トイレのドアを閉め、鍵をかけた梨花は、目の前の便座を見やって、ふぅと深い溜息をつく。
用を足すでもなく、しばし躊躇うように立ち尽くしていたが、おもむろにぺたんと便座に座り込むと、勢いよくスカートの下のショーツを下ろす。
そして両足の間に右手をかざす。掌は微かに震えていた。これからする行為を嫌悪しているかのようだ。
そこでもしばし躊躇って硬直するが、やがて両目を固く閉じるや、その掌を自らの秘所へと誘う。
閉じられた秘唇を軽く愛撫し、刺激を与える。
「んっ、んあっ、んんっ」
割れ目へと指先を挿し込み、己が花園の入口を静かにこじ開け、三ヶ月前に咲かせたばかりの花を自ら弄び始める。
三ヶ月前と三週間前にそこへと挿し込まれた、彼の指と男根の感覚を思い出しながら。
「んはっ、あん、はぁっ……け……い…いちぃ…んっ」
外に漏れないよう必死に息を押し殺そうとつつも、しかしその口から零れるは、今は遥か遠くにいる最愛の人、そして未来の夫と定めし者の名。
指の動きは次第に早く、荒々しくなってゆき、ぬちゅっぐちゅっ…という淫靡な水音が混ざり始める。下の便器に、微かに糸を引いた滴がつうっと零れてゆく。
「けい…いちぃ…あっ…んっ…んはっ、…け…いいち…圭一っ」
微かな声で恋人の名を呼び続ける。呼んでも彼に声は届かない、彼は来てくれない。そのやり場のない思いが更に指を、手を、腕を加速させる。
「っ!!圭一っ、あっ――――――くっはっ…」
びくんっと全身を大きく痙攣させ、一瞬天井を仰いで絶頂を迎えた梨花は―――しかし、転瞬がくんとうな垂れて、快感とはかけ離れた表情を浮かべる。
寂寥、憂鬱、嫌悪、煩悶、そして慕情のない交ぜになった歪んだ顔。
無言でがっくりと俯いた梨花の口から………やがて嗚咽が漏れる。
「くっ、うくっ、ううっ……あ…いたい…、うっ、あなたに…逢いたい…傍にいたい」
瞳から零れる涙を拭おうとして、右手をかざし―――その手が自慰で汚れていることに顔を顰めるのだった。
「ううっ、ぐっ…こんなんじゃ…ダメね。でも…やっぱり自分に嘘はつけない。ぐすっ…どうすればいいの?」
東京は、雛見沢からあまりにも遠かった。
圭一が戻ってくる事も、梨花が出向く事も、決して容易ではない。
大学進学で旅立って以来、彼が戻ってきたのは六月の綿流し祭の一夜きり。
進学以前は、毎日当たり前のように逢っていたことを思えば、覚悟していたとは言えあまりに辛い現実だった。
旅立ちの前の晩、そして奉納演舞の後の晩に彼と肌を重ねた感覚が、遠く感じられる。
ただ寂しさを紛らわせるために、その感覚を追い求めて自慰に耽ってしまう自分が余りにも情けない。
「こんなことじゃ、ダメよね。逢いたければ逢いに行けばいい。そのためには――」
左手で涙を拭い、右手の穢れを紙で拭き取った梨花は、ある決意を固めるのだった。



バイトを終えた圭一は、この日も疲労困憊の重い足取りでアパートに戻ってきた。
ふと手帳で明日の予定を確認する。暦は八月。お盆明けで明日のバイトは休みであった。
口から溜息と共に、弱音が漏れる。――あぁ帰りたい。みんなに…梨花に逢いたいなぁ。
梨花は今頃夏休みであろう。何をしているのだろうか。
戻りたくとも、圭一の財政は学費と生活費だけでもカツカツで、六月に一度帰るのが精一杯だったのだ。
大事な収入源になっているファミレスのバイトのシフトに、度々大きな穴を開けてしまうわけにもいかない。
(やっぱり、親父の言葉に甘えるべきだったかなぁ……いや、そうもいかないか)
圭一は内心でぼやき、そして頭を振る。この日の朝から昼の間、圭一の両親が不意にアパートを訪れていたのだ。お盆期間にあった東京での仕事の帰りに立ち寄ったのだという。
いうまでもないが東京と雛見沢を往復すると、結構な金額が飛ぶ。
仕事ゆえ交通費を支給されているのであろう両親とはわけが違う――と、圭一は思っていたのだが、実はそうでもないということを、未だに彼は知らない。
そんな圭一は、帰り際冗談交じりに父親が言った「新幹線代肩代わりしてやるから一緒に帰省するか?」という誘惑についつい乗りそうになるのを必死に堪えるのだった。
その一方で梨花が来るのもきっと難しいだろう、と圭一は諦観していた。彼女はまだ高校生だ。しかも両親が居ない身の。
幾らなんでも公由さんとかに、俺と逢うための交通費などはそうそう強請れないだろう。
「…やっぱり辛いよなぁ、遠距離恋愛ってヤツは」
憂鬱な表情で鍵を差し込み、ドアを開けて―――そして圭一は息を飲んだ。

「あ……け、圭一っ!圭一っ!!」
ドアを開けて、圭一が部屋の明かりが点いていることに驚く間もなく、玄関で待ち構えていたエプロン姿の梨花がその胸に思いっきり飛び込んできた。圭一がバランスを崩して倒れこむくらい強引に。
「おかえりなさいっ!!逢いたかったわ、圭一♪」
「…り、梨花っ!?き、来てたのか。なら連絡の一本ぐらいしろよっ!びっくりしたじゃねぇか!!」
「だって驚かせようと思ったんだもの♪」
「だからってなぁ……」
この時圭一はまだ知らなかったが、梨花を圭一のアパートに手引きしたのは、彼の両親だった。圭一がバイトに行っている隙に、ちょうど入れ替わりの形になったのだ。でなければ田舎娘の梨花が、初めての東京訪問ですんなりと圭一の住まいには辿り着けなかっただろう。
「まぁ一応住所は教えてあったし、合鍵はうちの両親にでも借りたんだとして、旅費はどうしたんだ?」
「園崎家のツテでアルバイトを始めたのよ。エンジェルモートの」
「何だってっ!?梨花がバイト?しかもエンジェルモートだと?よく公由さんが許したなぁ」
後見人になっている公由村長が、梨花にバイトを許すとは俄かには考えられない圭一だった。しかも、いささかケシカラン制服のエンジェルモートのだ。
「勿論反対されたわよ。でも背に腹は代えられないわ。すねを齧ることなく圭一と大っぴらに逢うためなら」
「そっか。頑張ったんだな。嬉しいぞ、梨花」
「疲れたでしょ?ご飯にする、それともお風呂にする?」
こういう時どう答えるべきか、何故か圭一は解っていた。彼もまた、健全な男子だったから。しかも辛抱を強いられている立場の。
「もちろん梨花を頂く」
そう言って圭一は有無を言わさぬ勢いで、梨花の唇を塞ぐのだった。

キスを終えた二人は、万年床よろしく部屋に敷かれたままの布団の上に移動する。
圭一が帰宅してから、ずっと頬を緩ませっぱなしの梨花がエプロンと上着とスカートを脱ぐと、場違いにもその下から体操服が露になる。
そして持ってきたカバンの一つをガサゴソと漁って、そこから妙なものを取り出す。
「ふふふ、圭一。今日は大サービスよ」
「な、なにぃ!?そ、それはっ!!」
「み~☆今日のボクは圭一のにゃーにゃーなのですよ。いっぱいいっぱい愛でて欲しいのです。圭一のミルクがたくさん欲しいのです。にゃーにゃー」
「り、梨花ぁあ!!ぐはっ!!」
猫耳と鈴付き首輪、そして尻尾を体操服で装備した梨花にKOされた圭一は、その場で卒倒した。

倒れた圭一が復活するよりも早く、しだれ寄った猫耳梨花は、ズボンのファスナーを開け、パンツを下ろしてしまう。
「…もう…我慢できない…の。早く圭一のが欲しい」
屹立した圭一の分身を愛しげに愛撫すると、梨花は待ちかねたかのようにパクッと咥える。
「り…梨花…あ、気持ちいい…いいぞ…上手くなったなぁ…。しかもその姿…ヤバイ、ヤバすぎるっ!」
その場に横たわったまま、立ち直る間もなく下半身からこみ上げる快楽に襲われた圭一は、至福の声を上げながら、猫耳付きの頭を撫でる。
「はむ、んん…んふぅ…、んん…んむ…むふ…ちゅぱ」
梨花は一心不乱に圭一の分身を口でしごく。そのピストンは激しく、上下する度に首輪の鈴がチリンチリンと音を立てる。
「へぇいいひ、おいひい…んっ…じゅる、んむ…」
平素我慢を強いられていた圭一の分身の強張りは、梨花の熱い口内での愛撫に対してあまりにも脆かった。
「あ、あは…スマン、お、俺もう…ダメだ。で、出るぅう!」
実に呆気なく、圭一は一回目の放出を梨花の口内で果たす。たちまち梨花の口内は、激しく痙攣する分身から迸る精液で満たされる。
「はむ、ん!?―――むぐっ…んご、んんんんっ…ごく、くふん…ごふぉ…ん…こくん、ん、ごくん…ごくん、…ごくん…んふっ」
流石に全ては収まりきれず、口の両端から白濁の液を滴らせながらも、梨花は圭一のミルクの大半を飲み干すのだった。
そして口からこぼれた液も舌と指で綺麗に拭って、
「こくん…くはぁ、はぁ…あ、け、圭一のミルク、おいしかったのですよ…にゃー」
と、猫が顔を洗う仕草を真似る姿を見て、圭一は再び卒倒…もとい昇天しそうになってしまった。
「おいしいって…。あんまり無理すんなよ…」
梨花が圭一の精液を飲み干すのは、これが初めてのことである。圭一がまだ高校に通っていた頃に試みたのだが、その時はむせて吐き出してしまっていた。
「…だって、これが未来の妻の務めなのです。ご主人さまのために頑張るのです。にゃーにゃー」
「くぅ~!たまんねぇな!!ったく梨花のその顔、可愛過ぎるぞ!!」
その言葉に感激した圭一は、梨花を抱きしめて愛しげに頬ずりするのだった。

まったく、疲れて帰って来たかと思えば、何という手荒な…もとい熱烈な歓迎だろうか?
梨花が遥々来てくれただけでも狂喜乱舞なのに、よもやこんなコスプレご奉仕まで!!
成長しつつも未だにあどけなさの残る梨花が、体操服に猫のパーツを付けた姿は実に凶悪極まりない。
「こ、今度は俺の番だな。梨花を気持ちよくさせてやるぜ」
何故かちょっと惜しいとは思いつつ、俺は梨花のブルマをショーツごとゆっくりと脱がす。
そして、目の当たりにするのはこれで通算三夜目となる梨花の秘密の花園が―――薄く生えた芝生と、膣内への入口が、無防備に俺の前に曝け出される。
微かに割れ目が濡れているようにも見えたが、挿入にはまだ早そうだ。
俺は東京に出てきてから新たに入手した参考資料―――あくまで、梨花との営みをレベルアップするための教材であって、決して己が欲求不満の発散のためではないぞ――を脳内に反芻する。
過去二夜は手先でかき回したが、今回は――――
「そんな…顔を近づけないで…。恥ずかしいし、圭一の息がかかって…」
梨花の両腿の間にすっぽり頭を埋めた俺は、その言葉を無視して秘唇をゆっくり指でこじ開けて、そこに口から出した舌を近づける。
「け、圭一?あ、ひゃっ、そんな…だめぇ。そんなとこ…き、汚いのにっ…ん」
ぺちゃ、ぴちゃ…と淫靡な水音―――わざと大仰に荒々しく口と舌を動かす。三度目の開園を迎えた梨花の花園は、たちまち俺の唾液に穢れてゆく。花園の蜜と混じりあいながら。
「ひゃっ、あん、っんは、はん!け、けいいちのしたが…ぁん、は、はげしくぅ、んっ、あ、いいっ!」
心なしか、指で弄った前回や前々回よりも、梨花の嬌声はより激しいように思えた。そんなとき、舌先が豆のような隆起を捉える。
「きゃっ、けいいち…そこは…やぁ…。あ、あたまが…しびれ…ぇえっ、ああん!!」
そこがクリトリスだということを参考資料教本で最近知った俺は、ぽっちり勃ったらそこを重点的に攻めるべしというマニュアルに則り、舌先で突いて転がす。
「ああんっ、だ、だめぇええええ!!――――んはっ」
快楽の頂点を迎えた梨花がびくんと大きく仰け反った刹那、花園のスプリンクラーが作動して―――秘所から盛大に潮を吹くのだった。

「でも困ったなぁ…梨花が来るなんて思わなかったから、ゴムの持ち合わせがないぞ。うっかり中出ししたらヤバイし…」
「…ゴムのこと?なら大丈夫よ。…ほら」
圭一のぼやきで我に返った私は、猫パーツや体操服が収められていた方のバッグから小箱を差し出す。
こんなこともあろうかと、私はバッチリ用意していたのだ。
というか、こういうことには妙に親身なところのある詩音にもらっていたものなのだが。
「ったく、梨花には敵わないぜ。ヤル気満々じゃねぇか」
何だか私がひどく淫乱な女であるかのような言い回しにも思えたが、彼恋しさに何度も自慰をイタしてしまっていた身では返す言葉も無い。
だって、それだけあなたが好きなんだから、さびしかったんだから仕方が無いじゃない。
「…なぁ、今日は…梨花が上に乗ってみないか?」
「えっ?」
私から渡されたゴムを自分の分身に付けた圭一は、おもむろに言った。
彼に促されて体操服の上着を脱いでいた私は、思わずきょとんとなる。
「今まで、挿れた後は俺が梨花を上や後ろから突いてばっかりだったからなぁ」
私の返答を待たず、圭一は仰向けに横たわり、上に跨るように促す。
初めての夜、そして祭の夜―――二夜の本番で私は、ひたすら圭一にその身を委ねて、彼の成すがままだった。
それでも私はよかった。
百年の時の牢獄を彷徨った末に見つけた、最愛の人に抱かれるだけでも十二分に嬉しかったのだ。
しかし圭一は、今回は私にその身を委ねようと言う。
本当にいいのかと、圭一の上に跨った私はおずおずと下にいる彼を“見下ろす”。
視線を合わせると、圭一はニヤリと笑って頷く。
その瞬間、私の背中にぞくりと電撃が走り、言いようのない衝動がこみ上げてくる。
意を決した私は、圭一の分身に手をかけ、彼の口で弄られていやらしくぐちゃぐちゃになった己が秘唇へと添える。
対して圭一はそれを促すかのように、私の腿に添えた手に力を込めて挿入を誘う。
彼にこの身を貫かれることへの恐れなどもうない。でも私は、何故か腰が震えた。
きっとそれは恐れなどではなく、未知の快感への扉を開ける事への躍動なのだろう。
私はゆっくりと腰を下ろして――――
「あ…ふぁっ、あっ…あはっ、け、圭一っ!」
侵入した圭一の分身が、力強く私の膣内を突き上げる。さながら昇龍の如く。
その感覚に頭が真っ白に弾け飛んだ私は、それまでと一転して腰を一気に下ろす。
「あ、ふぁあぁ、ああんっ―――!!」
私の膣が全て圭一のもので満たされる―――奥まで全部。
「…く、全部挿入ったぞ…そうだ、腰を動かしてみろ」
「ふぇ?」
下の圭一からの声に、快感に痺れて何が何だかわからなくなっていた私は、思わず間の抜けた声を上げる。
「り、梨花の思うままに、動かすんだ。きっと、すっごく気持ちいいぞ」
まだ、この先があるというのか。ならばイキたい。
今やまともに思考など出来る状態じゃない筈なのに、何故かその考えに至って奮い立った私は即座に腰を動かし始めるのだった。
きっとそれは、本能のなせる業なのだろう。
上下前後にとでたらめに腰を動かす度に、ぬちゃ、ぬちゃ、と淫靡な音が響く。
「あっ、んあっ、はぁん…く、あっ、あっ、んあっ、」
「あ、あぁ、こ、こうして下から見上げるのもっ、くっ…オツなもんだなぁ…。今の梨花…すっげぇ綺麗だぜっ、エロい、エロすぎるぞ!!」
そんなことを圭一は下から言ってくるものだから、私は両目をぎゅっと瞑って天井を向き、精一杯抗議する。
「バ、バカッ!け、圭一のせいよっ!!あんっ、圭一が…私をっ、んっ、こ、こんな風にしちゃったのよっ!!…で、でも…んっ、はっ、こ、こんな姿を見せられるのも、圭一だけ、なんだからっ!!ああん、腰が勝手に…やぁん、こんなのっ…こんな私…」
ふと気が付けば、無意識の内に私は右手で激しく自分の乳房を揉みしだいていた。
既に腰は止まらなくなり、私は全身を振るわせて圭一の上で暴れまわっていた。
暴風に曝された木々の如く、長い髪が揺れていた。
こんなにも気持ちいいなんて。他でもない圭一の眼前で、こんなにも乱れた姿を露にするなんて。
その恥ずかしさが――私の快感を、動きを更に加速させる。
「んっ、んっ、いい、いいわっ、圭一っ!!」
「俺もだ、すっげぇ気持ちいい、くはっ」
あぁ、圭一も気持ちがいいのか。私を弄ぶだけでなく、私に弄ばれるのも好きなのか。
初めての夜に圭一は私達のつながりを「お互いに煽ったり煽られたりする、そんな関係」と言っていたが、本当にそうかもしれない。
などとおぼろげに思っていた時――
「んっ、んっ、っ!…あんっ、そこっ!」
下から圭一の手が伸びて、私のもう一方の乳房に手をかけて揉み始めたのだ。
自らの手と圭一の手で両胸に与えられるその刺激で、私はもう限界だった。
「あ、だ、だめぇ…あ、わ…たし、あたまがしびれて…あん、も、だ、だめぇえええええ!!」
「く、俺もだ、で、出るっ」
沙都子に内緒で、詩音にこっそりと読まされたとある本に描かれていた。こうして絶頂に昇りつめる事を―――
「圭一、圭一っ!わ、わたし…もう、イ、イッ、イッちゃう…!!っああぁぁん!!…………かはっ」
刹那、圭一の分身が私の膣内で痙攣して一際激しく暴れまわった――――

絶頂と反比例するかのように、圭一の胸の上にがっくりと崩れ落ち、その胸の温もりと鼓動をひしと感じながら、私はぼんやりと思う。
ひょっとしたら、私は圭一の上に乗っかるのが好きなのかもしれない。
己の思うままに、圭一を蹂躙し、彼の上で全てを曝け出して暴れまわるのが好きなのかもしれない。
私は漠然と予感する。
これはきっと病みつきになる。もしかしたら私は―――

「なぁ。梨花には、将来の夢ってあるか」
「えっ?」
梨花を抱えながら起き上がった俺は、梨花から分身を引き抜くと、ゴムを外してティッシュで残滓を拭おうとした。
だが、ようやく我に返った梨花はそれを制して先端を綺麗に舐めとろうと舌を出す。
健気な未来の妻の頭を撫でながら、俺は天井を仰いでふと問いかけたのだ。
「大学進んでまだ四ヶ月そこそこだけど、俺にはおぼろげにだけど形になってきてるぜ」
机代わりに使っているテーブルの脇の段ボールを指差した。
そこには、進学後梨花から「神道の勉強の足しにでも」と送ってきた、古手家所蔵の古文書の類が入っている。
「ある程度は解ってたけど、やっぱりこの世界はしきたりとか戒律とか伝統とかが山のようにあったりするんだな。…それを無闇にぶち壊すつもりはない。けど、俺は古手神社を、片田舎の寂れた小さな神社で終わらせたくもないな。のんびりとのどかに神主業やって終えるのもまた人生だけど。出来れば、沢山の人が参拝に来る賑やかな神社にしたくないか?」
己が分身に付いた残滓を舐め終えて、股間から顔を上げた梨花は、冴えない表情で呟く。
「将来…。ボクに出来ることは…古手家にお婿さんを招いて、その跡継ぎの子供を産むことくらいなのですよ。それがボクの役割なのです。…母猫は仔猫をみゃーみゃー産んで、お乳を与えて…それで――」
何故か昔の口調でそう言った梨花の顔には、どこか諦観が込められていたようにも見えた。
さっきから付けたままの猫耳が、鈴付きの首輪が――梨花の言葉を妙に肯定させているようにも思える。
そんな猫耳梨花を見ていると――母猫のお乳に群がる沢山の仔猫の図が一瞬脳裏を過ぎて、眼前の彼女とダブって見える。
梨花は古手家を存続させるための、ただの繋ぎなのか?
犬猫のように、ただ跡継ぎを産んで育ててそれで人生お仕舞いなのか?
そんなのはおかしい―――俺は梨花の猫耳カチューシャを頭から取り、鈴付き首輪も外して両方とも放り投げた。
それから腹の底から精一杯の力を込めた声で語りかける。
「そんなんじゃ…つまらないだろ?俺は梨花を、家存続のための道具になんてしないぜ。あの日言ったよな?俺は梨花の力になりたいと同時に、梨花も俺の力になってほしいと。この前原圭一が、古手家に飛び込んで骨を埋めようってんだ!将来俺が動くのにはみんなの力が要る。もちろん梨花の力もだぜ?古手家直系の人間として、いや何より俺の妻として、新米神主の俺を全力でサポートしてくれ!!なっ!!」
そう言って俺は、梨花を両手で力一杯抱き寄せ、わしわしとその頭を撫でる。
お互いに素肌で触れ合い、髪をかき回す感触。温もりも心臓の鼓動もひしと伝わってくる。
「私が…圭一を…サポート」
「あぁ。いろいろ話は聞いてる。古手家が親類もなく、御三家の中でも力の無い末席ってな。なら、俺達が力をあわせて、これから新しい古手家を創って、古手神社を立派にしてやろうぜ!そして子供の代になる頃には、園崎家や公由家なんかに負けない、雛見沢屈指の名家にしてやろうじゃねぇか!」
俺は右手で拳を握り締め、梨花を抱える左手にもより一層力を込めて笑いかけた。
腕の中で、最初は冴えない顔でぽかんとしていた梨花も、次第に瞳に輝きが宿り、口元を綻ばせて、
「圭一……そうね。圭一と力をあわせれば、出来そうな気がする」
と言って、俺をひしと抱きしめ返す。
「今はまだ…中出しも出来ねぇ立場だけど、将来はバンバン子供作って分家も創っちまおう。園崎家なんかに負けねぇぞ!」
「圭一…。あなたは…かつて雛見沢の澱んだ悪弊を打ち破っただけでなく、私と古手家の未来も、切り開いてくれるというのね。…あはははははっ、いいわっ!面白いわっ!やっぱり圭一でよかった!」
「そう思えば、将来が楽しみにもなるだろ?…実は俺もさ、最近ちょっとへこたれそうになってたんだよ。でも、今日梨花が来てくれてこうしていたら、くすぶってた炎がまた燃え上がってきたぜ!梨花は俺の大事なパートナーだ。だから…愛してる」
「私もよ。また元気がわいてきたわ。まるで、運命に疲弊していた私に力を与えてくれたあの頃みたいに。だから好きなのよ」
「ああ、好きだ。愛してるぞ、梨花」
そして俺は梨花としばし唇を重ね、お互いに行為の余韻に浸りつつ、将来への誓いを確かめ合うのだった。

「なぁ、梨花は何時までここにいられるんだ?」
「ふふっ、何時までだと思う?……もちろん夏休みギリギリまでいるつもりよ」
「ってことは……あと二週間も!?大丈夫なのか?」
「アルバイトの一ヶ月分のお給料と、今日圭一のご両親に預かった差し入れ。無駄にはしないわ」
「あ~あ、結局親父やお袋にまた借りを作っちまったか。まぁ今はありがたく受け取っておくかな」
前原の名字を捨てて、古手に婿入りしてしまう将来像を既に仄めかしてしまっているというのに。
それに対して、きっと思うところもあるだろうに。
それでも何かと支援してくれる両親に、圭一は内心で手を拝むのだった。
「それに、私がいないと圭一もイロイロと溜まっちゃうでしょ?こんなもので発散して欲しくないし」
梨花は、おもむろに万年床の下から一冊の本を取り出す。
その表紙を見るや、圭一はたちまち顔面蒼白になる。
両親に見つからないよう、厳重に隠蔽していた筈なのに。
「そ、それはっ!?…待て、誤解だっ!そ、そ、それはだな…梨花とより気持ち良くなるためにアレコレ学ぶための教材であってだな…」
両手を振ってアタフタする圭一に、梨花は小悪魔のような笑みを浮かべて――
「………み~☆ボクはぜんぜん怒ってなんかいないのですよ。せめてこれから二週間は、こんなものがいらないくらいに、圭一を楽しませるのです。それが未来の奥様の責務なのです。そして…………私も楽しませてね。私の未来の…だ、ん、な、さ、ま」
くすくすと妖艶に笑いながら、梨花は圭一の縮こまった分身を思いっきりぎゅっと握る。
やっぱり、その笑顔と声音と手には怒りの微粒子も込められているのでは、と少しだけ慄く圭一だった。
「ぐあっ、本当に悪かった!…で、でも、傍にいてくれるのは嬉しいな。二週間限定の同居生活か。そういや明日は丁度休みだし、一緒に遊びにいくか」
「望むところよ。でも圭一、これは同棲よ。ど、う、せ、い。くすっ、改めて宜しくね。圭一、明日は楽しみにしてるわ。初めての東京巡りをあなたと一緒に…くすっ」
圭一の分身を握った梨花は、それを手荒にしごき始める。二回戦を熱烈に希望しているのは明白だった。
それを拒否する理由など一切無い圭一は、苦笑しながら梨花の頭を撫でてそれに応える。

それから一晩中、二人は別離の寂しさを忘れるべく、互いに激しく燃え上がるのだった。

こうして、圭一と梨花の短い夏の同棲生活が始まった――――



夜の調教に続く

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最終更新:2008年05月08日 18:33