宝石乙女まとめwiki

冬の訪れ

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 今年も冬がやってきた。
 俺の住むこの村では、冬はとても厳しい。
 一面真っ白な雪に重く包まれ、家族で寄り添って過ごす。
 冬支度の一つに、漬物作りがある。
 短い夏のあいだに採れた野菜を、冬の間の栄養源として蓄えておくのだ。
 俺は、この準備が密かに楽しみだ。
 なぜって、彼女に会えるから。
「よう、つーちゃん」
「あ、こんにちわ」

 村の誰よりもよく働き、小さな体で漬物壷を抱えて走り回る彼女。
 僕らは『つーちゃん』と呼んでいる。
「今年も美味そうだなあ、一口……」
「食べちゃだめですよ、冬の蓄えなんですから。食いしん坊なところは、お父さんそっくりですよ」
 ふふ、と笑って俺に壷を渡す。
「よう、つーちゃん。今年のたくあんはどうだい」
「ええ、いい漬かり具合になりそうです」
「おやおや、つーちゃん、寒いだろ。これかぶりな」
「はわわ、ありがとうございます」
 村の皆は、彼女と笑いあい、冬の支度を進めてゆく。
 ちらほらと降る雪が、村を覆いつくすまで。
 何年も、何十年も繰り返してきた行事。
 彼女だけが、変わらないのだという。
 不思議なものだと思うが、村の皆は自然と彼女を受け入れていた。
 彼女が何者なのか、とか、いつからここにいるのか、とか。
 そんなのは些細なことなのだと、楽しそうに働く彼女を見ている人は、きっとそう思うのだ。
「今年もつーちゃんのおかげで、冬が越せそうだなあ」
「皆さんが夏のあいだ頑張って、美味しい野菜を作ってくれたからですよ」
 冬が深まり、村は眠りにつこうとしていた。
 彼女にまた会えるのは、来年の冬。
「……なあ、俺ん家に来ないか?」
「ふふ、私には、私のお家がありますから」
 毎年のことだが、一人雪の中へ消えてゆく彼女に、声をかける。
 はにかむように笑って、『つーちゃん』は帰ってゆく。
「……本当、お父さんそっくりなんだから」
 雪の中のつぶやきは、よく聞き取れなかった。
「また来年なー!」
 かすむ彼女の姿に手を振る。
 次の雪を、心待ちにして。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

添付ファイル
目安箱バナー