2月ももうすぐ3周目にさしかかろうとした頃のこと……。
「ねぇマスター、手作り用のチョコレートって何買えばいいの?」
そんなことをレッドベリルが聞いてくるものだから、俺は思わずこう答えてしまったんだ。
「手作り用ー? そんなでかいの食べきれるのかよ?」
「……食べる訳ないでしょー!」
「ねぇマスター、手作り用のチョコレートって何買えばいいの?」
そんなことをレッドベリルが聞いてくるものだから、俺は思わずこう答えてしまったんだ。
「手作り用ー? そんなでかいの食べきれるのかよ?」
「……食べる訳ないでしょー!」
まぁ、何だ。
バレンタインデーという存在を、俺はすっかりと忘れていた。
だから思わずそんな言葉が出てしまった訳で……うちの店、バレンタインで何かやることもないからなぁ。
「悪かったって。だから機嫌直せよ」
「反省してるように見えないもん……」
俺の向かいで、テーブルにふくれっ面を載せたレッドベリル。
もちろん、怒らせたことに反省はしている。だがチョコレート作るとか言い出すなんて思ってもいなかったし。
「あー、ちゃんと作り方教えるからさ。それで勘弁してくれよ」
あまり凝った物でなければ、教える必要もない気がするが。
だが、その言葉に少しだけ興味を示したのか、横目でこちらの顔色を伺ってくる。
「……ホントに?」
「ホントホント」
「失敗しないように?」
「もちろんだ」
「……他の子と一緒はなしだから」
「え、何だって?」
「なっ、何でもないわよ」
何でもないって、こちらを見ながら小声で喋られたらなぁ。
「じゃあ、早速教えてよ」
「教えてよって……材料どころか道具もないぞ」
「なら買うまでじゃない。ほらっ、準備してよー」
冬だというのに、秋空のように機嫌が変わるレッドベリル。
まぁ、こうやって笑っている顔は、素直に可愛いと思えるけど。
バレンタインデーという存在を、俺はすっかりと忘れていた。
だから思わずそんな言葉が出てしまった訳で……うちの店、バレンタインで何かやることもないからなぁ。
「悪かったって。だから機嫌直せよ」
「反省してるように見えないもん……」
俺の向かいで、テーブルにふくれっ面を載せたレッドベリル。
もちろん、怒らせたことに反省はしている。だがチョコレート作るとか言い出すなんて思ってもいなかったし。
「あー、ちゃんと作り方教えるからさ。それで勘弁してくれよ」
あまり凝った物でなければ、教える必要もない気がするが。
だが、その言葉に少しだけ興味を示したのか、横目でこちらの顔色を伺ってくる。
「……ホントに?」
「ホントホント」
「失敗しないように?」
「もちろんだ」
「……他の子と一緒はなしだから」
「え、何だって?」
「なっ、何でもないわよ」
何でもないって、こちらを見ながら小声で喋られたらなぁ。
「じゃあ、早速教えてよ」
「教えてよって……材料どころか道具もないぞ」
「なら買うまでじゃない。ほらっ、準備してよー」
冬だというのに、秋空のように機嫌が変わるレッドベリル。
まぁ、こうやって笑っている顔は、素直に可愛いと思えるけど。
買い物から帰ってくれば、休む暇もなくチョコレート作りの手本を見せる。
台所に並べられた材料と道具。それを見ていると、なーんでバレンタインが近いこの時期に、
俺はチョコレートを作らなきゃいけないのかと今更になって疑問に思ってしまう。
「いいかー、手作りで一番重要なのは温度管理と水気を防ぐことだ。湯煎で溶かすのに、
お湯は5、60度で、チョコレートの温度は45度以下にするようにしないと駄目だ。
あとお湯の方の湯気がチョコレートに入らないようにする」
口を動かしながら、ゴムべらでひたすらホワイトチョコレートを混ぜる。
徐々に溶けていく、細かく刻まれたチョコレート。やがて原型を完全に失い、ドロドロの流動物になる。
「ふーん。温度の方は温度計でも使えばいいの?」
「そんなこと言ったら俺の師匠に怒られるぞ……まぁ、それでもいいだろうけど、失敗して覚えろって言われた」
「えー、それって非効率的じゃないの?」
そういう問題じゃないと言おうとは思ったが、プロになる予定はないのだから別にいいのか。
溶かしたチョコレートの入ったボウルを、一度お湯の入った鍋から上げる。
「……まぁ、そういう訳だ。で、完全に溶かしたら今度はチョコレート入った容器を水に浸けてまた混ぜる。
今回はホワイトチョコだから、25、6度ぐらいまでだな……レッドベリルなだけにチョコレートで紅白か?」
「そういう余計なことは聞かなくていいの!」
人の脚を蹴飛ばしてくるレッドベリルをよそに、今度は水の入った鍋から再びお湯へ。
「へいへい。まぁ、そこまで冷ましたら、またお湯に浸ける。2、3秒ぐらい浸けたらよく混ぜて、
28度ぐらいにしてやれば終わりだ」
後は冷やすだけ……なのだが、なぜかレッドベリルの目は困惑の色を見せていた。
「……結構、手間掛かるのね。えっと、何度で何度……」
「ドロドロ45、ひんやり25、できあがりは28だ」
「余計分かりにくい気がするけど……」
「うるさいうるさい。とにかくここまで出来ればいいから、頑張れよ」
溶かしたチョコレートを台に置きながら、レッドベリルの表情を伺う。
手間の掛かる物と分かって、少し不安そうだ。正直俺もちゃんと教えられたかが不安なのだが。
……それより、この溶かした奴。どーすりゃいいんだ?
「それより、手作りでチョコレート作るって、誰にあげるつもりなんだ?」
「え? えー……と、とりあえず、他のマスターさん達と、妹にペリドット姉さんと……」
ずいぶんとあげる人多いな……と、なぜかこちらの顔を見上げてくるレッドベリル。
照れくさそうに、時折こちらから視線を外しては、また見上げてきて……。
「あ、余れば、その……マスターにもあげるわよ」
余れば、かよ。ずいぶんとついで扱いだな、俺は。
「ついで、ねぇ。じゃあ期待せずに待ってみるか」
「む、何よその言い方ー。ならマスターから欲しがるようなの作ってあげるわよ、覚えてなさい!」
やっぱり秋ではないけれど、レッドベリルの表情は良く変わる。
恥ずかしがったり、怒ったりと。
まぁ、ここまで強がるんだったら、ちょっとは期待してみてもいいかもな。
「はいはい。あくまで期待せずに待ってるぞー」
「むきぃーっ!」
台所に並べられた材料と道具。それを見ていると、なーんでバレンタインが近いこの時期に、
俺はチョコレートを作らなきゃいけないのかと今更になって疑問に思ってしまう。
「いいかー、手作りで一番重要なのは温度管理と水気を防ぐことだ。湯煎で溶かすのに、
お湯は5、60度で、チョコレートの温度は45度以下にするようにしないと駄目だ。
あとお湯の方の湯気がチョコレートに入らないようにする」
口を動かしながら、ゴムべらでひたすらホワイトチョコレートを混ぜる。
徐々に溶けていく、細かく刻まれたチョコレート。やがて原型を完全に失い、ドロドロの流動物になる。
「ふーん。温度の方は温度計でも使えばいいの?」
「そんなこと言ったら俺の師匠に怒られるぞ……まぁ、それでもいいだろうけど、失敗して覚えろって言われた」
「えー、それって非効率的じゃないの?」
そういう問題じゃないと言おうとは思ったが、プロになる予定はないのだから別にいいのか。
溶かしたチョコレートの入ったボウルを、一度お湯の入った鍋から上げる。
「……まぁ、そういう訳だ。で、完全に溶かしたら今度はチョコレート入った容器を水に浸けてまた混ぜる。
今回はホワイトチョコだから、25、6度ぐらいまでだな……レッドベリルなだけにチョコレートで紅白か?」
「そういう余計なことは聞かなくていいの!」
人の脚を蹴飛ばしてくるレッドベリルをよそに、今度は水の入った鍋から再びお湯へ。
「へいへい。まぁ、そこまで冷ましたら、またお湯に浸ける。2、3秒ぐらい浸けたらよく混ぜて、
28度ぐらいにしてやれば終わりだ」
後は冷やすだけ……なのだが、なぜかレッドベリルの目は困惑の色を見せていた。
「……結構、手間掛かるのね。えっと、何度で何度……」
「ドロドロ45、ひんやり25、できあがりは28だ」
「余計分かりにくい気がするけど……」
「うるさいうるさい。とにかくここまで出来ればいいから、頑張れよ」
溶かしたチョコレートを台に置きながら、レッドベリルの表情を伺う。
手間の掛かる物と分かって、少し不安そうだ。正直俺もちゃんと教えられたかが不安なのだが。
……それより、この溶かした奴。どーすりゃいいんだ?
「それより、手作りでチョコレート作るって、誰にあげるつもりなんだ?」
「え? えー……と、とりあえず、他のマスターさん達と、妹にペリドット姉さんと……」
ずいぶんとあげる人多いな……と、なぜかこちらの顔を見上げてくるレッドベリル。
照れくさそうに、時折こちらから視線を外しては、また見上げてきて……。
「あ、余れば、その……マスターにもあげるわよ」
余れば、かよ。ずいぶんとついで扱いだな、俺は。
「ついで、ねぇ。じゃあ期待せずに待ってみるか」
「む、何よその言い方ー。ならマスターから欲しがるようなの作ってあげるわよ、覚えてなさい!」
やっぱり秋ではないけれど、レッドベリルの表情は良く変わる。
恥ずかしがったり、怒ったりと。
まぁ、ここまで強がるんだったら、ちょっとは期待してみてもいいかもな。
「はいはい。あくまで期待せずに待ってるぞー」
「むきぃーっ!」
◇
後日……。
「……ちょっと、大きすぎたかな。ペリドット姉さんー」
「あらあら、ずいぶんと大きなハートねぇ」
「……ちょっと、大きすぎたかな。ペリドット姉さんー」
「あらあら、ずいぶんと大きなハートねぇ」