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放射線被ばくによる甲状腺への影響

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2.放射線被ばくによる甲状腺への影響



甲状腺への放射線の影響は、外部被ばくによる場合と甲状腺に取り込まれた放
射性ヨウ素の内部被ばくによる場合がある。安定ヨウ素剤の予防服用は、放射性
ヨウ素の内部被ばくに対してのみ有効である。

放射線の甲状腺への外部被ばくは、放射性ヨウ素の甲状腺への内部被ばくに比
べて、放射線の影響が厳しくなることを踏まえ、ここでは、甲状腺への放射線の
外部被ばく及び内部被ばくの知見を考え合わせることとする。

2-1 甲状腺がん


(1) 広島、長崎の

広島、長崎の原爆被災者の長期にわたる疫学調査(1)によると、甲状腺外部被ばく後、長期間にわたり甲状腺がんの発生確率の増加が認められている。すなわち、被ばく者の生涯にわたる甲状腺がんの発生確率(生涯リスク)については、

  • 甲状腺がんの発生確率は、被ばく時の年齢が20歳までは、線量に依存して有意な増加が認められる(※2)
  • 被ばく時年齢が、40歳以上では、甲状腺がんの生涯リスクは消失し放射線による影響とは考えられなくなる(※2)

という結果が得られており、被ばく時の年齢により甲状腺がんの発生確率が異なることが判明している。

(注)本報告では、放射線の単位である「Gy」と「Sv」については、概念の混乱を避けるため、準拠した文献の記載どおりとした。また、β 線やγ 線の放射線荷重係数を1として、1Gy=1Sv とする。

(2) 放射線治療後の患者の

広島、長崎の原爆被災者のデータに加え、放射線治療後の患者のデータをまとめ甲状腺外部被ばくによる甲状腺がんの発生確率を解析した結果(※3)では、以下の知見が得られている。

  • 5歳未満での被ばくに比較して、10~14歳での被ばくでは、その発生確率は5分の1に低下する。また、20歳以上では、1Gy 以下の甲状腺被ばく後の甲状腺がんの発生確率は極めて低い
  • 若年時に被ばくした者の甲状腺がんの発生確率は、100mGy の甲状腺被ばくでもその増加が観察される
  • 若年時に被ばくした者の甲状腺がんの発生確率は、被ばく後5~9年で増加し、15~19年で最大となり、40年後でも発生確率は残存する

(3) 核爆発実験で

マーシャル諸島における核爆発実験で生じた放射性降下物による甲状腺被ばくの影響調査(※4)では、小児の甲状腺がんの発生確率の増加が認められている。なお、甲状腺に集積した放射性物質としてヨウ素以外にテルルの存在が報告されている。

(4) チェルノブイリ事故後

チェルノブイリ事故後の国際的調査に関して、被調査集団の事故時の年齢が15歳未満で、その60%は5歳未満の小児を対象とした調査では、甲状腺内部被ばくによる甲状腺がんの発生確率は、有意な増加が認められている(※5,6,7,8)。

また、チェルノブイリ原発事故当時の乳幼児に関する調査では、事故直後の短半減期の放射性降下物による甲状腺内部被ばくによる甲状腺がんの増加が示唆されている(※8,9,10)。

さらに、ロシアで甲状腺内部被ばく者の甲状腺がんの発生確率に関する調査では、被ばく時の年齢が18歳未満の者では成人の3倍である(※11)。

なお、チェルノブイリ事故では、ヨウ素-131と甲状腺発がんリスクとの関連が報告されてきたが、最近の別の研究では、甲状腺がんの発生にヨウ素-131以外の放射性ヨウ素が寄与している可能性が示唆されている(※12,13)。

(1)~(4)の調査より

上記の(1)~(4)の調査より、以下の知見が得られている。

  • 放射線被ばくにより誘発される甲状腺がんの発生確率は、特に乳幼児について高くなる
  • 放射線被ばくにより誘発される甲状腺がんの大部分は、甲状腺濾胞細胞に由来する乳頭腺癌であり、一般的には、悪性度が高くないため、適切な治療が行われれば、通常の余命を全うできる

なお、放射線被ばくにより誘発される甲状腺がんに関する上記のいずれの調査も、死亡に基づくものではなく罹患率に基づいて得られた解析である。

2-2 甲状腺機能低下症


一定量以上の放射線に被ばくした後、数ヶ月の期間をおいて、甲状腺の細胞死の結果として甲状腺ホルモンの分泌が減少することにより、甲状腺機能低下症が発症する場合がある。

甲状腺機能低下症の発症は、放射線の確定的影響であって、しきい線量が存在する。そのしきい線量を超えた場合には、被ばく線量が増加するに従って発生率が増加し、重篤度も高くなる。

現在、国際原子力機関(以下「IAEA」という。)並びに世界保健機関(以下「WHO」という。)では、内部被ばくによる甲状腺機能低下症が発症すると予測されるしきい線量として甲状腺等価線量で、5Gy が提案されている(※14,15)。このしきい線量については、下方に、見直しが行われているところである(※15,16)。

2-3 その他の甲状腺疾患


マーシャル諸島における核爆発実験で生じた放射性降下物による甲状腺被ばくの影響調査(※4,17)及びチェルノブイリ原子力発電所事故調査(※9)では、小児の甲状腺良性結節の発症が報告されている。一方、長崎の原爆被災者の最近の調査では、甲状腺被ばくの影響として自己免疫性と考えられる甲状腺機能低下症の発症も示されている(※18)。これら甲状腺疾患の発症に係る放射線被ばくとの関連については、さらに検討が積み重ねられているところである。


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