「よっしゃー!これで魅音がビリだな!」
 俺はトランプを机に叩きつけながら叫んだ。堂々の逆転勝利ってやつだ。
「くっそ~!あそこで圭ちゃんがジョーカーを出すとは…!!うまく山からとったもんだよ!」
「はうぅ~。レナもいつ取ったかわからなかったよー。どうやったのかな?かな?」
「へへ!そんな簡単に教えてたまるかっての!」
 大事な大事な切り札を教えて、こっちがやり返されたらたまんないもんな。
 それに沙都子と梨花ちゃんは、すでに魅音の罰ゲームを楽しみにしているようだし、ここは圭一様が期待にこたえてあげなくては!
「じゃ、罰ゲーム決めるからな!」
 俺はそう言って、罰ゲームが書かれた箱に手を突っ込む。…だがそれはおとり!!
 本当はすでに手に持っているのだ…【敗者の家に一位が泊まる】と書かれたカードを。
「よし、これだ!」
「魅ぃちゃん…こ、これって…」
 カードを覗いたレナが困った顔をする。
「魅音さんの家に圭一さんが泊まるって事ですわよね…?」
 してやったり。みんなはその中身だけに注目し、俺が仕込んだとは考えない。ヤバい…笑いを抑えるのが大変だぜ。
「え???け、圭ちゃんがううう家に泊まる…?あ、ああわわふにゃ~」
 ナニを想像したのかしらないが、魅音は赤面して卒倒した。
 まぁ、その想像はきっと当たることになるだろうけどな!!

こうして俺は魅音の家に行く切符を手に入れた。

―魅音サイド―

「早く!!圭ちゃんが来ちゃうよー!」
「あんじょうすったらん!あないな坊ちゃんが来るからってなんばしよっと!」
 私はばっちゃを親戚のトコへやることで精一杯だった。
 圭ちゃんはあの日雛見沢の呪縛を解いたといっても、家にばっちゃがいたら自由に行動できないだろうし…。
「あわわわ、お香!お香も焚かないと!!あー!お香どこにやったっけ~!?」
 私はその辺りの戸棚を手当たり次第に開けて、お気に入りのお香を探していた。
 ちょっと化粧もしてみたり……なんてね!
「ふぅ!これでよし…と!」
 お香も焚いたし、ばっちゃも追い出したし、家政婦さんにはお暇を出したし、あとは圭ちゃんを待つだけかな。
「それにしても、あんな紙誰が入れたのかなぁ?」

 私が昨日の罰ゲームの紙について考えようとしたそのとき、聞きなれたインターホンの音が聞こえた。
 時間は六時過ぎ。結構時間通りだなぁ、圭ちゃん。
「魅音ー!来たぞー!開けてくれー!!」
 はいはい、すぐに開けるって。
「ようこそ!園崎家へー!今日は誰もいな…」
 そこまで言って、私は重要な事に気付いた。

 私は圭ちゃんと二人っきり
 私は圭ちゃんと二人っきり
 私は圭ちゃんと二人っきり…

 あ、あぁぁ!!ど、どどどうしよう…!!てっきり圭ちゃんのためを思ってやったことなのに、これじゃ…その、なんていうか…。
 私は己の頭に浮かんだその少し卑猥な考えを打ち消した。うん、圭ちゃんはそんな事しないはず!
「ん?魅音、どした?なんか顔赤いし…熱でもあるのか?」
 そう言うと、スッと手を出して私の額に当ててきた。
「ううん!何でもない!なんでもないって!ささ、とりあえず、家に入ろ!」
 圭ちゃんの手から強引に荷物を奪い、客室に案内した。

「でも、この家に魅音と二人っきりかー!なんかいいな!」
 え?なんかいいって…それどういう意味??それは、その…おじさんとけっ、けけケッコ…。
「あ痛っ!」
 まったく…圭ちゃんが料理中に変な事言うから、指を切ってしまった。
「あーぁ、魅音~!なれないことするからー!」
 うー、誰のせいだよ~!
「ほら、ちょっと貸してみ!」
 ボーッとしてた私の指をそっと手に取り、圭ちゃんはそれを…口に入れた!!
「えっ!圭ちゃん!?何やってんのさ!?!?」
「え?だて、ばい菌はいるとよくないだろ??だからこうやって消毒してるんだよ」
 圭ちゃんは血を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返した。
「ふぁ…あ、ありがと…」
 あぁ…もう声にならないよぉ!
「それにしても、魅音の手って、結構キレイだな!俺、知らなかったよ!」
 もうだめだ…私は圭ちゃんの笑顔を見ながらフェードアウトした。

  • 圭一サイド-

「お、おい魅音!!」
 なぜかわからないが、俺が褒めた途端に腕の中に魅音は崩れ落ちた。
(疲れていたのか…?)
 そのままじっとしててもしょうがない、隣の寝室で介抱するか。ついでに指にバンソーコーも貼ってやる。
(ん…よっと!)
 おんぶが一番運びやすいと判断した俺は魅音を背負うが、それにしても、魅音…意外と軽いんだなー。
「う…ん…。圭…ちゃ……ん」
 一瞬気付いたのかと思ったら、寝言か…。普段と違って、少し女らしいな。
「これでよし!っと」
 ひいてあった布団の上に魅音をそっと横にさせる。髪がふわりと靡き、いいにおいがただよう。
 まじまじと魅音を見つめる俺。コイツ…可愛いじゃないか。少し、顔が熱くなる。
(何思ってんだ俺は!しっかし、でかい胸だなー…)
「ん…」
 魅音が仰向けになる。
(ちょっとくらいなら触っても大丈夫…だよな……?)
 手を伸ばしてネクタイをどけ、はちきれんばかりの豊かな胸を覆うワイシャツに触れる。

ぷにゅ

 その感触に音をつけるなら、まさにこんな感じだ。
(胸って、こんなにやわらかったのか…。それに、少し気持ちいいな)
 続けて一揉み、二揉み…気が付いたら、手でわさわさと揉んでいた。下半身がかなりの熱を帯びてきたのを感じる。
(あー、ちょっとヤバイかも…)
「ん…。ふわぁ…、あれ?け、圭ちゃん…?」

!!!

 あ、危なかった。最初のうめき声のところで手をどけなかったら、明日から俺は【変態痴漢大魔王】のあだなをつけられてしまうところだった。
「もしかして、おじさんを介抱してくれてたの…?」
 寝ぼけ眼という感じで、こっちに小首を傾げる魅音がすごい可愛い…。
「ん?ま、まぁな。男なら、それくらいはしてやらないとな!」
 本当は少し違かった気もするけど、正直に言えない。だが、それを聞いた魅音は赤面した顔を見せる。
「ふぇ?あ、ありがと…ね。あ!そう言えば、料理途中だったの忘れてた…!!」
「あぁ、俺も忘れてた!…でも、魅音は病み上がりだし、出来合いのものでも俺はかまわないぜ?」
 笑顔で答えてやる。また卒倒されたらこっちも困る。
「えー!?せっかくおじさんが腕によりをかけて作ってたっていうのに…!!」
 腕を組んで、ぷんぷん怒る魅音。でも、それって俺のために…?
「じゃ、俺も手伝うよ!その方が速くできるだろ?」
 俺はこれ以上ないというくらいにモジモジし、赤面した魅音とともに厨房へ入った。

―魅音サイド―


 私が卒倒してからご飯食べ終わるまで、圭ちゃんは卒倒したときの事を何も言わないけど、何かあったのかなぁ?
 ちょっと胸元がはだけてたのは、もしかして…圭ちゃんが…?
 ・
 ・
 ・
 まさかね!あの圭ちゃんがそんなことするわけないよね!
 なんかムカムカするし、ここは一つからかってやるかな。
「ね、圭ちゃん…お風呂わいたけど、どうする?一緒に入る?」
 少し、意地悪だけど、上目遣いもプラスしてやる。
「な、何言ってんだよ!?魅音ー!」
 今でくつろいでいた圭ちゃんは私の申し出をきっぱりと断った。
「あはははは。赤くなってる!でもね、圭ちゃん、おじさんは本気だよ~?ウチのお風呂でかいし、二人でも全然平気なんだよ~?」
 横目で少しバカにしつつ、さりげなく圭ちゃんのとなりに座ってやる。
「ん?さぁさぁどうする?こんなチャンスはめったにないよー?ん?」
 私はコツコツとヒジで小突く。ふふ、やっぱりこういうときは圭ちゃんだなぁ。
 圭ちゃんが口を開く。そら、(やっぱり無理!)とか今に言うんだから!
「わかった…」
 ほら…って、え??????
「そんなに言うなら一緒にはいってやろうじゃねーか!!ふははははは!!」

 あれ?

 あれ?


 あるぇー???

 落ち着け!落ち着くんだ、うろたえるな園崎魅音!これは圭ちゃんの強がりだ。COOLになれ。
「あっはははは。それでこそ圭ちゃんだよー!まさかとは思うけど…恥ずかしがらないでよねー!」
 無理。どう見ても強がってるのは私。むしろ圭ちゃんは一緒に入れるのを喜んでるようにも見える。

 でも、一緒に入るってことは、 圭ちゃんの裸を見るって事で…

 あぁ、圭ちゃんのハダカ…

 ケイチャンノハダカ…


 見、見たいかも…。いつも罰ゲームでいろんな衣装着せてるけど、純粋なハダカって、これが最初じゃないのかな!?
 悪いね、レナ!圭ちゃんのハダカを見るのは、私の方が早かったみたいだよ!

 で、でもうまく(?)いったらこのまま私達…って、私はナニへんな事考えてるの~!
「じ、じじじゃぁ、け圭ちゃん、先に入っててよ!す、すすすぐに入るから!」
「おう!ちゃんと怖気づかないで入ってこいよー!」
 そう言って、圭ちゃんはポンと肩を叩いた。ナニを考えてるのか。はたまた何も考えてないのか…。

―圭一サイド―


 よっしゃー!きたきたきたー!!早くも俺の妄想…もとい、理想が現実になるとは…!!
 だよな!男一人女一人と来たら、一緒にお風呂入るのは当然だろっ!?そして、スキあらば…くくくくく!
 脱衣場で意気込む俺。ドアを開けると、モクモクと湯気が漂ってきた。
 園崎家の風呂は思ったよりもデカく、二人どころか十人入っても、まだまだ余裕がありそうだった。

ざぶーん

「あー、気持ちいいなぁ!」
 一気に湯船に浸かり、女神…の登場を待つ俺。扉一枚隔てた向こうには、輝かしいパラダイスが待っているのだ!

 早 く 入 っ て 来 い!!!

「おーい!どうした魅音ー!まさか魅音様ともあろうものが怖気づいてるのかー!?」
 タオルを頭にのせた俺の声は、風呂場に大きく響いた。
「…うぅ、圭ちゃん、今行くから…。今行くからあっち向いててー!」
 ん?扉の向こうで、部長様が何か言っている。
「おい、みおーん!それは違反じゃないか~?ん?」
「そ、そんな事言ったって…!!」
 ふはははは!バスタオル一枚で、困惑する魅音が目に浮かぶぜ!
「わかった!わかったから、入ってこいって!」
 仕方なく、扉とは逆側を向く。こういうことは嘘はつかない。あとで、後悔するのは自分だって知ってるから。
 ガラッとドアが開く。ヒタヒタという足音がする…今だッ!
「よー!!」
 勢いよく振り向く。
「うわー!魅音、おまえ…普段とは違うな!?」
「う~、ジロジロ見ないでよぉ…」
 そうは言ってもなぁ。やっぱり目がいってしまうんだよなぁ…。
 結び上げた髪。バスタオルに包まれた肢体。そのバスタオルを押さえる手…。
 …可愛い。ガラにもなく俺はそう思ってしまった。
「だから見ないでよー!」
 俺はまだ恥ずかしがっている魅音を尻目に、目の前に広がった眩しい光景を網膜に焼けつけようとしていた。
「いや、いつもと違ってかぁいい魅音を俺だけのものにしたくてなっ!」
「ふぇ…。か、かぁいい?」
 また赤くなってやがる。コイツは本当にそっち方面に弱いな…。また少しからかってやるか!
「あぁそうだ!魅音はなんてかぁいいんだ!レナなんて足元にも及ばない!魅音は雛見沢一の美人だぁぁぁっ!!!」
 あらん限りの大声で叫んだ。もしかしたら、近所に聞こえたかもしれないけど、そんなのはどうでもい。今の俺には、コイツをからかうことの方が大事だ。
「ちょっ!ちょっと圭ちゃんー!周りの家に聞こえちゃうよ~!恥ずかしいじゃん!」
「いいだろ?俺は恥ずかしがっている魅音が好きなんだよ」
 はっきり言ってやった。また倒れるかな?と思ったけど、今度は大丈夫だった。
「ほら、いい加減に入ったらどうだ?」
「…うん」
 まだ照れてるのか、ゆっくりと湯船に使っていく魅音。

さて、どうやってそのバスタオルを取ってやるかな~!

―魅音サイド―


 私は圭ちゃんの言うとおりに、ゆっくりと湯船につかっていく。バスタオルが体に張り付く。正直脱ぎたい…。

 それにしても危なかった。自分で言うのもなんだけど…今のは失神五秒前くらいだったかなぁ!あはははは!
 まさか圭ちゃんから、あんな言葉を聞くとは思ってなかったから、油断してた。
 でもでも、よく考えてみると、さっきのって事実上の告白じゃ…!!
 え~と、圭ちゃんって本当は私の事好きなんじゃないかなぁ。あれ?これは自意識過剰?

「どうした?魅音。さっきから黙りこくって」
 気まずいから、そっぽを向いていた体を圭ちゃんの方へ向ける。そこには大事なところにタオルを巻いた圭ちゃんの肢体が!…眩しい。
「ふぇ?…ううん!なんでもないよー!圭ちゃんこそ、黙っちゃってどうしたのさ?」
「いや、正直なところさ、これまで魅音のこと女の子だって意識しなかったけど、それは俺の間違いだったってことを考えててさー」
 なんてことを言うのだ、この男は。
「あはははは。ひどいなー圭ちゃん!この完璧なボディを備えたおじさんをオンナノコだって
見れなかったんなら、圭ちゃんの目はすごい節穴だよー!」
 私は圭ちゃんの前に立ち、胸を強調してみた。我ながらいやらしい…。
「ほらほら、どうー?レナよりは大きいと思うよー?」
「…ぐっ!そんなもん見せながら近寄るなよー!俺だって男なんだぞ!」
 見れば圭ちゃんは…その、タオルに隠れたオトコノコの大事なところを抑えながら、口だけが抵抗していた。
「ほっほー!さては圭ちゃん…おじさんの体見て、興奮しちゃったんだー!…あははは!圭ちゃんってば意外とウブだったんだねぇ!」
「ええい、うるさいなー!都会じゃ、勉強とかが忙しくてそれどころじゃなかったんだよ…」
 そっか…圭ちゃん、こっちにくるまでは結構辛い目にあってたんだっけ。
「あ…お、おじさんなんか悪いこと聞いちゃったかな…?」
「いんや、別に…それに、もう終わったことだしな!」

 再び続く意図せぬ沈黙。雰囲気を変えようと思った私は
「あ、そうだ!圭ちゃん!背中流してあげるよ!こういうのは初めてでしょ?雛見沢式の背中流し方を教えてあげるからさ!」と嘯いた。
 もちろん、雛見沢式なんてない。ちょっとした口実がほしかっただけ。
「ん?あぁ、悪いな!魅音。それじゃ、その言葉に甘えるとするか!」
 圭ちゃんと並んで湯船から出ようとしたそのとき。
「うわっ!?」
 圭ちゃんが足を滑らせ、体勢を崩してこっちに倒れてきた。
「えっ!?」
 足元は水で濡れてる洗い場なので、身動きが取れない私。

 ビチャッ

「「・・・」」
 ハッとしたとき、私は自分の胸に圭ちゃんの顔が埋まっているのに気がついた。
 そして、無意識のうちだろうけど、抱きしめていた。きっとこれが私の本当の気持ち…。
「あ、魅音…」
 慌てて手を離す私。なにやってんだろ…。圭ちゃんなら、このままでもよかったのに…。
「その…わるい。足が滑っちゃってさ、はは」
 もう我慢できないよ…。
「…圭ちゃん、私の事好き?」

―圭一サイド―

「魅、魅音??」
 あー、状況が全然飲みこめない。てっきり顔面を張られるかと思ったぜ。
 でも、好き?好きって…?魅音が俺にそう聞いてるのか…?
 俺の答えは?答え…?そんなものはもう決まっている―。
 でも、言うべきなのか。今、魅音はそれを望んでいるのか? 

 黙りこくっている俺を見据えて、魅音が口を開く。
「あ、あははははは!!おじさん何言ってんだろうね、あはは!ゴメン!忘れて!!」
 魅音は顔から湯気を出しそうなほど真っ赤になっていた。ということは、きっとこれは本気なんだろうな。
「け、圭ちゃんもビックリしたでしょ!?これね、ま、ま前から試してみたかったんだよ~!」
 魅音、やめろ…。
「でも、ややっぱり効果あったかな!?け、圭ちゃんはこ、こういうのなれてなさそうだからさ、あはははは!」
 それ以上言わないでくれ…。
「あれ?もももしかして、ほ、本気にしちゃった??じゃ、じゃあ、おおおじさん、悪いことしちゃったカナ?あははは!」
 限界だった。
「魅音!」
 俺は魅音を抱きしめた。すっかり冷えたバスタオルもまったく気にならないほどに俺の体は熱かった。心臓が痛いほど脈打っている。
 こんなのは初めてだ。
「魅音、俺はお前が好きだ」
「ちょっ…ちょっと圭ちゃん…?おじさんのわ…ふぐっ」
 それ以上何も言わず、無言のまま唇を重ねる。まだテクニックなんか、微塵もない。
 少し口を開いて魅音の吐息を口に感じると同時に、下腹部が少し熱くなってきているのを自覚した。
 だが、俺は理性からくる警告を無視し、さらに魅音に唇を押し付ける。
「…んっ…はぁっ…」
 魅音の口から漏れるかすかな喘ぎは、俺にとって次のステップに進むには十分すぎる燃料だった。
 俺は口から舌という性欲の手下を召喚し、魅音の唇に侵入させようとした。
 だが、魅音は緊張のせいか、口を開こうとしない。
(少し強引だけど…)
 俺は胸に手を伸ばす。
「んっ…」
 今だ!
 俺は無防備になった口腔へ舌を入れ、思う存分暴れさせ、味わった。
 幾度となく魅音と舌を這わせ、交じらせ、体液を味わい、魅音のそれを吸っただろうか。
 気がつくと、口の周りが汚らしいほどにお互いの涎でびちょびちょだった。
(もう十分だよな…?)
 俺は唇を離し、魅音の胸に再度手を伸ばそうとする―が、
 魅音の手はそれを拒絶した。
「圭ちゃん…何か違うよ…。おじさんは…」
 泣いているのか…?
 俺は、二人の体液と涙で濡れている魅音の顔を見つめるが、何も言えずに突っ立っていた。
「お、おじさん、先に出てるね…」
 すすり声でそう呟くと、ガラッとドアを開けて浴場の外へと出て行った。

―圭一サイド―

(魅音…どうして…?魅音だって、それを望んでいたんじゃないのかよ!?)
 すっかり湯気が消えた風呂場で俺は立ち尽くしていた。
 背中についた水滴はすでに乾いていて、それに伴いゆっくりと体温が下がっていくが、頭の中はそれどころじゃなかった。
(結局、俺の勇み足だったってことなのか?
まぁ、あとで一応謝っておくか…このままじゃ学校で何言いふらされるかわからねぇし!)

 温度差が激しい脱衣場で浴衣に着替えてから、部屋に戻る途中で居間の電気がついていることに気がついた。きっと魅音だ。
「魅音…いるのか?」
 おそるおそる手を伸ばし、襖を開け、中に入る。
 ストーブが付いていたので寒くはないが、さっきの後ろめたさも手伝って少し鳥肌が立っていた。
「…っく…ひっぐ…」
 暗がりの中こっちに背中を向け、同じく浴衣姿の魅音がすすり泣いているのが見える。少し、ショックだな…。
 魅音はドアの音でこっちに気付いたのか、袖で顔を強く擦り、立ち上がる。
「あっ…圭ちゃん、お風呂上がったんだね!今布団ひくから待ってて!」
「え?あ、あぁ頼む。それより、魅…」
 魅音が俺の言葉にすばやく反応し振り返る。
「ん?なに?もしかしてさっきの事??お、おじさんあんなの全然気にしてないから!むしろ、おじさんが変な事言ってたしね!あはははは」
 …ウソだな。あんな魅音、今まで見たことないぜ。
 当の魅音はそんなことはもう忘れた、といわんばかりにドタドタと俺の部屋へ行って押入れから布団を出し、勢いよく広げる。
「さぁさ、圭ちゃん!どうぞ横になってごらんよ!
コレね、結構高価な布団なんだよー!お客さんが来たときにはこれを出すのが園崎家のしきたりってわけ!」
 なんだかすっかりいつもの魅音だな。もしかして、お気遣いは無用ってことか?それは俺にとって、願ったりかなったりだが。
 なぜなら、あれから俺の頭はずっと魅音と一夜を共にすることだけになってしまっているし、
それにもしあれがなかったことになるなら、さらに親密になるために考えがないわけでもない!

 そう思い、さっそく軽いジャブから打ち込む。
「ふぅん…で、魅音は俺と一緒に寝ないのか?」
 プシュ~!と湯気が出ると同時に、魅音の顔が少しづつ赤くなっていった。ホント、面白いくらいこっち方面には弱いな!
「け、圭ちゃん…そ、それはおじさんと一緒に寝たいってこと?でっ、でもお、おじさんね、寝相が悪いから迷惑かけちゃうとおもうけどなー!あはは」
 はは、照れてる照れてる!もういっちょダメ押しに…
「いや、俺はいつも魅音と一緒に寝たいと思ってた!そして今日こそ、長年の夢がかなうと信じてるんだぁっ!だから、今日だけ一緒に寝ようぜ?
それに…もし、魅音が泥棒に襲われても、すぐに助けてやれるだろ?」
 俺はそういいながら魅音の頭に手をかけ、なでなでしてやった。

そのとき、ぼん!という音が俺には聞こえた気がした。

「ふぇ…うん、いいよ…」
 魅音の口から聞かされるOKの言葉。
 よし!まず第一段階!これでトロンとした目つきの、すっかり乙女モードに入った魅音の完成だ!
 俺は敷いてあった布団をたたみ、新たに押入れから一段階上のサイズの布団を出す。
「って、圭ちゃん!?一緒にって…同じ布団ってことだったの!?」
 今更というべきか、理解の甘さか、魅音はシングルということに驚く。
「当たり前だろ?ちゃんとそう言ったぞ?」
 本当は微妙にごまかしてたが。
「圭ちゃんと同じ布団…けいちゃんとおなじふとん…ケイチャントオナジフトン…」
 魅音は敷かれた布団を前に、経文のように同じ言葉を繰り返す。
 どうやら、ウブな魅音は俺と同じ布団というだけで妄想の世界に入っちまったようだ。
 それでこそ、ヤリがい…じゃない、可愛がいがあるってもんだ。
「ささ、早いトコ布団に入ろうぜ~!暖まった体が冷えちまう!」

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最終更新:2007年02月22日 10:09