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ジャパニーズカーニバル?

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匿名ユーザー

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 自分は、日本についてほとんど知らないのだとよく痛感させられる。
『縁日……なんですの、それは?』
 今日、姉様とお茶をしていて聞いたこのフレーズ。
 何でも、日本で行われる祭りのことらしい……。

    ◇    ◇    ◇    ◇

 夕方。
 珍しくいい夕焼け空が見える空。それよりも目に付くのは、近所で行われる夏祭りのポスター。
 子供の頃はよく友達と行ったが、この年齢じゃあ女の子の一人もいないと行くことはない。
 もちろんここ最近の俺には無縁なもの……だった。
 今年は違う。同居する女の子が一人いるっ。これはいいイベントと捕らえて……
 ……そこで妄想を止める。いると言っても相手は鶏冠石だから。
 あの性格からして、人混みが嫌いなのは明らか。なんだかんだで人の集まる祭りだし、嫌がることこの上ないだろう。
 でも、どうせなら鶏冠石が金魚すくいとかしてる姿、見てみたいなぁ。

「ただいまー」
 ひいじいさんか誰かが無駄に広く作ったという家に帰宅。
 もちろんここから鶏冠石のいる部屋まで声が届くとは……。
「あら、今日は早いのですね」
 と、思ったら、鶏冠石が向かいのリビングから出てきて出迎えてくれた。
「ただいま。まぁ、たまにはね」
「真面目に仕事をしているのですか?」
 と、どこか微笑んだ様子で尋ねてくる。
「あ、当たり前だろ……」
 顔を見れば、先の言葉が冗談ということは分かる。
 だが……鶏冠石が冗談か。珍しいこともあるな。
「冗談ですわ。それよりも、早く用意なさい」
「は?」
 準備? 夕食の?
「何だ、もう腹減ったのか?」
「乙女にそういうことを尋ねるものではないですわ。神社に出かけるのです」
「神社? え、祭り行きたいの?」
 予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。怒られるのに。
「何ですか、その顔は。まぁいいですわ、とにかくそういうことです」
 どこかあきれた調子の鶏冠石。
 なんか、当たり前のように祭りに行くような、そんな感じだ。
「いや、結構人来るぞ? 平気なのか?」
「私達宝石乙女をなんだと思っていますの? 人間とほぼ同等に作られた精巧な……」
「あー、その話は長いからいい。俺が言いたいのは人混みとか苦手じゃないのかとだな」
 そんな俺の心配に対し、鶏冠石は。
「……外見でしか物事を判断出来ない殿方は、程度が低いと思われますわよ?」
 と、あっさりと言い切ってしまった。つまり平気と……。
「大体、人混みから私を守るのが貴方の仕事でしょう。自分の仕事もわきまえないようでは、
まともに賃金をいただけません事よ」
「いや何でそこで……あー、まぁいいや、準備してくる」
 という訳で、これから鶏冠石と祭りに行くこととなった。
 うぅむ、楽しみなのは当然だけど……うーん。

 夕日も沈み、空が紫色から夜の黒に変わろうとしている頃。
 祭りの会場となっている神社は、それはもう明るいものだった。
 至る所に電球電球電球。安っぽい某電気パレードを連想させられる。
「ほら、きびきび歩きなさい。ぼんやりしていたら承知しませんわよ?」
 そんな雰囲気に見とれていると、鶏冠石が後ろから言葉という鞭を使ってくる。
 ちなみに、七夕の時に続いて再び浴衣姿だ。まぁ、ドレスで縁日来たら逆に目立つからなぁ。
「あー、分かった分かった。でも歩いてばかりじゃ……」
「待ちなさい、あれは何ですの?」
 と、今度は俺の手をつかんで無理矢理足を止めさせる。
 相変わらずだなぁと思いつつ、鶏冠石の指の先を見ると……。
「あぁ、わたあめか」
「綿!? 綿がどうして飴なんてっ!!」
「いや、布団に入ってる奴じゃなくてだな……簡単に言えば砂糖菓子だ」
 ……で、いいんだよな?
「砂糖……貴方、ちょっと買ってきなさい」
「え? まぁいいけど……」

 とりあえずわたあめを一つ、鶏冠石に差し出す。俺は甘い物が苦手なので
わたあめはスルーだ。
「まぁ、思ったより可愛らしい物ですのね」
「そりゃまぁな」
 最初の反応に対し、鶏冠石はなかなかお気に召したようだ。
「では一口……」
 わたあめの端をちぎり、それを口に運ぶ。
 ……あ、笑った。
「嬉しそうだな。なんか可愛い」
「……い、いきなり何を言い出すのですか」
 と、頬を赤くして俺の顔をにらみつけてくる鶏冠石。
「まったく、相変わらず言うことが短絡的ですのね」
「えー、ちょっと褒めただけなのに……」
 今度は目を丸くする。
 そして、すぐにこちらから顔を背けて……。
「お黙りなさい……そ、それより、次行きますわよ。早く私の為に道を空けなさい」
 そういう鶏冠石の顔は、耳まで真っ赤になっていた。可愛いという言葉が効いたんだな……このまま道先案内で終わるかと思ったが、ちょっと楽しみになってきた。
「何をにやけてますの?」
「別に。それより次行くかー」

    ◇    ◇    ◇    ◇

 電球の明かり、色とりどりの看板、賑わう境内。すべてが新鮮で、時折前を歩くあの人を止めては説明を聞く。
 着慣れない和装に身を包み、あの人の背中を見て歩く。……時折見る、あの人の顔。
    ◇    ◇    ◇    ◇

「止まりなさい。あれは何ですの?」
 わたあめの次はリンゴ飴を買わされ、次に止められた先は金魚すくいの出店。あの水色で大きな水槽のような容器に、無数の小さな金魚が泳いでいる。中には他より二回りほど大きなものも。
「小さな、魚? 捕まえて天ぷらにでもするのですか?」
「いや、その発想は……あれは金魚すくいって言ってな、あの金魚って小さい魚を、そこの丸いのですくい上げる遊びだ」
「それのどこが楽しいのか、理解に苦しむのですが」
 いきなり厳しい指摘。鶏冠石はパズルゲームのおもしろさが理解できないタイプに違いない。
「ま、まぁそれはやってみたら分かるって。食ってばかりじゃあれだし、一回だけ試しにな?」
「そこまで言うのでしたら……」

 確か、あの金魚すくいで使う丸い奴はポイといったか。そのポイ、今ちょうど九つ目に大きな穴が空いた。
「くっ」
 舌打ちのあと、その名の通り鶏冠石の手からポイされる。
「小型魚類に、この私が……もう一回!!」
 俺はすっかり、連れのこの子が負けず嫌いなことを忘れていた。今まで隠していた怒りが、じわりじわりと顔に出てきている鶏冠石。戦績はゼロ。きっと限界はあと二回ぐらいだろう。
「お、おい、そろそろ……ドウゾドウゾ、ツヅケテクダサイ」
 いつもなら『お黙りなさい!』ぐらいいいそうなところを、鋭い目線だけで黙らされてしまった。仕方ない。おとなしくおじさんに百円を渡す。ちなみに百円で三回だ。ちなみに二百円でモナカになるが、鶏冠石のプライドがそれを許さないらしい。
「見てらっしゃい……今度こそ」
 水色の涼しげな水槽を泳ぐ金魚たちを、赤い悪魔が覗き込む。どうやらコツはつかんだらしく、なるべくポイを水につけないよう慎重になっているが……おじさんの顔が、鶏冠石の闘志を受けて真剣なものになっている。しかし、見ているだけというのもなかなか退屈だ……。
「おじさん、俺もやるよー」
 俺の言葉に、少し遅れて百円を受け取るおじさん。同時に三つのポイが手渡される。ピンク、青、黄色……今日のラッキーカラーは何かな。

「い、いい加減機嫌直せよ……」
「別に機嫌など悪くしていませんわ。それよりよそ見しない」
 金魚すくいの戦いを終え、再び人混みの中を歩く。ちなみに戦績は、百円で俺が三匹。鶏冠石は五百円でゼロ。だが、俺の予想に反してキレることはなかった。さすが乙女といったところか……機嫌は相当悪そうだが。
 とりあえず、三匹の金魚は水の入った小さなビニール袋に入って、鶏冠石の手の中だ。しかしどうして紐でぶら下げるようにしてあるんだろうか、この袋は。
「小型魚類のくせに……小型魚類の」
「し、仕方ないって。鶏冠石初めてだったんだから」
「……では、来年まで特訓ですわ。金魚すくい……絶対制覇してみせますわ」
 来年への闘志を燃やす鶏冠石。思わず苦笑いを浮かべてしまうが……鶏冠石なら、本当に金魚すくいのプロにでもなっていそうだ。
 と、俺たちの横を水風船のヨーヨーを持った子供たちがすれ違っていく。掌ではねるヨーヨー。それをじっと見つめる鶏冠石。
「……その手にある奴でヨーヨーの真似はするなよ。出店ならそこにあるんだから」
「なっ、そ、そんなこと考えるはずないでしょう。だいたい動物虐待ですわ、そんなこと」
 嘘だ。今の目は本気で金魚をシェイクしてやろうかと思っていた。間違いない。
「それよりも、そのヨーヨーという物はどういうものなのですか?」
「え? あぁ、あの水の上に浮いてる奴をつり上げるんだよ」
「……ま、また水物ですの?」

 鶏冠石と並んで、臨時で置かれたベンチに座る。
「縁日とは……ずいぶんと過酷なものですわね」
 というわけで、戦績は百円で俺二個、鶏冠石は六百円でゼロ。どうやら鶏冠石はこの手の物が苦手なようだ。
 今は左手に金魚、右手に俺が渡したヨーヨーをぶら下げ、先ほどと打って変わって肩を落としている。
「まぁ、来年頑張ればいいさ」
 ちなみに、用意しておいた小銭がもうほとんどない。まさかこんなに使うとは……これは今度鶏冠石とぷ○○よ辺りで対戦してみたいところだ。
「それはそうなのですが……はぁ」
 さすがに全敗は堪えたのか、怒る元気もないようだ。
「元気出せって。チョコバナナ買ってくるから」
「チョコ……フルーツパフェみたいな組み合わせですわね」
「まぁ、確かに。とりあえず買ってくるから、ここで待ってろ」

 おじさんからチョコバナナを二本受け取り、お金を渡す。ずいぶんと並んでいるので、早々に出店から離れる。
 時計で時間を確認すると、すでに夕食時は過ぎてしまっていた。出店の物を食べ過ぎたのか、空腹を感じない。きっと栄養がどうのこうのと鶏冠石に怒られるに違いない。そんなことを考えつつ、彼女の待つベンチへ戻る。
 ……鶏冠石は、ぼんやりと金魚を眺めていた。ベンチに座ったまま、太ももに頬杖をつき、まるで出店の灯りで金魚を照らしているかのようにじっと眺めている。
 先ほどまであれほど闘志を燃やしていた相手に、そんな視線を向けるのは少し驚きだった。しかも時折口元が微笑む。思い出し笑いか? 金魚すくいのときに笑うようなことはなかったと思うが……。
「赤繋がりで親しみでも感じたか?」
 冗談半分で、そんなことを聞いてみる。だが近くまで来ていたのに気づいていなかったのだろう、俺の声に鶏冠石が肩をびくつかせて驚く。
「な、何を変なことを言っているのですかっ。私が魚に親しみを感じると思っていて?」
「冗談だって。ほら、これ」
 先ほど買ってきたチョコバナナを鶏冠石に差し出す。
「……ずいぶんとアバウトな食べ物ですわね」
「それがこういうところの醍醐味なんだって。美味しいぞ?」
「それはそうでしょうけど……」
 やや怪訝そうな顔を浮かべながらも、それを小さな口に運ぶ。ちょっと具が大きすぎたか、口のよこにチョコがついてしまう。
「アバウトですが……確かに、これはこれで美味しいですわね」
「だろ」
 口の横についたチョコには気づかず、もう一口。と、今度は俺に目線を送ってくる。
「……こちらばかり見てないで、貴方も食べたらどうですの?」
「え、あぁ……」
 鶏冠石に指摘され、俺も一口。そんな俺を、今度は鶏冠石が見つめてきて……。
「貴方、口にチョコがついてますわよ」
「え?」
 俺が口元に手を触れようとする前に、鶏冠石がどこからか取り出したハンカチで俺の口元を拭く。柔らかいハンカチの感触。……こんなことされるの、久しぶりだ。
「まったく、私のつき添いなのですから、しっかりしなさい」
 どこか照れているような、それでいて相変わらずの口調の鶏冠石。
「あ、あぁ……」
 頭の中がぼんやりしてしまい、返事もどこか上の空になってしまう。だが、忘れてはいない。
「……鶏冠石、お前の口元にもついてるぞ。チョコ」
「なっ」
 すぐさま自分の口元に手を添える。ついているだろうチョコを隠すように。だが隠す方向が反対だ。チョコは相変わらずまる見えで、鶏冠石に子供っぽさの演出を加えている。
「そ、それをもっと先に言いなさい! あぁ、みっともない姿を晒すなんて私……」
「まぁまぁ。俺が拭いてやるよ、さっきのお返し」
「ええ、遠慮しますわっ。乙女の顔にたやすく触れるものではありません!」
「いいじゃんいいじゃん、俺と鶏冠石の仲なんだし」
「ご、誤解される言い方をするんじゃありませんっ!」
 先ほどとは一転、顔を赤くして俺から離れる。うーむ、こんなに逃げられるとなんだか寂しいものが……。
 だが、そうこうしているうちに自分から口元をハンカチで拭いてしまう。なんだか残念だ。
「まったく……どうしようもないつき添いですわね」
 耳元まで赤くなっている鶏冠石の顔。横目で時折こちらの様子をうかがっては、すぐにそっぽを向いてしまう。
 ……何というか、いつもは見られない鶏冠石の素顔というか、何というか。とにかく何だ、素直に可愛いと思う。
「そ、そんなヤラシイ視線でこちらを見ないでくださる?」
「えー、そんなことないぞー」
「嘘おっしゃい。どうせまたろくでもないことを……」
 そうつぶやく鶏冠石の顔は相変わらず真っ赤。ヤラシイ視線とか言われても仕方がなかった。こんな珍しい顔、見ていてにやけないはずないのだから。
「いくらでも言ってくれー。ほら、そろそろ次行こうぜ」
「えっ、ちょっと待ちなさい、まだこれを全部食べて……」
「俺が食べてやろうか?」
「いい加減にしなさい!」

    ◇    ◇    ◇    ◇

「なぁなぁマスタ、あそこのあれなんやー?」
「ああいうのをバカップルって言うんだ。どこのどいつか知らないけど……それよりほら、早く客さばいてくれ」
「そやなー……マスタも手ぇ休めたらあかんよ? たこ焼き焼かな」


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