ある騎士のためのバラッド ◆PbH8Onsw.o
それは肌から感じ取った異常。
非日常、その圧倒的な質量。
非日常、その圧倒的な質量。
――目を開けると、そこは殺し合いの中でした。
「『殺し合い』、『清龍』、『巫女』、『儀式』……まるで漫画の世界だ」
柔らかな金の髪をなびかせ、紫の瞳を物憂げに閉じる。
細く、しかし男性らしい堅牢さを漂わせた指先は、優雅に紙をひるがえす。
細く、しかし男性らしい堅牢さを漂わせた指先は、優雅に紙をひるがえす。
ここは終わりが始まった、殺戮の庭――彼、須王環の終わりの始まりは、地図上の区画でいうところのD-4 『塔』、その麓だった。
彼は『参加者名簿』と書かれた冊子をゆっくりと、支給されたバックの中へと戻す。
いかにも大量生産、『庶民』の持ち物といった感じのデイバック。
中途半端な高級志向の人間であれば、そのチープさに顔を歪めるであろうはずの布製のザック。
しかし、汲めども尽きぬ財力を誇る須王家、その子息として生きて来た環には興味深い、新しい物との出会いだった。
ここがこんな場所でなければとっくりとその構造、庶民の知恵を研究したいところだ。
いかにも大量生産、『庶民』の持ち物といった感じのデイバック。
中途半端な高級志向の人間であれば、そのチープさに顔を歪めるであろうはずの布製のザック。
しかし、汲めども尽きぬ財力を誇る須王家、その子息として生きて来た環には興味深い、新しい物との出会いだった。
ここがこんな場所でなければとっくりとその構造、庶民の知恵を研究したいところだ。
しかし、状況はそれを許さない。
皮革製品とは比べ物にならない程にざらついた布地をひと撫でして、視線を上へ向ける。
皮革製品とは比べ物にならない程にざらついた布地をひと撫でして、視線を上へ向ける。
眼前にそびえ立つ塔は、非常に高い。もう一度地面へと視線を移して嘆息する。
彼は不愉快だった。
自分がどうやってここへと連れ去られたのか、始めの場所で好き勝手に喋り散らし、人を見下した無礼な者たち何者なのか。
鳳鏡夜や常陸院兄弟、須王家の何かしらの陰謀ではないのかとも疑った。
しかし、それでは筋の通らないことが多すぎる。そもそも、人が死んだのだ、自分の目の前で。
自分がどうやってここへと連れ去られたのか、始めの場所で好き勝手に喋り散らし、人を見下した無礼な者たち何者なのか。
鳳鏡夜や常陸院兄弟、須王家の何かしらの陰謀ではないのかとも疑った。
しかし、それでは筋の通らないことが多すぎる。そもそも、人が死んだのだ、自分の目の前で。
さらに、人間一人を宙に浮かせるあのトリックは一体なんだったのか?
手品だ、などという明後日な想像はすでに捨て置いた。
手品だ、などという明後日な想像はすでに捨て置いた。
彼は人を見て、その心情を嗅ぎ取ることを得意とするホストである。
あの広場で話をしていた人物たちの、常人ならざる気配を痛いほど感じ取っていた。
あの広場で話をしていた人物たちの、常人ならざる気配を痛いほど感じ取っていた。
認めざるを得ない事実が頭をもたげる。おそらく自分達は、日常から逸脱した、どこかへ連れてこられた。
外からの救助も望めるかもしれない。しかし、ここでじっとしていたくはなった。
外からの救助も望めるかもしれない。しかし、ここでじっとしていたくはなった。
「……ひどい罵り言葉もあったものだ」
身に起こった事態を受け入れた彼、その白磁のような肌が怒りに青ざめている。
始まりの広場で着物を着た女性が言い放った、様々な罵詈雑言。
女性に怒りを覚えるのは、紳士たるホストとしては恥ずべきこと。しかし、どうにも聞き過ごすことはできなかった。
始まりの広場で着物を着た女性が言い放った、様々な罵詈雑言。
女性に怒りを覚えるのは、紳士たるホストとしては恥ずべきこと。しかし、どうにも聞き過ごすことはできなかった。
さらに、その女性はおかしなことを口走りながら、『殺し合え』などという一方的な要求を突き付けてきたのだ。
「我々が『汚らしい芋虫』? ふ、何処の誰か知らんが……庶民には美しいものが分からないと見えるな。ならば分からせてやろうじゃないか!」
怒りにゆがみかけた表情に気付き、慌てて普段の優雅な微笑を取り繕う。
「我ら桜蘭高校ホスト部が――全力で接客し、陥落させてやろう。男だろうが女だろうが、迷える子羊はみんなお客様だからな」
大仰な動作で両手を広げ、困ったように肩をすくめる。
そうかと思うと顔に手を当て、眉間にぴんと張った人差し指を添え、さらにその流れのまま前髪を軽やかに跳ね除け、眼を閉じて清廉にほほ笑む。
そうかと思うと顔に手を当て、眉間にぴんと張った人差し指を添え、さらにその流れのまま前髪を軽やかに跳ね除け、眼を閉じて清廉にほほ笑む。
くるくると回りながら次々にポーズを変え、環は独り言を続ける。
「俺の魅力をもってすれば、あの着物のお嬢さんも……愛らしい、恋に頬を染める姫の一人になるさ!」
彼はただ格好をつけながら回転しているだけではない。
思考は現実へ常に向けられている。
思考は現実へ常に向けられている。
あの広場の人物たち、『慊人』『心宿』と呼び合っていた。
何者かはわからない――しかし、彼らに近づく手掛かりがゼロなわけではない。
何者かはわからない――しかし、彼らに近づく手掛かりがゼロなわけではない。
特に『心宿』と似た名の者たちが名簿の中に散見される。
鬼宿・角宿・亢宿――三人も。これは偶然ではないに違いない。
この人物たちならば、心宿の言った『青龍』の意味を知っているのかもしれない。
鬼宿・角宿・亢宿――三人も。これは偶然ではないに違いない。
この人物たちならば、心宿の言った『青龍』の意味を知っているのかもしれない。
「鏡夜と合流し、あいつの考えを借りて事態を打破しなければ。双子どももさっさと見つけてやらないとな。
そして、ハルヒ! 全員待ってろよ、お父さんがすぐにいくぞ!」
そして、ハルヒ! 全員待ってろよ、お父さんがすぐにいくぞ!」
目標は、殺し合いを主催した者たちの『説得』。
ホスト部は当然のこと、そのほかの参加者をすべて集め、主催者たちの居場所を突き止めて殺し合いをやめさせること。
ホスト部は当然のこと、そのほかの参加者をすべて集め、主催者たちの居場所を突き止めて殺し合いをやめさせること。
「そうだ、じっとしていてはキングの名が廃る。……殺し合いだなんて、馬鹿げてる」
だが脳裏に絡みつくのは濃厚な赤い残像。
それなしにはどんな人間もこの世に存在することがかなわない物、首を――飛ばされたあの男性。
環は見た、吹き飛んだあの切り口、ぽっかりと空いた底なしの様な穴。その圧倒的な『喪失』を。
それなしにはどんな人間もこの世に存在することがかなわない物、首を――飛ばされたあの男性。
環は見た、吹き飛んだあの切り口、ぽっかりと空いた底なしの様な穴。その圧倒的な『喪失』を。
「人があんなに、簡単に。こんなの、突然すぎる……納得できるわけないだろう」
ハルヒたちが死ぬ、などと、考えただけでも足から力が抜けそうだった。
しかし、彼は恐怖に飲まれ、うずくまってしまうような人間ではないのだ。
しかし、彼は恐怖に飲まれ、うずくまってしまうような人間ではないのだ。
キッと前方をにらんだ、その様子はいつもの芝居がかった彼の表情ではない。
陳腐な言い方が許されるならば――誇り高い騎士のような。
陳腐な言い方が許されるならば――誇り高い騎士のような。
手元に地図を取り出し一瞥する。
人が集まるとすれば、おそらくは学校・デパート・病院あたりが妥当、と大まかの見当をつけた。
今いる位置からは、ちょうど三方向にバラバラな配置である。
人が集まるとすれば、おそらくは学校・デパート・病院あたりが妥当、と大まかの見当をつけた。
今いる位置からは、ちょうど三方向にバラバラな配置である。
続いて、自分に支給されたらしいものを手のひらに取った。
ご丁寧に添えられた説明書には、こう書いてある。
ご丁寧に添えられた説明書には、こう書いてある。
『スタングレネード――爆音と閃光を発する。人間の視覚、聴覚および平衡感覚を一時的に麻痺させることが可能な手榴弾。室内で最も有効。』
一見手榴弾にしか見えないが、殺傷能力はないらしい。
だからと言ってこんなもの、できれば使いたくはないと考えながらも、ポケットの中に一つ入れておく。
だからと言ってこんなもの、できれば使いたくはないと考えながらも、ポケットの中に一つ入れておく。
再び地図を見る。
そうして何処へ行くか、と考えながらも環は、部員たちの安否が気遣われて集中が続かない。
地図から目線を空へと移した。辺りには穏やかな風が吹いている。
そうして何処へ行くか、と考えながらも環は、部員たちの安否が気遣われて集中が続かない。
地図から目線を空へと移した。辺りには穏やかな風が吹いている。
本当に殺し合いなどが始まったのか、わからなくなるほどに静穏な朝。
しかし、場の空気がすでに非日常のものであることを心のどこかで感じていた。
それは確実に始まっているのだろう。自分の知らないところで、すでに犠牲者がいるのかもしれない。
しかし、場の空気がすでに非日常のものであることを心のどこかで感じていた。
それは確実に始まっているのだろう。自分の知らないところで、すでに犠牲者がいるのかもしれない。
「ハルヒ、鏡夜、光に馨――その他の人たちも絶対に、死なせない。桜蘭高校ホスト部部長、須王環の名に誓うぞ」
決然と言った彼の表情は、勇壮にして不敵。
だが、彼が陥落を誓った城はあまりに大きく――不可視の脅威に満ち満ちていた。
【D-4/塔の麓/朝】
【須王環@桜蘭高校ホスト部】
[状態]: 健康
[服装]:桜蘭高校制服
[装備]: ポケットにスタングレネード×1
[道具]:基本支給品、スタングレネード×3(一つはポケット、残りはデイバックの中)、不明支給品(1~3、未確認)
[基本行動方針]: 主催屋の居場所を突き止め、説得(接客)して殺し合いを止める。
[思考]
0: 仲間を集める、ホスト部員を優先して探す。
1:学校・デパート・病院のどこから行くか決める。
2: 殺し合いに対する恐怖。特にホスト部員が死んでしまったりしたら、どうしたらいいかわからないほどの恐怖。
[状態]: 健康
[服装]:桜蘭高校制服
[装備]: ポケットにスタングレネード×1
[道具]:基本支給品、スタングレネード×3(一つはポケット、残りはデイバックの中)、不明支給品(1~3、未確認)
[基本行動方針]: 主催屋の居場所を突き止め、説得(接客)して殺し合いを止める。
[思考]
0: 仲間を集める、ホスト部員を優先して探す。
1:学校・デパート・病院のどこから行くか決める。
2: 殺し合いに対する恐怖。特にホスト部員が死んでしまったりしたら、どうしたらいいかわからないほどの恐怖。
[備考]
※参戦時期はハルヒ入部より後です。その他の細かな時期は、のちの書き手さんにお任せします。
※参戦時期はハルヒ入部より後です。その他の細かな時期は、のちの書き手さんにお任せします。
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