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パートII 8 戦場は2つある

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8 戦場は2つある


 湾岸戦争が終わった1991年にボブ・ウッドワードの書いた「司令官たち(文藝春秋)」という本が出た。当時自衛隊でもかなり多くの人がこの本を読んでいたし、いま私のこの小論文を読んでいる皆さんの中でも読んだ人がいるのではないかと思う。1989年のブッシュ政権誕生後1991年の湾岸戦争開始までの米国における軍事上の意思決定について書かれたものである。米軍のパナマ侵攻及び湾岸戦争を題材に大統領、国防長官、三軍長官、統合参謀本部議長、現地司令官などの心の内面の動きを見事に描き出している。その177ページにパウエル統合参謀本部議長の次の言葉が出てくる。「なにもかもが正しい方向に進み、すべてのことが司令官の手中におさめられれば、そこでテレビに目を向けるべきだ。マスコミの報道を正しい方向に向けさせなければ、戦場では勝っても、戦争には負けたことになってしまう」。また232ページには、パウエル統合参謀本部議長が司令官たちに宛てた手紙の内容として「ほかのことはすべて上手くいったとしても、マスコミへの対応が適切に行われない限り、その作戦は完全に成功したとは言えない」と。またこの著者ボブ・ウッドワードは2003年2月にはブッシュの戦争(日本経済新聞社)という本を出している。こちらは2001年9月11日の同時多発テロ以降米軍のアフガニスタン攻撃に至るまでの、米国政府内の意思決定やブッシュ大統領以下最高権力の中枢にいる人々の心の動き、発言、行動を追ったものである。この369ページにも「われわれは広報戦争に負けつつある」というブッシュ大統領の言葉が紹介されている。

 私たちは米軍のマスコミに対する対応が大変に上手いと感ずることが多い。それはこのような考え方がベースにあってのことなのだと思う。米軍では軍の戦場は2つあると認識されているのだ。第1の戦場は我々自衛隊も考えている伝統的な戦場である。戦闘力をぶつけ合う本物の戦場である。しかし戦場はこれだけではない。世論やマスコミと戦う第2の戦場があるのだ。民主主義国家においては世論の支持がなければ戦争を継続することは出来ない。マスコミが高度に発達した現代においては、アメリカのCNNに見られるように、戦地の映像がほぼリアルタイムで茶の間に届く。多くの戦死者や戦傷者の映像を見て、戦争の悲惨さばかりが強調されるような報道に接すれば国民の厭戦気分はいやが上にも高まることになる。だから戦争の目的や必要性を国民が理解し、自国の軍は正義のために或いは平和のために、止むを得ず血を流しているというマスコミ報道が必要なのだ。国家として軍としてマスコミの報道をそのように導くことが出来なければ、戦争の継続は困難となるばかりか、パウエル現国務長官の言うように、戦闘には勝っても国家や軍が悪玉に仕立て上げられてしまうことがあるのだ。つまり戦闘に勝って戦争に負けてしまうことになる。

 さて、この第2の戦場における戦いは、我が国においては戦時のみならず平時から常続的に実施されていると考えた方がよい。特に我が国の場合、他の先進国と違い国家防衛についての国民的合意が必ずしも十分とは言えないため、平時からマスコミ関係者や国民に対し、国防の必要性について理解を深めさせる努力が必要である。これまで自衛隊の各級指揮官は第1の戦場における勝利を目指し部隊の練成に精を出してきた。それはもちろん我々自衛官の最重要任務であるが、今後は第2の戦場における勝利も併せて追求しなければならないと思う。そのため各級指揮官は平時から第2の戦場における戦いについて明確に意識しておくことが必要である。我が国においては反日グループの熱心な活動のせいで、自衛隊があるから戦争になると信じ、自衛隊の動きを出来るだけ封じたいと思う人たちが多い。これらの人たちは、あれやこれやで自衛隊を攻撃し、自衛隊の精神的弱体化を目論んでいる。一部マスコミにはこれを支持する人たちもいる。自衛隊はいま第1の戦場で戦うための訓練をしながら、第2の戦場では正に戦闘実施中なのだ。冷戦が終わってなお我が国には国内でイデオロギーの対決、すなわち冷戦状態が残存している。私たちはこれまでこれを戦いと認識していなかった。だから攻撃されてもそれを止むを得ないものと感じ、防御手段も講ずることをしないし、まして積極的な攻勢に打って出ることなど考えもしなかった。今ならインターネットを使って簡単に反論することも可能である。国民の国防意識の高揚という第2の戦場における戦いは、自衛隊はこれまで総理大臣や政治家の戦いだと思ってきた。しかしこれからは、各級指揮官や基地司令等がこれを第2の戦場における戦いと位置付けて勝利を追求することが必要であると思う。

 国民の世論を形成する上でマスコミの果たす役割は絶大である。だから我々はマスコミと正対せざるを得ない。これまで自衛隊ではマスコミには出来るだけ関わりたくないという風潮があったが、今後はもっと積極的にマスコミに関与するぐらいの気構えを持つべきである。広報担当者などは、自衛隊担当の記者とは、繰り返し、繰り返し意見交換を行い、安全保障や自衛隊に関して理解を深めてもらうことが必要である。幸い自衛隊においても近年広報の重要性が叫ばれるようになり、各級指揮官等も第2の戦場があるという意識に目覚めつつある。今後この動きをより進展させるためにアグレッシブな広報を専門とする組織を自衛隊の中に造ることも一案であると思う。従来のマスコミ対応にとどまるのではなく、ホームページの更新、テレビ、ラジオを通じた発信、定期刊行物の発刊、新聞、雑誌への投稿などを常続的に実施するのだ。本を書く人を育てることも必要であろう。若い人たちを自衛隊に呼んで教育することも必要であろう。また隊員に対しては部外で個人や団体が実施する親日的な活動には経費も含めて個人的に支援するという意識を持たせるべきであろうと思う。例えばここ数年新しい歴史教科書が話題になっているが、今後このような本などが出た場合、これをみんなで買いまくるぐらいの意識があっても良いのではないか。更に若い幹部や隊員の場合には新聞や雑誌でもそれがどういう思想傾向を持ったものであるのかさえ理解していない場合もある。無知故に反日活動に協力するようなことがあってはいけない。親日的活動が一定の成果を収めないと、やがて反日活動に圧倒されることになる。それは正に組織的に実施されている。我が国の現状を見れば自衛隊の指揮官、特に上級の指揮官は、いま第2の戦場に目を向けることが大事であると思う。


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