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コラム社説2007年12月28日(金)付 愛媛新聞

沖縄教科書問題 課題残した「灰色」の幕引きだ


 沖縄戦の集団自決の記述をめぐる高校日本史教科書の検定問題は、軍の「強制」は許さないが「関与」や「心理的強制」は容認するというあいまいな形で一応の決着をみた。

 「集団自決は日本軍の強制」とする記述に修正を求めた今年三月公表の検定意見に端を発した問題は、沖縄県民らの抗議行動を受けた政府が教科書会社の自主的な訂正申請を促す異例の展開となった。その結果、教科書検定審議会は「日本軍により集団自決に追い込まれた」などの訂正申請を「承認することが適当」とする意見を決定した。

 このため、軍の関与や強制性が教科書に事実上復活することになった。軍の指導や住民への教育など集団自決に至る背景事情が書き加えられた部分もあり一歩前進とはいえる。ただ教科書検定の在り方に多くの課題や疑念を残したのも事実だ。

 検定意見そのものは撤回しなかった。「軍に強制された」といった記述に「誤解のおそれ」があるというのが理由のようだが、検定審は基本的とらえ方の中で「集団自決が起きた状況をつくり出した要因にもさまざまなものがあり、軍による手りゅう弾の配布や壕(ごう)からの追い出しなど軍の関与はその主要なものととらえられる」としている。

 沖縄県民らが訴えてきた軍の「強制」と同義ではないのか。検定審は検定意見を維持するという体裁にこだわったとしか思えない。素直に当初の検定意見を撤回すべきだった。

 「強制」と「関与」の判定基準は何だったのか。そもそも当初の検定意見では「関与」すら認めていなかったはずなのに、変更に至った経過説明や理由は明らかにされないままだ。これでは、たとえ事実上の強制が復活しても沖縄県民には不信が残ろう。

 当初の記述削除の検定意見は安倍晋三政権の誕生と無縁ではなかろう。安倍前首相は歴史教育の見直しに積極的だった。今年三月には慰安婦動員について「狭義の強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実」などと発言。アジア各国から反発と不信を招いたばかりか、米下院外交委員会が日本政府に公式謝罪などを求める決議可決のきっかけにもなった。

 三月公表の検定意見は安倍前首相に配慮した文部科学省の意向を反映したものだったのではないかとの疑念が消えない。教科書の記述が時の政権の意向で修正されるようなことがあってならないのはいうまでもない。文科省は政治介入の疑念を抱かれるような事態を二度と招いてはならない。

 今回の再検定で教科書と検定制度への信頼が失墜したことは間違いない。その原因は国民の目に見えないブラックボックスの中ですべてが決められる密室性にある。

 非公開の目的は圧力を受けない静謐(せいひつ)な環境を保つためのようだが、議事録すらないのでは検証のしようがない。検定審の透明性を高めるのが何より必要だ。沖縄県民を巻き込んだ騒動を制度改善に結びつけたい。