宝石乙女まとめwiki 凝視で魅了
 どんなに日頃気をつけていようとも、メガネのレンズというのは何かしらの理由で汚れてしまう。
 そう言うときは当然レンズを拭く訳だし、それはペリドットだって例外ではなかった。
「んー……」
 メガネ拭き専用の布を使って、黙々とレンズを拭くペリドット。
 行動だけ見れば、何ということない日常の光景だ。
 だがしかし……。
「なぁペリドット、こっち向いて」
「あ、はい。何でしょうか」
 メガネをかけず、こちらの方に顔を向けるペリドット。
 その目つきは、すごく悪い。限界まで目を細め、必死に焦点を合わせようとしている。
 こちらをしっかり見ようとしてくれるのはありがたいのだが、まぁなんと言うか、その……。
「……っ」
「あのぉ、どうしました?」
「い、いや、何でも……くくっ」
 その顔が、見ていて何となく笑ってしまう。
 穏やかでありながら凛とした空気のあるあの雰囲気が皆無で、
代わりにどこかへなちょこなオーラが漂っているその姿。
 その上、俺の様子が確認できなくて困っているのであろう。首をかしげながら、困り果てた表情を見せている。
 失礼なのは分かるけれど、普段とのギャップがあまりにも……。
「マスター?」
「って、顔近いって!」
 いつの間にか、目を細めたペリドットの顔が目と鼻の先に。
 まつ毛の一本一本も区別できるほどの距離。鼓動が急速に早くなるのを感じる。
 そして、見やすくなったのか先ほどよりも目を開いた顔。はかなさを漂わせるその表情を、
俺は正視することが出来なかった。
「これぐらい近寄らないと、よく見えなくて。どうかなさいました?」
「どうもしない、どうもしないって。と言うか見えないならメガネかければいいだろっ」
「あ、それもそうでしたね」
 まるで今気付いたと言わんばかりに顔を離し、メガネをかけてから改めてこちらに顔を向けてくる。
 いつも通りのペリドットの顔。見慣れているはずのその顔も、先ほどの表情とだぶって目をそらしてしまう。
 何というか、今にもキスされそうな……あぁ、俺は何を考えてるんだ。
「それで、結局どんな用だったんですか?」
「だ、だから何でもないって。呼んでみただけだ」
「そうでしたか」
 俺の反応に納得したのか、微笑みを返してくるペリドット。
 だが、先ほどより小さな声で一言……。
「おかしいからって、人の顔を笑うのは失礼ですよ。見えてなくても分かるんですから」
 笑顔のまま、どこか不機嫌そうに呟く。
 見えてなくても、か。もしかして顔を近づけたのは、それに対する抗議のつもりだったのかも知れない。