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安定ヨウ素剤予防服用の考え方・参考資料

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参考資料



Ⅰ. 各国の安定ヨウ素剤服用に係る介入レベル等について


1、服用対象・介入レベル等
2、用法
3、配布方法
4、備蓄等

ドイツ


1、服用対象・介入レベル等
0-12 歳 50 mSv
13-45 歳 250 mSv
45 歳を超える 投与せず
線量は甲状腺の予測線量

2、用法
年齢   ヨウ素量として
1 ヶ月まで  12.5 mg
1-36 ヶ月  25 mg
3-12 歳  50 mg
13-45 歳  100 mg
新生児は一回服用のみ
妊婦と授乳婦は2回服用に制限

3、配布方法
事前 及び 事後

4、備蓄等
5 km以内 家庭に配布
5-12 km 学校、病院、役場,職場などに備蓄
10-12 km 原則として指定されたところに備蓄


イギリス


1、服用対象・介入レベル等
全年齢 100 mGy
子供 100 mGy 以下
45 歳以上 投与せず
線量は甲状腺の回避線量
英国放射線防護庁は30 mGy~100 mGy を勧告.

2、用法
年齢   ヨウ素量として
1 ヶ月まで  12.5 mg
1-36 ヶ月  25 mg
3-12 歳  50 mg
12 歳以上  100 mg

3、配布方法
事後


オーストリア


1、服用対象・介入レベル等
0-16 歳 50 mGy
妊婦
授乳婦
以上を重要対象とする。
17-45 歳 250 mGy
46 歳以上 投与せず
線量については不明

2、用法
16 歳以下 年齢により異なる
17-45 歳 ヨウ素量として100 mg

3、配布方法
重要対象は事前
その他は事後

4、備蓄等
重要対象 家庭に事前配布、学校・幼稚園
(1 日分)
46 歳以上 自己購入 (薬局で)


フランス


1、服用対象・介入レベル等
全年齢 100 mSv
線量は予測線量

2、用法
年齢   ヨウ素量として
0-3 歳  25 mg
3-12 歳  50 mg
13 歳以上  100 mg

3、配布方法
事前

4、備蓄等
0-5 km  各家庭配布または、学校、保育所、保健所などに備蓄
5-10km  学校、保育所、保健所などに備蓄されるが薬局に行けば無料で予防的に入手可能
それ以外の地域  無料で予防的に入手可能
20 km 圏内には通知


ベルギー


1、服用対象・介入レベル等
0-19 歳 妊婦 授乳婦 10 mSv
20-40 歳  100 mSv
41 歳以上  500 mSv
線量は甲状腺の回避可能な線量

2、用法
年齢  ヨウ素量として
新生児  25 mg
幼児  25 mg
小児  50 mg
成人  体重による

3、配布方法
事前

4、備蓄等
0-10 km 事前に家庭に配布
10-20 km 希望により家庭配布
20-30 km 指定場所に配布・備蓄
       学校、病院、役場,職場などに備蓄



アメリカ(FDA)


1、服用対象・介入レベル等
0―18 歳  50 mGy
妊婦・授乳中  50 mGy
18 歳を超える―40 歳  100 mGy
40 歳を超える  5 Gy
線量は予測線量

2、用法
年齢   ヨウ化カリウム量として
1ヶ月まで  16 mg
1ヶ月を超える-3歳  32 mg
3歳を超える-12歳  65 mg
(70kg 以上の体重では、130 mg)
12歳を超える  130 mg
妊婦・授乳中  130 mg

3、配布方法
事後
州レベルで決定

4、備蓄等
州レベルで決定


Ⅱ. 世界保健機関による介入レベルの考え方


世界保健機関(WHO)によるガイドライン(1)の中では、チェルノブイリ事故後、15歳以下の者の甲状腺発がんリスク2.3 × 10-4/Gy をもとに、小児の甲状腺がん発症生涯リスクを1 × 10-2/Gy とし、副作用リスクとしてポーランドにおける安定ヨウ素剤服用後の重篤な副作用発症がなかったことから10-7未満として、若年者についてリスク・ベネフィットのつりあうのが10μGy 程度であるとした上で、参考値としてはIAEA の包括的介入レベル100mGy の回避可能な放射線による甲状腺の被ばく線量の10分の1 である10mGy を推奨している。また、19歳以上40歳未満の者については、100mGy を推奨している。しかしながら、チェルノブイリ周辺での被ばく者のデータについては、とりわけ線量評価等に関して、その線量計測方法や評価方法の妥当性等に複雑な問題を含み、さらに不適切な安定ヨウ素剤の事後服用問題なども指摘されている (※2,3,4,5)。

また、被災地域のヨウ素欠乏状況、更に正確な内部被ばく線量評価の困難さなどから、線量依存性の甲状腺がんの発生数増加やリスク増加については相反するデータが蓄積されている(※6)。そのため、チェルノブイリ事故後の周辺小児甲状腺がんの増加が真に甲状腺内部もしくは外部被ばくに関係するものか否かについての検討が、いくつかの国際プロジェクトで開始されている(※7)。特にロシア、ベラルーシでの症例対象研究の解析結果が待たれると同時に、アメリカNCI がベラルーシ、ウクライナで展開している中の約24,000人のコホート集団による長期追跡調査においても、これらの放射線被ばくと健康障害の関係について解析されることが期待されている。

また、甲状腺がんは現在の医療をもってすれば基本的には非致死性の疾患であるため、安定ヨウ素剤の副作用リスクを考えるにあたっては、極めて重篤な副作用のみを考慮することは適切でないと考えられる。

これらの理由によりWHO が推奨する若年者に対する指標をそのまま我が国で採択するにあたっては注意が必要である。

文献
1.Guidelines for iodine prophylaxis following nuclear accidents update 1999, WHO, Geneva,
1999.
2 . Likhtarev. I.A., et al. Thyroid cancer in the Ukraine. Nature 375;365, 1995.
3.Goulko, G.M., et al. Estimation of thyroid doses for evacuees from Pripiat. Radiat.
Environ. Biophys. 35;81-87, 1996.
4.Astakhova, L.N., et al. Chernobyl related thyroid cancer in children 32 of Belarus. A
case-control study. Radiat. Res. 150;349-356, 1998.
5.Jacob, P., et al. Childhood exposure due to the Chernobyl accident and thyroid cancer
risk in contaminated areas of Belarus and Russia. Br. J. Cancer 80(9):1461-1469, 1999.
6.Robbins, J., et al. Iodine nutrition and the risk from radioactive iodine: a workshop
report in the Chernobyl long-term follow-up study. Thyroid 11;487-491, 2001.
7.Yamashita, S., et al. Chernobyl; Message for the 21st century ICS 234, Elsevier,
Amsterdam (in press).


Ⅲ. リスクに基づく介入レベルの試算について


IAEA SS-109(※1)では、不利益と利益の釣合い(リスク・ベネフィットバランス)を考慮した次の計算式により退避や避難に関する介入レベルについて算出している。

B=Y0-(Y+R+X+Ai+As-Bc)

B:あらゆる対策に関連する正味の便益
Y0:対策を講じないことによる放射線の損害
Y:対策を講じた場合に残存する放射線の損害
R:防護対策を採ることにより生じる身体的リスク
X:防護対策を実施するために必要な資源と努力
Ai:防護対策により生じる個人の不安と混乱
As:防護対策により生じる社会の混乱
Bc:防護対策により得られる安心の便益

ここでは、上述式を用い、以下の条件に基づいてヨウ素剤服用における介入レベルを試算する。

(1) ヨウ素摂取による甲状腺発がんリスクについて


[1] NCRP Rep.No.80(電離放射線による甲状腺がんの誘発)(1985)(※2)では、外部被ばく及び放射性ヨウ素(ヨウ素-125、ヨウ素-131、ヨウ素-132、ヨウ素-133、ヨウ素-135)の吸入による甲状腺被ばくとそのリスクについてヒト及び動物実験データに基づき、幅広く論じており、絶対リスクモデルを用いて甲状腺がんによる死亡の生涯リスク推定値7.5×10-4/Gy を算出している。 これは、北アメリカで6 rad(60mGy)~1500 rad(15 Gy)のX線被ばくを受けた子供(男女を含む。)の甲状腺発がんリスク推定値で、年当たりの過剰リスクを一般人100万人について2.5人/rad(2.5×10-4/Gy)に基づいている。このリスク係数を用いて、次式により、18歳以下の男女及び19歳以上の男女につ
いて生涯リスクを算出している。

Specific Risk Estimate = R・F・S・A・Y・L

R:外部被ばくを受けた子供(男女を含む。)の推定値(過剰リスク2.5人/rad・10+6人)
F:線量効果低減係数(外部被ばく及びヨウ素-132、ヨウ素-133、ヨウ素-135の吸入は1、ヨウ素-125、ヨウ素-131の吸入は1.3)
S:性別因子(女性=4/3、男性=2/3:女性は男性の2倍)
A:年齢因子(18歳以下=1、19歳以上=1/2)
Y:リスクにさらされる予想平均年数(Total(Lifetime)years)(百万人当たりの集団に対して:18歳以下男性=9.79、女性=12.15、19歳以上男性=8.61、女性=9.38)
L:致死係数(最大値として1/10)

19歳以上 18歳以下
総リスク 致死リスク 総リスク 致死リスク
I-125、I-131 の
吸入による内部
被ばく
2.74 6.80 0.274 0.680 4.83 10.5 0.483 1.05
I-132 、I-133 、
I-135 の吸入によ
る内部被ばく、
及びX線、γ線
による外部被ば
8.22 20.4 0.822 2.04 14.5 31.5 1.45 3.15
(/rad・10+6人(×10-4/Gy))

また、上式を用いて、男女平均、年齢平均、リスクにさらされる年数を40年(被ばくから発症までの最長年数)及び致死係数1/10を用いて、外部被ばくによる甲状腺の総合的な生涯致死リスクを、一般人100万人について7.5人/rad(7.5×10-4/Gy)と算定している。 UNSCEAR(1988b)(※3)とBEIR V(NAS)※(4)はともに甲状腺に対する最も新しいリスク推定値としてNCRP Report No.80(1985)(※2)が述べたものを採用している。これらに基づき、ICRP Publ.60 (1991)(※5)は、甲状腺がんによる死亡の生涯リスク推定値7.5×10-4/Gy を採用し、甲状腺がんの致死率は0.1といわれているので、過剰リスクは7.5×10-3/Gy となるとしている。

[2] Ron,E.らの報告(※6)では、7つの疫学データを集約し、総数12万人中約半数の被ばく者の追跡調査データをまとめ、その内700例近い甲状腺がんの発生を年齢、性別、甲状腺被ばく線量からリスク計算している。5つのコホート研究および2つの症例対象研究のデータを再解析し、15歳未満の被ばく者の過剰リスクは4.4×10-4/Gy/y であるとした。広島、長崎における原爆被ばく者の追跡調査では、20歳以上のリスクは小さく、40歳以上では実質上ゼロとしている。このリスク係数を用いて、被ばくから発症までの最長年数を約50年(広島、長崎の追跡調査から)、WHO ガイドライン(1999)(※7)を参考に年齢因子(子供=1,大人=1/2)及びリスク年数因子(子供=1,大人=1/2)を考慮すると、甲状腺がんの平均的過剰リスクは1.2×10-2/Gy となる。

[3] Jacob, P.らの報告(※8)では、チェルノブイリ事故の影響を受けたベラルーシ、ウクライナ、ロシア連邦における0~15歳の子供のリスクは2.3×10-4/Gy/y としている。前述と同様に、このリスク係数にリスク年数50年、年齢因子、リスク年数因子を考慮すると、甲状腺がんの平均的過剰リスクは6.5×10-3/Gy となる。


(2) 安定ヨウ素剤の服用による副作用リスク

甲状腺がんは現在の医療をもってすれば基本的には非致死性の疾患であるため、安定ヨウ素剤の副作用リスクを考えるにあたっては、極めて重篤な副作用のみを考慮することは適切でない。したがって、成人に対して軽度または中程度の症状を呈する副作用のリスク、6×10-4を用いる。


(3) その他

一人あたりの安定ヨウ素剤の購入費、備蓄費は安価であるので考慮しない。また、安定ヨウ素剤配布については他の対策と同時期に併せて実施するため、これにかかる費用等は考慮しない。

以上の(1)~(3)を踏まえ

以上の(1)~(3)を踏まえ、IAEA SS-109の手法に基づき、正当化される介入レベルD を計算する。

正味の便益Bが正である必要があることから、
B=Y0-(Y+R+X+Ai+As-Bc)≧0 となる。

Y0=DGy×(1Gy 当たりの甲状腺生涯リスク)
Y=0(残存するリスク は無いと仮定)
R=6×10-4(安定ヨウ素剤を服用することにより生じる副作用リスク)

Ai=0, As=0、X=0、Bc=0、と仮定する。

前述の(1)の[1]、[2]、[3]の各々の報告を基に、計算すると、
[1]D×7.5×10-3/Gy-6×10-4≧0 故にD≧0.08 Gy、
[2]D×1.2×10-2/Gy-6×10-4≧0 故にD≧0.05 Gy、
[3]D×6.5×10-3/Gy-6×10-4≧0 故にD≧0.09 Gy、
となる。

以上から、介入レベルは50 mGy~90 mGy 以上となる。このレベルは、外部被ばくあるいはヨウ素-132、133、135の吸入による内部被ばくに対する値であるが、NCRP Rep.80によれば、ヨウ素-125、131の吸入による内部被ばくに対してはこの3倍の値150 mGy~270 mGy 以上が介入レベルになる。


文献
1.Intervention criteria in a nuclear or radiation mergency. IAEA SS 109, Vienna, 1994.
2.NCRP Rep.No.80. Induction of thyroid cancer by ionizing radiation. 1985.
3.Report to the general assembly, with annexes, sources, effects and risks of ionizing
radiation. UNSCEAR 1988b.
4.Committee on the biological effects of ionizing radiation. BEIR V(NAS), 1989.
5. ICRP Publ.60. Recommendations of the international commission on radiological protection,
adopted by the commission on November 1990. 1991.
6. Ron. E., et al. Thyroid cancer following exposure to external radiation: a pooled
analysis of seven studies. Radiat. Res. 141;259- 277, 1995.
7. Guidelines for iodine prophylaxis following nuclear accidents update 1999, WHO, Geneva,
1999.
8.Jacob, P., et al. Thyroid cancer risk to children calculated. Nature 392;31-32, 1998.


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