宝石乙女まとめwiki バランスの良い関係とは
 夏もついに本番。これからどんどん暑くなってゆく。
 普段からだらしのないマスターも、家のことは何もせず自室に籠もりっきり。
 きっと、クーラーを全開にしているに違いない。全く、少しは環境のことを考えたら良いのに……。
 ちなみに、私は暑いのについてはそれほど苦ではない。我慢強さも乙女として重要なことなのだから。
「夏だ!」
 だけど、近くに暑苦しい状況があると、さすがに少々厳しい。
「……そんなの、分かってますわ」
 人の部屋、しかもベッドの上で仁王立ちになって、薄手の洋服に身を包んだ金剛石は実に楽しそうだ。
 一体夏の何が良いのか……。
「んー? 何か元気ないわねぇー。そんな暑苦しいドレス着てるのが悪いんだよ!」
「大きなお世話ですわ。それと貴女、もう少し慎ましさというものをですね」
「あー、こんな日に小言はいらないよ……いらないですわぁー」
「ですから……はぁ、とりあえず静かになさい。そんなに騒がれたら、余計暑苦しくなりますわ」
 金剛石から目を離し、紅茶を一口。
 夏でも熱いのを飲むのは平気だけど、やはりアイスティーの方が、時期的においしく感じる。
「相変わらず鶏冠石はお嬢様だ……ですねぇー。それで今年の海なんだけどっ」
 と、せっかく顔を逸らしたのに、再び視界の中にあのお天気笑顔が現れる。
 別に、この笑顔や金剛石自体が嫌いというわけではない。だけど、
この有り余る元気には付き合いきれない。私のような性格では、本当に疲れてしまう。
「去年は白だったから今度は黒くてアダルトォーなの着てみようと思ってて、
そろそろマスターと一緒に買いに……ねぇねぇ、聞いてる?」
「聞いてますわ。あと口調にもっと気を遣いなさい」
「もぉー、相変わらず堅いわ……ですわねぇ。それで、いつ買い物に行け……ます?」
 今度はこちらの言葉を期待して待つ子犬のような顔を見せる金剛石。
 水着を買いに……別にいつでもいける事だけれど、どうにも解せない。
「なぜ、私と一緒に行く気満々なのですか。黒曜石達がいるでしょう」
「え? もちろん一緒に行く……行きますよー。だから鶏冠石も一緒に」
 さも当然のように答える。
 いつも小言を言われるのを分かっているのに、どうもこの子は私につきまといたがる。
 不思議というか何というか、もしかして精神的被虐趣味でもあるのか。
「んー、そんなにあたしが誘うの不思議なのかなぁ」
「別に、そういう訳ではありませんわ。ですが、わざわざ怒られに来るような事ばかりしているのが気になって」
 素直な自分の気持ちを言っただけだった。
 だけど、金剛石はそれでも納得いかない様子。ずっと首をかしげている。
「別に、怒られることぐらい普通だから」
「怒られるのが普通という認識は改めた方がよろしいかと……」
「えへへ、面目ない。でも鶏冠石、怒ってばっかりじゃないし、友達だし、同じ宝石乙女だし」
 友達……。
「それに、鶏冠石って誘わないと絶対海とか一緒に行ってくれないんだもん。
一緒に行ったら楽しそうにするくせに」
 ……見事に、痛いところを突かれた。
 確かに、私は人付き合いが非常に悪い。だがまさか、この子にそんなところを気遣われるとは。
 そして、無意識のうちにそれを感謝している自分がいたことに、今更……。
「あれ、友達じゃなく姉妹? まぁいいや、とにかく鶏冠石と一緒にいるのなんて
別におかしくない……って、どうしたの?」
「え?」
「なーんか、すごく難しいこと考えてる顔だった……ですわよ?」
「べ、別に……出来の悪い姉妹に頭を悩ませていただけですわっ」
 ばつが悪くなり、再び金剛石から目をそらす。
 人付き合いの悪い欠点を、この子に甘えることで補っていたようにも思えてしまって……少し、情けない。
「むぅ、それあたしのことー? 相変わらず酷いなぁ」
「わ、私は事実を述べたまでですわ」
「ぶーぶー。でも、そういう素直じゃない鶏冠石大好きっ」
 ……無い心臓が、止まったかと思った。
 マスターならとにかく、なぜこの子に……そ、の……大……。
「何てねー。好きだけど別に変な意味じゃ……あれ、鶏冠石? 顔赤いぞー? のぼせたのー?」

 後日、結局水着を買うのに付き合わされたわけで。
「ねぇねぇ、これなんてどーお?」
「……金剛石、もう少しおとなしめの方がいいんじゃないかな?」
「だ、大胆です……はうぅ」
「あ、黒曜石っ! 全く、貴女はもう少し限度というものを知りなさい!」
「えー? じゃあ鶏冠石着てみて。あたしよりスタイル良いんだから」
「着ません!!」