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眠り姫

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匿名ユーザー

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  目が覚める。なんとなく違和感……何だろう……ああ、そうか。自分で起きることなんて、しばらくしていなかったな。朝はいつも起こしてもらっていたっけ。寝坊しそうな時はフライパンを片手に持ってきていたな……どうするつもりだったのだろう……?
  それよりも、今何時だ? あれ? やばっ、どうしたんだ今朝は? ペリドットは? 

  部屋を出て居間に向かう。暗い。静かだ。キッチンにも動いている気配がない……おかしい。っと、猫たちが腹を空かせている。はいはい、すまんがカリカリで我慢してくれ。さて、ペリドットは……。

  彼女の部屋に向かう。静かだ……やっぱりおかしい。
「ペリドット、入るよ」
  部屋に入る。彼女はまだベッドで眠っていた。なんだ、寝坊か。そりゃ、たまには寝過ごすよな。たまには起こす側にまわるのも、悪くない。
「おはよう。朝だよ。起きて下さい……。おーい、朝だよぉ……。ペリドットさん、起きてくださ~い」
  反応がない。ずいぶんと深く眠っているものだ。夜更かしでもしたかな?
  しかし、彼女が目を覚ますことはなかった。明らかに異常事態。これは……。
「……すみません。ええ、家族が……はい。それでは、休ませてもらいます……はい、ありがとうございます」
  ピッ。さて、次は……。
「……ああ、黒曜石ちゃんかい? 真珠姐さんはそちらにいるかな? いる? ああ、すまないが代わってもらえるかな。……ああ、真珠姐さんですか? いえいえ、こちらこそいつもお世話になっております。実は……大変なことになりまして……はい、ありがとうございます。ええ、お待ちしています。はい、それでは……」
  ピッ。よし。ええと、次は……熱があるわけでなし、痛がってるわけでなし、苦しいようでもなし。眠ってるだけだもの、どうしたらいいのだろう……ああ、不安だ。人でないのだから、病院ってわけにもいかないし。彼女も、たいていのことは自分ですませていたからなぁ。ああ……ああ……。

  ピンポーン
  来たっ! 
「姐さん……と、黒曜石ちゃ……ん」
「はいはい、挨拶はいいわよ。入って、黒曜石」
「はい。おじゃまします」
「いい大人がなんて顔してるの! ペリドットが見たら、病気よりもあんたの顔色のせいで泣いてしまうよ。ホラ、案内して。あとのことは私たちに任せて、あんたは顔洗って少し落ち着きなさい」
「はあ……こちらです」

「あら、よく寝てるわね。黒曜石、布団をめくってちょうだい。そう、そうしたら服を脱がせてくれるかしら。はい、上手ね。ああ、貴方は残念だけど出て行ってもらえるかしら。レディの裸はこういうときに見るものじゃないわよ。黒曜石、私をペリドットの胸に乗せて……」
「あの……僕も何か手伝います」
「悪いわね。だけど、貴方も分かっているでしょう? 私たち乙女の身体は普通の人には扱えないの。残念だけどね……愛情だけではどうにもならないこともあるのよ。貴方の気持ちも分かるけど、今は私たちに任せてもらえるかしら。大丈夫、安心して、伊達に長く生きてないわ」
「はい……お願いします。ペリドットを……」
「黒曜石、ここは私一人でいいわ。彼を向こうへ連れていってくれるかしら。ああ、一息いれたらお湯を持ってきてちょうだい。どんな時でも身体をキレイにしておくのも淑女の身嗜みよ。貴女も覚えておきなさい」
「はい。さあ、あちらへ行きましょう。お気持ちは察しますけど、ここはお姉さまに……」
「……分かった……」
  パタンッ
「ふうっ、やっと行ったよ。まったく、あんたは愛されてるねぇ、ペリドット。乙女冥利ってやつかい? さて、探らせてもらうよ……」

「お茶、入れますね」
「あ、葉っぱは……」
「ああ、ご心配なく。姉様に何度かご馳走になってますので、だいたい分かります」
「ああ、そう……じゃ、頼むよ……」
  ふうぅ、気を使ってくれているのだろうな。僕を独りにしないように。黒曜石ちゃんか……なるほど、彼女の自慢の妹だけのことはある。真珠さん、さすがってところか。いまは……彼女が頼りだ……。
「どうぞ。姉様の秘蔵の葉っぱをつかっちゃいました。あとで叱られないかしら」
「ありがとう。葉っぱのことはいいよ。僕から言っておく。はぁ、この香り、そうだね。とっておきの時にしか使わない葉っぱだ。これを出す時はスコーンやケーキを焼いて……ジャムやクリームまで自分で作っていたなぁ。葉っぱは長く保管すると風味がなくなるからって、いつも少しだけ仕入れてた。僕や、君たち姉妹とお茶会をしている時は、とても……嬉しそうな……笑顔で……ペリ……」
「あ、そんな……泣かないで下さいっ。姉様なら大丈夫です。だって、真珠姐さまが大丈夫って言ったのですから」
  少女に抱かれて慰められる。カッコ悪いな、おれ……。でも、ペリドットのことが心配で……感情が抑えられない……。
「姉様のこと……好きですか?」
「……うん……」
「いいなぁ、姉様は。こんなに思われているなんて。私も……って、私にはまだ早いかもしれませんね」
「いやいや、そんなことはないと思うよ」
「落ちついたみたいですね」
「あ……ああ。そうだね。顔、洗ってくるよ」
「はい」
  少女の姿をしているとはいえ、彼女も宝石乙女か。すっかり慰められて、気をそらされた。さすがだな……。

  さっぱりした。不精ヒゲを剃り、髪を整えて、すっかりいつもの僕に戻った。彼女が目覚めた時に、無様な顔は見せられない。
「ねえ、ちょっとー!」
「はい。いま行きます」

「ペリドットのことだけど、心配はいらないわ。きっかけがあれば目を覚ますでしょ」
「そ、そうですかっ! ありがとうございます! あの……それで、どうして……」
「あ~、詳しい説明は省くわね。簡単に言うと、ヒトで言う風邪をこじらせたようなものよ」
「風邪…ですか?」
「そう、普通の風邪なら、しばらくおとなしくしていれば自然と治癒するわ。まあ、今回はちょっとまれなケースね。私たちの自然治癒力を超えたトラブルに対して身体が危険を感じた時に起こるの。正常な防衛反応ね。身体の機能を止めてトラブルの進行を防ぐのね。本来は、然るべきトコロで治療を行うわけだけど。私やあの娘は独り立ちしてから長いから……いままでもフォローを受けられない時があったわ。そんな時は、今回みたいにお互い助け合ってきたの。この技術も、妹たちに伝えていかなきゃね。さあ、あとは貴方に任せるわ。いつ目覚めるか判らないから、フォローお願いね。いい、お姫様が目覚めるには、『きっかけ』が必要だから、よろしくね。じゃ、いくわよ黒曜石」
「はい、お姉さま。それでは、失礼します。姉様のこと、お願いしますね」
「ああ、ありがとう。真珠さんも、ありがとうございました」

  彼女の枕元に座る。こうして寝顔を見ることは初めてかな。メガネを外した彼女の顔。いつもの愛らしさより、なんていうか……綺麗だ……。お姫様が目覚めるには『きっかけ』が必要……か。まったく、真珠姐さんったら、焚きつけてくれちゃって……。
「……お姫様……お目覚めの時間です……」

「ねえ、姐さま。本当に大丈夫だったのですか?」
「ははっ、あんたも心配性かい黒曜石。あたしが大丈夫って言ってるのよ。それにね……」
「ええっ、もう目覚めているのですか?」
「そうよ。だから大丈夫。トラブルは本当にあったけど、思っていたよりは軽症だったの。簡単だったわ。それにね、古今東西を問わず、お姫様は王子のキスで目覚めるってことになってるのよ。あの朴念仁にも分かるように焚きつけておいたから、今ごろは目覚めてるでしょ。まったく、世話が焼けるわ。でも、まあ、いい男だわね。あたしも安心できるわ」
「はあ……なんていうか……でも、いいなぁ姉様は……」
「まあ、貴女にも……そのうちね。先は長いのだから、焦んないのよ」
「はぁぁい」

「……マスター……おはようございます」

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