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パートII 7 身内の恥は隠すもの

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7 身内の恥は隠すもの


 近年「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」、いわゆる情報公開法が施行され、自衛隊においても国の安全保障上秘匿を要すると考えられるものなど、一部を除き保有する文書等が要求に応じ公開されることになった。部隊等においても情報公開に関する教育が徹底され、最早如何なることでも隠すのは悪であるというような風潮が生まれつつある。しかし私は少し行き過ぎているのではないかと思っている。昨年話題になったサーズなどは、これを隠蔽することは他人に迷惑をかける。だから絶対にその情報を公開する必要がある。中国政府の対応に非難が集中したことは記憶に新しい。またエイズの非加熱製剤による感染の話なども情報公開が遅れたことにより被害が拡大する結果となったものであり、けしからん話である。そのほかにも医療ミスとか原子力発電所の放射能漏れ、あるいは建設工事のミスなど当該情報が公開されることにより、第3者が対応行動をとることができ被害に遭わないようにすることができるものについては、情報を隠蔽することは厳重に戒められるべきである。更に事故に伴う民事裁判等を有利にするために、官公庁や民間会社などが情報を隠蔽することも責められてしかるべきである。

 それでは何でもかんでも全て公開する必要があるのか。そんなことはないと思う。またそれが情報公開の趣旨であるとも思えない。情報公開法の第1条(目的)には、「公正で民主的な行政の推進に資すること」が目的であり、そのために「1.政府の諸活動を国民に説明する責務を全うすること、2.国民の的確な理解と批判を得られるようにすること」の2点が書いてある。その本来の狙いとするところは、当該情報が公開されないことにより国民が損失を受けることを防止することなのだ。国民の知る権利を楯に、のぞき趣味的なことまで情報公開を要求することは、また戒められなければならないのではないか。情報公開法第5条第二項イ号には「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害する恐れがあるもの」について、情報公開を拒否できることになっている。公人や公的な組織にもプライバシーがあると考えて良いのではないか。自衛隊は国の安全保障を最終的に担保する組織であり、公にできない秘密が存在することはいかなる人も否定はできない。しかしそれ以外にも自衛官にも自衛隊にもプライバシーが認められていいと思う。部隊や隊員が三面記事や週刊誌で笑われただけで終わるようなもの、いわゆる身内の恥的なものまで公開されるようになると、隊員は自分のことを上司に相談することができなくなる。上司に知られてしまえば全て情報公開の対象になってしまうようでは部下隊員の指揮官に対する信頼感は失われてしまう。

 最近はマスコミの情報が迅速でまた突っ込みも厳しいので、下手に隠すと後が大変になるというようなことを聞くことがある。それは言葉を換えれば、「俺はマスコミで叩かれるのがいやだから部下隊員を護らない」と言っているに等しい。上司が部下を護れないことほど上司に対する信頼を失わせるものはない。社会的な影響が大きいか又は国民に損失を与えるようなものでない限り指揮官は部下隊員や部隊の保全に努めるという明確な意志を持つ必要がある。自分の部下が公衆の面前で笑われたり辱めを受けたりすることは指揮官の恥である。指揮官のその姿勢が部隊団結の基盤なのだ。

 論語に次のような話がある。
「楚の葉公(そのようこう)が自慢話をして孔子に言った。『私の村に正直者の躬(きゅう)という正義漢がおります。その男の父親が羊を盗んだとき、息子である彼がその証人となって父を告発したほどであります』と。これに対して、孔子はこう答えました。『私の村の正直者はそれと違っています。父親は子どもをかばって隠してやるし、子どもは父親をかばって隠してやります。これは不正直のようにも見えますが、実はこういう行為の中にこそ、本当の正直さがあると思います』と」(子路第十三)

 私がこの話を初めて知ったのは昭和54年に陸自業務学校(現小平学校)幹部精神教育課程入校に際し、上智大学渡部昇一教授の「日本史から見た日本人(古代編)」を読んで読後所感文の提出を求められたときであった。現代社会において何にでもこれが通用するとは思わないが、何となくほのぼのとするいい話である。身内の恥は隠すものという意識を持たないと自衛隊の弱体化が加速することもまた事実ではないか。反日的日本人の思う壺である。

 自衛隊の精強化を望まない人たちは、どんなことにでも隠蔽体質とか言って攻撃をしてくるであろう。念のために断っておくが私は公開すべきものを隠せと言っているわけではない。各級部隊指揮官が、もはや何もかも公開しなければならないと思い、部隊や隊員を保全するという意識が低下しているのではないかと心配しているのである。情報公開法が我が国や自衛隊の弱体化を目論む人たちに利用される可能性についてもっと注意を払うべきだと思うのである。自衛隊は我が国有事に際し部隊の行動を秘匿しながら作戦を実施しなければならない。そのために常日頃から保全を意識した隊務運営を心がける必要がある。公開を要しない事項については徹底的に秘匿するということで、有事のための訓練をしていると思えば良い。秘匿すると決めたことを秘匿できないようでは作戦遂行に大きな支障が出る。指揮官はそれが出来るまで部隊を鍛えるべきである。もし現状でそれが不可能ならば、これを作戦実施上の重大な問題として認識しておくことが必要である。もし秘密が漏れたならば、なぜ漏れたのか、誰が漏らしたのかを徹底的に追求しなければならない。それが秘密漏洩の抑止力になる。それは国家のため、国民のために必要なことなのだ。自衛隊の秘密保全の態勢は、諸外国の軍と同様に完璧であることを求められている。私たちは航空事故ゼロを目指すと同じように秘密保全についても完璧を目指して努力すべきなのだ。

  • (引用者注)太字は引用者による


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