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梅酒

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「よいしょっ!」

春から仕込んだものを蔵から出す。教えてくれた漬物石の言うとおりなら、少し早いけれども飲める頃のはず……

「おや、なんだい? ウチにそんな甕があったんだ」
「ええ、蔵の片付けをしていた時に見つけたんです。中身は、私が春に仕込んだものなんですけれど」
「へえぇ、君がねぇ。それは楽しみだね。何か手伝おうか?」

マスターは いつも私を手伝いたがる。
嬉しいことではあるのだが、マスターの世話を焼くことが楽しい私としてはマスターに何かをさせる事は楽しみを減らすことになるので、そこはいつも丁寧にお断りをする。

「そうですねぇ……。 では、マスターは日陰でくつろいで待っていてくださいね。 そんなに待たせませんから」
「はぁい」

苦笑いをしながら素直に従ってくれる。マスターも私の気持ちは理解してくれているので、よほどでない限りは無理強いはしない。
大好きな人の取って置きの笑顔が見たいから、ただそれだけのことが私には大事に思える。
ああ、こういう気持ちも教えることが出来るならいいのに。
何人かの妹には こういう気持ちを持って欲しいと切に願う。

キッチンで封を切り、蓋を開ける。 途端に爽やかで甘い香りが拡がる。
うん、上手に出来たみたい。

よく冷えたグラスに大振りの氷を一つ入れて、甕の中身を注ぐ。
漬物石に貰った漬物を切り、ガラスの器に添えてみる。
よし、涼しげなものを用意することができた。
グラスにも程よく水滴がついてきたし、頃合いね。

「マスター、お待たせしました。暑い日ですから、暑気払いにいかがですか」
「梅酒か! これはいい。夏にぴったりだ。よく冷えているし。うん、美味い!」
「春に漬けたばかりなので、まだ若いのですけれど。良い香りがしますでしょう。殺生石さんに勧められたので、漬物石に習ったのです。梅の実は、春に二人で見に行った梅林から拝借しちゃいました」
「へえぇ、漬物石ちゃんがねぇ。甘さといい、辛さといい、程よいなぁ。
 教えてもらったとはいえ、これだけの美味しい梅酒を漬けられるなんて。貴女もさすがだね。
 一緒に一杯どうだい?」

グラスと氷を用意して、マスターと一緒に梅酒を飲みながら夏の空を流れる雲を眺める。
突き抜けるような青い空。輝く太陽。
移り行く季節を大切な人と美味しいものを頂きながら過ごす幸せ。
何気ない、夏の日の日常の一こま。
大切な私の思い出。

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