるなら理想的だ」

 何十年後、というのは遠い話だが、困難な共同作業を体験した当事者の実感だろう。冷静にゆっくりと、溝を埋める努力を続けていくしかない。

=2010/02/03付 西日本新聞朝刊=


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