<1>
暁ちゃん!ちょうど良かった!今から暁ちゃんの家に行こうと思ってたの」
行きつけの画材屋から自宅に帰る途中、暁は聞き覚えのある声に呼び止められた。
振り返ると幼馴染の珠子がこちらへ走ってくる。
「いま千紗登の家にいるの。久しぶりに暁ちゃんも来ない?」
「…いや、俺は…」
彼は右手に持つ紙包みに視線を落とす。それは先ほど買ったばかりの新しい画材だった。
コンクール課題の期限が一週間後に迫っている。
一刻も早く自室にこもって絵の製作に取り掛かりたい。
今の彼には幼馴染の少女たちと遊んでいる暇などなかった。
暁はその旨を伝えようと口を開く―――が。
珠子の一言で、言葉をのんだ。
「夏美も来てるんだけど」
「……………」
無口で無愛想―――彼を知るほとんどの人間は暁のことをそう評する。
だが数少ない、本当に近しい人間だけは知っているのだ。
彼が、その佇まいからは想像も出来ないほどに激情家…もとい、分かりやすい人間だということを。
「最近夏美と会ってないんだってねぇ?」
無言で自分の後を付いてくる暁を見ながら、珠子はクスクスと笑った。

父親が大病院の経営者。その肩書にふさわしい千紗登の家は、もはや邸宅と言っていい。
幼馴染の部屋へと続く長い廊下を珠子と二人で歩く。
「だめじゃない。ちゃんと『カレシ』らしいことしないと。高2の夏はすぐに終わっちゃうのよ?」
暁は答えない。代わりに頭の中で呟いた。それができれば苦労しない、と。
告白し、互いに一年も前から気持が通じ合っていたことが分かり、正式に付き合い始めて約一ヵ月。
何度か二人だけで会ったりもした。が。
暁には常に一つだけ疑問があった。
自分といて、果たして夏美は楽しいのだろうか…と。
人一倍口下手だという自覚はある。騒がしい事は好きではないし、
そもそも女の子が喜ぶような話が、無骨な彼にできるはずもない。
夏美が話し、暁が相槌を打つ。そういう関係になるのもごく自然な流れだった。
まだ付き合いだして日も浅い。お互いこういったことに不慣れなせいもあるだろう。
二人の会話は途切れがちになることもある。
実のところ暁自身は、その沈黙さえ心地良いものと感じているのだが…。
だが、夏美もそうだとは限らない。
「実はね、夏美、泣きそうな顔で千紗登に相談してたのよ」
「夏美が?…なにを」
「私といても暁くんは、楽しくないんじゃないかって」
「……」
「千紗登はね、もっとお互いのことを知ることが大事だって言ってたの。
暁ちゃんを連れてくるように言ったのも、千紗登のアイデア。暁ちゃんの協力も必要なのよ」
「………そう…か」
正直有難い。夏美の悩みを解消できるのならば何であろうと容易いことだ。
「だから、いい?この部屋に入るためにひとつ条件があるの」
ようやく到着した千紗登の部屋の前で立ち止まり、珠子が言った。
「絶対中では喋っちゃダメよ。分かった?」
意味が分からなかったが、とりあえず暁は頷く。
ノックを3回。珠子が扉を開いた。
「千紗登?お菓子買ってきたよー」


<2>
「おっかえりーぃ」
部屋の主が景気よく返事をする。
久しぶりに入った千紗登の部屋。10代の少女の部屋とは思えぬ広さ。
その一角に陣取ったベッドの上。そこに、二人の少女が座っていた。
部屋着でくつろいだ千紗登と、そして―――夏美。こちらはなぜか目隠しをしている。
「どう?イメージトレーニングは進んでる?」
「ぜーんぜん。夏美が照れちゃってさあ」
「だ、だって、千紗登ちゃん、変なことばっかり言うんだもん!」
「変なこと言われても対応できるように練習してるんでしょうが!
大体ねえ、暁はおかしなことばっか言う奴なんだから、こういうことにも慣れとかないと、
夏美、あんたあの朴念仁とまともに付き合えないよ?」
「…………う」
畳みかけるように言われ、夏美は観念したようにうつむいた。
目隠しはつけたままで。
千紗登が暁の顔を見て笑う。
一方の暁は困惑したまま。…イメージトレーニング…?一体何の話だ?
「本当、いじらしいわよね夏美は。暁ちゃんと付き合うための練習なんて。
千紗登みたいなのを暁ちゃんって思うのも大変だろうし」
「そのための眼隠しだ。決してあたしの趣味ってわけじゃない」
「…あんたの趣味なわけね」
幼馴染二人の会話を聞いて、暁もようやく理解する。
千紗登が暁の役をし、夏美はそれを相手に『練習』をしているのだ。
暁と話すための、『練習』を。
自分が口下手であることがここまで夏美を悩ませていたとは。その時彼ははじめて痛感した。
情けない。そこまで夏美に気を使わせていたのか。
そんな暁をよそに、千紗登がパンパンと両手をたたいた。
「はい、じゃあさっきのシーンをもう一回ね。いい?夏美。あたしを暁だと思って話すのよ?
目隠しもとっちゃダメ。あいつがどういう顔して言うか想像すること」
「う…うん」
夏美がおどおどと頷く。
当の本人である暁が目の前にいることにも、まるで気が付いていない。
「よ、よろしくお願いします…」
「よし。んじゃいくよ。……夏美、昨日の夜は何してた?」
千紗登は低めの声色を使い、夏美の横に座りなおす。暁の役を始めたのだ。
「う、えとね。昨日の夜は、おかーさんにパッチワーク教わってたの……あ、暁、くん。
わたし不器用だけど、お裁縫はちょっと得意だから」
暁が知らなかった夏美の一面だった。不器用だけど裁縫は得意。
「へえ?女の子らしいな、夏美は。知らなかった―――よねえ?」
千紗登が暁を見て微笑む。
彼は今更ながら、この幼馴染に感謝した。
暁とうまく話せない夏美の相談に乗りながらと同時に、暁には夏美の知らなかった一面を見せてくれる。
自分がもっと知りたいと思っていた夏美のことを知ることができる。
自分はけしてああいう気取った話し方はしないと思うが―――そこは御愛嬌。
千紗登の話し方が面白かったのか、夏美は笑いながら暁を―――暁のふりをする千紗登を見た。
「ね、暁くんは?昨日の夜は何をしてた?やっぱり家に帰っても絵を描いてるの?」
「うん?ああ、俺か?」
一瞬の間。千紗登は暁の顔を見た。
ニヤリと、邪悪な笑み。
暁は不吉な予感に眉をひそめる。
こいつがこういう顔をするときは、ろくなことがない。
「俺は、昨日の夜は夏美のことを考えてたよ」
千紗登の答えに夏美が頬を赤く染める。
「わ、わたしのこと…考えてたの?」
「そう。俺は昨日の夜、夏美のことを考えて………オナニーしてたんだ」
ぶ。暁の横で珠子が麦茶を吹いた。
一方暁は、予想だにしない答えに、愕然。
「…ちっ……」
声を出しそうになり、あわてて口をふさぐ。大丈夫。間に合った。
「ちょ、ちさ…!あんた何言い出すのよ!」
「ちさぁ?俺は暁だよ、たま。ちさはこの部屋にはいないだろ?
それに俺だって男だし。オナニーくらいするさぁー」
「あんた下品すぎ!いくらなんでもそれは引く!」
ぎゃんぎゃんと賑やかに叫びあう少女二人。
だが一人、まるで緊張感皆無の口調で、夏美が呟いた。
「おなにー……………?なに、それ」
暁は頭を抱える。

頼む夏美。そんな無邪気な声で言わんでくれ。

「わ、私っ、お茶のお代わりもらってくるからねっ!」
羞恥心か怒りか―――そういった感情が暁よりも早く沸点に達した珠子が
慌ただしく部屋を出ていく。
暁も一緒に帰ろうかとも考えたが、今この場を立ち去るのは危険ではないか。
夏美にとっても自分にとっても。
そんな予感が彼の足を止めた。
「……珠子ちゃん、どうしたの?」
「ああ、気にしない気にしない。ところでさ。夏美、本当に知らないの?オナニー」
「うん。ちさ…じゃないくて、暁くん。ね、暁くん、おなにーって、何?」
自分の名と、卑猥な単語。
夏美の舌足らずな口調だと、背徳的な淫猥さがある。
暁は息を吐く。音を出さないように。体の熱を逃がすように。
…興奮を、悟られないように。
そんな暁の反応を見て、千紗登は夏美ににじり寄った。
「知らないのか?夏美。オナニー…したことない?
他にも自慰とかセンズリ、マスターベーション…って、言われてるんだけどなぁ」
「………よく、分からないけど…あの、暁くんはよくするの?おなにー」
「もう毎日。夏美のことを考えながら」
いくらなんでも毎日なんかするものか。暁は脳内で反論する。
だが反論できたのは頻度だけ。
誰を考えてか―――こちらは図星だ。後ろめたさに襲われる。
「あ、暁くん、わたしのこと、考えながら…するの?おなにー…」
夏美の顔が赤くなる。
たちが悪いことに、彼女は言葉本来の意味が分かってないのだ。
ただ純粋に、『暁が夏美を思ってる』という、それだけの言葉が、嬉しい。
…自分が夜、彼女のことを考えて何をしているか。本当のことを知ったら夏美はどう思うだろう。
「そうだ夏美。知りたいだろ?どういうこと考えて、俺がオナニーしてるのか…」
「う、うんっ…」
千紗登は俺の考えが読めたりでもするのか。暁は舌打ちしたくなる衝動を抑える。
流石にもう我慢も限界だ。
これ以上妙なこと言いだしたら、問答無用で部屋を出て行ってやる。そう心に誓った瞬間。
千紗登が夏美の肩を抱く。そして―――胸元に、手を伸ばした。
「ひゃ、ち、千紗登ちゃっ…」
驚いて、夏美が悲鳴を上げる。
「な、なに?急にどうしたの?」
「…暁くん、でしょ、夏美?」
「あ、う、あ…暁く…ん…」
「…いいから、じっとしてて…」
暁の眼の前で、夏美の服のボタンが外されていく。一つ一つ。
夏美の小ぶりな乳房がちらりと見えた。
まだ幼いふくらみ……ブラは、していない。
夏の暑さのためかそれとも…。
以前、千紗登が「夏美は胸が小さいのを気にしている」と言っていたのをふと思い出した。
「…夏美ぃ、あんたあたしがこの間選んであげたブラ、着けてるの?小さいからって油断してると
すぐ体の線はくずれるんだよ?」
「だって、背中がむずむずして落ち着かないんだもん…」
夏美がぼそぼそと呟く。
「暁が知ったらどう思うかなあ…夏美がノーブラであいつの前うろうろしてるなんて」
「べ、べつに暁くんは何とも思わないよ!」
「いやいや、絶対夏美の胸元に視線集中するだろうな。身長差を考えれば十分見えるだろうし…」
夏美の白い肌に、千紗登の指がそっと触れた。
「っあ…」
「でもあいつより、あたしの方が先だったね…夏美の胸見るのは」
「…っ…そ、そういう言い方…なんか…やだ…っ」
「だってかわいいよ、夏美の胸って。すごく繊細な感じがする。乳首もピンクだし…自分で触ったりしないの?」
千紗登が夏美の耳元でささやく。指が、輪を描くように、色素の薄い乳首の周りをじりじりといたぶる。
「え…や…や…あっ…あ」
たどたどしく唇から洩れる夏美の声。
それはくすぐったい為か、それとも。
ごくり―――はからずとも、暁の喉が鳴る。
千紗登の舌が少女の首筋をなぞる。ひっ、と夏美が小さく悲鳴を上げた。
困惑したように夏美は千紗登の腕にしがみつく。
「気持ちいい?夏美?」
「く、くすぐったいよ!もう、変なこと…しないでっ…っあ!」
「そう?でも嫌じゃないよね?ほら、かわいー乳首が立ってきた…」
「ち!千紗登ちゃん、やだ、もうストップ、ちょっと待って…」
「……千紗登じゃなくて、暁…でしょ?」
「っあ…………!」
びくんっ。
千紗登の口からその名をささやかれると、夏美の小さな身体が目に見えて大きく―――
「や、あ…あ…」
快感に、震えた。


<3>
「これは暁の手、暁の舌…いいね?夏美?」
「あ…は…い…暁……く…ん…」
息を吐きながら、喘ぐように暁の名を呼ぶ。
名を呼ばれ、少年の背中がぞくりと粟立つ。背筋を小指で撫でられたような感覚。
夏美が、愛しい少女が、快感に身を震わせながら、自分の名を呼んでいる。
腹の下がうずく。だが自分は何もできない。してはならない―――できるはずもない。
拷問だ。
噛みつくような眼で自分を睨みつける暁の視線を受け流し、千紗登がベットの上に夏美を押し倒す。
力が抜けきった少女の細い体は、抵抗らしい抵抗もなかった。
前開きのブラウスのボタンが全て外され、暁の眼の前に夏美の白い肌が露わになった。
冷房のモーター音だけが響く静かな室内。聞こえるのは、夏美の苦しげな息遣いだけ。
「夏美。乳首、舐めるよ…」
「あ、暁くん…」
「いいだろ?夏美…」
「……………っあ…あ…」
小ぶりな乳房が、壊れものでも扱うかのように優しく愛撫される。
触れるか触れないかの手つきなのに、夏美は過敏に反応した。
産毛を撫でるだけでびくりと身体が動く。いささか感度がよすぎるようだ。
千紗登はいたぶるような手つきをやめない。
焦らすように、決定的な快感を与えぬように、じわじわと夏美を責め続ける。
指の腹でヘソのくぼみから胸まで撫で上げる。
そして乳首に触れる直前で手を離す。
小さく自己主張を始める胸の突起をわざと無視して、夏美の切なさを限界まで高めていく。
「あ。暁くっ…や…あ…」
白い喉をひくひくと震わせ、千紗登にしがみつく。少女が更なる快楽を求めていることは明確だった。
「舐めるよ…夏美…いいだろ?」
「んっ…」
夏美が小さく頷く。
千紗登の唇がにっと笑い―――そして、幼い乳房の頂に唇を落とした。
「あ!やあ…は…あ!」
びくん!夏美の細い身体が大きく跳ね上がる。
視界を遮られている分敏感になっているのか、それとも本来の感度のよさか。
「夏美は感じやすいな。胸だけでこんなに反応するなんて。
誰かに胸舐められたの初めて―――…に決まってるか」
「や…やだ、…あっ!やあっ…。わたし、なんでこんな声、でるのっ…」
自分の身体がなぜこうも動き、反応するのか、夏美自身も混乱しているようだった。
「あ、あ、千紗登ちゃ、…もうだめっ。やめてっ…や!…あああっ」
千紗登が夏美の乳房に吸いつく。
「ひああっ」
唾をたっぷりとからめ、子供のような乳首を舌でなめまわす。
そうしながら千紗登の手は、夏美の太ももへと伸びた。
太ももから、付け根、そして両足の間にある秘められた場所へと。
「っ…あ!やっあ…ああっ!」
夏美の声が高くなる。
他人の指が、自分以外、誰にも触られたことのない場所を撫でている。
羞恥心が膨れ上がった。
「いやっ!やだっ!や!いやあっ…」
悲鳴をあげて暴れる。
だが彼女より一回り大きな千紗登の身体に抑えつけられているのだ。
小柄な少女が逃れるはずがない。
「ふふ―――夏美、下着濡れてるね。やっぱり夏美でも、えっちな気分になるんだ…」
千紗登が顔を上げて暁を見る。
今のは暁に向けられた言葉だ。
これみよがしに、夏美のスカートがまくりあげられる。
乳房と同じように、すんなり伸びた、白く柔らかそうな足。
暁は同じ年代の少年たちと比べ、女体には免疫があった。
もちろん性的な意味ではなく、絵のモチーフとして、全裸の女性たちを何度も間近で見てきたからだ。
彼にとって女性の体はセックスシンボルではなく、芸術として観察する対象。
今更女体を見ても、動揺することなどあるまい――そう、思っていた。
今までは。
なのに夏美の未発達な乳房や細い腰回り、白い足を見ただけで、
驚くほど自分の心臓の鼓動が早まるのが分かる。
千紗登の指が、そっと夏美のショーツに滑り込んでいくのが見えた。
その指が複雑に動くのが、布越しに分かる。
おおよそ男の暁には想像も出来ないようなその場所、その形を、的確にとらえているのだろう。
指がやわやわと動くごとに夏美は背筋を反らせ、濡れた悲鳴を上げる。
「千紗登ちゃ、もうやめて…こわい、怖いよ、千紗登ちゃ…あ…あ…」
「夏美、これは暁の手だって言ってるでしょ?暁の指、暁の舌…そう思えば怖くないって」
「あ…暁…く…ん…?」
「そう。暁にされてると思って…」
「暁く…あきらく…ん…。あ…あきら…くっ…」
暁の耳に、水の音が聞こえてきた。

…何の音かなど、考えるまでもない。

「暁くん、あきらくん…あきらくっ…」
千紗登に秘所をいたぶられながら、夏美は泣くように暁の名を呼ぶ。
眼の表情は隠れているが、恐怖や混乱ばかりを感じているだけではないことが分かる。
視界を奪われた真っ暗闇の世界。夏美はどういう想像をしているのだろう。

暁に抱かれてるいのを想像してるのか?

夏美の想像の中の自分は、彼女を犯してるのだろうか。

「あ!あ!や…あ!暁く…あ…ああっ…あ!」
夏美の悲鳴が高くなる。
「イキそう?夏美?イク?イクの?」
「い…いくって…?あ…あ…やぁんっ…あああっ」
「そう、イクんだね、夏美。いいよ、イッて。ほら、イッて。
見せて、暁に、夏美がイクところ…」
「あ…?や…あ…!暁くんっ…!あ…あ!あ、ああっ……あきらくん、あきらくっ…あああ……!」
きゅう、と、夏美の足のつま先が丸くなったのが見えた。
形の良い顎が反りあがり、魚の腹のように白い喉がひくひくと震える。
性体験のない暁でも、彼女に何が起きたかすぐにわかる。
夏美は今、イッたのだ。
暁の名を呼びながら。



<4>
全身が弛緩し、ぐったりとベッドに横たわる夏美。
浅い息を吐くたびに、小ぶりだが形の良い乳房が大きく上下する。
千紗登が暁の方を見た。彼女もわずかに上気した顔で。
暁に自分の右手を見せる。いや、見せつける。
その指にからみつく、透明の液体。

千紗登のこの誇らしげな表情は何だ?

自分でも理解できない憤りを感じながら、暁はその指を睨みつけた。
暁のことを考えて夏美がこうなったのだとでも言いたいのだろうか。
それとも、暁ではなく、自分こそが夏美をこうしたとでも?
「…気持ち良かった?夏美?」
「あ…はぁ…はぁ……は…ぃ…」
「じゃあ今度は、俺を気持ちよくさせてくれる?」
「う…ん…」
「よし、んじゃ珠子、こっち来て」
千紗登が暁を手招いた。

…今度は何をさせるつもりなんだ。

内心では反感を感じるが、足は自然と動いた。暁は静かにベッドのそばに歩み寄る。
ふわりと甘いにおいが少年の鼻腔をくすぐる。
「ねえ夏美、フェラチオって、知ってる?」
「…へ……へら…?」
「フェラチオ。男の人のアレをね、舐めたり吸ったりするの。そうしたら男は喜ぶんだよ」
「あれ…って?」
「ペニス」
「……………ええっ?!」
「まあ勿論あたしにはそんなのついてないから―――珠子の指で代役ね。
珠子、手ぇ貸して。ほら早く」
千紗登が暁の腕をぐいと掴む。そして、夏美の口元に指を突きつけた。
「………っ…」
少女の熱い吐息を指先に感じ、少年は漏れそうになった声をかみ殺す。
いつからか股間のものは固く張っている。ジーンズを押し上げるぎりぎりとした痛み。

いつまで続くんだ、『これ』は。

「夏美、ほら、舌だして…」
「ん…」
千紗登に言われ、少女の唇からサーモンピンクの舌が現われた。
舌がふるふると横に揺れる。挑発するように、いやらしく。
視界を奪われているので、どこに『珠子』の指があるのか分からず、探しているのだ。
暁は自ら、そっと手を伸ばした。夏美の舌先が指に触れる。温かく濡れた、やわらかな感触。
指先から背骨へ、首筋へ。ぞくぞくとした快感が暁の全身を走る。
それだけで達しそうになるのを必死に抑えた。
夏美は舌先に触れた感覚に驚いたようだったが、それが『珠子の指』だと気付いたのだろう。
こわごわと暁の指を舐めはじめる。
「…珠子ちゃんの指って、太いんだね。それに硬い…」
夏美の舌が指にからみつく。ねっとりとした粘膜の感触。
暁は理性を根こそぎ持っていかれそうになるが、歯をくいしばって耐える。
「夏美、それは珠子に失礼ってもんだ。唇は手より敏感だからね。そう感じるだけだよ」
くすくすと暁を見て千紗登が笑う。
夏美の言動一つ一つに息を荒くする暁の反応を楽しんでるかのようだった。
「…ね。夏美それ、そんなに太くて、硬いの…?」
「ん…ふ…ん…うん…」
「…暁のペニスだと思って舐めるんだよ…」
「…………っ」
夏美の耳が赤く染まる。
「…暁くんは、こんなこと、しないもん…」
「そう?でもさっきあんたの想像の中で、暁は何してた?」
「そ、それは千紗登ちゃんが…そう考えてって言ったから…」
「暁だって男なんだよ、夏美。映画に出てくるようなキレーなヒーローじゃない…」
そう言うと、夏美の足にそっと手を這わせた。
「夏美にこんなことしたいって、絶対思ってるよ…」
「んっ…」
かり、と夏美の歯が暁の指に食い込んだ。
その痛みすら背筋を震わせる快感。
「そのまま、ちゃあんと舐めてるんだよ…」
「んっ…んんっ!」
暁は息をのみ、目の前の光景を見た。
千紗登が夏美の下着を脱がしたかと思うと、そこに顔をうずめたのだ。
「んんっ!んっ!んっ!あふっ…あああっ!ああんっ」
ちゃぷちゃぷと糸を引いた音が暁の耳に響く。

信じられなかった。
これは…なんだ?

幼馴染が目の前で、彼の恋人の性器を―――暁が想像すらできないその場所を、舐めている。
執拗に、念入りに、音をたてて。

最初はただの悪ふざけだと思った。
女同士の親密すぎるスキンシップ。いつもの千紗登の悪ふざけ。
だがこれはいくらなんでも行きすぎだ。悪ふざけどころではない。これはもう。
ただのセックス、だ。



<5>
「あっ、や!千紗登ちゃ…いや!やめて!いやあ!ああっ」
「夏美はもちろん、こういうことされたの初めてだよねぇ?
誰かに胸触られたのも、ここを舐められたのも―――イッたのも?
ふふ、いいのかなあ。このままだと夏美の初めて、全部あたしのものになっちゃうね?」
「あっ、あっ、ああっ…は…ああんっ」
夏美が酸素を求めて喘ぐ。
「あーあ、暁もかわいそうに。
まさか夏美が自分の幼馴染にめちゃくちゃにされてるなんて、夢にも思ってないだろうな」
「はっ…あ…いやっ!あきらくっ…あっ…や…あきらくんっ…ああっ…あああ!」
夏美が暁に助けを求めるように、嬌声を上げる。
「…っ……」
暁は浅い息を吐き続ける。するはずもない音がする。理性がじりじりと焼けつく音。
彼女に自分の姿は見えてない。自分の存在は気付かれていない。
なのになぜそうも自分の名を呼ぶのだ。
あまりにもか弱く、頼りなく―――それでいて艶を含んだ声で。
「あきらくんっ…や…あきらくんっ…」
夏美が暁を求めるように何度も叫ぶ。
力づくの快楽に引きずり込まれながら、必死で抵抗しているのだろう。
自分の中のよりどころである暁の名を呼び、求めて。
それとも先程のように、暁に嬲られていることを想像しているのか…。
どちらにせよ、夏美は今、暁を求めている。
そして暁は今、彼女のそばにいるのだ。

―――夏美は、俺を欲しがってる。

そう思った瞬間、少年の理性のたがが外れた。
突然、暁は自分の指を少女の唇にねじ込む。
舌をつまみ、指でいたぶる。
少女の舌はやわらかく熱く、さらりと濡れて気持ちいい。
「んんっ!んうっ!ふうっ…っあ…あ!んふぁ…!」
口中を蹂躙する異物に戸惑い、夏美は苦しげにあえいだ。
濡れた唇から銀の糸がこぼれおちる。
暁の指を吐きだそうと舌を使って抵抗するが、その動きは暁の快感を高めるだけだった。

いつも鈴を転がすような声で自分の名を呼ぶ唇。
彼女の唇が自分の名を象るのが、嬉しかった。

なのに自分は今、その可憐な唇を蹂躙している。
まる指で犯すように。


「ふあっ…んうっ!は…あきらく…んんんっ!んうっ」
自分自身どうにもならぬ体の反応に、夏美は悲鳴を上げ、暁の名を呼び続ける。
下半身を這うねっとした熱い感触と、舌にからみつく太い指。
視界はふさがれているはずなのに、目の前は真赤だ。
太い指が乳房に触れた。熱くて、硬くて、大きな手。
乳房を乱暴につかまれ、痛みと同時に快感が走る。指先が乳首をいたぶる。ちぎれてしまいそう。
でも、どうしようもなく気持ちがいい。肌に伝わる体温が心地良い。
「あきらくっ…は!あ!あ!あきらくんっ…ああっ」
なぜ自分がこうも暁の名を呼ぶのか、分からなかった。
千紗登に言われ、最初は戸惑いながらその名を口にした。
だが今は、自然と口がその名を呼ぶ。彼の名を呼び、顔と声を想像すると、快感が高まっていく。
彼が近くにいるのだと思うだけで、彼に触れられていると思うだけで―――気持ちいい。
「やんっ…あ…あ!あきらくん…あ…!あきら…く…」
そのとき、夏美ははっと息をのんだ。
この手。自分のからだに触れるこの手。

…この手、知ってる……

珠子ちゃんじゃ、ない。

大きくて硬くて熱い手の感触は、同性のものではない。
だが大好きな手だ。触れると安心すると同時に、どうしようもない高揚感を感じる手。

そう、これは、この手は―――この手の持ち主は。

「…………あきら…くん…?」


名を呼ばれ、暁は心臓が止まるかと思った。
少女のつぶやきは、想像の中にいる恋人を呼ぶ悲鳴ではない。
目の前の少年に呼びかける、確信をもった声。
「あきらくん、…いるの?」
決定打。
夏美は暁の存在をはっきりと認識している。
気がつくと暁は、夏美の唇に自分のそれを押し付けた。
「っ…んっ…んんっ!」
夏美の濡れた唇を押し開き、舌をねじ込む。小さな舌をからめとり、唾液をすする。
「んうっ!んっ…は…んああっ!ああっ!」
混乱と恐怖から逃れようとする夏美の肩を押さえつける。
掌に収まる小ぶりな乳房を、形が変わるほど強く鷲掴んだ。
予想に反し、少女の悲鳴は快感を訴えるもの。
「ひあっ…暁くんっ…あっ!あああっ…!」
「夏美っ…夏美ぃッ…!」
夏美は感じている。
そう思った瞬間、暁はもう自分を止めることができなかった。
少女の細い体を掻き抱く。
乳房に吸い付き、硬くなった乳首に音をたててむしゃぶりつく。
「あんっ!あ…は!ああっ」
何度も想像し、夢にまで見た愛おしい夏美の肌。
自分が思っていたよりずっと白く、甘いにおい。
そして彼女は今、あまりにも無防備な姿で自分に組み敷かれているのだ。
理性など、役に立とうはずがない。
「夏美…」
夏美の目隠しを外し、顔を覗き込む。
涙でぐしょぐしょになった顔が現われた。
その表情は快楽にのまれ、どこか朦朧としている。
「は…あ…やあ…見ないで…ぇ」
暁は夏美の両頬を持ち、ゆるりと深く口づけた。舌を差しこみ、逃げる彼女の舌をからめ取る。
互いの舌先から感じる、しびれるような感覚。
舌先が触れるたびにぞわりと背筋が粟立つ。
暁は夢中で夏美の唇を貪った。自分の唾液を彼女に飲ませ、自分もまた同じことをする。
「は…あ…暁く…ん……」
夏美の抵抗が収まった。
細い手がそっと、汗ばんだ暁の背中にまわされた。
ただそれだけのことなのに、少年の胸中に広がる、どうしようもない幸福感。
夏美と口づけをかわしながら、暁は窮屈極まりないジーンズのチャックを下ろした。


一方。
「…ちょ…っと…」
自分の場所を追い立てられた千紗登は、夏美の身体にのしかかる少年の背中を呆然と眺める。
「…やばいな。やりすぎた」
呟いて、空を睨む。
自分の悪い癖だ。ただ暁をからかうだけのつもりだったのに―――
興奮に耐える暁の顔が、あまりにも「そそる」ので、つい、エスカレートしてしまったのだ。
(あんないい顔するとは思わなかったからなあ…)
自身の欲望を必死に抑えつけようとする少年の姿。
眉間にしわをよせ、奥歯を噛みしめたあの表情―――。
自分の中の「女」が反応し、どうしようもなかった。
まともな女の子なら、あれを見て平気でいられるはずがない。
更に付け加えると、同性である夏美にも正直、興奮したのだ。
戸惑いながらも快楽に震える夏美の姿。
素直で純粋で、恥ずかしがり屋で…生々しい男女の行為に、浅はかなおとぎ話のような幻想を持っていて…。
その無垢な少女を汚し、汚い現実を突きつけてやろうという、サディスティックな喜び。
それこそ夏美は「ファーストキスはレモンの味」とか、本気で思ってるに―――いや、
思ってた、に違いない。さっきまで。

彼女のファーストキスは今、暁によって奪われてしまったのだから。

少女マンガのように優しくもロマンティックでもない。
乱暴でいやらしく、生々しい、粘膜同士の絡み合い。
それが夏美のファーストキス。
でもあの子は喜んでる。幻滅するどころか、暁にそれ以上のことを求めている。
そしてそれは暁も同じ…あれで終わらせるつもりがあるわけない。

「…完全に火ぃついたな、あいつ…」
夏美の身体を貪るように愛撫する暁。
千紗登が部屋を出る直前に見たのは、ひそかに思いを寄せる幼馴染のそんな姿だった。
後ろ手に扉をしめ、溜息をひとつ。
「…あの子らの初体験があたしの部屋なんて、笑えないっての…」


<6>
暁は今だかつてないほどに勃起した自分の性器をトランクスから引っ張り出した。
カウパーがあふれ、下着はじっとりと濡れている。
―――無理もない―――妙に冷静に、自嘲する。
夏美の、愛してやまぬ少女のあんな姿を見せつけられたのだ。
自分ではなく、他人の手で感じ、乱れる少女の姿。
今の今まで耐えきれたことが不思議だった。
彼女を組み敷き、自分が与えるすべてに反応する夏美を目にした今、
独占欲と支配欲が鎌首を上げてくる。
夏美は俺のものだ。誰にも触らせるものか、と。
千紗登の唾で濡れた場所、すべてに舌を這わせる。
自分以外の人間が残した後を、全部拭い去るように。
暁は夏美のやわらかな太ももの肉に手を添えると、思い切り足を開かせた。


「あっ、や、あ、あ、っあ!あ!あきらくんっ…んんっ!」
暁の執拗な愛撫は、千紗登によって高められた夏美の身体をさらに刺激した。
誰にも見せたことのない、お風呂で洗うときやトイレのあとでしか触れない場所。
敏感で、自分で触れるのもこわごわとしていたその場所を。

暁が、舐めている。

ぴちゃぴちゃと水を飲む犬のように、音をたてて。

「や、いや、いやあっ!ああっ、だめ、だめっ…あ!あああっ!」

恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。

暁の顔が脳裏をよぎる。
いつも物静かで、同年代の少年たちよりも大人びた雰囲気。
笑う時も唇を軽くあげるくらい。
彼に「夏美」と名を呼ばれるのが、嬉しかった。
自分の名を呼ぶとき、彼がとても優しい声をしていると気がついたのは…いつだっただろうか。

その暁の唇が。舌が。

舐めている。
自分の―――を。

「ああっ!ああんっ、あっあ…ひ…あ!かはっ…!」
呼吸が続かず、夏美は息苦しさにあえいだ。
何度も何度も、先ほどのような絶頂感が襲ってくる。
暁の荒い息使いや、自分が動かぬよう力強く抑えつけた手、千紗登よりも大きな手と指と唇と舌、
そして哀切に「夏美」と繰り返すかすれた声…。
すべてが小さな少女の体では受け止められぬほど快感だった。
身体が重く、力が入らない。それでいてふわふわと浮いているような、不思議な感覚。
「あきらくっ…やっ!やぁんっ!あっ…あああっ!」
何度目かの大きな絶頂。夏美の身体が反り返る。
夏美のそこは、かわいそうなくらいに真っ赤に充血していた。
薄い恥毛はしっとりと水を含んでいる。千紗登と、暁のつば。…もちろんそれだけじゃない。
ひくひくと小さく震えるそこは、少年には自分を誘っているように見えた。
「はっ………」
口のまわりをぬぐいながら、Tシャツを脱ぐ。
絵ばかり描いて部屋にこもりがちのはずなのに、筋肉質で引き締まった少年の体。
その胸からこぼれた汗のしずくが、夏美の乳房にぽたぽたと落ちる。

クーラー、きいてるのに。

それを見て、少女はぼんやりと考える。
でも自分も暁と同じなのだろう。体中が濡れて、熱い。
「夏美」
暁の顔が近づき、夏美の眼を覗き込む。
意志の強い眉と、鋭い視線。
怒っているようにも見える、暁の目。
今までは、目があっただけで顔が熱くなった。
どうしようもなく照れて恥ずかしくて、彼の眼が見れなかった。
でも今は違う。これまでとは違った親密さと、愛おしさ、そして切なさをこめて、見つめ返すことができる。
濡れた、欲望に取りつかれた獣の眼があった。熱病に浮かされたような眼。
夏美の中の「女」の本能が、興奮と同時に恐怖を感じとる。
これ以上先に進むとどうなるかは、漠然とではあるが知っている。
女の子である自分が伴う痛みや苦しみも、知っている。

暁くん、男の子なんだなあ…。

今更ながら、そう思えた。

千紗登ちゃんが言っていたことは、本当だったんだ。

でも暁は、先ほどからじっと何かに堪えている。
優しく気遣ってくれている。
自分が乱暴なことをして夏美を傷つけてしまわぬように、必死に自分を抑えているのだ。

暁くんも苦しいはずなのに。

切なくて、泣きたくなる。
少年が、かすれた声で呟いた。
「……いい…のか…?」

聞く必要なんて、ない。

そんな思いをこめて、夏美は自分から暁に口づける。
暁はすぐに応えてくれた。
愛おしげに夏美に口づけを返す。やさしく、何かを詫びるように。
そして名残惜しそうに唇が離れ、少年は夏美の耳元で低く囁いた。
「好きだ」
「…っ……」
涙が溢れそうになる喜びと、快感。胸が詰まる。
夏美は暁を抱きしめた。裸になった互いの胸が重なる。
男の子の肌がこんなに心地良いものだったとは、知らなかった。


<7>
始めて見たとき、小柄な少女だと思った。
並んで歩くようになると改めてその小ささに驚き、
抱きしめたときは華奢なつくりの肩に恐怖すら覚えた。
壊してしまわないだろうか、と。
陳腐な表現だ。人の体はそう簡単に壊れたりしない。
だが実際自分の手で触ってみると、考えるよりもそう感じてた。
本当に、自分が力を入れてつかんだら、ひしゃげるんゃないかと思うような華奢な体。
彼女と自分との性別の違いを実感したのも、その時が初めてだった。
そしてその気持ちは、今も変わっていない。

夏美の秘部に指を這わせた時、少女がふるえると同時に自分の体も大きく震えたのがわかった。
「っ…ん…!」
夏美が声をかみ殺す。快感と、緊張。そして恐怖。彼女の身体からそれが伝わってくる。
指先をそっと動かし、小さな突起に触れた。再び小さな身体が弓なりに反る。
いくら暁でも、知識としては知っている。その行為の意味や流れを。
女性は初めてこういった行為を行うとき、とても痛いのだ―――そうだ。
その痛みを少しでも和らげるためにも、男がしなくてはいけないこと。
女性の緊張を和らげる。
下世話な言い方をすると、触ったり舐めたりして濡らせとか、指を入れてほぐすとか。
最初のはわかる。だがあとの、「ほぐす」とは?
やわらかなふちを手でなぞり、その内へ指を動かす。
力を入れると、ぬるりした感触に助けられ、指が奥に滑り込む。
「っひ…あ!」
夏美が悲鳴を上げた。暁には指先に伝わる心地良い感触だったが…彼女はそうではないらしい。
痛いのだろう。おそらくそうだ。

…指が一本、入っただけで?

怖くなる。では自分の―――この、限界まで張りつめた性器を挿入しようとしたら、
彼女はどれほどの苦痛を味わうことになるのだろう。
いや、そもそも入るのか?指先すら拒む彼女の体内に。
女性の体は、それができるように作られている。子供を作るために。
だから―――自分のそれも、彼女の中に入れるはずなのだ。
だが今の夏美の反応を見ると、怖かった。
自分は夏美を傷付けてしまうかもしれない。精神的にも物理的にも。
そう思いながらも、暁は自分の中に湧き上がるどろりとした感情にも気が付いていた。

無垢な少女を好きにできるという、嗜虐心。

頼りなげに自分を抱きしめるこの少女を、自分だけが独占し、蹂躙できるのだという誘惑。
ごくり、と唾をのむ。
優しくしたい、怖がらせたくない―――だが、その気持ちを保っていられるか、自信がない。
「…暁、くん」
「………ん?」
自分の汚れた欲望を悟られたかと思った。動揺を隠して答える。
「あの、わたしね、実はこういうこと初めてで…」
それはわかる。俺も同じだ。
「わたしね、それでね、痛がり…なの。人より。たぶん」
「……………」
「だから、あの、暁くん、お願いが…あるの…」
「……何…?」
何を言われるのだろうか。暁は緊張に身を固くする。
自分とてこういうことは初めてだ。うまくできるかどうかも分からない。
痛くしないで―――などと言われてしまったら、何と答えればいい?
彼女を傷つけずにいられる余裕など、今の自分にはないのだ。
不安げに見つめる暁に、夏美は誓いを立てるように、言った。
「わたしがどんなに痛がっても、やめないでね」
「………え」
「抑えても、乱暴でもいいから―――途中でやめないで。…最後まで、ちゃんとして」
「…夏美………」
夏美の顔がかっと赤く染まる。
自分が言った事が恥ずかしかったのか、下を向いてしどろもどろと続けた。
「だ、だってあの、ほら、こういうのって勢いが大事だと思うの。
絆創膏はがすみたいな感じで。じりじりするより、えいって一気にはがした方が、痛くないっていう、
あんな感じなのかなって。それに、い、一度、しちゃえば、い、痛くない、っていうか、
あの、痛いのは最初だけっていうし、だから、ええと…えと…えっとね…………」
たまらず暁は夏美を抱きしめた。固く、力強く。壊れるほど。
「っ…あきらくん……」
「やめない。絶対だ」
暁は低く―――だが、力強く答える。
「やめるもんか」
暁に抱きしめられる痛みと、彼の低い囁き声。呪いのようだと夏美はぼんやり考える。
でも、嫌じゃない。こういう呪いなら、きっといくら受けても構わない。
「…いいな…?」
少年の言葉に、小さな頷きが返ってくる。
暁は自分の性器を夏美の秘部にあてがった。
しっとりと濡れた熱い粘膜。それを分け入ったところにある熱。
入るべき場所を探すために先端を動かすと、ぬるりと蜜がからみつく。
これだけで腰が抜けるほど気持ちいい。
だがその奥には、これ以上の快感がある。
そう考えると眩暈がする。もっと欲しい。もっと。
…自分がその快楽を得る代償に、夏美がひどく辛い思いをしなくてはならないのに―――。
「…………畜生…」
「…あ、暁くん?」
「あ、いや、…ごめん、ちがう…」
自己嫌悪に襲われそうになり、頭をひと振り。今は夏美の言葉だけを考えよう。
どんなに痛がっても、最後まで―――。
「んっ!」
夏美がくぐもった声を出す。
ちゅく、と暁の性器の先端がそこに吸いついた。
…どうやら、ここのようだ。
少女を見下ろすと、不安げにまつ毛を震わせている。次に起こる何かを予感しているように。
「…夏美…。こっち、見て…」
「……う…」
眼を開き、顔を上げさせる。
涙ぐんだ目。痛がりなだけじゃなく、怖がりでもあるようだ。
「……あきら…く…ん…」
「…夏美っ……」
彼女の目を見ながら、腰を落としていく。強い抵抗と―――ぬらりと性器を包むこむ、熱い感触。
「っ…あ!」
暁にしがみつく夏美の腕に力が入る。
体中がふるえていた。
そしてその震えは暁に―――夏美の中に入ろうとしている暁の性器の快感を高めるもの。
「あ…あ…いう…んんっ…!!い、っい、っ…あ…あ」
夏美が悲鳴を上げる。暁の胸に広がる痛みと、恐怖、罪悪感。
とっさに身体を放したくなる。
だが誓った。途中でやめない。絶対に。…彼女がどんなに嫌がっても。
体重をかけ、一気に性器を夏美のそこにねじ込む。
「んうぁ!」
一瞬の、痛いほどの圧迫感。続いて下半身に広がる熱さと心地良さ。
ぬかるみが張りつめた暁の性器にぎゅっとからみつく。
「…っく…」
苦労して声を押し殺し、押し寄せる射精感に耐える。
まだ、果てるわけにはいかない。
だが、彼女の中はあまりにも熱くて……気持ちがいい。
身体の小ささと、そのなかの小ささというのは、比例するものなのだろうか。
夏美のそこはひどくきつい。それでいてしっとりと蜜で満ちている。
暁は腕に力をこめて、ゆっくりと腰を引いた。
「んんっ…っ…」
少し動いただけで、夏美が悲鳴をあげる。
暁の首にまわした腕が、髪の毛を掻き抱くように動く。
髪を引っ張られて痛みを感じたが好きにさせた。
彼女の方が自分の何倍もの激痛に耐えているのが、分かっているからだ。
夏美が顎を反らす。その顔は痛みからか紙のように白い。
「あ……うあ、あ、あ…あ」
入口まで引っ張り出し、抜けない程度に腰を引き、ゆっくりと時間をかけて再び挿入する。
その行為を繰り返す。辛抱強く、じっくりと。

何も考えず、ただひたすらに腰を打ちつけ、夏美の中におもいきり射精したい。

…そんな男の欲求を必死に抑えつける。

俺は、夏美が好きなんだ。…絶対に、傷つけたりするものか…。

自分に何度も言い聞かせ、じりじりと夏美の中を慣らしていく。
「あきらくん…あきらくん…あきら…くっ……っ…」
夏美がうわ言のように少年の名を呼ぶ。
そうすることで、痛みを耐えられると信じているかのように。
汗びっしょりになった暁の首にしがみつき、ひたすら時間が過ぎるのを待つこと。
今の夏美には、それしかできなかった。


<8>
そしてそうしているうちに、いつしか互いの体の緊張が解けていることに気がついた。
夏美を押さえつける暁の腕も、暁にしがみつく夏美の手も、
互いの体にやさしく添えられたものになっている。
「っ…はっ…あ…あ…あ…」
暁の動きに合わせ、夏美が浅い息を吐く。先ほどとは違う、どこか甘い吐息。
「夏美…平気か?」
腰の動きを止め、少女を見下ろした。涙でぬれた瞳がぼんやりと自分を見上げる。
ゆるく開いた唇、そこから覗く真珠のような歯。
痛みに噛みしめたりはしていない。
その表情はもう、強張ってはいなかった。
「あきら…くん…」
「……まだ…痛い?」
「………」
少し迷って、夏美は小さくうなづいた。
軽い失望感が暁の胸中に沸く。
当然といえば当然だ。初めて性に触れた少女が、いきなり快感を感じるわけがない。
「…ごめん。すぐ、すむから…」
「あ、ちがうの…っ!あきらくん、あの、…ちがうのっ…あ!」
再び自分の体内を蹂躙する暁の動きに、夏美の言葉が途切れた。
「あっ、んあ!ああっ、あっ、あああっ!」
暁の腕の筋肉が張り、動きがさらに早まっていく。
互いの性器から聞こえるちゅぷちゅぷと粘膜のはじける音。
暁の腹まで濡らすその雫は、ただ「摩擦から守るため」に少女の身体が反応しただけではない。
だが彼には、それが分からなかった。
少年のそれが夏美の膣の内側をこする。なんども、何度も。
―――乱暴なほど。

もっと、奥に入れと。

「あっ、あきらくっ、あ、ああっ、んあ!あ!」
暁が強く突き上げるたび、夏美は艶を含んだ悲鳴を上げた。
少年の耳元に甘い息がかかる。危険な声だ。それだけでイキそうになる。
暁は夏美の唇にむしゃぶりついた。これ以上声を出させないように。
「んんっ!んっ!んうっ…ふっ…」
苦しげにくぐもった声を漏らすが、夏美は暁にしがみついてきた。
長い髪がほつれ、汗に濡れた体にからみつく。
根元まで入っていることを伝える、互いの体温。
重なり合った裸の胸が、心臓の鼓動を伝え合う。
「夏美っ…くっ…なつ…みっ…」
切羽詰まった少年の声に、夏美はたまらない切なさを感じた。
腰の動きと、自分の身体を乱暴に揺さぶる力は増すばかりだ。
でも腹は立たない。嫌じゃない。…痛くもない。
気持ちいい。
気持ち、いい。
「あっ、あきらくんっ、あ、あ、ふあ、あっ、あ、あああーっ!」
「夏美、夏美!なつみっ…」
夏美の中を暁が侵食していく。唇と、体と、性器と。
全身が互いの体液と粘膜のぬかるみで濡れていた。
吐く息すら、どちらのものなのか分からない。
「あきらくんっ、好きっ、すきっ…あきらくっ、あっ、あ、あ…あ!」
「っ…夏美っ…、好きだ…くっ…あ…」
ぎゅっと、夏美の膣がひと際きつくなる。
もう限界だった。耐えるのはやめだ。自分の感情を抑えるのも。
「っ!あ!あ!」
暁が夏美を抱え込むように抱きしめたかと思うと、さらに腰の動きを速めて打ちつける。
「いっ、あ、あ、ひあ、あっ、ああっ!」
逃げたくとも逃げられない。暁のされるがままだ。
暁を受け入れるためだけの存在であるかのように、いまや夏美の女の穴は従順だった。
濡れて、しめつけて、暁をひたすら高みへと導いていく。
「夏美、…夏美っ…夏美…っ」
「あああっ!あっ、あっ、は…あああっ、あっ、あっ、あっ!あきらくっ…好き、好きぃ…!」
「俺も、夏美っ…。くあ、あ、っあ…」
「あ――っ、あ、ふあ、あ…あ、あ、あああっ…!」
暁の動きに蹂躙され、夏美が力なく喘ぐ。
脳が焼き切れてしまうような絶頂が続く。もう何も考えられなかった。
「あきらくっ…気持ちいい…っ、気持ちいいのっ…あ、あ、あ、やぁんっ…!」
さらに強く。強く。つよく―――。
暁がぐっと、夏美の中に入った。その瞬間。
「っあっ………!!!」
夏美の中に、熱い何かが広がった。
火傷しそうになるほど熱いかたまり。暁の精液。
それが腹の内側に―――子宮に、たたきつけられる。
「あ、ああっ…あ…」
体内からにじむ熱に少女はあえぐ。自分とは違う熱。暁が自分の中で脈打っている。
痛いほど強い力で、少年が夏美を抱きしめてた。
固く盛り上がった肩が、こわばった身体がびくびくと震えている。
「はっ…は…はあっ」
暁が夏美にしがみつく。痛みが走る。だが、心地良い。
彼から与えられる痛みはすべて、気持ちいい。
「………あきら…くん…」

愛しい少年の体温を感じながら、夏美は自分の意識が遠のくのを感じていた。


<9>
…ひぐらしがないてる……。
夏美はぼんやりと目を覚ました。
けだるさが全身に重くのしかかる。
夕暮れに赤く染まった見慣れぬ天井が見えた。
窓の外でひぐらしが切なげにないている。どれくらい眠っていたんだろうか…。
寝返りをうとうとすると、下腹部に痛みが走った。
「動かないで」
頭の上から、どこか上の空の声が聞こる。…暁の声だ。
その声で夏美の意識は完全に覚醒した。
「あ、暁くんっ…!」
「もう少しだから……動かないで」
夏美の横に座り、上半身だけ裸のままの少年が、一心にスケッチブックに向かっていた。
その手元には数本の鉛筆と、ねり消しゴム。
夏美は暁に言われるまま、おとなしく横たわる。
見られたくないあれやこれやを、暁の視線から隠したいという要求に駆られる。
すでに十分すぎるほど暁に何もかもを見られてしまったあとではあるが―――。
「………」
思い出し、改めてすごいことをしてしまったのだと痛感した。
その相手をちらりと見る。
手元と、夏美とを行き来する暁の視線。絵描きの表情だ。
先程までの、余裕のない獣の顔ではない。
いつもの暁の顔。
そして一つの作品作りに集中した彼はいつも以上に言葉少なになる。
「あの、暁くん…?」
「ん?」
「わ、わたし、描いてるの…?」
「きれいだから」
「!………」
それでいていつもよりも簡潔で、直球な物言い。
「…………ど、どうも…ありがとう」
「ん」
初めて暁に美しいと褒められた。彼は無意識のまま口にしたのだろうが。
しばらくペンを走らせる音だけが部屋に響く。
そしてようやく暁は顔を上げ、ふうっと息を吐いた。
「…………出来た」
夏美を見て、口の端だけあげて笑う。―――目があった。
「…………っ」
「…………あ」
少女が見ている前で、暁の顔がみるみる赤面していく。
…それはみごとに。
暁は足もとに渦巻いていたシーツをたくし上げると、ぐいと夏美に突きつけた。
顔ごと視線をそむけて。
夏美はありがたくシーツ受け取り、胸元まで隠す。
「…これ、持って帰って洗濯しなくちゃ…」
「え?」
「だって、千紗登ちゃんのシーツなのに、汚しちゃったし…」
はあっとため息をつく。
「ど、どんな顔して合えばいいのかな、千紗登ちゃんたちに…」
そこまで聞いて、ようやく暁は彼女が何を心配しているのか気がついた。
そうだ、ここは―――この部屋の主は、千紗登だ。
自分たちは他人の部屋で、ことをいたしてしまったのだ。
「…っ…た、焚きつけてきたのは、あいつだ」
「…ごめんなさい…」
「夏美があやまることじゃない」
「…そうかなぁ……」
「そうだ」
夏美にはそう答えながら、暁はぐるぐると頭をフル回転させていた。
そうだ。見られてしまったのだ。千紗登に―――一番弱みを見せてはいけない相手に。
途中で彼女は退室したようだが、その後の流れは大方予想されているに違いない。
今後、どういう風にからかわれることか…。
「…暁くん、動揺してる…」
「そんなことはない!」
…そんなことは、大いにあるのだろう。声がうわずっている。
暁が幼馴染である千紗登を苦手としているのは、夏美もよく知っている。
だから夏美は、精一杯暁を励まそうとした。
「だ、大丈夫だよ。千紗登ちゃん、やさしいもん。シーツを洗濯して、部屋も掃除して…
あ、わたしクッキー焼いてくるね!千紗登ちゃんにお詫びのしるしに」
「……………」
そういうことではないのだが、暁は黙っておくことにした。
夏美の中の千紗登像を修正するのは、まだしばらく先でもいい。
とりあえず、今は―――
暁は夏美のほどけた髪を撫でた。ひんやりとした感触が心地よい。
「…時間、まだ平気か?」
「え?うん。今日は千紗登ちゃんの家に泊まることになって……て………」
答える夏美の語尾が小さくなっていく。
暁と自分の言葉が意味することを、察したのだ。
「あ。あの、暁くん」
「……いや?」
少年の言葉に、ぶるぶると首を横に振る。
暁は口の端を上げて笑った。スケッチブックを閉じて、夏美の上に覆いかぶさる。
「…今度は最初から、全部俺がやる」
「………………あ、暁く…ん…」
言質をとった少年に躊躇はなかった。
先程よりは幾分か余裕のあるゆったりとしたしぐさで、夏美を抱きしめる。
暁と何度目かの口づけを交わしながら、少女はふと気がついた。

暁との会話が途切れても、息苦しくないことに。



後日―――。
再び千紗登の家に呼ばれた暁と夏美。
部屋に入るなり、暁は思い切り横っ面を張り飛ばされた。
張り倒したのは千紗登その人。
曰く、処女に何度も中出ししたから、とのこと。
「夏美の生理が近かったからよかったものを!このたわけ!!」
「……あ、ああ……」
「千紗登ちゃん、もういいから!お願いだからそんな大きな声出さないで!」
「とにかくあんたたちはもっとお互いのこと話し合うべきだ!夏美っ、基礎体温測ってる?安全日知ってる?」
「え?…え?ええっ?」
「性感帯はっ?下着はどんなのが好き?オナニーはひと月にどれくらいしてっ……」
珠子の拳が千紗登の脳天を直撃し、彼女は豪快に机に突っ伏す。
「千紗登の言うことはアレだけど、まあ、間違ってはないわよね」
そういうと、暁と夏美の前に一冊の本を広げた。
署名は―――『女体の神秘と性の不思議』
「ちょっとお勉強しましょうね、ふたりとも」
優しいお姉さんの笑顔が、恐怖にすくむ二人に向けられた。
一番の常識人である一方、怒らせたらめっぽう怖い、珠子姉さん。

それから数時間、暁と夏美は珠子先生から性教育をみっちり仕込まれたのだった。

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最終更新:2009年01月09日 09:49