『こ……。……こんばんは……沙都子』
……電話の向こうから聞こえてきたのは、梨花の声だった。
どこか探る様な、怯える猫を思わせる声……。彼女らしくない、私の嫌いな梨花……。
『あの……さ、沙都子……?』
「……今日も、帰ってこないつもりですかしら?」
『あっ……ぅ……』
口調も同じなら困らせたときの態度も同じ。ああ、本当におふたりは仲がいい……。
『梨花~。梨花の番なのですよ~。早くこないと飛ばしますですよ~』
こちらはいつも通り、ふわふわと間延びした羽入さんの声。
「……ほら。羽入さんが梨花を呼んでらしてよ?」
『あっ……。あのね、沙都子。良ければあなたも……』
「今日は梨花が掛けてきましたのね……。それで、どうですの? 夏祭りの塩梅は? いつ頃にやるのか、もう日時は決まりまして?」
『う、うん。八月の下旬頃にやる目処がついたの。だから会合で家を空けることはもうないから……』
「……会合では、でしょ……」
『え? 何か言った? 沙都子』
つっけんどんな態度を緩めて、矢継ぎ早に話す中に小さく嫌味を混ぜてみたけれど、梨花には伝わってはいなかった。
『それでね、今こっちには圭一とレナも来てるの……』
……なるほど。だからいつもの様に羽入さんではなく、梨花が電話を掛けてきましたのね。
『ふたりとも、今日は魅音の家に泊まるから。だから……沙都子も来なさいよ』
「…………ふうん。そう、ですの……」
焦らすことも兼ねて、私はすぐに返事はしないで話しを振り、梨花とのおしゃべりを楽しむことにした。
六月の綿流し祭りだけじゃなく、新しいお祭りを雛見沢に起こそう。
綿流しに私のお誕生日会と、勢いに乗ったみなさんの思い付きを魅音さんが受け止め、形にする為の話し合いを、七月に入ってから魅音さんのお家で行われていた。
その会合には村の人なら誰でも参加ができるのだけど、私は一回出たきりで、それからは遠慮していた。……別に北条家だから、という理由じゃなく。
梨花と羽入さんをお家の外でくらい、家族水入らずにしてあげようと思ったから。
それが効き過ぎて少し、おふたりの傍に居辛くなったけど、それも今だけだと信じているから……。
同じ梨花にやっかいになる私と羽入さんでも、私は他人。
居候はいつの日か、このお家を出て行くのだし……このくらいの扱いがちょうどいいのですわ……。
『ちょっと圭一! 聞こえたわよ! 私のアイスを勝手に盗らないで。羽入ー、お願い! 圭一から……羽――』
梨花の声が途切れて、遠退く感じがして……そして、受話器越しに電話主の変わる気配がした。
『はろはろ、沙都子』
詩音さんに似た砕けた挨拶。でも違う。羽入さん。
梨花と同じ苗字。梨花と同じ白い肌。梨花と同じ血を引く綺麗なひと。
『今日も僕と梨花は帰らないので沙都子はいつも通り、留守番をお願いしますのです。お土産はお魎のおはぎとカボチャ料理でも持って帰るのです』
『羽入! なに勝手なこンッ?! ぷ、あっ! ちょっ……と止めな』
……チン。
羽入さんに変わってからいつもの……それにくちゅむちゅと、おふたりがキスをする音がしだしたから、電話を切った。
ちゃぶ台は折り畳まないで、上にはまだほとんど答えの埋まっていない夏休みの宿題が出しっ放しにしてある。それをお布団を引くのに邪魔にならない所に除けて自分の分のだけ、顔の所に月明かりが来る様にお布団が引いてある。
さっきの……おふたりの声も何もかも考えずに窓の所へ行こうと。変に前しか見ていなかったから、足元にあった枕を変な風に踏んづけてしまった。
「っう…………うあああーッ!!」
爪先で踏んでアキレス腱を痛いくらいに伸ばされて、いらつきが痛みを何倍にもしてそれがいらつきを倍にして……私は思い切りその枕を蹴飛ばしていた。いけない――と後悔しながら、開いた窓から落ちていく枕をただ見つめていた。でもあれが自分のだったらと……実際あれは自分の枕だったと気付き、私はほっとした。
「はぁ……梨花……」
窓辺に寄り、すでに用意してあった“私の匂い”のする梨花の枕にほおずりをしながら窓枠に座る。梨花の特等席ともいえるそこは、今夜だけは私だけの席。
「……ああ。すごく匂う……。臭いですわ……」
自分の恥ずかしい匂いに、私は真っ赤になって……なのに梨花は、眠るときにこの匂いが気にならないのですかしら……。他人の、それもあんな所の匂いなのに……。
いけないことをしている、という後ろめたさが神経質にさせているから……? 他の人よりも鼻が優れ、だから圭一さんや梨花から「犬っこ」だの「犬耳メイド」だのと……。
そんな不名誉な二つ名を忘れようと私は頭をぶんぶん振って、パンツを“半分だけ”脱ぎ……とその前に。
ひと月前の夜もこんな明るい夜でしたわね……。そしてなぜか、次の日から梨花と羽入さんは私から距離を置きだしたのですわ……。
白くて丸い月を見上げている内に鼻の奥がつんと痛くなって……私はお部屋の明かりを消した。
窓枠に座る梨花と、彼女の足元に正座をする羽入さん。
私もあの綺麗なおふたりみたいになれたら……。
そんな想いも始めはあった月光浴。
「はあっ、はあ……んっ! はあっ……んんうーッ!」
両膝でぎゅっと窓枠を締めて腰を前後に揺らすと、胸と足の付け根に挟まれたパンツも揺れていた。
「ぱんつは半脱ぎが萌えるというか常識」と圭一さんたちが。それと梨花をまねしてやってみているのだけど……こういうのは自分ではなく、見ている相手を楽しませる格好なのだと思う。
「ふあっ…………く、ぅ……」
大きくなった“肉の芽”をぎゅうっと、股間の下の枕で押し潰す。すると股……女性器からぬるぬるしたものがじゅわっと出て、枕に染み込まれていく。そのときに声が出るのを我慢した方が“長く持つ”ことを、何度か試している内に知った。
「……ああ。ん……あぁ……。くっ……んふ……」
腰の動きは緩めに、肌着を胸の上にずり上げておいて、窓枠の背にむき出しの胸を押し付ける。
「……ぁぁ…………私のもこんなに……」
そこは梨花が寄り掛かっていた所。梨花の背中……。羽入さんが後ろから梨花に圧し掛かり、横にはみ出るほど押し付けられる場所……。
今は……ふたりきりではないから、そんなことはしていないと思うけど。だけど……場所を選ばないひとたちだから、もしかすると今夜も……。
「ん……っ! ンうッッ!」
思わず浮かんだおふたりの姿にジェラシーを感じ、それを潰そうと腰の前後運動に横の動きを加えた。だから胸にも同じ動きが伝わって……。
「ンっ! あん! おっぱいがあ……こ、こねこねして、あっ! ンアっ!」
子供っぽくて、羽入さんもそう言っているし……。でも、気持ちが高ぶってくると胸の先がじんじんして、どうしても「おっぱい」と言ってしまう。
「アはああっ! イくっ! あ……っ! い……あ、ふああッ!!」
でも梨花の……ことあるごとにいたずらしてくるときも「沙都子のでかぱいをボクに寄越しやがれなのですー」って。あの梨花でもそんな風に言うのだから、私もいいかな……って。
「りい……っ……梨花のお顔をぱふぱふしてえっ……さ、さしアっ? ああッ……あああっ!!」
イく瞬間、我慢していた声で“具体的”に言葉にして、まず一回……。
おふたりの女性器から白い、たくさんのどろどろしたモノが出てくるのと同じ、私もおしっこといっしょに粘液を……それが梨花の枕と、足首にも垂れ流れてきた。
はあ…………月、が綺麗……。今夜はもっと……独りでだって一晩中、やってやりますわぁ……。
疲れて、顔と胸とで窓枠の背に寄り掛かって、私は空ではなくて畳を見ていた。弓なりに反った上半身が息継ぎで揺れて、色濃い影となって畳に写っていた。
「はあむ、ふぅ……ん…………」
もう一つ、今度はリコーダーをおくちに、飲み込むくらいに深く咥え込む。
まだ買ってからひと月の、真新しい縦笛。羽入さんの……縦笛。
時々ぷう、ぷ……と音がするけど、別に笛の練習をしているわけじゃない。練習といえば練習なのだけど……。
ぷっ……ぷぽぴっ! ぴゅ! ぷっ! ぴぷっ!
また少し、頭が締め付けられるみたいにぼう……となって、息継ぎが激しく、だからリコーダーも調子っぱずれの高い音しか出なくなってきた。
フェラチオ……という行為。
富田さんと岡村さんが持っていたエッチな漫画に載っていて……梨花が羽入さんにしていた行為の内の一つ。
笛の本体に歯が当たらない様に、喉の奥まで飲み込んでは出すを繰り返す……。
ことのほか八重歯が邪魔をして、フェラチオの難しさを思い知る。それに、なるたけ鼻で息をするべきなのだろうけどその際に、よだれを飲み込もうとすると、いつもむせるのが悔しい。
「……ぷあっ……」
息苦しさと顎の疲れで、おくちからリコーダーを抜く。この後にお風呂に入るから、おくちとリコーダーから滴るよだれも気にせず、肌着と胸に吸わせておく。
とりあえずフェラチオの練習は一休みして、よだれ塗れのリコーダーを胸に挟む。これも漫画を手本にして、梨花が嫉妬をする胸をむにゅっと寄せてぐにゅぐにゅと谷間の笛をしごく。ほほ、私にはパイズリの方が合っていますわね。
窓枠の上で体育座りをする格好で、両膝の内側でもリコーダーを支える。膝も上下に動かせて、膨らんだ先端部分を咥えさらに大きく、リズミカルなパイズリになっていく。
「……ん……ぅ……アふ……」
ぴ……ぴぃ……ぃ……。
連結部分がアクセントになって、知らず知らずの内に声が漏れ、音が漏れ出る。
元々つるつるした表面なので、滑りが良ければそんなには難しくはなかった。難しいといえば……。
「ひゃ……あーっ!」
背中とおしりの二点だけで体を支えているからバランスが取り辛い。で、熱が入り過ぎると今回の様にお部屋の方へドテっと。初めてのときは本当にお外に落ち掛けて……。あれはまだ記憶に新しいですわ……。
万が一、梨花と羽入さんが帰ってきたとき、すぐに気が付ける様にと窓に座ってやることにした。見られたときが練習の成果を試すとき。そして私が、梨花の代わりに羽入さんを受け止める……。
改めて、梨花の枕を鞍代わりにして窓枠に馬乗りになる。リコーダーは、先端をおしりの穴に当てて、窓枠の背との間につっかい棒にしておく。
「ん……っ。んん……」
腰を後ろに押して、おしりの中に……多少の痛みをも巻き込んでリコーダーを入れていく。
「……んっ! あはあっ!!」
ずぬ……んとリコーダーの先端が入り込む瞬間がもっとも痛く、そして遥かに気持ちが良くて……。
「んん……あっ、くっ――」
ぷぴ――――ッ!!
「あぁあっ? ぃ……いや……っ」
だから入れただけでイくのはいいのだけど……。
はしたない声は意外と出なかったけど、その分リコーダーがとんでもなく大きな音をたててしまった。
「あっ、アッ、イヤ! おならが止まら……んんっ?! やァ……っ」
ぷっ、ぷっ、ぷぴ! ぷぷーう……ぴぷうーっ!
がくがくと体の揺れる余韻も、恥ずかしい音で愉しむことができなくて……。
「とりあえずお風呂に入って……。梨花の枕を洗いませんと……」
さっきの音が誰かにでも聞かれていたらかと思うと……もう、続きをする気分にはなれなかった。
その日の夜に干した梨花の枕は、次の日の午後を回っておやつの時間になる頃にはふかふかになっていた。
梨花と羽入さんはというと…………私の分のおはぎまで食べてしまったから明日帰る、という電話を羽入さんが寄越して、その日も帰ってはこなかった。
最終更新:2010年01月30日 00:44