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2007年勧告の「総括」

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2007年勧告の「総括」



 (a) 2007年3月21日に,国際放射線防護委員会(ICRP)の主委員会は,放射線防護の体系に対する改訂された勧告を採択した。この改訂された勧告は,Publication 60 (ICRP,1991b)として1991年に刊行された以前の勧告に正式に取って代わり,またPublication 60以降に発行された放射線源からの被ばくの管理に関する追加のガイダンスを更新するもので,以前の勧告
とガイダンスを統合し,発展させたものである。


 (b) 委員会は,勧告の草案に対する国際的な意見聴取(パブリックコメント)を2004年と2006年の2段階に分けて実施したのち,この勧告を作成した。このような透明性と利害関係者(stakeholder)の関与という方針に従うことによって,委員会は本勧告がより明確に理解され,より広く受け容れられるものと期待する。


 (c)本勧告の主な特徴は次のとおりである:

  • 等価線量と実効線量における放射線加重係数と組織加重係数の更新,及び放射線被ばくの生物学と物理学の入手可能な最新の情報に基づく放射線損害の更新;

  • 委員会の放射線防護の3つの基本原則,すなわち,正当化,最適化,線量限度の適用の維持,そして,被ばくをもたらす放射線源と被ばくする個人に基本原則をどのように適用するかについての明確化;

  • 行為と介入を用いた従来のプロセスに基づく防護のアプローチから,状況に基づくアプローチへ移行することによる発展  本勧告が計画被ばく/緊急時被ばく/現存被ばく状況として特徴づけている,すべての制御可能な被ばく状況に対して,正当化と防護の最適化の基本原則を適用する;

  • 計画被ばく状況におけるすべての規制されている線源からの実効線量と等価線量に対する,委員会の個人線量限度の維持  これらの限度は,いかなる計画被ばく状況においても規制当局により容認されるであろう最大の線量を示す;

  • 個人線量やリスクの制限によって,すべての被ばく状況に対し同様の方法で適用できる防護の最適化原則の強化  すなわち,計画被ばく状況における線量拘束値とリスク拘束値,緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における参考レベル;

  • 環境の放射線防護を実証するための枠組みを策定するためのアプローチの組込み。


 (d) 委員会の放射線防護体系は,その規模と起源にかかわらず,あらゆる線源からの電離放射線に対するすべての被ばくに適用される。しかし,この勧告は,全体として,被ばくの線源又は個人が受ける線量をもたらす経路のいずれかが,何らかの合理的な手段で制御可能な状況に対してのみ適用できる。ある被ばく状況は,通常それらの状況が規制手段による制御になじまないために,放射線防護法令から除外され,また,ある被ばく状況は,そのような制御が是認されないと考えられる場合,一部の,あるいはすべての放射線防護の規制要件の対象から免除される。


 (e) 電離放射線の健康影響についての理解が委員会勧告の中心である。電離放射線に起因する健康リスクに関する生物学的及び疫学的情報を検討した結果,委員会は以下の結論に達した。様々な臓器/組織に対するリスクの分布は,Publication 60以降,特に乳がんと遺伝性疾患に関し,若干変化したと判断される。しかし,低線量において直線的反応を仮定すると,過剰のがんと遺伝性影響による複合した損害は引き続き1Sv当たり約5%で,変更はないままである。この今回の推定値に含めたのは固形がんに対する線量・線量率効果係数(DDREF)の使用で,その値は2のままで変わらない。委員会はまた,出生前被ばくの後も,a)がんのリスクは小児期早期の被ばく後と同様であり,また,b)奇形の誘発と重篤な精神遅滞の発現に関しては,しきい線量が存在すると判断する。委員会はPublication 60に与えられている皮膚,手/足,及び眼に関する実効線量限度及び等価線量限度を維持したが,更なる情報が必要であると認識しており,特に眼に関しては判断の修正が必要かもしれないと考える。また,がん以外の疾患(例えば,心血管の疾患)において可能性のある過剰についての入手可能なデータは,低線量におけるリスクに関する情報を提供するには不十分であると判断する。


 (f) しかし,委員会が電離放射線の健康影響について広範囲に検討した結果は,放射線防護体系に関していかなる基本的な変更の必要性も示さなかった。重要なことは,1991年以降に公表され方針を示したガイダンスにおける現存の数値的勧告は,別に明記しない限り,引き続き有効である,ということである。したがって,この改訂された勧告は,以前の勧告やその後の方針を示したガイダンスに基づいている放射線防護規則に対して,何らの本質的な変更も意味しないはずである。


 (g) がん及び遺伝性影響の誘発に対する直線の線量反応関係の中心となる仮定によれば,低線量においてさえも線量の増加は比例したリスクの増加を誘発するが,この仮定は引き続き,放射線の外部線源と放射性核種の摂取による線量の合計に対して根拠を与えている。


 (h) 等価線量と実効線量の使用には引き続き変更はないが,それらの計算に用いられる方法には多くの改訂が行われた。生物物理学的考察とともに,様々な放射線の生物効果比に関する一連の入手可能なデータの検討により,中性子と陽子に使用される放射線加重係数の値が変更され,中性子に対する加重係数の値は,中性子エネルギーの連続関数として与えられ,また荷電パイ中間子に関する値が含められた。光子,電子,ミュー粒子及びアルファ粒子に関する放射線加重係数は変えられていない。


 (i)重要な変更は,外部線源と内部線源からの線量を,様々な数学モデルの使用に代えて,医学断層画像に基づく人体の標準コンピュータファントムを使用して計算することになった点である。成人については,男性と女性のファントムを用いて得られた数値を性別に平均化して等価線量を計算する。次に,更新されたリスクデータに基づいた,両性及びすべての年齢の集団に概数として適用するように意図された,年齢と性別の平均の改訂された組織加重係数を用いて,実効線量が計算されるであろう。実効線量は,個人についてではなく,標準人について計算される。


 (j) 実効線量は防護量として使用するように意図されている。実効線量の主な利用は,放射線防護の計画立案と最適化のための予測的な線量評価,及び規制目的のための線量限度の遵守の実証である。実効線量を疫学的評価のために使用することは推奨されないし,また,個人の被ばくとリスクの詳細な特定の遡及的調査にも使用すべきでない。


 (k) 集団実効線量は,最適化のための,つまり主に職業被ばくとの関連での,放射線技術と防護手法との比較のための1つの手段である。集団実効線量は疫学的リスク評価の手段として意図されておらず,これをリスク予測に使用することは不適切である。長期間にわたる非常に低い個人線量を加算することも不適切であり,特に,ごく微量の個人線量からなる集団実効線量に基づいてがん死亡数を計算することは避けるべきである。


 (1) 放射線量を評価するためには,外部被ばくの線源との位置関係,取り込まれた放射性核種の体内動態や人体を模擬するためのモデルが必要である。基準モデルと必要な基準パラメータ値は,一連の実験的調査と人体研究から判断を通じて確立され,選定される。規制の目的のため,これらのモデルとパラメータ値は取決めにより固定され,不確実性に左右されない。委員会は,これらのモデルとパラメータ値の不確実性又は精度の不足を認識しており,これらを厳しく評価して,不確実性を低減する努力をしている。個人の遡及的な線量及びリスクの評価に関しては,個々のパラメータと不確実性を考慮に入れなければならない。


 (rn)委員会による従来のガイダンスと勧告を統合する過程においては,透明性と実用性を改善するために,防護体系の構成と用語の若干の変更が望ましいことが示された。特に,行為と介入の区別は,より広い放射線防護分野の人々の間で明確に理解されていなかったようである。更に,このようなやり方では分類しにくい被ばく状況も存在した。


 (n) 委員会は今,行為と介入の従来の分類に置き換わる3つのタイプの被ばく状況を認識している。これら3つの被ばく状況は,すべての範囲の被ばく状況を網羅するよう意図されている。3つの被ばく状況は以下のとおりである:

  • 計画被ばく状況。これは線源の計画的な導入と操業に伴う状況である。(このタイプの被ばく状況には,これまで行為として分類されてきた状況が含まれる。)

  • 緊急時被ばく状況。これは計画的状況における操業中,又は悪意ある行動により発生するか もしれない,至急の注意を要する予期せぬ状況である。

  • 現存被ばく状況。これは自然バックグラウンド放射線に起因する被ばく状況のように,管理 に関する決定をしなければならない時点で既に存在する被ばく状況である。

 (o)改訂された勧告では3つの重要な放射線防護原則が維持されている。正当化と最適化の原則は3タイプすべての被ばく状況に適用されるが,一方,線量限度の適用の原則は,計画被ばく状況の結果として,確実に受けると予想される線量に対してのみ適用される。これらの原則は以下のように定義される:

  • 正当化の原則:放射線被ばくの状況を変化させるようなあらゆる決定は,害よりも便益が大となるべきである。

  • 防護の最適化の原則:被ばくの生じる可能性,被ばくする人の数及び彼らの個人線量の大きさは,すべての経済的及び社会的要因を考慮に入れながら,合理的に達成できる限り低く保つべきである。

  • 線量限度の適用の原則:患者の医療被ばく以外の,計画被ばく状況における規制された線源からのいかなる個人の総線量も,委員会が特定する適切な限度を超えるべきでない。

 委員会は,職業被ばく,公衆被ばく,患者(及び介助者,介護者及び研究の志願者)の医療被ばくという3つのカテゴリーを引き続き区別する。女性の作業者が妊娠を申告した場合は,胚/胎児に対して,公衆の構成員に規定されているものとほぼ同じ防護レベルを達成するため,追加の管理について考慮しなければならない。


 (p)改訂された勧告は最適化の原則の重要な役割を強調している。この原則はすべての被ばく状況に同じやり方で適用されるべきである。制限は,名目上の個人(標準人)への線量に適用される。すなわち,計画被ばく状況に関しては線量拘束値が,また緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況に関しては参考レベルが適用される。このような制限を上回る大きさの線量になる結果をもたらす選択肢は,計画段階で却下すべきである。重要なことであるが,線量に対するこれらの制限は,最適化全体として,予測的に適用される。最適化された防護戦略を履行したのち,拘束値又は参考レベルの値を超過することが示されたならば,その理由を調査すべきであるが,その事実だけで必ずしもすぐに規制の措置を促すべきではない。委員会は,すべての被ばく状況における放射線防護に対して共通のアプローチを重要視することが,放射線被ばくの様々な事情における委員会勧告の適用を助けるであろうと期待する。


 (q) 国の関係当局は,線量拘束値や参考レベルの値を選定する際にしばしば重要な役割を演じる。この選定プロセスに関するガイダンスは,改訂された勧告に記載されている。このガイダンスは,委員会がこれまでに行った数値的勧告を考慮している。


 (r) 計画被ばく状況は,行為に対する委員会の従来の勧告の範囲内で適切に管理されてきた線源と状況を包含している。放射線の医学利用における防護もこのタイプの被ばく状況に含まれる。計画被ばく状況において防護を計画するプロセスには,事故や悪意ある事象を含む通常の操業手順からの逸脱についての考察を含むべきである。委員会は,そのような事情で発生する被ばくを潜在被ばくと呼ぶ。潜在被ばくは計画されていないものであるが,予測することは可能である。したがって,ある線源の設計者と使用者は,事象の発生確率を評価し,その発生確率に見合った工学的安全防護措置を導入するなど,潜在被ばくの発生の可能性を低減するための対策をとらなくてはならない。計画被ばく状況に関する勧告は,Publication 60とその後発行された刊行物に記載された内容と実質的に変化していない。行為に関する職業被ばくと公衆被ばくの線量限度は,計画被ばく状況における規制下の線源に対して引き続き適用されている。


 (s) 医学における放射線防護は,患者だけでなく,患者を介護あるいは介助している間に放射線に被ばくする個人,及び生物医学研究に関係する志願者の防護も含まれる。これらすべてのグループの防護には特別な考慮が必要である。医学における放射線防護と安全に関する委員会の勧告は,Publication 73(ICRP,1996a)に与えられているが,一連の刊行物において更に詳細な説明が加えられた。それらの刊行物に記載された勧告,ガイダンス及び助言は引き続き有効であり,本勧告と,本勧告を支持するためにICRP第3専門委員会が草案を作成したPublication 105(ICRP,2007b)に要約されている。

 (t) 緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における参考レベルを用いた最適化の重視は,防護戦略の履行後に残る線量の残存レベルに焦点を絞る。この残存線量は,緊急事態の結果として総残存線量を示す参考レベルより下,又は,規制当局がそれを超えないように計画したいと考える現存状況における参考レベルより下であるべきである。これらの被ばく状況は,しばしば多数の被ばく経路を含み,このことは多くの異なった防護対策を含む防護戦略を考慮しなければならないであろう,ということを意味する。しかし,最適化のプロセスは,引き続き,最適な戦略を策定する際の重要な入力として,特定の対策により回避された線量を使用するであろう。

 (u) 緊急時被ばく状況は,緊急時への備えと対応に関する考慮を含む。緊急時への備えは,緊急事態が発生した際,被ばくを選定された参考レベルの値より下に低減する目的を持った最適化された防護戦略を履行するための計画の立案を含むべきである。緊急事態への対応中,参考レベルは防護措置の効果を評価するためのベンチマーク,また更なる対策を確立する必要性への1つの入力情報となるであろう。

 (v) 現存被ばく状況は,自然起源の被ばくの他,過去の事象や事故,及び委員会勧告の範囲外で実施された行為からの被ばくを含む。このタイプの状況では,防護戦略は,しばしば,相互に影響しあう,長年にわたる漸進的なやり方で履行される。住居や作業場における屋内ラドンは重要な現存被ばく状況であり,委員会が1994年にPublication 65(ICRP,1993b)で具体的な勧告を行ったものである。それ以来,いくつかの疫学的研究により,ラドン被ばくによる健康リスクが確認され,ラドンに対する防護に関する委員会勧告が全般的に支持された。委員会は今,改訂された勧告における放射線防護に対するそのアプローチに合致して,国の当局は,ラドン被ばくに対する防護の最適化の助けとして,国の参考レベルを設定すべきであると勧告する。連続性と実行可能性のため,委員会は,年間線量参考レベルと,Pzablication 65に与えられている上位の値10mSv(住居内における600 Bq m-3のラドン222から規約によりi換算された実効線量)を維持する。委員会は,国の参考レベルを上回るレベルの作業中のラドン被ばくを職業被ばくの一部として考慮すべきであることを,また一方,その参考レベル未満の被ばくはそうではないことを再確認する。しかし,国の参考レベル以下でも最適化は要件である。

 (w) 改訂された勧告は環境の防護の重要性を認めている。委員会は,これまで,主に計画被ばく状況の関連で,環境中の放射性核種の移行に関してのみであるが,人類の環境に関心を持ってきた。このような状況で,委員会は引き続き,一般公衆を防護するために必要な環境管理の基準は,他の生物種がリスクにさらされないことを保証することであると信ずる。すべての被ばく状況における環境防護の健全な枠組みを提供するため,委員会は標準動物及び標準植物の使用を提案する。受容の可能性の根拠を確立するため,これらの標準生物に対して計算された追加線量は,特定の生物学的影響を持つことが知られている線量や,自然環境で一般的に経験される線量率と比較することができるかもしれない。しかし,委員会は,環境防護に関する何らかのかたちの"線量限度"の設定を提案しない。


 (x) 改訂された勧告は,放射線防護の方針に対する何らかの基本的な変更を含まないが,本勧告は遭遇する多くの被ばく状況における防護体系の適用を明確にすることを助け,その結果,既に高い防護基準を更に改善する上で役立つと委員会は期待している。


参考文献

ICRP,1991b. The 1990 Recommendations of the International Commission 
on Radiological Protection. ICRP PubUca廿on 60.ノlnn. ICRI)21(1-3).

ICRP,1993b. Protection against radon-222 at home and at work. ICRP 
Publication 65. Ann.∫α~P 23(2).

ICRP,1996a. Radiological protection in medicine. ICRP Publication 73.
Ann.ICRP 26(2).

ICRP,2007b. Radiological protection in medicine. ICRP Publication 105. 
Ann.ICRP 37(6).


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