第十一話

第2ラウンドは意外にも静かに始まった。お互いに刀が当たらないギリギリの距離を保ち、隙を窺う。
時には目で牽制したり気で圧したりした。しかしそこは達人同士、なかなか隙を見せない。
(…ふむ、隙のない良い構えだ。この娘中々やりおる。ここは一気に行くか…)
(さすが…。まったく隙がない。ならば無理やり隙を作る!)

一本松から飛び立つ鳥の羽音を合図に二人は同時に飛び出した。
刹那はフェイントを織り交ぜながら素早い連続攻撃を叩き込む。
「はぁぁぁ!!」
「ぬぅ…!何のこれしき!!」
鉄心はそれらを冷静に対処するとお返しと言わんばかりに背筋の凍るような鋭い技を放った。

刹那は持ち前の身軽さを生かし攻撃をかわすと鉄心の腹に肘鉄を入れた。
カウンター気味に入り堪らず後ろによろめいた。その隙を逃さず一気に間合いを詰め、突きを放った。
「貰っ…」
「甘いわー!!」

予想以上に立ち上がりが早く鉄心も突きを繰り出す。その刀は真っ直ぐに刹那の眉間に向っていった。
(逃げる事を考えるな!倒す事を考えるんだ!臆するな!前に出ろ!)
刹那は首を捻りながら前に出た。切っ先が頬に当たる。
(もっと前にっ…!!)

更に首を捻ると刀は頬を掠めていった。そしてしっかり踏み込み腕を前に突き出した。
「何っ!?…ぐッ!」
刹那の突きは鉄心の左肩を貫く。そのまま蹴り飛ばし刀を抜いた。
「ごほっごほっ!……ぬははははは!あの瞬間に前に出るとは。お主面白い奴よのぉ!」

「…もう十分でしょう。もう終わりにしましょう。」
「何を言う?ワシもお主もまだ戦えるではないか!それにこんな面白い勝負、終わりにするには惜しい!」
「しかし…!!」
「行くぞ!!」

そしてまた打ち合いが始まる。刀と刀がぶつかる度、金属音と共に火花が散る。
両者一歩も退かぬ互角の戦い。そんな攻防が10分以上続いた。
「はぁはぁ……」
「フゥフゥ……」

二人の体にはあちこちに切り傷ができ、体力も限界だった。
「ふふふ…お互いに体力の限界。次で決めるぞ!」
「はい!」
お互いに間合いを取り力を溜めた。

「黒生家奥義!」

「神鳴流奥義!」

溜めた力を一気に解放し二人は駆け出した。

「 百 鬼 夜 行 ! 」

「 百 烈 桜 華 斬 ! 」

………
……

満月は二人の人物を映していた。少女の喉下には折れた刀、大男の眉間には月光に照らされて鈍く輝く刀の切っ先。
しばらくの沈黙。数分後、男の口が開く。
「見事!ワシの負けだ…。剣を交える事が久々に楽しく思えたわい。また会おうぞ!」
刀を納めて立ち去る。その威風堂々たる姿、正に武士の中の武士。

戦いが終わり急いでドナドナの下に行く刹那。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
そこで刹那はある事を思い出した。
「そうだ!食べ物を食べれば!たしかキノコが…」

キノコはあっさり見つかったがここである問題が起きた。
(どれが毒キノコだろう…。)
沢山採ったはいいがどれが毒キノコか解らず迷っていた。この状態で毒を食わせたら間違いなく死ぬ。
しかし急がねばこのまま死んでしまう。迷った末に一番小さいキノコを選び口に押し込んだ。

(お願いします!神様、仏様、お嬢様!)
「もぐもぐ……うんっ!?」
「!!!」
「…………復活でござる!!」

運良く“アタリ”を選んだ刹那。傷も塞がりピンピンしている。
「はっ!そう言えば鉄心は!?」
「何とか勝利し、帰って行きました。」
「あの男に!?凄いでござるな…。」

「フフッ、ドナドナさんのおかげですよ。」
「……?それにしても凄まじい男でござったな。」
「…はい。……さあ、帰りましょう!すずさんがあなたの事心配してますよ。」

無事帰還した二人。当然のごとくドナドナはすずに怒られた。
しかしそれは心配だから、そして彼の優しさをしったから怒ったのだ。
刹那は例によってひよこまんじゅうを食べ回復するとすずの所で泊めてもらう事になった。
布団に潜るとそのまま死んだように眠る刹那。すずは優しく布団を被せてやる。

「刹那さん、ありがとうございました。おやすみなさい。」

激動の一日が終わった。刹那はしばしの休息をとる。まだ見ぬ明日へ向けて…。

~一日目終了~


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最終更新:2006年09月16日 23:50
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