「ねぇ、殺生石。いつも思うんだけど」
僕の隣でお茶を飲む殺生石。
視線の先には、毛並みの美しい立派な狐の九尾。
「何でしょう……だんな様?」
「ん、あぁごめん。あのさ、その尻尾って重たくない?」
その尻尾は、9本とも殺生石の身長と同じぐらいありそうな、
とても大きなものだ。
ふくらみのほとんどは体毛だとしても、これだけの尻尾を織り成す付け根部分が9本ともなれば、
相当の重さになると思う。
そんなものを、外すわけにも行かずいつもつけている殺生石。もしかしたら、
相当体に無理がかかっているかもしれない。
「重たい、ですか」
「うん。これだけ大きいとさすがに気になっちゃって。もしかして気に障った?」
「いえ、別に。体重のことではありませんから。それにだんな様になら、
わたくしのことを包み隠さず教えて差し上げますよ……ふふふ」
「そ、それは心の準備が出来てないから、また今度ね」
その言葉に、残念そうな顔で返事をする殺生石。
「……で、この九尾が重いか、ですか。率直に言えば、かなり重いです」
「やっぱり。いつもそれじゃ疲れるでしょ。どこか凝ったりしてたら僕が……
あ、いやその、下心がとか、そういうのじゃないから」
自分のセクハラ的発言に気付くがもう遅い。あわてる僕の顔を見て、殺生石は微笑みを返してくる。
「まあ。わたくしならそれぐらい構いませんのに。相変わらず初心なのですね」
「せ、殺生石ぃ」
「ふふ、ごめんなさい。それより、お心遣いはありがたく思いますが、
このことは気にしなくても問題ありませんよ」
つまり、尻尾が付いてても問題ないということ、かな。
ずっとこういう姿をしていると、それに適した体になっているって事なのだろうか。
神通力とか色んな力を持っているけど、実は細い体に似合わず力が強いとか……。
「……そうですね。だんな様はわたくしの良人ですから、どうしているかお教えします」
と、僕が何も尋ねていないのに、殺生石が立ち上がる。
そして僕を自分と向かい合わせ、九尾を自在に動かして見せた。
「このように、わたくしの尻尾は自由自在に動きますが……失礼」
動きを止めた尻尾。その一つの根本に、殺生石が手を伸ばす。
一体何を……そう思ったとき、手に取った尻尾の長さが、急に変化する。
伸びた? いや違う。殺生石の手を見ると、なんと体からはずれた尻尾を握り締めていた。
「え……?」
これは、どういう状況なのか。
この状況を目の前にして、全く理解が出来なかった。
「実は、こうして外すことが出来るんですよ。この尻尾全て」
「え、えぇっ!? い、いい、痛くないのっ?」
「平気です。外れるように出来ているのですから」
手に持っていた1本の尻尾を丁寧に床に置くと、更に残った尻尾を外しにかかる。
2本、3本、4本……9本目の尻尾を外した後には、狐耳を付けただけの豪華な着物を着た女の子が一人。
床には、まるでほこり取りを思わせるふかふかの毛に覆われた尻尾が……。
「驚きましたか? 疲れたときはこのように尻尾を外すんです」
「そ……そう、なんだ」
もう、何と言っていいのか分からない。
あまりにも単純なことなのに、ものすごく複雑なことのように思えてしまって。
「もちろん、これは誰にも秘密で……秘密ついでですから、他にも外れるところを」
と、今度は両耳を両手で掴み……まさか。
そう思ったときには、すでに殺生石の耳は頭頂から見事に切り離されていた。
耳がないと、普通の姫カットの女の子だ。
「これ以外にもまだ外れる場所があるんですが、ここから先は召し物を脱がなくては……」
これ以上、何が外れると言うのか。
それに対する好奇心もあったが、これ以上はまずいと頭が警笛を鳴らす。
止めなければ。そう思っているはずなのに、僕の喉は声を出すことが出来ない。
どうしたんだ、さっきまでは普通に……。
「でも、だんな様ですから……特別に」
そんな僕を気にする様子もなく、殺生石は自分の着物の裾に手を伸ばし……。
ああぁぁ、ダメダメダメっ! これ以上はずれたらホラー映画……じゃない! とにかくダメっ!
必死に顔を手で伏せ、見ないようにする。
見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃ……。
「だんな様、お顔を見せてください。だんな様……」
僕の隣でお茶を飲む殺生石。
視線の先には、毛並みの美しい立派な狐の九尾。
「何でしょう……だんな様?」
「ん、あぁごめん。あのさ、その尻尾って重たくない?」
その尻尾は、9本とも殺生石の身長と同じぐらいありそうな、
とても大きなものだ。
ふくらみのほとんどは体毛だとしても、これだけの尻尾を織り成す付け根部分が9本ともなれば、
相当の重さになると思う。
そんなものを、外すわけにも行かずいつもつけている殺生石。もしかしたら、
相当体に無理がかかっているかもしれない。
「重たい、ですか」
「うん。これだけ大きいとさすがに気になっちゃって。もしかして気に障った?」
「いえ、別に。体重のことではありませんから。それにだんな様になら、
わたくしのことを包み隠さず教えて差し上げますよ……ふふふ」
「そ、それは心の準備が出来てないから、また今度ね」
その言葉に、残念そうな顔で返事をする殺生石。
「……で、この九尾が重いか、ですか。率直に言えば、かなり重いです」
「やっぱり。いつもそれじゃ疲れるでしょ。どこか凝ったりしてたら僕が……
あ、いやその、下心がとか、そういうのじゃないから」
自分のセクハラ的発言に気付くがもう遅い。あわてる僕の顔を見て、殺生石は微笑みを返してくる。
「まあ。わたくしならそれぐらい構いませんのに。相変わらず初心なのですね」
「せ、殺生石ぃ」
「ふふ、ごめんなさい。それより、お心遣いはありがたく思いますが、
このことは気にしなくても問題ありませんよ」
つまり、尻尾が付いてても問題ないということ、かな。
ずっとこういう姿をしていると、それに適した体になっているって事なのだろうか。
神通力とか色んな力を持っているけど、実は細い体に似合わず力が強いとか……。
「……そうですね。だんな様はわたくしの良人ですから、どうしているかお教えします」
と、僕が何も尋ねていないのに、殺生石が立ち上がる。
そして僕を自分と向かい合わせ、九尾を自在に動かして見せた。
「このように、わたくしの尻尾は自由自在に動きますが……失礼」
動きを止めた尻尾。その一つの根本に、殺生石が手を伸ばす。
一体何を……そう思ったとき、手に取った尻尾の長さが、急に変化する。
伸びた? いや違う。殺生石の手を見ると、なんと体からはずれた尻尾を握り締めていた。
「え……?」
これは、どういう状況なのか。
この状況を目の前にして、全く理解が出来なかった。
「実は、こうして外すことが出来るんですよ。この尻尾全て」
「え、えぇっ!? い、いい、痛くないのっ?」
「平気です。外れるように出来ているのですから」
手に持っていた1本の尻尾を丁寧に床に置くと、更に残った尻尾を外しにかかる。
2本、3本、4本……9本目の尻尾を外した後には、狐耳を付けただけの豪華な着物を着た女の子が一人。
床には、まるでほこり取りを思わせるふかふかの毛に覆われた尻尾が……。
「驚きましたか? 疲れたときはこのように尻尾を外すんです」
「そ……そう、なんだ」
もう、何と言っていいのか分からない。
あまりにも単純なことなのに、ものすごく複雑なことのように思えてしまって。
「もちろん、これは誰にも秘密で……秘密ついでですから、他にも外れるところを」
と、今度は両耳を両手で掴み……まさか。
そう思ったときには、すでに殺生石の耳は頭頂から見事に切り離されていた。
耳がないと、普通の姫カットの女の子だ。
「これ以外にもまだ外れる場所があるんですが、ここから先は召し物を脱がなくては……」
これ以上、何が外れると言うのか。
それに対する好奇心もあったが、これ以上はまずいと頭が警笛を鳴らす。
止めなければ。そう思っているはずなのに、僕の喉は声を出すことが出来ない。
どうしたんだ、さっきまでは普通に……。
「でも、だんな様ですから……特別に」
そんな僕を気にする様子もなく、殺生石は自分の着物の裾に手を伸ばし……。
ああぁぁ、ダメダメダメっ! これ以上はずれたらホラー映画……じゃない! とにかくダメっ!
必死に顔を手で伏せ、見ないようにする。
見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃ……。
「だんな様、お顔を見せてください。だんな様……」
「……だんな様、もう朝です。起きてください」
ダメだ、この手をどけたら大変なことに。
「もう。そうして顔を隠しても、朝は待ってくれません。さぁ、起きてください」
顔を覆う僕の手に、殺生石の手が触れる。
指先の冷たい感触。それで力が抜けた手を、優しく持ち上げる。
あぁ、結局僕は殺生石に逆らえない……。
「……あれ? 耳、付いてる」
「っ、いきなり何を言っているんですか。これがなければ、だんな様の声を聞くことが出来ないじゃないですか」
と、不機嫌そうに答える殺生石の姿。
ややぼやけた視線の先には、いつも通りの着物に、狐の耳と、豪勢な九尾。
そして、ここが居間ではなく自分の部屋で、僕は布団の中で、パジャマ姿。
「……夢?」
「夢の時間はもう終わりです。さあ、起きてください。遅刻してしまいます」
殺生石に優しく諭されながら、僕は体を起こす
次第に鮮明になる視界。朝日の差し込む自室と、どこか呆れた様子の殺生石。
「もう、こんな寝ぼけた顔で。だんな様、早くお顔を洗ってきてください」
「う、うん……あ、殺生石」
僕が起きたことを確認し、部屋を出ようと立ち上がる殺生石。
「何でしょう?」
いつも通りの笑顔で、僕の方へ顔を向けてくれる。
……でも、すぐにその顔は、再び呆れ調子になってしまう。
「えっと……殺生石の尻尾って、外れるの?」
「……夢でもわたくしの事を想って頂けるのは嬉しいですが、そんな世迷い言があるはずないでしょう」
……ですよねぇ。
ダメだ、この手をどけたら大変なことに。
「もう。そうして顔を隠しても、朝は待ってくれません。さぁ、起きてください」
顔を覆う僕の手に、殺生石の手が触れる。
指先の冷たい感触。それで力が抜けた手を、優しく持ち上げる。
あぁ、結局僕は殺生石に逆らえない……。
「……あれ? 耳、付いてる」
「っ、いきなり何を言っているんですか。これがなければ、だんな様の声を聞くことが出来ないじゃないですか」
と、不機嫌そうに答える殺生石の姿。
ややぼやけた視線の先には、いつも通りの着物に、狐の耳と、豪勢な九尾。
そして、ここが居間ではなく自分の部屋で、僕は布団の中で、パジャマ姿。
「……夢?」
「夢の時間はもう終わりです。さあ、起きてください。遅刻してしまいます」
殺生石に優しく諭されながら、僕は体を起こす
次第に鮮明になる視界。朝日の差し込む自室と、どこか呆れた様子の殺生石。
「もう、こんな寝ぼけた顔で。だんな様、早くお顔を洗ってきてください」
「う、うん……あ、殺生石」
僕が起きたことを確認し、部屋を出ようと立ち上がる殺生石。
「何でしょう?」
いつも通りの笑顔で、僕の方へ顔を向けてくれる。
……でも、すぐにその顔は、再び呆れ調子になってしまう。
「えっと……殺生石の尻尾って、外れるの?」
「……夢でもわたくしの事を想って頂けるのは嬉しいですが、そんな世迷い言があるはずないでしょう」
……ですよねぇ。