一体この僕に、何が出来るって言うんだ ◆F9bPzQUFL.
ぼんやりとした意識のまま、白髪の美青年、草摩由希は立ち尽くす。
しばらく立ち尽くした後に、突如として別荘の壁を殴る。
必要以上の力で殴られた壁が軋み、殴りつけた左手に鋭い痛みが走る。
それを感じているはずなのに、由希は壁を殴ることを辞めない。
何度も、何度も、何度も、繰り返し壁を殴る。
痛みを認識できないと言うように、左手から血が流れ出しても壁を殴ることをやめない。
いや、認識したくないのか。
これを、夢だと思って居たいからか。
答えは出ない、だから壁を殴る。
しばらく立ち尽くした後に、突如として別荘の壁を殴る。
必要以上の力で殴られた壁が軋み、殴りつけた左手に鋭い痛みが走る。
それを感じているはずなのに、由希は壁を殴ることを辞めない。
何度も、何度も、何度も、繰り返し壁を殴る。
痛みを認識できないと言うように、左手から血が流れ出しても壁を殴ることをやめない。
いや、認識したくないのか。
これを、夢だと思って居たいからか。
答えは出ない、だから壁を殴る。
赤と黒で、染まり始める。
全て終わったんじゃないのか。
もう、苦しまなくってよかったんじゃないのか。
左手の痛みが、これが現実だと突きつけてくる。
この狂った殺し合いも、人を殺さなくては生き残れないという事も。
そして、何よりあの場にいた「彼女」の存在が。
全て現実であると突きつけてくる。
もう、苦しまなくってよかったんじゃないのか。
左手の痛みが、これが現実だと突きつけてくる。
この狂った殺し合いも、人を殺さなくては生き残れないという事も。
そして、何よりあの場にいた「彼女」の存在が。
全て現実であると突きつけてくる。
そう、現実。
目を瞑るだけで鮮明に思い出せる。
全てが終わる前、変わる前の彼女の姿が。
自分の体だけではない、頭の中の思考、自分という人格。
一人の人間のありとあらゆる要素全てを見下しているような目をした彼女の姿が。
鮮明に、鮮明に瞼の裏に写る。
ここには居ないはずなのに、心を抉るように突き刺してくる。
「ご、ぐぇ」
頭を支配する不快感に誘われるように、こみ上げた胃液を吐き出していく。
口を押さえた左手から流れる血と混じりながら、吐き出された胃液が地面にぶつかり、びちゃびちゃと音を立てていく。
胃液の酸味が喉を焼く感覚に襲われるが、既にそれを優に通り越していく不快感を味わっている。
「は、はは」
自嘲気味に、笑う。
そう、終わっただけ。
乗り越えたわけではない。
噛みしめる羽目になった事実を、胃液とともに舌で転がしていく。
そして振り切るように、血が痛々しく流れる左手を握りしめる。
痛みで、無理矢理現実に逃げる。
.
が。
目を瞑るだけで鮮明に思い出せる。
全てが終わる前、変わる前の彼女の姿が。
自分の体だけではない、頭の中の思考、自分という人格。
一人の人間のありとあらゆる要素全てを見下しているような目をした彼女の姿が。
鮮明に、鮮明に瞼の裏に写る。
ここには居ないはずなのに、心を抉るように突き刺してくる。
「ご、ぐぇ」
頭を支配する不快感に誘われるように、こみ上げた胃液を吐き出していく。
口を押さえた左手から流れる血と混じりながら、吐き出された胃液が地面にぶつかり、びちゃびちゃと音を立てていく。
胃液の酸味が喉を焼く感覚に襲われるが、既にそれを優に通り越していく不快感を味わっている。
「は、はは」
自嘲気味に、笑う。
そう、終わっただけ。
乗り越えたわけではない。
噛みしめる羽目になった事実を、胃液とともに舌で転がしていく。
そして振り切るように、血が痛々しく流れる左手を握りしめる。
痛みで、無理矢理現実に逃げる。
.
が。
逃げたところで、だ。
「どうするの、かな」
逃げたところで、待ち受けるのは殺し合いの舞台。
この場所で、生き残れるのは一人しかいない。
たった一人、一人だけ。
事実、現実、それは逃げられない。
だからといって、死ぬわけにはいかない。
こんな場所で差し出す命など、生憎と持ち合わせていない。
絶対に生き残ってみせる、それは変わらない。
「真知」
その時、無意識に一人の名前を呟く。
彼にとってかけがえのない、大切な人の名前。
彼女のためにも生き残り、絶対に彼女の元へ帰らなくてはいけない。
"生き残る"という事。
それは、それだけは覆らない大前提の決定事項。
「どうするの、かな」
逃げたところで、待ち受けるのは殺し合いの舞台。
この場所で、生き残れるのは一人しかいない。
たった一人、一人だけ。
事実、現実、それは逃げられない。
だからといって、死ぬわけにはいかない。
こんな場所で差し出す命など、生憎と持ち合わせていない。
絶対に生き残ってみせる、それは変わらない。
「真知」
その時、無意識に一人の名前を呟く。
彼にとってかけがえのない、大切な人の名前。
彼女のためにも生き残り、絶対に彼女の元へ帰らなくてはいけない。
"生き残る"という事。
それは、それだけは覆らない大前提の決定事項。
たとえ、どんな形であれ。
生き残らなくてはいけないのだ。
どんな手を使ってでも。
「わかってるさ」
自分に向けて、一つの言葉を投げかける。
何があっても生き残るという事に対してか、それともどんな手でも使うという事に対してか。
言葉を続けずに、由希は黙々と支給された物から得られる情報を頭に入れていく。
殺し合いのルールブック、この場所の地図と思わしき一枚の紙、豊富な食料、方位磁針、時計、そして参加者名簿と書かれた一冊の冊子。
この場所を生き残るのに最低限の物が、この不思議なデイパックからは次々に出てくる。
全く重量を感じさせないそれは、まるでファンタジーの産物のようだ。
「夢なら……」
どれだけ楽か。
全部悪夢でした、と一言で終わることならどれだけ楽か。
そうではないことは、この左腕の痛みが教えてくれる。
現実に帰り、名簿の確認を後回しにしてデイパックの中身を確認していく。
まず手にしたのは見慣れないブレザーの制服。
学校名も「アリス学園」と、聞きなれない学園の名前だ。
妙な誤解を招くわけにもいかないので、そそくさとその服をデイパックにしまう。
次に取り出したのは一冊の台本。
表題は「水の館」、出演キャスト一覧と全編通しての台詞が収録されている。
聞いたことのないドラマの名前だ、と思いながら中身にザっと目を通し、そのままデイパックへと戻していく。
そして手にした三つ目の道具は、一本の長銃。
アイルビーバックとかいいそうなコワモテのグラサンの男が使いそうな、映画でしか見たことがないような物が出てくる。
懇切丁寧に書かれた説明書、そして予備の弾薬。
ゆっくりと手に触れれば、金属独特の冷たさが伝わってくる。
これは、本物だ。
一発試しに撃ってみるまでもなく、由希は確信する。
「これで、人が」
殺せる。
続くはずの言葉は無意味に喉が震えるだけで、声としては出ない。
自信がないからか、それとも妙な正義感からか。
先ほど同様、その正体は分からない。
願わくばこれを使う機会に恵まれないよう祈りながら、一発の散弾を込め、脇に携える。
最後に、後回しにしていた名簿の確認をしていく。
ぱらぱらぱらぱらとページをめくり、そこに書かれた名前を把握していく。
何人かの名前に目を通した後、由希は固まる。
「本田……さん」
人生の転機とも呼べる機会を作った人の名前が、そこに記されていた。
いけない、よりにもよってこんな場所に彼女が巻き込まれるなんて。
何故か? 考えるまでもない。
あの横暴だった頃の慊人なら、間違いなく彼女を巻き込むだろう。
自分や兄や夾、依鈴を巻き込んだのは彼女により深い傷を与えるためか。
傷つき果てた左手で拳を作り、もう一度無言で壁を叩く。
何度目か分からない痛みが襲いかかるが、それを気にしている場合ではない。
自分に向けて、一つの言葉を投げかける。
何があっても生き残るという事に対してか、それともどんな手でも使うという事に対してか。
言葉を続けずに、由希は黙々と支給された物から得られる情報を頭に入れていく。
殺し合いのルールブック、この場所の地図と思わしき一枚の紙、豊富な食料、方位磁針、時計、そして参加者名簿と書かれた一冊の冊子。
この場所を生き残るのに最低限の物が、この不思議なデイパックからは次々に出てくる。
全く重量を感じさせないそれは、まるでファンタジーの産物のようだ。
「夢なら……」
どれだけ楽か。
全部悪夢でした、と一言で終わることならどれだけ楽か。
そうではないことは、この左腕の痛みが教えてくれる。
現実に帰り、名簿の確認を後回しにしてデイパックの中身を確認していく。
まず手にしたのは見慣れないブレザーの制服。
学校名も「アリス学園」と、聞きなれない学園の名前だ。
妙な誤解を招くわけにもいかないので、そそくさとその服をデイパックにしまう。
次に取り出したのは一冊の台本。
表題は「水の館」、出演キャスト一覧と全編通しての台詞が収録されている。
聞いたことのないドラマの名前だ、と思いながら中身にザっと目を通し、そのままデイパックへと戻していく。
そして手にした三つ目の道具は、一本の長銃。
アイルビーバックとかいいそうなコワモテのグラサンの男が使いそうな、映画でしか見たことがないような物が出てくる。
懇切丁寧に書かれた説明書、そして予備の弾薬。
ゆっくりと手に触れれば、金属独特の冷たさが伝わってくる。
これは、本物だ。
一発試しに撃ってみるまでもなく、由希は確信する。
「これで、人が」
殺せる。
続くはずの言葉は無意味に喉が震えるだけで、声としては出ない。
自信がないからか、それとも妙な正義感からか。
先ほど同様、その正体は分からない。
願わくばこれを使う機会に恵まれないよう祈りながら、一発の散弾を込め、脇に携える。
最後に、後回しにしていた名簿の確認をしていく。
ぱらぱらぱらぱらとページをめくり、そこに書かれた名前を把握していく。
何人かの名前に目を通した後、由希は固まる。
「本田……さん」
人生の転機とも呼べる機会を作った人の名前が、そこに記されていた。
いけない、よりにもよってこんな場所に彼女が巻き込まれるなんて。
何故か? 考えるまでもない。
あの横暴だった頃の慊人なら、間違いなく彼女を巻き込むだろう。
自分や兄や夾、依鈴を巻き込んだのは彼女により深い傷を与えるためか。
傷つき果てた左手で拳を作り、もう一度無言で壁を叩く。
何度目か分からない痛みが襲いかかるが、それを気にしている場合ではない。
もう一度、最初の言葉を思い出す。
「この場所で、生き残れるのは一人」
声に出すことで、自分の中でその意味を反芻していく。
生き残れるのは、たった一人。
自分が生き残る為には、彼らの命が失われなければいけない。
「僕は……」
脇に携えた長銃を眺めて、自問自答する。
"生き残る"という事は覆せない、絶対の条件だ。
大切な人の元に帰るため、このたった一つの命だけは守り抜かなければいけない。
ならば、最後の一人になるしかない。
幾多もの命の犠牲の上に、立たなければいけないのだ。
その中には親族の命だけではなく、あの人の命も含まれている。
そう、この場では生き残るためには対価となる代償が必要だ。
現実的で残酷な選択を、この瞬間に強いられている。
与えられた物資、残された時間。
自分が使える前提を適用した上で、選ばなくてはならない。
「クソ……!!」
選べるわけがない究極の二択。
だが、そのどちらかを選択することを強いられている。
厳密にいえば二択ではない。
自分自身の命を絶つ、ドロップアウトという選択肢。
首輪を筆頭とした困難を解決し、この殺し合いを転覆させるという選択肢。
前者を選ぶことは敗北であり、後者は先の見えない暗闇を進んだ先の敵と戦う事になる。
どちらにも共通していえるのは、望みが無いことだ。
それならば。
修羅の道を進み、親族を含めてこの手で殺め、幾多もの屍の上にあの人を立たせることを選ぶか。
それとも、自分自身がそこに立つことを選ぶか。
四択を、頭の中に用意してから。
しばらく、考え込む――――
「この場所で、生き残れるのは一人」
声に出すことで、自分の中でその意味を反芻していく。
生き残れるのは、たった一人。
自分が生き残る為には、彼らの命が失われなければいけない。
「僕は……」
脇に携えた長銃を眺めて、自問自答する。
"生き残る"という事は覆せない、絶対の条件だ。
大切な人の元に帰るため、このたった一つの命だけは守り抜かなければいけない。
ならば、最後の一人になるしかない。
幾多もの命の犠牲の上に、立たなければいけないのだ。
その中には親族の命だけではなく、あの人の命も含まれている。
そう、この場では生き残るためには対価となる代償が必要だ。
現実的で残酷な選択を、この瞬間に強いられている。
与えられた物資、残された時間。
自分が使える前提を適用した上で、選ばなくてはならない。
「クソ……!!」
選べるわけがない究極の二択。
だが、そのどちらかを選択することを強いられている。
厳密にいえば二択ではない。
自分自身の命を絶つ、ドロップアウトという選択肢。
首輪を筆頭とした困難を解決し、この殺し合いを転覆させるという選択肢。
前者を選ぶことは敗北であり、後者は先の見えない暗闇を進んだ先の敵と戦う事になる。
どちらにも共通していえるのは、望みが無いことだ。
それならば。
修羅の道を進み、親族を含めてこの手で殺め、幾多もの屍の上にあの人を立たせることを選ぶか。
それとも、自分自身がそこに立つことを選ぶか。
四択を、頭の中に用意してから。
しばらく、考え込む――――
ガチャリ、と玄関のドアが開く。
別荘内にあった物を使って応急処置が行われた左手から順に、草摩由希の美麗な体が朝日に照らされていく。
静かにドアを閉め、ふぅとため息をついてから由希は前を向く。
まだ、決断の時ではない。
光の見えない暗闇の道に、光が灯されるかもしれない。
自分の進むべき道を、叩き壊されるかもしれない。
どうなるかは、分からない。
だが、じっとしている場合でもない。
生き残ることを前提とし、無用な消費を押さえながらも行動を起こしていく。
そうすれば待ち受ける運命の先で用意された未来が、少しでも変わるかもしれないから。
「……行こう」
掻き消えてしまいそうな小さな一言と共に、由希は最初の一歩を踏み出していった。
別荘内にあった物を使って応急処置が行われた左手から順に、草摩由希の美麗な体が朝日に照らされていく。
静かにドアを閉め、ふぅとため息をついてから由希は前を向く。
まだ、決断の時ではない。
光の見えない暗闇の道に、光が灯されるかもしれない。
自分の進むべき道を、叩き壊されるかもしれない。
どうなるかは、分からない。
だが、じっとしている場合でもない。
生き残ることを前提とし、無用な消費を押さえながらも行動を起こしていく。
そうすれば待ち受ける運命の先で用意された未来が、少しでも変わるかもしれないから。
「……行こう」
掻き消えてしまいそうな小さな一言と共に、由希は最初の一歩を踏み出していった。
ここに、一つの天秤があります。
片方の皿に乗せられるのは、彼の呪いの運命を変えた人物。
片方の皿に乗せられるのは、彼が最も大切にしている運命の人。
どちらが傾くのかは分かりません、誰も知りません。
ほら、天秤の皿を支えている手が離されますよ。
どちらに、傾くんでしょうね?
それとも、その結果を知らずに立ち去ってしまうのでしょうか?
はたまた、この天秤ごとひっくり返してしまうのでしょうか?
どう行った結末を迎えるのか、楽しみですね。
ねぇ、鼠さん?
【E-3/別荘前/朝】
【草摩由希@フルーツバスケット】
[状態]:左手負傷
[装備]:ウィンチェスター M1887(5/5、予備弾10)@現実
[道具]:基本支給品、アリス学園高等部制服@学園アリス、「水の館」の台本@こどものおもちゃ
[思考]
基本:絶対に生き残る。
1:動く、まだ決める段階ではない。
[備考]
※参戦時期は本編終了後
【草摩由希@フルーツバスケット】
[状態]:左手負傷
[装備]:ウィンチェスター M1887(5/5、予備弾10)@現実
[道具]:基本支給品、アリス学園高等部制服@学園アリス、「水の館」の台本@こどものおもちゃ
[思考]
基本:絶対に生き残る。
1:動く、まだ決める段階ではない。
[備考]
※参戦時期は本編終了後
ある騎士のためのバラッド | 時系列順 | [[]] |
あの背中を想い | 投下順 | [[]] |
本編開始 | 草摩由希 | [[]] |
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